41匹の愉快な異形種達   作:ちくわ部

13 / 15
愉快な王国騎士

 

 

 金属のひしゃげる音と共にドスンという鈍い音が響く。

 それはやまいこの巨拳が襲いくる騎士を殴りつけた音であった。

 殴りつけられ肉塊と化した騎士だったものは、凄まじい勢いで吹き飛び、それに続き簡素なレンガでできた建物の壁は倒壊する。

 

「しまった!家を壊しちゃった」

 

 やまいこは力一杯に殴りつけた事を後悔する。

 既に周囲の人々は殆ど避難を完了させている。これ以上村人に危険が及ぶことはないが、これでは帰る家が無くなってしまう。

 

「皆さんお怪我は?」

 

 やまいこは背後にいる逃げ遅れた村人4人に尋ねる。

 老婆と少年、夫婦が物陰で縮こまりながら怪我がない事を伝える。鎧を纏った騎士たちか、やまいこの家を軽々と破壊する力に怯えているのかは定かでじゃない。しかしそんなことを気にかけるほどやまいこに余裕はなかった。

 騎士の集団の後ろには切り付けられて息も絶え絶えな瀕死の状態の男が倒れていたのだ。今は時間がないとやまいこは村人に迫り来る脅威に向き合う。

 

「そう・・・ならいいです」

 

 やまいこは騎士達の方へ向くと応戦の構えを取る。

 深く被った帽子と中から覗く醜い顔が、騎士の集団に向けられる。

 

「ひ、ひい!近づくな!・・・おい、貴様ら何をしている!全員私のことを守るのだ!」

 

 いかにも小物のような男が情けない声で、周囲の騎士に命令する。が、その言葉は部下の騎士の不安を煽るばかりであった。不安の声が少しずつ上がる。

 既に周囲には騎士の遺体が複数転がっていて、それと合わせて地面の陥没、建物の倒壊、木々がへし折られた跡があった。

 彼の人望の無さゆえか、部下は一向に命令に従おうとしない。しかし、次の言葉に全員が動くことになる。

 

「隊長!人質を連れてきました!」

 

「よおおおし!でかしたっ!後で褒美をやろう!おい化け物!こちらに近づくとどうなるかわかるよなぁ!?」

 

 その発言に周りの騎士達が活気だつ。

 なんと間の悪いことであろう。口元を押さえられ、首元に短剣を押し付けられた少女が現れる。背後の村人たちからどよめきの声が聞こえる。

 しかし、やまいこは焦るどころか冷静さを保っていた。

 

「・・・・・・全く、全くもって救えないね」

 

 その言葉をやまいこが発した途端、周りの温度が急激に下がっていく感覚を、隊長のべリュースは覚えた。人数、人質からして負ける要素はない。であるはずなのにどこかこの異形の生物に勝てるビジョンが浮かび上がらないのだ。

 

「ぜ、全員!奴の背後の4人も人質にしろ!そうすれば奴もやりにくくなる筈だ!奴を囲む様に二手に別れて背後に回り込め!」

 

「なんとまあ、騎士とは思えない発言だね。騎士なら正々堂々と・・・いや部隊としては正解か。それはそれとして人質はどうしようか・・・。んー・・・まあ、いいか」

 

 人質を盾に背後にいた騎士たちが横並びになり、やまいこを囲おうと騎士が動き出す。

 だがそれはやまいこにとって好都合だった。

 やまいこが素早く騎士に接近し、その巨拳を騎士の集団に振り下ろすとボーリングのピンの如くまとめて吹き飛ばされる。

 

「は・・・!?お、おい貴様!こちらには人質がいるんだぞ!!」

 

「ん?でも、近づけさせたら後ろの人も人質になっちゃうじゃん」

 

 再び拳を振り上げ、狙いを定めた騎士に振り落とすと凄まじい距離を吹き飛び、鎧のひしゃげる音とともに叩きつけられた大木をミシミシと揺らす。

 果たして転げ落ちて来る巨大な落石に対して人質は有効だろうか。迫り来る大波に人質は有効だろうか。手綱を放された暴走する馬に人質は有効だろうか。村人を人質に取ろうとする騎士はその暴力の権化に対し、人質の意義を思わず問うてしまいそうになる。

 やまいこは己の信念(取り敢えず殴ってみよう)に従い、拳を振るう。

 隊長の指示に従い人質を取ろうとやまいこの背後の老婆に手を出そうと駆け出した者は、宙に投げ出され地面に激突して絶命し、それを見て慌てて逃げようと背を向けた者は、本来曲がるはずのない方向に背が折り曲げられた状態で木にめり込むように叩きつけられる。

 

「ふざっ、ふざけるなあぁ!私はここで死んでいいはずがないっ!全員私を守り・・・!」

 

 ーーオオオオォォォ・・・・・・ーー!!

 

 ズムズムと大地を踏みしめる音と共に、体を震え上がらせる様な恐ろしい咆哮が辺りを木霊する。それに続き、死獣天朱雀が姿を現す。

 

「《分身(ダブル)》《陽・土行・不動結界》」

 

 死獣天朱雀がそう大声で言うと彼の体が2つに増え、それぞれ陰陽師の魔法陣である、五芒星が右手に現れる。そして、五芒星からはそれぞれ人質に取られている少女と、やまいこの背後の村人に向かって青白い光が射出され周囲を囲む。

 

死の騎士(デス・ナイト)よ!思う存分暴れるが良い!」

 

 死獣天朱雀の言葉に続き、騎士を滅ぼさんとする死の騎士(デス・ナイト)が咆哮する。

 それと同時に先程まで溢れていた活気が、穴の空いた風船のように萎んでいく。

 

「か、勝てるわけないっ!俺は逃げるぞ!」

 

「あっ、おいお前・・・・・・!クソっ!」

 

「か、神よ!私をお助けっ、ぎゃあ!!」

 

 一人の騎士が剣を投げ捨て、逃亡する。そしてまた一人、また一人と逃げ出し、士気は完全になくなってゆく。それは隊長であるべリュースも例外ではなかった。

 死の騎士(デス・ナイト)と死獣天朱雀の片割れは逃亡する騎士を惨殺しながら追いかけ、森の中に姿を消す。

 怒涛の展開により、放心状態となった村人たちに死獣天朱雀は周囲の人間に優しく問いかける。異形の存在が人間から人間を追い払うという不思議な光景であるが、村人はそんなことを気にせず、己の身に安泰がもたらされたのを確認すると安堵の表情を浮かべる。

 

「皆さん、お怪我はございませんか?それにやまいこくんも」

 

「ボクは大丈夫。怪我をしている人は自分に申し出てください」

 

 村人はその問いかけに答えることはなく、迫り来る脅威から逃れることができたと気づいた瞬間に、皆口々に感謝の言葉を述べる。

 その間、やまいこは治癒魔法を行使して小さな怪我でさえも一瞬で直してしまう。

 

「とりあえず皆さん無事なようで何より。やまいこさん、住民を中央にある広場の集めてください。それと、どうやら怪我人がいるようなのでその処置もお願いいたします」

 

「わかりました。では教授はあいつらを?」

 

 やまいこは騎士が逃げた方角に目をやって死獣天朱雀言った。

 

「いや、それよりも今なお助けを求める人を優先するべきだろうね。ぬーぼー君の報告によると騎士の殲滅は完了しているようだが、今度はべつの方角から傭兵のような集団が現れたらしい。死の騎士(デス・ナイト)は私の分身が引き攣れるからいいとして・・・、治療が終わり次第全員で広場に移動しよう。それと、また聞くがやまいこくん、本当に大丈夫かね?」

 

 死獣天朱雀は最後の言葉を小声で周りの村人の耳に入らないようやまいこに告げる。

 何が大丈夫なのか、具体性のない質問であるがその質問の意図はやまいこには理解することができた。

 

「ええ、大丈夫です。どうやら精神も“こちらの身体”と同じになっているようです。人を殺めても何も感じず、動揺すらありません」

 

 やまいこはじっと騎士を叩き殴った右手を見つめて言った。

 

「先ほどモモンガくんにも同じ質問をしたが、彼も特に違和感を感じることすらなかったよ。恐らく・・・というか確実に我々は人間でなくなってしまったんだね。今までの考えや思想までもが変わっている。この体と考えのギャップが全く存在しないからね」

 

 死獣天朱雀の考察をやまいこは黙って耳にする。その考えとやまいこの思考に相違はないからだ。

 今なおやまいこは自身が人間でなくなったという事実を突きつけられたのにも拘らず、これに対しての動揺も存在しなかったのであった。

 

「教授・・・ボクは人間ではなくなったんでしょうか」

 

「全くの別人・・・いや、別者と言った方が正しいかな?完全にそれになったとは言えないさ」

 

 ギルド1の年長者である余裕のある声で優しくやまいこに語りかける。そこにはいつもの戯けたり、快活な笑い声をあげるイタズラ好きの老師ではなく、優しい若者を落ち着かせようとする包容力のある年配者の姿があった。

 

「真っ先にこの取り残された村人を救いに駆けつけたのは誰かな?今なお献身的に治療を施しているのは誰かな?そして村人たちから感謝をもらったのは・・・?」

 

 黒い赤べこのような被り物を、先程まで瀕死の状態であった大柄の男とその娘らしき者が泣いて抱き合う姿に向ける。

 人の殺めた時の衝撃はなかった。しかし、その光景を見たやまいこの心には小さな温かみができたように感じた。

 

「さて、村を襲う騎士たちを退けた謎の魔法使いの集団の凱旋だ。行こうやまいこくん。まだ君の助けを欲している人がいるはず。広場に向かおうではないか」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 ボロボロの布切れのような黒いマントの化け物は、自然と塊となって逃げる騎士を追いかける。しかしその集まって逃げる騎士の中にベリュースの姿はなかった。

 姑息にも半分倒壊した家の中で、軽い木の瓦礫の下に埋もれるように隠れていたのだ。

 

(あいつらには悪いが囮になってもらおう。ここであいつらが何処かに行くのを待てば本国の部隊が私を探しに来るはずだ!)

 

『ちょっとお話しいいっすかね』

 

「ひいいいい!」

 

 その声を聞いた瞬間、ベリュースは驚きの声をあげて瓦礫から飛び出す。

 周囲には誰もいない。そのはずなのに何処からか声が聞こえるのだ。

 

『ん?あんた・・・・・・ひょっとして隊長?』

 

「そ、そうだ!はっ・・・・・・もしやあなたは六色聖典の・・・?」

 

 自身の身分を言い当てた謎の声をベリュースは、自国の秘密部隊の名をあげる。

 なぜなら本作戦は極秘任務。それを知り得る人物がいるとするならば、六色聖典に関わる人物その人しかいないからだ。

 

『あ、ああ。なぜ分かったのかな?』

 

「私のことを隊長だと分る者は本国の人間以外ございませんゆえ!」

 

『ん・・・?そ、そうか。先程襲撃者が幻術魔法を使用しているのを確認した。念の為簡単な質問に答えてもらいたい。身分と作戦内容を言え』

 

「はい!私はスレイン法国デイズ・ナールゥ家の長男のベリュース。本作戦部隊の隊長にございます!」

 

『そうか、ベリュース隊長だな?それで本作戦の内容は?』

 

 その言葉にベリュースは言葉を詰まらせる。己は箔をつけるためだけに融通されてこの部隊の隊長に抜擢された身だ。人類に仇なそうとする邪教徒の殲滅とだけど聞かされているが、裏で壮大な作戦が動いているというのに薄々気がついていはいる。それを知っているかどうかもかねて質問をしてきたのだろうとベリュースは考察する。

 

「さ、作戦ですか?これは秘密裏の作戦で我々には詳しく知らされていないはです!」

 

『まさか・・・言えないとでも?」

 

「本当です!私はただこの帝国の装いをして六大神の信仰する我らを仇なす邪教徒共を討ち取ると聞いただけです!」

 

『えーっと、うむ、よろしい、本物の隊長かどうか鎌をかけただけだ。これは念の為だが、部隊の人数と配置位置を言え。無論、遊撃部隊の存在もな』

 

 副隊長に配置のことなど殆ど任せていたベリュースは、しどろもどろになりながらその質問に答える。

 

『他に部隊はいない、か・・・。ではすぐに回収に向かう。あのバケモノに見つからないように息をひそめよ』

 

「ありがとうございます!この恩は必ずや・・・!」

 

 脳内に語りかけるような声が消えた途端に、ベリュースは不適な笑みを浮かべる。

 

(さすが本隊のお方だ!あの私に楯突く馬鹿どもとは違うことをわかっていらっしゃる!・・・だが、なんなのだあの化け物は!もしやあの邪教徒どもが崇める対象なのか!?今まで多くの邪教徒の住む村を屠ってきたが、あんな奴いなかったぞ!?我々は囮だったのか?いや、だがわざわざこの私を救出してくださるのだ。私の命を脅かす結果になったということは予想外の事態というわけか?)

 

 思慮に耽っていると、背後から脳に直接語りかけてきた声が聞こえてくる。その言葉を聞いたベリュースは反射的に地べたに頭を突き、最上級の感謝を伝える。

 

「ご苦労」

 

「ようこそお越しくださいました!このお礼は必ずや・・・あがっ!」

 

 その言葉を言い終わる前にベリュースは突然口元を掴まれ、凄まじい力で持ち上げられる。

 抵抗しようともがき、持ち上げた人物を睨みつけた瞬間、何十何百もの眼球と目が合う。

 

「ん・・・んんっ!!んむー!」

 

「・・・本当にご苦労っすね。念の為なんすけど嘘をついているか、確認させてもらいます」

 

 そう言うと、身体中目玉だらけの目玉が一斉に怪しい光を発する。

 その瞬間ベリュースの意識は真っ白な空間に移されるような感覚と共に消えるのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 先程まで魔法を見ていた子供達の笑い声が響き渡っていた広場。今では騎士たちの恐怖で怯えた村人たちが身を寄せあって集まっていた。そこから一瞬、どよめきが起こる。

 騎士の生き残りがいたかと、どよめきの根源にモモンガは目をやると、そこには見慣れた二人の異形種の姿と召喚した死の騎士(デス・ナイト)の姿があった。

 

「ただいま戻りました、モモンガさん」

 

「同じく戻ったよ」

 

「二人ともご苦労様です。すいません、急いで来てもらったものの、治療は大方終わってしまって。小さな怪我のある方以外は全員終わりました」

 

 そう言ってモモンガは下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポ-ション)の入っていた空の瓶を袖の中に隠したアイテムボックスに入れる。

 最初は見慣れないポーションの色と怪しい仮面と格好も相まって、村人からは忌避感があったようで深い傷を負っているのにも拘らず、治療のためにモモンガがさしだしたポーションに手を出す者はいなかった。しかし、死獣天朱雀とやまいこの村人の交流のおかげで、自ら下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポ-ション)を使うと言う人々が現れ、今ではモモンガらを感謝の眼差しで見ることとなった。

 

「ええっ、ごめんねモモンガさん。後でボクがタブラさんに言って補填してもらうよ」

 

「いやいや、自分が持っていても無用の長物だったので大丈夫ですよ」

 

 モモンガに無駄な労力を強いることになってしまったことを気にしているようであったが、アンデッドであるモモンガにとって毒の作用をもたらす、あってもなくても同じような道具を消費したまでだ。

 

「それより二人とも特に怪我がなくてよかったです。何か大きな出来事でもありませんでしたか?」

 

「特になかったとも。ぬーぼーくんの情報通り取るに足らない敵だったが・・・しまったなあ。逃げ出したやつを一人くらい捕まえて情報を引き出せばよかった」

 

 死獣天朱雀は頭をかきながら声を低くして言った。

 それに対してモモンガはキリッと決めながら支配者ムーブの声色で大丈夫だと言う。それと同時に心の中で自分一人であれば捕虜を捕まえることを、思いつきもしなかったんじゃないかと呟く。

 

「心配はご無用。ぬーぼーさんと、たりすまんさんが隊長を捕らえて情報を吐かせている途中です」

 

「おおー流石。話が早い」

 

「とはいえ、まだあまり話を聞いていませんが、あまり有益な情報を持っていないようです。どうやら奴らは本隊ではない可能性が高いと」

 

「本隊じゃない、だって?」

 

「はい、後ほど村長から聞いた情報と合わせて話し合いをしましょう。村長がぜひお礼をさせていただきたいと。それに、葬儀の準備も執り行うようですので」

 

 モモンガは広場に横たわる複数人の遺体に目をやる。主に家族や知人を守ろうと騎士に楯突いた男の姿が見受けられ、近くには家族と思われる女子供がその近くで涙を流していたのであった。

 

「間に合わなかった。いや、間に合わせてくれたというべきでしょうか。家族を庇ってボクが駆けつけた頃にはもう助けられない状態だった」

 

 やまいこは静かに言う。

 人間だった頃であった3人であればその光景に涙することであっただろう。しかし、今、この光景に心揺れ動かされることはなかった。

 モモンガはふと思い出したように袖の中に手を入れ、アイテムボックスから神聖な気を発する黄金の装飾が施された象牙のワンドを袖からチラつかせるように引き抜く。それはその名の通り死者の復活を叶える杖、蘇生の短杖(ワンド・オブ・リザレクション)であった。

 それを見た死獣天朱雀は虎柄の毛並みの良い大きな手で、モモンガの袖元を隠すと小さく首を横に振る。それに対しモモンガはわかってます、と呟きワンドを元の場所に戻す。

 

「脅威を退け村を守った英雄と、死者を蘇らせた魔術師。厄介ごとに巻き込まれるの後者ですからね。そこまでするメリットもありませんし」

 

 村人たちと五人は場所は村の外れにある共同墓地に移動する。

 村人たちは数ある石碑の中で掘り返されて色の変わった地面を囲み村長が祈りの言葉を唱える中、沈みゆく太陽を背に“六匹”の異形種がそれを見やっていた。

 

「・・・なるほど。奴らはバハルス帝国という国の紋章をつけたスレイン法国という国の騎士で、このリ・エスティーゼ王国の領地の村になんらかの目的のために襲った・・・ということでいいね?」

 

「はい。ついでに言えばこの村以外の場所も襲ったらしく初犯じゃないそうで」

 

 モモンガは死獣天朱雀達に騎士の隊長から聞き出した情報と、村長から聞いた周辺国家の立地などを伝えた。

 

「わざわざ他国の紋章を使う偽装工作までして襲う・・・ってことは異教徒の弾圧という大義名分を掲げた略奪か?」

 

「いや、前の村から略奪した物資は見当たらなかったので虐殺が目的じゃあないっすか?」

 

 ぬーぼーはばりあぶる・たりすまんの考えを否定する。略奪であるのであればわざわざ農家の栽培した食物の入った倉庫には目もくれず、一目散に村人を切り捨て家に火をつけようとするのはおかしいはずである。また、魔法により周囲を観察した時、略奪品を移動させるための荷馬車なども見当たらなかった。となれば略奪が目的である可能性はゼロに近い。

 

「邪教徒、宗教弾圧ねえ・・・。そういえばモモンガくんはこれらを本隊ではないと言ったね」

 

「ええ、正確にはぬーぼーさんが捕虜から聞き出した情報です」

 

「まあ、その情報の出所もちょっと怪しいところもあるんすけどね。隊長なら有益な情報を持っていると思っていたら、あいつただの騎士団のお飾りだったらしくただのポンコツだったんすよ。でも、どうやら裏で国の秘密部隊が動いているかもしれないと言ってました。ろくしょくせいてん?がどうとか、ようこうせいてんがーとか?」

 

 ぬーぼーはモモンガの言葉に、かもしれないという言葉を強調して補足をする。

 

「もしその秘密部隊が本当に存在するとするならば奴らは陽動の役割をしている可能性もある・・・。ならこの無差別な殺戮を行う理由も分かってきますね。・・・とはいえ、何に対する陽動かも分からないので、これもただの予想に過ぎないですが」

 

「結局のところまだよくわかんない、ってことだなやまいこさん。まあ、今は近づいてくる傭兵団のことを考えるべきだろうな。あの近づいてくる奴らが秘密部隊って訳でもなさそうなんだろ?」

 

「あの捕虜の言い分的にはそうっすね。まあ、服装が偽装であることを考慮しなければっすけど。それで、どうしましょう。面倒ごとがやって来そうっすけど」

 

 ぬーぼーは魔法を唱えると、魔法陣が一瞬浮かび上がるとともにホログラムで作られたスクリーンのような物がモモンガたちの眼前に浮かび上がる。そこにはぬーぼーの報告通り、統一感のない武装をして騎乗する集団が映っていた。目指している方角は間違いなくこの村であり、そう遠くない距離まで近づいている。

 

「国直属の警備団って可能性は?」

 

「・・・にしてもやまいこさん。村を襲った奴らの偽装の方より装備がお粗末じゃねえか?俺のイメージだとこう・・・国旗を掲げて、たっちさんみたいな綺麗な鎧着て隊列を組んでー・・・ってな感じだと思ってたんだが」

 

「そういえば村を襲うモンスターを退治する、冒険者という職業があると聞きました。依頼を受けて派遣されたのではないでしょうか。もしそうなのであれば彼らは自警団、民間の警備団のような物ということになります」

 

 モモンガの推察に全員なるほどと頷き、納得の声が上がる。

 村を襲った集団の後に続いて来るとなれば、村を襲う集団を追いかけ討伐する存在である味方の可能性は非常に高い。

 

「ですが、未だ敵か味方か定かではない状況にあります。どちらにせよ我々が守った命をまた脅かそうというのであれば返り討ちにしてしまえばいい話です。一応村から離れるチャンスではありますが、しばらく村に残留しようと思います。いかがでしょう」

 

 モモンガの言葉に否定の言葉はなかった。

 せっかく売った恩を無駄にしたくないという考えはあるものの、各々の努力を無駄にしたくないとというのが総意であった。

 

「ではぬーぼーさんは引き続き魔法による監視、たりすまんさんはぬーぼーさんにカウンター警戒用の防御魔法を」

 

「了解っす」

「おうよ」

 

「それと我々に敵意がないことの証明として全員で迎えましょう」

 

「離れ離れだったら何か起きた時ボクが守れないかもしれないからね」

 

「それに関してはタンクの俺としても同意だな。にしても、この格好でみんなで行くのは逆に怪しくねえか?」

 

 一同はそれぞれの格好を見合わせる。

 改めてみると異形の姿を隠すための仮面やローブを身に纏って、全員実質的に肌を露出させない格好で、怪しさは十二分に引き出されている。

 

「うーん。そこら辺は、最初のモンスターに化けているっていう設定で、村人たちに一部口裏合わせてもらって、あとはこいつに任せてもらいましょう」

 

 そう言って後ろで静かに待機をしていた死の騎士(デス・ナイト)にモモンガは顔を向ける。死者故に生命活動に必要な呼吸もせず、じっと物置のようにそこに佇んでいたその存在は召喚主の注目を以てようやく反応して動く。言葉にすればどうか致しましたでしょうか?というところだろう。

 

「ずっと思ってたんですけど、召喚の制限時間はもうすぎてるんすよね。なんでまだいるんすか?」

 

「これも異世界の謎仕様なんだろうね。死体を媒体として召喚すると召喚時間が延長、もしくは制限時間がなくなっているのかも。それで話を戻すけど任せるって?」

 

「要するに何かしら聞かれれば死の騎士(デス・ナイト)を理由にこじつけて面倒な質問を回避します。まあ結構アドリブになりますが私が主導で話すので口裏を合わせてもらえれば嬉しいです」

 

「またモモンガさんに頼っちゃうかあ。なんか申し訳ないな」

 

 そう言うやまいこに対してモモンガは軽く笑い、大したことありませんと答える。

 

「ホラを吹くだけに簡単なお仕事です。むしろ4人の方が私のことをサポートしてくれたおかげで捕虜からの情報を手に入れることができましたし、迅速に騎士の制圧もできました。ここはお互い様ということで」

 

 そう言って各々がこの世界での魔法の性質の変化のことを話していると、モモンガの視界の端で村長に向かって走って行くのが見える。

 そのままその村人が何か話しかけると、その話を聞いた村人がが騒ぎ出し突然周囲の雰囲気が慌ただしくなる。

 

「言われなくてもわかると思いますが、来ました」

 

 そう言ってぬーぼーが宙に浮かぶ画面の魔法を光の残像を残しながら消して、こちらの方を伺う村人たちに向く。

 

「アインズ・ウール・ゴウン御一行様」

 

「どうかなさいましたか、村長殿」

 

 モモンガたちはあえて名を伏せいるため、集団としての名前、アインズ・ウール・ゴウンの名で呼ばれる。

 これは事前に決めていたことで、他ギルドのプレイヤーを警戒してのことであった。ギルドランキング上位に存在していたアインズ・ウール・ゴウン。その名は一時は聞かなくなったもののサービス終了間際までユグドラシル内に轟いていた。だが有名だったのはギルドの名だけではない。インターネット上では一部所属メンバーの情報も載っていたこともあったため、ギルドマスターであるモモンガを筆頭に個人単位で有名なメンバーも存在するのだ。悪意のあるプレイヤーに遭遇した場合、個人のプレイヤー名を出すと在籍メンバーの情報を晒すことになり、戦力を知られる場合やその人物を危険に晒す可能性がある。

 村長には魔術的な要因で名前を伏せていると説明し、ギルドメンバー間で名前を出していたとしても、村の中でもあまり名を出さないようにとお願いをしている。

 村長が口を開けると当然話題に出てくるのはこちらに向かってくる謎の集団たち。あくまでモモンガは傭兵たちが近づいてくることを知らない体で話を進める。

 

「なるほど、であればまた安全のためにも村人たちを集めてください。また我々が対処いたしましょう。それと村長、危険な場面ではありますが、一緒についてきていただいてもよろしいでしょうか」

 

「ええ、それはもちろんですとも。むしろ村を一度救っていただいたあなた方にもう一度助けていただくことが心苦しいことでもあります。ですので、お礼の方をもう一度考えてくだりませんか?」

 

「何度も言いますが村長殿、我々はすでにこの地の情報という大きな対価をいただいております。ですが、もしお礼と言うのであれば・・・」

 

 そう言って仮面の下で背後の4人に目配せをする。

 するとばりばぶる・たりすまんが前に出る。

 

「後日俺らの仲間が調査のためこっちに来るかもしれない。そいつらがしばらく村に居着くかもしれないが大丈夫か?」

 

「ええ、もちろんですとも。辺鄙な場所にある小さな村ですが、我々にできる最大のおもてなしをもってお迎えさせていただきます」

 

 困ったモモンガは適当に会話のパスを放り投げたが、うまくばりあぶる・たりすまんが受け取ったようだ。ただ、話の内容から後から来るギルドメンバーに村の恩を被せようとしているのが丸見えである。恩は後続のブルー・プラネットあたりに回されるはずだ。

 モモンガはでは参りましょう、と言いながら村の入り口に向かい、いつでも迎え討つ体勢をたてる。

 すると、沈む太陽を背に村へ向かう集団の影が小さな丘からやってくるが見えた。

 

 





投稿サボって申し訳ないです。
お時間があればぜひ活動報告を読んでいただければ嬉しいです。
オーバーロード展で出た新しいギルメンについてなど書いてます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。