この遅さは確定。
この感じは・・・流石に特典小説必要かな?
愉快な物語の始まり
ユグドラシルサービス終了日、第九階層
あっという間に半年が過ぎてしまった。
雑談をするためにログインしたメンバーがよく座る巨大な円卓を囲む41人分の席にはただ一つを除いて誰もいない。つい先日までどこに行っても騒がしいほど賑わいを見せていたナザリックだが、今ではその面影もないせいか部屋が薄暗く感じる。
「・・・・・ふぅ。もう流石に来ないか・・・、いやもっと待つべきかな・・・」
41もある席のうち唯一埋まっている席には、シンプルではあるが艶のある豪華なタキシードを身につけ俯き、眉間に手を当てながら座っている骸骨がいた。
彼の名はモモンガ。今日このサービス終了まで12年間続いたゲーム『ユグドラシル』のギルド、アインズ・ウール・ゴウンを支え続けたギルドマスターだ。
現在彼はモモンガを除くギルメン
時折立ち上がろうと腰を上げようとする仕草を見せるが、何か少し考え込んだ後に再び背もたれに寄りかかる。
(ドッキリ・・・?いやでも1ヶ月以上前から最終日ログインできないかもなんて言ってる人がいたし、朱雀さんとヘロヘロさんも体調崩して1週間ログインしてないし・・・うーん。)
若干この現状の状態に怪しさを覚えるが、ドッキリにしても来れない理由やタイミングなどはなかなか手が込んでいる。
(このままギルメンを待ってサービス終了してしまいました、っていうのもいささか勿体無い・・・。せっかくだからナザリック大墳墓を見て回るか?・・・・いや、もしギルメンと入れ違いになってしまったら?)
サービス終了の時間までまだしばらくある。モモンガはナザリック内を観光することに決め、冗談半分で着ていたタキシードから普段着ている立派なガウンへと装備を変更し、席から立ち上がる。振り向くとそこには大理石の壁に飾られた、宝石を咥えた7匹の蛇が絡み合う見た目をしたギルド武器『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』があった。
「ん?これどうやって開けるんだ?」
ちゃっかり飾られている部分が改造されており、小さいが無数のボタンついた近未来的な透明なケースに入れられていた。しばらく試行錯誤しながらボタンを押していると、突然何重にも重なったネオンブルー色の大小様々な魔法陣が手元に現れケースが開き、それと同時にプシューという効果音と共に白い霧のエフェクトが液体のように溢れて出てくる。
「おお・・・・・この感じはガーネットさんが作ったのかな?でもこの中途半端な魔法要素はガーネットさんらしくないな・・・」
不思議に思いながらモモンガは魔法の力によって浮いているスタッフを手に取ると、その瞬間スタッフから赤黒いエフェクトが立ち込める。ギルド武器に限った話ではないがとにかく作り込みがすごい。
この武器が壊れることはギルドの崩壊を意味するため、これを持ち歩くのに少々抵抗がある。しかし今日はユグドラシルのサービス最終日ということもあり、少し迷いながらもモモンガは持っていくことに決めた。
「さて、どこに行こうかな」
慣れた手つきで右手の指に嵌めたリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを発動すると、転移場所を選択するコンソールが目の前に出現する。
正直、侵入者の気分になって地表から入って隅々まで見て回りたかったが、時間的にそこまで余裕はない。そこでモモンガはそれぞれの階層の主なNPC、階層守護者を見て回ることに決めた。
「第一〜第三階層に居たのは、ペロロンチーノさんの・・・・シャルティア、だったな」
ほんの一瞬王冠を被った黒い物体が脳裏に浮かんだが気のせいだろう。
モモンガはコンソールの指でスクロールさせながら、シャルティアの住居である屍蝋玄室がある第二階層を探す。
「ここが屍蝋玄室に近いかな」
指輪を起動させると瞬時に景色が切り替わる。
暖かみのない寒さを感じ取れるような石でできた廊下を歩いて行くと、開かれた強固な扉が現れる。
「開けたら閉めましょう・・・・・っと。あれ?こんな感じだったっけ」
長年1人だったことで癖になった独り言を呟きながら部屋に入る。
扉の中は妖艶な雰囲気と生者にバッドステータスを与える薄い桃色の霧に包まれている。一から三階層のボス部屋的立ち位置となるこの部屋の一部は以前は家具のない空間だったが、そこには部屋の雰囲気に合わないペロロンチーノのものと思われる家具が数点置かれていた。
「ふむ・・・なんというか、ペロロンチーノさんらしいな」
モモンガの目の前には、机を跨いで大小向かい合った二つの椅子の内ひとつの椅子には、可愛らしく座った赤いドレスを着た少女、シャルティアがいた。間違いなく大きな方の椅子にはペロロンチーノが座っていたのだろう。二つのカップが置いてあったことからお茶会でもしていたことがわかる。
・・・・・・冷静に考えるとあの歳で何やってるんだ?趣味に関してはモモンガがとやかく言えたものではないが、どうしてもそう思ってしまう。
部屋をぐるりと見渡すと、入り口のものより一回り小さい扉がモモンガの目に入る。そこはシャワー室やベットなどのある完全にシャルティアのプライベートルームになっていたはずだ。
好奇心から部屋の中を見てみたいと思い、石畳の床をコツコツと足音を鳴らしながらプライベートルームへつながる扉に近づくと何故か、誰もいないはずの後ろから視線を感じた。
恐る恐る後ろを振り向くと部屋の主たるシャルティアがいた。
(な、なんかいけないことをしてる気分になってくるな)
NPCの機能のプレイヤーのいる方向に顔を向ける習性によって目が向けられただけであっても、部屋の主に見られながら女性のプライベートな部屋へと入るのにはいささか抵抗がある。そう、まるで覗きをしにきたような・・・・・・
(「いやいや、NPCだから全くやましくない!そもそも俺ギルドマスターだし!別に女の子の部屋に入るのに抵抗があるということではないし!」)
リアルで女性経験はもちろん、女性の部屋に入ることなど今まで一度たりともないモモンガは必死に言い訳(?)をする。
「・・・・・・おっと、長居しすぎた」
数分前に何を考えていたかも忘れたかのように急いで転移の指輪を起動させ、焦りながらも早く正確に転移先の詳細確認ボタンを押しながら次の転移先を決める。
一瞬“黒棺”の2文字が見えたが気のせいのはずだ。
「次は第五階層のコキュートスのところか」
第五階層、氷河。
そこはその名の通り極寒の地となっており、吹雪によるダメージと視界不良や移動阻害のデバフが展開されている。現在はサービス終了に伴いユグドラシルのフィールド全体のダメージ付与機能がOFFになっているため、実質ナザリック地下大墳墓内の罠全体の機能を停止させているような状況で、第五階層は今はただ吹雪のエフェクトが舞っているだけだ。
「最後までお勤めご苦労様」
半分独り言のような労いの言葉をかけると転移が開始される。
転移する瞬間視界が真っ白に包まれている中再びシャルティアの二つの真紅の目と目が合う。その視線はどこか不思議そうで、何故か残念そうな感情も混じっていたようであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
瞬時に景色が入れ替わり先程とは違い、開放的で赫灼たる空間へと移り変わる。
焦っていたこともあってか、シャルティアの目線にモモンガは一切気づくことはなかった。
先程の出来事を気にせず、吹雪のエフェクトに苦戦しながらもコキュートスの住居である大白球スノーボールアースへとモモンガは冷たさを感じない積雪に足跡を残しながら、吹雪のエフェクトに姿を晦ます。
しばらく転移した場所から直線上に歩いていると見慣れない影を視界に捉えて足を止める。吹雪のエフェクトによって視界が不鮮明ではあるが、影は複数あるのとそれぞれモモンガほどの大きさであることはわかる。
一瞬、寄り道に時間を使うことに躊躇いを覚えるが、好奇心を抑えることができずその影のある場所へと進む。
そこにあったのは、天を目指そうとするかのように高々と人差し指を突き出し、左手は手を差し伸べるようなポーズのるし★ふぁーの氷像と、モモンガには名前は思い出せないが一般メイドの1人の氷像。他にも異様に盛り上がった胸をしたシャルティアと、何故か二つある氷に近い配色であるライトブルーの巨大な蟲のコキュートスの像。
シャルティアの胸がまるで後付けされたかのように大雑把に作られるなど、若干の歪さがあるがそれぞれ非常に細部までこだわりを感じさせる作りをしている。二体目のコキュートスに至っては丁寧に着色まで・・・・。
「ん・・・?待てよこれ本物じゃないか?」
よく見れば片方のコキュートスは、さっきまで正面を向いた顔がこちら側を向き、体も息をしているかのように一定のリズムで動いている。
何故こんなところにいるのかとモモンガは考えたが、さしずめ見本として置いたまま放置したのだろう。数年間もこの大墳墓第五階層を守り、プレイヤー1500人の大侵攻で多くのプレイヤーを屠ったNPCが今ではただのマネキン状態。このままでは少し可哀想だ。
「さてコキュートスよ。貴様に最後の仕事を与えよう」
声のトーンを低くし、胸を張りながら言う。
「ーー巡回」
するとコキュートスはモモンガへ敬意を表すかのようにゆっくりと跪きこうべを垂れ、第5階層の侵入者の警戒を行うためにシステムに定められたルートを歩き出す。NPCを動かすなどだいぶ久しぶりなことなので、命令コマンドが合っているかドキドキしたが無事成功したようだ。
コキュートスの影が見えなくなるまで見送ると、残った複数の氷像へと目がいく。基本るし★ふぁーは雰囲気や景観を壊すようなことはしないため、不自然に置かれているこれらにモモンガは違和感を感じる。
(それにしても、なんでこんな見つけやすい場所にあるんだ?こういったものはいつも、木の裏にでも隠して作ってる筈なんだが)
思案しながらも無意識にモモンガの手はるし★ふぁーの像の左手へ吸い寄せれ、差し伸べられた手を取るように触る。そして手を置いた瞬間ーーカチリと腕が下がる。
(あ、まずっ・・・!)
そう思った時にはもう遅い。
「爆発オチなんてサイテー!!」
いるはずのないるし★ふぁーの声が聞こえ、氷像の目がカッと大きく目が開いて光ると同時に、落下物につける効果音のような“ヒュー”と音が鳴る。
そして直後、大きな轟音とともに数千、数万もの花火が四方八方に撒き散らされる。
遠くから見ればそれはまるで花束のようで何かを祝おうとするかのようだったが、花火を至近距離に食らったモモンガはそんなことを気にする間も無く・・・・
「たっ、退避ーー!」
瞬時に指輪で転移し眩い光で包まれ、第五階層を後にするのであった。
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第五階層の殺風景な景色と対照的に、今度は鬱蒼とした森へと移る。
周りは背の高い木々に囲まれ、木々の隙間から一際目立つ巨大樹が見える。その樹こそが第六階層守護者である双子のダークエルフの住居だ。
林を抜けるとあたり鬱蒼と茂った木々に囲まれた広間に出る。
見上げると地下であるにもかかわらず星空が見え、月光によってよく見える雲も、絶えず形を変えて全てゆっくりと同じ方向へと流れていく。
これを作られて初めてお披露目された時、本物の綺麗な空を見た事がないモモンガでも星空の綺麗さにひどく驚いていた。そしてこの空を作ったギルメンのブルー・プラネット星や植物、自然について熱く語っていた記憶が蘇る。
「保護している植物の容態が悪くなったから行けなくなりました、だったな・・・」
ブルー・プラネットはリアルでは自然保護管理の仕事をしていた筈だ。役職柄、自分とは違って緊急で呼び出されることなど珍しくもないだろう。
そんなこと考えていると、白く大きいパラソルの付いたテーブルを見つける。確かここはアインズ・ウール・ゴウンの女子会で使われていた席だった筈だ。
テーブルにはペロロンチーノの姉である、ぶくぶく茶釜のNPCのアウラとマーレが座っており、それぞれお揃いの白いフリルのついたブラウス。姉のアウラは足をぴっちりと覆う黒いカプリパンツに対し、弟のマーレはぶくぶく茶釜のセンスにしては珍しい膝まで長い黒いスカートを着用していた。
モモンガはテーブルの上へ目を動かすと、置かれているティーカップを見て思わず笑ってしまう。
(ふふっ、姉弟揃ってやってることが同じだ。やっぱり似てるな)
そしてすぐさま頭の中で2人の「全然違うわ!」という反応が脳内に思い浮かぶ。
ぶくぶく茶釜のリアルの職業は声優。ユグドラシル現役の頃はエロゲ声優で界隈の中ではなかなかの知名度を誇っていたが、今ではアニメに詳しくないモモンガでも知っているアニメにも出演するほど有名になっている。本業が忙しくなったことによりユグドラシルを一度引退し、今日この日も来ることは叶うことはなかったが、ギルメンが評価されていると言うことはやはりモモンガとしても自分のように嬉しい。
『ただいまの時刻、11時でございまーす』
「!?」
声優モードのぶくぶく茶釜の声が聞こえた。
声の主であるピンクのスライムを探すべく周囲を見渡すと、アウラの右腕にあるバンドを見つける。モモンガはそれに1時間ごとに知らせる機能があることを思い出す。
(うん、ちょうどいい時間配分じゃないか。あとは、えっとー・・・デミウルゴスか)
指輪を起動し第七階層へ転移する準備をするとデミウルゴスが現在第七階層にいないことを思い出す。ナザリック内で何度目かもわからないNPC着せ替えブームの影響により、衣服がスーツしかないデミウルゴスが標的となり、着せ替え人形となったからだ。
NPC製作者であるウルベルト自身あまり乗り気ではなかったが、主に女性陣3人からの要望圧によってウルベルトから無事許可が貰えることができ、今ではナザリックのどこかでマネキンとなっている。幸いモモンガのNPCのパンドラズ・アクターについて知っているメンバーは少ないので、幸いにも白羽が立たなかった。
・・・・・コキュートスは衣服を着ることがないため、言うまでもない。
一周回り再びモモンガは第十階層へ行くために第九階層へ訪れる。ナザリックの最終防衛地点であるためモモンガの使用していた転移の指輪、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使用できないからだ。
流石にこの広いナザリックで、どこにいるか分からないデミウルゴスを探すのは非常に困難だ。残念ではあるがここはナザリックを見て回るのを優先する。
だだっ広い廊下の汚れひとつない磨かれた床を歩いていると、あらかじめプログラムされたルートに沿って歩いている NPCの5人の一般メイドたちと出会う。
深々とお辞儀しているメイドたちに、すれ違い様に一言「ご苦労」と声をかけ、通り過ぎようとすると、メイドのレースのついたカチューシャ。ホワイトブリムの一部が白赤黄青緑の装飾へと変わっているのを見つける。
ギルメンの1人、ホワイトブリムがメイド戦隊ものの漫画の資料のためにわざわざ変えたのかもしれないが、自分の作品一般メイドをそのままにするのは彼にしては珍しい。
(ホワイトブリムさんも今日は締め切りギリギリだから行けないって言ってたけど・・・・・終わったらすぐにでも駆けつけてくれるのかな?)
今からでもログインしてくれそうなギルメンのことを考えていると、モモンガは気づけば第十階層へ続く階段にたどり着いていた。
上品な赤色の絨毯の敷かれた階段を降りると、大広間へ辿り着く。
複数の人影があり、自然と目がいくがー・・・・。
「ん?んんん!?」
そこには白髪とは対照的な
「こ、これは流石にまずいのでは・・・?」
モモンガの危惧ももっともである。それぞれのNPC、セバス・チャンとデミウルゴスの服装が入れ替わっていたのだ。
各々は違う製作者によって作られ、対照的と言っていいほど違う設定や能力を持っている。またNPCを作り出したメンバーも真逆であり、真反対の信念を持っていることや、とある事情により対立や衝突も多く非常に仲が悪かった。
「十中八九、餡ころもっちもちさんが悪意なくやってそうだけど・・・いや、ぶくぶく茶釜さんが意図的にやった可能性も?」
どちらにせよ悪質であるのは変わりはない。
片手に持ったスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使用してメニューを開く。装備の欄からデータクリスタルが入れ替わっているのを見つけ、すぐ元に戻そうとするがその手を止める。
サービス終了まであと1時間ない程度。メンバーが集まる可能性は低いだろうとモモンガは考える。
「・・・・・このままにしておこう。これは俺なりの悪戯です。たっちさん、ウルベルトさん」
モモンガは白銀の騎士と羊の悪魔のアバターを思い浮かべながらぽつりと呟く。るし★ふぁーの悪戯には今まで手を焼かされていたが、今だけは彼の悪戯好きの精神がわかるような気がした。
ドーム上の広い空間、
左右それぞれの扉には悪魔と女神の彫刻が施されていて、動きそうなまでリアリティがあった。第五階層の出来事もあり、るし★ふぁーの作品に対して神経質になりながら恐る恐る門を潜るが何も起こらなかった。
しかし、ため息をつく暇もなく次は第十階層玉座の間の圧倒的な雰囲気に息を呑む。
「やっぱり何度来てもすごいよな・・・」
モモンガが呟くと、背後で今まで開いたままであった扉が重厚感のある音を立てて閉じる。
それを合図にモモンガ目線の先にある玉座へと歩みを進める。
玉座の隣には白いドレスに黄金のネックレスを身に纏い、片手に黒球が浮遊した短杖を所持した美女、アルベド。彼女はこのナザリック地下大墳墓の階層守護者のまとめ役である、階層守護者統括を任されている。この役職は階層守護者の頂点であり、このナザリック内でも最上位に位置する称号であるため、このNPCの役職を誰が手にするかで非常に揉めたことをモモンガはよく覚えている。
階段へ登り、玉座へと近づきそこへ座る。
「ふぅ・・・、皆んながまた集まってもう6ヶ月。早かったな」
どうしてこうも楽しい時間というのはすぐに過ぎ去ってしまうのか。
「楽しかったな・・・」
さまざまな思い出により高揚感に包まれると、その後怒りの感情に包まれる。
「でも・・・・なんで・・・・・。最終日くらいは皆んな揃って・・・・!揃って終わりを迎えてっ・・・・!!」
モモンガは怒りに身を任せて拳を振り上げーーー・・・・・・その手を力を抜いてゆっくりと玉座の膝掛けへ手を置く。
「・・・いや、これは俺の我儘だろうな。皆、忙しいリアルを優先しただけだ。そもそもこの6ヶ月一緒にいられただけで奇跡。これ以上何かを望むというのはバチが当たりそうだな」
モモンガはそう自分に言い聞かせるように言う。
「幸福量一定の法則だったかな?不幸の後には幸運が来て、そのあとは不幸が来る・・・。6ヶ月の幸運の貯金が無くなったようなものか」
とあるメンバーがそれを呟きながらガチャを回しているのをモモンガは思い出した。ただガチャの結果はあまり良いとはいえなかったが・・・。
「今までラッキー続きだったからな。まぁ、こんなこともあるさ」
そう考えるとどんどん気持ちが楽になっていく。終わりよければ全てよし・・・とは言えないが、モモンガとしては晴々とした気分であった。
現在リアルは巨大企業の倒産を皮切りに次々に改革、改新が行われリアルが充実していくようになっていた。それによってより貧民層の暮らしが良くなりつつあるようで、ギルドメンバーもリアルを満喫しているようだ。リアルを優先させることが増えるのも必然的であろう。
モモンガは玉座の隣に佇むアルベドへ目をやる。
「どんな設定だったかな?」
コンソールを操作して設定の欄を開く。するとバーコードのような膨大な文字の列が眼前に現れる。
このNPCの製作者は設定魔のタブラ・スマラグディナ。とにかく設定やギミックへのこだわりが強く他のメンバーも呆れ返るほどのものであったが、その労力に見合うほどのクオリティの作品を制作している。しかし、それが駄目になるような趣味が彼にはあった。
文章を飛ばしながら読んでいくと、設定の文末で手を止める。
「『ちなみにビッチである』・・・・・え?何これ?」
ギャップ萌えであった。
この文を見るとモモンガの中になんとも言えない気持ちが現れる。
「・・・・・変更しようか」
個人の考えでメンバーのこだわりによって作られた設定を勝手に変えても良いのだろうか、という考えが浮かんだがその考えをすぐさま振り払う。
流石に酷いというのもあるが、本音としてはギルドマスターの権限を使いたいというのと、最終日に仕返しという思考があった。最後のは殆ど八つ当たりだ。
「さて、この隙間はどう・・・・・」
モモンガは消えたビッチという文字の空間を眺めながら、自分でも馬鹿と思えるような考えを思いつき実行する。
『モモンガを愛している』
「うっわ〜恥ずかしい」
この羞恥心は少しだけ設定を変えた自分への罰である。
とはいえこれも、もう少ししてしまえば消えてしまう。この多くの思い出の詰まったナザリック地下大墳墓と共に。
「さて、最後はこの場で堂々と終わろうではないか」
終了まで数十分。流石にこのタイミングで来るものはいないであろう。
玉座に背を預けながら威厳ある姿勢に正す。
天井から垂れた四十一の大きな旗を数え、記憶を蘇らそうとするその瞬間。突如“ピコン”という電子音が聞こえる。
恐る恐るモモンガはチャットログを覗くと・・・。
たっち・みー がログイン しました
もはや来るとは思っていなかった人物の登場にモモンガが驚きの声を出そうとするが、それを許さぬかのように再び電子音が鳴る。
ウルベルト・アレイン・オードル がログイン しました
続いてピコピコと連続して電子音が鳴り、滝のようにチャットログが流れ始める。
チグリス・ユーフラテス がログイン しました
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カノウ=タマ美 がログイン しました
ぷにっと萌え がログイン しました
餡ころもっちもち がログイン しました
れいじぃー がログイン しました
ぶくぶく茶釜 がログイン しました
ホワイトブリム がログイン しました
ブルー・プラネット がログイン しました
フラットフット がログイン しました
クロリ・ディウム・ロイ子 がログイン しました
ク・ドゥ・グラース がログイン しました
あまのまひとつ がログイン しました
さーもんキング がログイン しました
タブラ・スマラグディナ がログイン しました
デットレバー がログイン しました
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やがて音が止み静けさに包まれると、今度は伝言メッセージの呼び出しの電子音が鳴る。
『モモンガさーん?今どこにいらっしゃいますかー?』
たっち・みーの声だ。
声を聞くだけで目元ががじんわりと暑くなっていく。
「たっちさん何してたんですか!」
『あーいや、何というか・・・。すいません。この話は後ででいいですか?
「自分は今は第十階層の玉座の間にいます」
『了解です!皆さん、モモンガさん玉座の間にいるらしいです!では今か・・・』
ブツリと音が途切れると門の前から鎧や装備の擦れた音や、複数の足音と声がが聞こえる。そして、門の前で立ち止まったのか静かになったかと思うと、ゆっくりと音を立てて巨大な門が開き・・・・・・。
「ドッキリでしたー!」
「「「ドッキリ大成功!!」」」
「ハッピーバースデー!」
「どう?驚いた!?」
「自分は止めたんですがねぇ・・・・・」
「何良い子ぶってるんだよ!お前も共犯者だろ!」
「驚いて声も出ないようですねぇ」
「みんな落ち着いてー!」
「はいはい皆さん静粛に」
死獣天朱雀のゆったりとした言葉を最後に、この空間内に静寂が訪れる。
「まずは私が代表してモモンガくんに謝罪しよう。驚かせるような真似をして申し訳ない」
「ああ、いえ大丈夫ですよ!なんというか嬉しかったというか・・・」
「これをやるのは少々心苦しかったが・・・・・うん、どうやら喜んでもらえたようで何よりだ」
「ノリノリで計画考えた人がなんか言ってら」
「あー、まあまあ!大成功ということでいいじゃ無いか!さて、ここまでやったのはいいものの・・・何かすることはあるかい?」
弐式炎雷の言葉をかき消すように死獣天朱雀は慌てて言う。どうやらドッキリの後は何も考えていなかったらしい。
「殆どやりたいことやったしねー」
「何かするにも流石に時間ないんちゃう?」
魚人のようなアバターのさーもんキングの言葉に周りのメンバーがうなずく。
残りの時間もわずかである。
「あ!メンバー全員揃ってるよね?私やりたいことある・・・・・というかしなきゃいけないこと思い出した!」
「おおー超久しぶりに全員揃ってるね。何するのあんちゃん」
半魔巨人ネフィリムの大きな体を持つ女性メンバーの一人、やまいこがもう一人の女性メンバーの餡ころもっちもちに質問する。
「集合写真!」
「はーい、皆さん椅子に座ったモモンガさんを囲うように集まってねー。身長高い人後ろに行ってー・・・こら!ペロロンチーノさん翼を畳んで!スーラータンさんは背中の盾しまった方が方がいいかも。ホワイトブリムさん、モモンガさんの角で頭隠れてるよー。そうそうもっと前に」
モモンガは突然のことでしばらく放心状態であった。それもそのはず、さっきまで静かであったこの部屋にギルド全盛期、いやそれ以上の活気が戻ってきたからである。
「お隣失礼でーす」
「へ?ああ、どうぞどうぞ」
「あ!ずるい!モモンガさんの隣行きたかったのに!」
「へへへ・・・、早い者勝ちということで」
玉座の後ろからヘロヘロの声が聞こえてくると、横からスルスルと黒い粘液が這い出てくる。
「おお・・・・・何というか意外ですね。真ん中に来るなんて」
控えめな性格であるヘロヘロにモモンガは驚いたように言う。
「まぁ最後ですからね!恥ずかしいですけど最後くらい目立たせてもらいますよ、ギルドマスター!」
「最後・・・・・そうですね」
モモンガが寂しそうにぽつりと呟いた直後、餡ころもっちもちの元気のいい声が部屋中に響き渡った。
「じゃ、みんなこっち向いてね!掛け声は何にするー?」
「やっぱり“あれ”しかないだろ!!なぁ!」
「“あれ”ですよね!?」
雄々しい声の武人建御雷の発言にディス・タイニーがノリノリで返す。
「おっけー!では、ギルド長のモモンガさん!時間ないから、最後というか〜締めの言葉?を魔王ロールでお願い致します!」
「え?う、うむ。良いだろう」
モモンガはすぐさま声を低くし威厳のある声で答えると、周りからおおー、といった感嘆の声が上がる。
「まずは今日、この日再び皆が集まってくれたことに感謝しよう。言いたいことは色々あるが・・・・・どうやらそれを話す時間はないようだ」
23:58:36
「だがこれだけは言わせてもらいたい。もし、もし新たな世界・・・第二のユグドラシルとも言うべきか?もし新世界が生まれたとしたら・・・・・また、その地でもこの名を轟かせようではないか!」
「噂は聞くからな、期待はできるんじゃね?」
「次こそはバランス考えて欲しいっすねー」
「俺はついてくぜ、モモンガさん!」
「ククク・・・・・たとえ拒んだとしてもまた再び巡り会うだろう。それが因果である・・・・・。我らが再び巡り会うその日はー・・・」
「タイニーさんが何言ってるかわかんないけど・・・全然OK!」
23:59:49、50、51・・・
「では最後に・・・・・賛美せよ!アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」
黄金の7つの蛇が絡まったスタッフのギルド武器を大きく掲げ、高らかに言う。
「「「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」」」
スクリーンショットによりパシャリという音とともに辺り一面がホワイトアウトし、ついに終わりの時間がやってきた。
0:00:00・・・・・1、2、3
しかしそれは始まりでもあった。
「・・・・ん?」
いつまで経ってもゲームからの接続が切れた感覚がないことを不審に思い、モモンガは目を開ける。辺りを見回しても変化はなく、そこにはモモンガと同じ様子で戸惑った様子のギルドメンバーがいた。
どうやらサーバーは停止していないようだ。
「・・・・・・え?またドッキリですか?」
静寂の中、モモンガがポツリと呟いた
ようやく始まりました。
今更ですが、登場人物を40人増やすのは我ながら凄いことをやってるなーと思います・・・。
さて、オーバーロード新刊が2冊出ましたが、そこで至高の41人の設定が公開されました。そこで、一部小説内の編集をしようと思っています。今後、原作に合わせてこの小説の至高の御方の設定が変わっていく場合があるかも知れません。改変予定部分は今のところ容姿の部分のみとなっているため、気づかれないかもしれませんが・・・。
読んでいただいている方々にはご迷惑をかけるかもしれませんが、今後このようなことがあった場合、改変を最小限に抑えるよう努力いたします。