馬が土を蹴り、金属が擦れ合う音が木々の間を通り抜ける。
雑木林には多数の馬とそれに乗る、全身に鎧を見に纏う騎士が駆け抜けていた。
「隊長!べリュース隊長!」
その声を聞いて、隊を率いて先頭を走っていた男が馬をゆっくりと減速させ、隊長と声を掛ける人物へと近づく。耳元でうるさく聞こえる風の音に負けないよう、声を張り上げて言う。
「もう直ぐです!この林を抜ければ目的地です!」
「分かった!全員止まれぇ!」
手綱を引っ張り馬に止まるよう合図をしつつ、背後の仲間たちに声と手を挙げて止まる事を指示する。
隊長のベリュースが下馬をすると、それに続き部下も馬から降りる。
「皆の者、これが作戦の最後段階だ!作戦通りであれば我々がこの村を襲撃した後、目標が此処へ来て本隊と接触するであろう!本隊からしたらこれは作戦の前段階にしかならないだろうがーー・・・」
作戦である村の襲撃を行う準備をしていると、突如ベリュースが部下に対して言葉を掛ける。するとやはりと言うべきか、ベリュースにその発言を聞いた部下の怪訝な視線が集まる。
彼、ベリュースはそこそこの財力を持った人間だ。彼の装備は碌に戦わないくせに無駄に高性能で、軽量化の魔法がかかっていて、その値打ちや性能からベリュースの口から装備の自慢話を聞いたことのない者は部隊にはいない。この部隊に箔を付ける為に参加したが、剣どころか彼の自慢の軽量化魔法のかかった剣すら振るうことのできない、はっきり言ってただのお荷物どころか邪魔な存在である。
ベリュースの自慢をして威張るような性格や、女子供を追いかけ回して嬲り殺すような悪評も相まって部下からの人望のかけらもない。こうしたこともあって部隊が結成されてから隊の士気は下がる一方である。
(たかが村を襲うだけでなにが「油断するな」だよ。寧ろそれは魔法の掛かった軽い剣しか振れないお前に言いてぇよ)
(一丁前に隊長気取りやがって)
部下達は心の中で悪態を吐きながら黙々と準備を進める。
もはや良くも悪くも彼の講釈に慣れてしまったが、これが作戦の最後といえど一刻も早く彼が目の前から消えてほしいものである。
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ぬーぼーは魔法で接近する騎士達を監視しながら、モモンガのいる村長の家へ向かっていた。使用している魔法は盗み見することしかできないこともあり、同時に会話を聞き取る魔法を使用すると視界と聴覚が遮られた一時的に無防備な状態になる。その為、残念ながら騎士団の話を聞くことができず、騎士達がこの村に赴いた目的が分からずにいた。
(馬から降りて何かし始めたな)
騎士達は何の為であるかは不明だが、村に用事があってここに来ている。そこで自分達の姿を見られたりすると、村に来た時の状況の二の舞になりかねない。この村の住人のレベルであれば騎士達に対して魔法による偽装は十分可能ではあるが、万が一の場合もある。となると、ここは一旦身を隠すのが得策かもしれない。
木製の古びた扉を2回を叩く。扉の建て付けが悪いのか軋んだ音と一緒にコツコツと硬い音が鳴った。
「失礼します」
「おお、丁度良いところに。そろそろこの村から出て行かれるようで」
「まだ昼とはいえ移動中に夜になっては困るからな。今から村を出ようと考えている」
部屋に入ると丁度モモンガと村長が椅子から立ち上がる場面に遭遇した。
どうやらモモンガもぬーぼーと同じ考えに至ったのか、騎士団と入れ替わるように村から出ようと提案する。
「了解っす。では三人のところに向かいましょうか」
「うむ。では村長殿、お邪魔した」
二人は村長の家を出て急いで三人を集めに向かう。
するとぬーぼーは妙な気配を家の上に察知した。
魔法により不可視となった状態で彼は腕を組み、仁王立ちして民家の屋根から賑やかになった広場を一望していた。その姿はまさに強キャラと呼ぶのに相応しいものだ。
「・・・ーー事後報告になったのはすまねぇ。だがよく気づいたな、俺たちが居なくなったこと」
ばりあぶる・たりすまんである。
今彼は《
『貴方たちの付き添いのメイドたちが教えてくれましたよ。本当にあの子達は優秀だ』
「成る程な。・・・なあ、俺たちがここに居るのを知っているのはあんたとメイド以外にいるか?」
『いません。私も悪魔では無いのでね、わざわざ他の人に言いませんよ。もしこの事を他の人に言えば、小言を言われるのは火を見るよりも明らかですし。特にあの人から・・・ね」
「ははっ、違いねえ」
ウルベルトの言う“あの人”は十中八九たっち・みーのことである。確かに彼の厳格な気質から、小言を言われるという事を避けるのはできないだろう。ばりあぶる・たりすまんは軽率な行動をしたメンバーに対して小言を言う、純白の騎士を脳内に思い浮かべる。
ウルベルトの声から若干不機嫌さが目立ったところで、ばりあぶる・たりすまんは茶化すように返答する。
「バレなきゃいーんだ、バレなきゃ。ウルベルトさんも誘ってからこればよかったなぁ」
『私がナザリックにいなかったら私ではない他のメンバーにこの事を報告されて、今頃絶対に何か言われてましたよ・・・?まあこれくらいにしましょう。私はあの人と違って小言を言おうとしたわけではないのでね。代わりと言ってはなんですが、緊急時には是非私を呼び出してください』
「もう既に俺らがバケモンだとばれる緊急事態が起こったけどな」
『はははっ。それに関してはモモンガさんがどうにかしてくれた、とさっき言ってたじゃないか。でもまあ、もし本当に危なければ『闇夜の集い』のメンバーで助けに行こう。我らの理念はナザリックを陰ながら支援する事だからね』
「・・・へ?」
その言葉を聞いたばりあぶる・たりすまんは素っ頓狂な声を上げてウルベルトに聞き返す。
「それ
『かぁーっ!わかって無いですね!異世界に来たからこそやるんですよ!いいですか、異世界に来るというシチュエーションなんて人生において万に一つもありまs・・・』
案外真面目な人ほど異世界を楽しんでいるのかもしれない。
ばりあぶる・たりすまんはそう思いながら《
「・・・ふう、仕方ねえな。俺のとっておきの魔法を見せてやろうか」
「なにが見せてやろうか、っすか」
「おわっ!一体いつからいたんだぬーぼーさん・・・!」
驚いて振り向くと、背後にはばりあぶる・たりすまんと同じように腕を組みながらニヤニヤしているぬーぼーがいた。情報系魔法を極めた彼ならば、ばりあぶる・たりすまんの不可視化を看破するのは容易である。
「たった今さっき。「ふぅ、仕方ないな」からっす。残念ながらすぐに此処から退散しますよ。騎士達がすぐ目の前まで来てるんで」
「マジか、意外と早いな。それならとっとと行かないとダメだな」
「まあこの村にはいつでも来れるんで、そこまで気にする事はーー・・・は?」
突然驚いた声を出してぬーぼーは森と真逆の方向、騎士達の居る場所へ目を向ける。
「どうした?」
「気付かれたんすかね。騎士達が剣振り回して猛スピードでこっちに来ます」
一瞬ぬーぼーの頭に村人に嵌められた可能性が浮かび上がる。
しかし次の瞬間、その可能性は一瞬にして消え去る。魔法による遠隔視で見えたのは、騎士が馬に乗って村人を追いかけ回し、剣で村人を斬りつける光景だったからだ。
ぬーぼーの頭の中は疑問符で埋め尽くされる。
「あれは一体・・・って、やまいこさん!?」
そして今度はやまいこが土煙をあげて、襲われている村人達に向かって走る光景を目にする。
「まったく・・・!《
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「騎士が村人を襲っている!?一体なぜ・・・」
『それはわかんないっす。だけども騎士達の狙いは村人。多分っすけど、自分たちの存在には気づいていないかと』
この村と騎士団の因果関係が分からない中介入するのは非常にまずい。
もしこれが国同士の戦争の一端による略奪行為だとして、モモンガ達は助けるような行為を行えばこれは国に対して敵対する事と同じとも言える。
「とりあえず直ぐにやまいこさんを連れ戻してーー・・・」
“即座に村から撤退する”
そうモモンガが指示を出そうとすると、異常事態を感じ取った村人から心配するような視線がモモンガ達に突き刺さっていることに気づく。
『モモンガさん、これは自分からのお願いっす。今こうしているうちに次々に村人達が倒れています。村人達を・・・助けましょう」
ぬーぼーが村人達を見捨てようと考えていたのを見透かしたように言う。
『多分っすけど、自分らこーゆー体になった事で人間との同族感・・・って言うんすかね。それがなくなってるんすよ。それと同時になんだか自分が自分でなくなってくような』
確かに人間であった頃であれば、この様な冷静な思考になる前に村人達に対する同情心があったはずだ。
しかしモモンガはぬーぼーに言われるまで、この思考の変化に気付くことはなかった。なぜなら、ギルドメンバーへの危害を心配をしていたからだ。
『うまく言葉にはできないんですけど人間だった頃の自分が、これではダメだ・・・!って今の自分に行ってくるんっすよ。それにモモンガさんーー・・・」
モモンガの脳裏に次々にギルドメンバーの異形の顔が思い浮かぶ。
そして、脳内の純白の騎士がモモンガへ語りかける。
『「ーー誰かが困ってたら助けるのは当たり前」っすよ』
彼も異形種狩りの対象として襲われていたところを、たっち・みーにそう言われながら助けられた一員である事をモモンガは思い出す。
「・・・・・確かにそうですね。これではたっち・みーさんに怒られてしまう・・・。よし、行きましょう!ぬーぼーさんは騎士達の監視と共に、周囲を探知して援軍の有無を確認。教授は私と共にやまいこさんの所へ」
「了解」
『OKっす。たりすまんさんは、村人の警護と避難誘導にあたるそうです』
「分かりました。では直ぐにやまいこさんの場所に行きます」
モモンガが《
「落ち着いて聞いてください。今、村の彼方の方から謎の騎士団が現れて村人を襲っています」
モモンガの顔を向けた先には複数の黒い煙が上がっており、異常事態が起きているのは明らかであった。
そして村人からは困惑の反応を示す。
「なっ、なんだと!?」
「一体なぜ・・・?」
「だからあの人走っていったのか・・・?」
「・・・どうやら心当たりは無さそうだね」
「今から襲われている人々を助けに行きます。ですので皆さん退避をーー・・・」
モモンガがそう言うや否や馬の蹄が地を蹴る音が怒号と共に聞こえてくる。
「モモンガくん、どうやらもうここまで来た様だ!あとはぬーぼーくんとたりすまんくんに任せよう!《式神召喚・水虎》!《式神召喚・鐙口》!」
死獣天朱雀は手に2枚の紙人形を手にし、それを地面に刺す様に投げると、紙は神秘的な青白い光に包まれそこから河童と、獣の皮と目玉のついた鞍のような妖怪が現れる。
「騎乗解除のスキルを使える式神を召喚した。これで奴らを返り討ちにしつつやまいこくんと合流しよう」
「・・・行きましょう。」
二人が騎士が近づくのに比例して足音の大きさが大きくなっていく。
そしてついに馬に乗った騎士が現れる。建物の間から姿を現すと、勢いよく駆け出す馬が奇妙な反応を見せる。
「お、おい落ち着け!うああ!」
馬がが突然、騎乗者を振り落とそうと暴れ出した。騎士はそれを止めようと手綱を引いくが、なす術なく落馬する。
それを見て駆けつけたのか別の騎士が近づくが、姿を見せた瞬間それに続いて落馬することとなる。
死獣天朱雀は、呻き声を上げてよろけながら立とうとする騎士に近づき、ゆったりしているものの平坦な声で問いかける。
「ご機嫌よう。この村には何用でいらっしゃったのだね?」
「ひ、ひい!モンスター!」
死獣天朱雀が顔を顰めると、騎士はもう一人落馬した者と共に抜刀し二人に向けて剣を突きつけた。
「・・・・・質問に答えて欲しいのだがね」
「も、モンスター風情に応える義理などないっ!・・・いくぞ!」
「・・・っ!おう!」
騎士達はそれぞれ剣を上段に大きく振りかざし、死獣天朱雀へと襲いかかる。
しかし、そのニ本の剣は彼の体に届くことはなった。
「《
「《
どちらの魔法も派手な光や音などない。
二人の騎士は事切れて剣と共に地に堕ちる。
「精神攻撃、即死攻撃共に耐性なし・・・。私たちの得意技を使ったのでこれでは相手の力量が詳しく分かりませんね」
「そうだね・・・・・モモンガくん、大丈夫かい?」
「はい?特になんともないですが。・・・ああ、死亡と共に効果が発動する生贄系のスキルとかの心配ですか?そういう類なら対策してるので大丈夫ですが、確かにないとも言えませんね」
「ふむ、大丈夫ならいいんだ。さて、あと十何人といったところかな」
ぬーぼーの魔法支援により、死獣天朱雀の目には村を襲う騎士達が建物を透過して姿を確認することができた。
斬りかかろうと剣を振り上げる者。地面に組み伏せた姿勢になる者。そして凄まじい勢いで吹き飛んでいく者・・・。
「モモンガくん、やまいこくんを見つけた。私は彼女の支援に向かうから君は孤立した騎士の処理をお願いする」
「了解です。教授、念のためですがこいつを」
モモンガは
防御力に長けたモンスターで、
「む・・・・・これは」
スキルを発動すると死んだはずの騎士が黒い霧に包まれてピクリと動き出す。そして体はどろりと溶け出し、少しずつ膨張して最後には2、3メートルを超える大きさにまでになる。やがて、動きが止まると少しずつアンデットの顔と、人一人包み込めるほどの大きな盾、蛇のようにうねった形をした剣のフランベルジュが象られてゆく。
「モモンガくん・・・
「異世界に来たことによる弊害・・・でしょうか。明らかに変わりましたね。まあいいでしょう。
召喚主からの命を承った
「ではありがたく
死獣天朱雀の指示により、
キャラクター設定
死獣天朱雀 種族:鵺 ギルド最年長のギルドメンバーで大学教授。年齢の割に非常にアグレッシブで、その若々しさから初めて彼の年齢をメンバーに公表した結果、殆どの人がそれを冗談だと思い込んだ。今でも一部のメンバーは冗談でないかと勘繰っている。ギルドメンバーの中ではたっち・みーに次いでDMMORPG内での体の使い方が上手い。
ぬーぼー 種族:百々目鬼 ギルド最年少のギルドメンバーで誰に対しても敬語(後輩語?)を使う。情報系魔法に特化しており、情報を取り扱うことからぷにっと萌えと非常に仲が良い。ギルドで唯一『闇夜の集い』の存在に感づいている、が・・・・・・関わると面倒になるのは目に見えているのであえてこれ以上は捜索してていない。
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次回若干のシリアスを含みます
(シリアスを書くのが難しくて遅くなった結果→後回し☆)