仮面ライダー月紅   作:PlusⅨ

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第1部・仮面ライダー月紅
第1話・どたばたのうちに変身?


 紙谷内(かみやち) 雄介はごくごく平凡な男だった。

 

 高校卒業と同時に郷里を離れ、京都の大学に進学。そこで勉学に励む傍らにサークル活動に精を出し、至極真っ当な、それでいて実に平凡なキャンパスライフをエンジョイしつつ四年間を過ごした。

 

 雄介の人生に多少の変化が起きたのは、彼が大学卒業を間近に控えた冬のことだった。

 

 卒業論文の作成に追われつつ臨んでいた就職活動が、まったくもって暗礁に乗り上げてしまっていたのだ。

 

 就職の如何次第はその後の人生に大きく関わる問題だけに、ここにきて雄介は高校と大学の二度にわたる受験という難関を越える、人生最大の難関にぶち当たっていた。

 

 とにもかくにも、卒業論文の提出期限を年内に繰り上げて何とか確保した新年の一月から卒業までの三ヶ月が、彼にとっての勝負だった。

 

「高望みしているわけじゃないけどさぁ……なんか違う気がするんだ」

 

 と、雄介はぼやいた。

 

 商工会館で行われた企業説明会を終え、その帰り道の途中だった。

 

「違う、ねぇ」

 

 友人が隣で相槌を打つ。

 

「自分にはスーツなんて似合わんってか」

 

 そう言って友人はからからと笑った。

 

 雄介は自分の服装を見下ろしてみる。

 

 濃いグレイを基調とした背広にこげ茶色のネクタイ。こんな格好をしたのは大学の入学式以来だ。締め慣れていないネクタイのせいで首周りがやけに苦しく感じる。

 

「毎日これを着て出勤する姿が、うまく想像できなくてさ」

 

 雄介はそう言いながらネクタイを緩めた。そうしながら隣の友人を眺める。友人はオレンジのダウンジャケットを纏った私服姿だった。

 

「木越(きごし)は気楽だよなぁ」

 

 年内にとっくに就職を決めた友人は、暇つぶしと称して雄介の就職活動にのこのこと着いてきているのだった。

 

「雄介、もう一月も終わるぜ。卒業は来月の下旬だろ?」

 

「言われなくても、さ」

 

 まだ日も高い、昼下がりである。二人は近くのコーヒーショップに入り、通りに面した窓際の席に腰を落ち着けた。

 

 店内は仕事の合間を塗ってか、若いОLや、背広姿の若い会社員も多く見られた。

 

「俺さ、本当はああいうのやりたかったんだ」

 

 雄介はそう言って、通りを隔てて向かいにある一軒の雑貨屋を指差した。ショーウィンドウの向こうに不思議な雰囲気を持った様々な置物や調度品が見えていた。

 

「悪くないよな」

 

 木越は否定せず、さりとて肯定もしないような口調で頷いた。雄介はフッと軽くため息をつくと、コーヒーを口にした。

 

 夢はあるけど、それは今のところ果てしない夢で、今は現実的な妥協を強いられているのだ。それはこの四年間、夢を見続けるだけで全身全霊を打ち込んでこなかったツケともいえた。

 

 結局は、夢を追うことへのリスクに足がすくんで、気楽な方へ流れ続けた結果が今なのだ。

 

 なんてことを思いながら店内に目を向けたとき、ふと、妙な気配を感じた。

 

「ん? どうした?」

 

 木越が雄介の様子に気がついて声をかけてきた。その口の周りにカプチーノの泡がこびりついてる。

 

「なんか、変じゃないか?」

 

「何がだよ? …あぁこれか」

 

 木越は口の周りの泡をペーパーウェスでふき取った。

 

「違うって。なんかさ、他の客がみんなこっちを向いてる気がするんだよ」

 

 そう、さっきから妙に視線を感じていた。店内のあちこちの客が定期的に自分たちに顔を向けている気がするのだ。

 

「気のせいじゃないのか?」

 

 木越はそういうと、再びカプチーノを音を立ててすすりだした。

 

「そんなんじゃないと思うけどなぁ」

 

 友人のそんな様子を眺めながら、雄介も自分のコーヒーに口をつけた――と、その動きが止まった。

 

「な、なんだ?」

 

 店内の客が一斉に立ち上がり、外へと出て行ってしまったのだ。これには木越も呆然としていた。

 

「な、変だったろ?」

 

「うん」

 

 二人は席に着いたまま出て行った客たちを眺めていた。その数は十人ほど。驚いたことに店員の姿もあった。その全員が通りを渡り、向かいの雑貨屋へと入っていく。

 

 彼らは互いに一言も言葉を交わさず、なのに動きは妙に整然としていて、それだけに異様だった。

 

「あぁ、そうか」

 

 と、雄介。木越が訊く。

 

「何がだよ?」

 

「みんな俺たちじゃなく雑貨屋を見てたのか」

 

「しかし、何でまた?」

 

「うーん、判らん」

 

 全員が雑貨屋に入って一・二分ほど経っただろうか。

 

 突如としてショーウィンドウが破れ、ガラスの破片を撒き散らしながら二つの人影が飛び出してきた。

 

 いや、飛び出したというより、何者かに放り出されたといったほうがしっくり来る。

 

 二つの人影は路上の真ん中まで転がり続け、周囲を行き交っていた自動車が慌てて急ブレーキをかけ、そのため車線を外れた自動車が他の自動車と接触してしまい、それが更にやってきた他の自動車の急ブレーキと接触を誘い、それが更に………

 

 なんというか、目の前に大混乱が起きていた。

 

「え?」

 

「えぇ?」

 

 同時に雄介と木越の頭も混乱をきたしていた。

 

 二人は店内でカップ片手に凍りついたように動かない。というか目前の景色に釘付けになってしまい動けない。

 

 何台もの車が玉突き事故を起こしている路上のど真ん中で、その原因となった二つの人影がムックリと身を起こした。

 

「えぇ?」

 

「ええぇ!?」

 

 もう何と言えばいいのか。その立ち上がった人影は、シルエットは人だが、細部に至っては人じゃなかった。

 

 細かく描写しようにもピッタリの言葉が思い浮かばないので、とりあえず第一印象で語るならば、一人は“蜘蛛(くも)”っぽくて、もう一人は“蝙蝠(こうもり)”っぽかった。

 

 つまり、

 

「怪しい人?」

 

「怪人?」

 

 その怪人の二人組みは実に軽い身のこなしで路上を駆け、再び雑貨屋に突入していった。

 

 直後、雑貨屋が爆発した。

 

「……」

 

「……」

 

 見ているこっちはもう言葉も無い。

 

 大量の黒い煙と共に雑貨屋の残骸が路上中に散らばった。散らばるだけなら良い。

 

 雑貨屋にあった商品だろうか、わっかのようなものがコーヒーショップのガラスを突き破って店内に飛び込んでいた。

 

「……怪我、無いか?」

 

「……無事、みたいだ」

 

 幸い、ガラス片で怪我はしなかった。だがコーヒーとカプチーノは溢してしまった。代わりにテーブルの上にあったのは、その飛び込んできたわっかだった。

 

「わっか、というよりベルトみたいだな」

 

 バックルに拳大の大きさの水晶のようなものがあしらわれている。全体的にやたら装飾過多なベルトだった。

 

 と、そのテーブル上に影がさす。

 

 破れた窓に目を向けると、そこに蜘蛛っぽい人と蝙蝠っぽい人がのっそりと立っていた。

 

「!!!!!」

 

「?????」

 

 声なき悲鳴とでも言うのか、二人はそんな悲鳴を思わず上げていた。

 

 目の前にいたのは“怪しい人”どころじゃなかった。ハリウッドの特殊メイクもかくやと言うその迫力。それでいて作り物らしさをまったく感じさせないその質感。なにより発せられる激しい体臭。

 

 全体から細部に至って生々しく本物っぽかった。

 

 本物ってなによ? 少なくとも見たことねえぞ。なんて心内の冷静な部分が、現実逃避に突っ込みを入れてみる。結局、自分の口から出てきた言葉は月並みながら実に的を射たものだった。

 

「ば……ば…ばけ――」

 

「クリーチャー!?」

 

 木越のやつは何を思ったか横文字を使用してきた。同じ意味ながらこの期に及んで定番を避けようとしたその心意気は天晴れなものだ。前から思っていたがこの友人の思考回路は少しずれている。

 

 そのクリーチャーだか何だかの蜘蛛っぽいほうが、ズイッと二人に向けて歩み寄ってきた。その顔の真ん中に固まる複眼っぽい八つの赤い目の玉が雄介を睨みつける。

 

 蛇に睨まれた蛙の気分というか、この場合は蜘蛛に睨まれた人間と言うべきか、それじゃ例えにもなんにならんと言うべきで、そもそも蜘蛛に睨まれたからって普通はだからどうしたって感じで………つまり恐怖に身がすくんで動けない。

 

 蜘蛛は雄介を一瞥するとテーブル上のベルトに目を移した。その虫のような人間のような異形の腕がベルトへと伸ばされていく――

 

「渡さないでっ!!」

 

 突然響き渡った声に蜘蛛はその手を引っ込めて後ろを振り返った。蝙蝠も、そして雄介と木越も声のほうを見る。

 

 路上の真ん中に少女がいた。美少女だった。その美少女が必死に叫んでいる。

 

「そのベルトを渡さないで!」

 

 渡すな。

 

 ベルトを手にしようとしているのは目前の蜘蛛と蝙蝠であって、それを拒否しろと言うのか。

 

 誰が拒否しろと?

 

「俺に言ってるの!?」

 

「早く、ベルトを持って逃げて!」

 

 少女の周りを黒い影が包み込んだ。

 

「きゃぁっ!」

 

 影と見えたのは七・八人の黒い人影だった。

 

 黒い服を着ているわけじゃない。全身真っ黒なのだ。頭のてっぺんから指先・つま先まで塗りつぶされたように真っ黒な集団だった。

 

 真っ黒人間たちが少女を取り囲み、押さえつける。

 

 目の前にいた蝙蝠が身をひるがえし、捕らえられた少女の前に進みよった。

 

 それでも尚、少女は叫び続ける。

 

「お願い、早く、早くベルトを――」

 

 蝙蝠の手が少女の喉元に食い込んだ。ゴキッと音がして、少女の頭が奇妙な方向にガックリと傾いた。

 

 それきり、少女の声は途絶えた。

 

「あ…あぁ…」

 

 その、何だ。頭が良く働かない、声がうまく出ない。つまり、少女は、

 

「死んだ?」

 

 木越の言葉に、雄介はハッとした。

 

 テーブル上のベルトに、蜘蛛の腕が伸ばされようとしている。

 

「わあぁぁっ!!」

 

 自分でも訳の判らない叫びを上げながら、蜘蛛よりも早くベルトを引っつかんで立ち上がっていた。

 

「ええええええええ!?」

 

 木越も困惑しながら立ち上がる。二人して店内の奥へ走り出そうとして――あっという間に蜘蛛に行く手をふさがれた。

 

「ベルトを渡せ」

 

 しゃがれ声とでも言うのか、蜘蛛は不気味な声を発した。

 

「お、おい雄介!」

 

 木越が雄介の腕を引っ張った。

 

「わたせ」

 

 蜘蛛がズイッと迫る。二人は後ずさる。

 

「渡せ」

 

 今度は背後からも声がした。蝙蝠だ。後ろには蝙蝠と真っ黒人間たちが迫ってきていた。

 

「ゆ、雄介ぇっ」

 

 木越の声はもう悲鳴のようだ。けれど雄介の目は、蝙蝠や真っ黒人間たちの向こうに、もう一つのものを見ていた。

 

 路上に倒れた、あの少女の姿。

 

(お願い、早く、早く―――)

 

 あの時の哀願の表情が瞼に焼きつき、必死の願い声が耳にこびりついて離れない。

 

「雄介!」

 

「いやだ!!」

 

 雄介は思わず叫んでいた。傍らで木越が形容しがたい表情になっている。マジで、ウソでしょ、何でよ――

 

「こいつはお前らに渡さない」

 

 言ってしまった。言い切ってしまった。目の前の、このやばそうな連中相手に堂々と啖呵を切ったのだ。自分でも何をやっているのか良く判らない。

 

 けれど、あの少女の願いは聞いてやらなくちゃならない気がしていた。

 

「ふん」

 

 蜘蛛と蝙蝠は短く鼻を鳴らすと――蜘蛛の場合、どこが鼻かよく判らんが――前後から二人に迫ってきた。

 

 その身から、全身から殺気を感じる。感じるのは初めてだが、本能レベルでバリバリわかる。

 

 間違いなく、こちらを殺す気満々でいる。

 

(早く、早く――)

 

 こんなときにも、少女の声が耳元から離れなかった。

 

 蝙蝠の腕が、隣の木越の頭を鷲摑みにした。

 

「ひぃいいい!」

 

 木越の悲鳴。

 

(早く、ベルトを――)

 

 蜘蛛の腕が、雄介の首に伸ばされる。

 

「わ、わぁぁぁっ!」

 

 

 

(――ベルトをつけて!)

 

 

 

 目の前で蜘蛛が勢い良く吹っ飛んでいった。

 

 大音響を立ててその身体が壁に激突する。

 

「――え?」

 

 何だか良く判らない。

 

 が、自分の手が前に突き出されているところから見て、どうやら雄介自身が蜘蛛を突き飛ばしたようだ。

 

「なにぃ?」

 

 蝙蝠が呻き、掴み上げていた木越を放りだした。

 

「ふぎゃっ」

 

 木越は情けない声を上げながら店の片隅にうずくまった。蝙蝠が雄介の目の前へやってくる。

 

「そうか、ベルトをつけたな」

 

 その言葉に、雄介は自分の腹部を見下ろした。

 

 そこに、ベルトが着いていた。バックルの水晶が怪しく光り輝いている。

 

「えぇええぇ!?」

 

 自分でもいつの間につけたのかよく判らない。あわててベルトに手をかけたとき、蝙蝠の拳が顔面にぶつけられた。

 

 世界が勢い良く回転した。

 

 違う、回転しているのは自分だ。蝙蝠の右フックを喰らって、雄介はきりもみしながら床に崩れ落ちた。

 

「手間をかける」

 

 蝙蝠はそう言って、

 

「けっ」

 

 吐き捨てるように呟いた。

 

 雄介はひょっこりと立ち上がっていた。とんでもないパンチを食らった気がするにも関わらず、なんだかあっという間に回復してしまったのだ。

 

「通りすがりの雑魚ですらこれだ。相変わらず、身体ばかり頑丈になりやがる」

 

「また“変身”されると面倒だ。とっとと潰すぞ」

 

 蜘蛛がのっそりと起き上がってきていた。

 

「へ、変身?」

 

 その単語を聞いた瞬間、ベルトの水晶が強く輝いた。

 

(そうよ、変身して!)

 

 少女の声だ!

 

(左手を水晶にかざすのよ)

 

 反射的に左手が水晶の上にかざされた。

 

「させるか」

 

 蝙蝠が飛び掛ってきた。雄介は咄嗟に右手を前方に突き出した。

 

「むおっ」

 

 蝙蝠が突き飛ばされた。

 

 自分でも信じられない力だ。左手の平に熱い光が輝いていた。

 

(その光を目の前にかざして――変身するのよ!)

 

 その声に従い、左手に掴んだ光を顔面に持っていった。

 

 眩い光に目がくらみそうになる。

 

 一瞬、全身が痺れるような感触に包まれた。

 

 雄介の身体が虹のようなオーラに包まれ、その姿が変貌していく。

 

 着ていた背広はオーラに溶けるようにその姿を失い、紅い外皮へと変貌していく。

 

 左手の平の下、雄介の顔もまた紅い仮面に覆われていた。

 

 鋭い牙を持ったような口元に、エメラルド色に輝く巨大な瞳。

 

 額から天頂へ伸びる、角とも触覚とも思える二本の突起物。

 

 その仮面はまるで鬼のシャレコウベのようでもあり、昆虫の顔の様でもある。

 

 オーラが消え去り、後には堂々たる体躯の異形の紅い怪人が残された。

 

「ゆ、雄介なのか」

 

 木越が友人の変わり果てた姿に悲鳴を上げた。さっきから悲鳴ばかり上げているのでいい加減、声が出なくなってきている。

 

 蜘蛛が「畜生め」とぼやいた。

 

「またこの繰り返しか。まったく月の石とは面倒なシロモノだ」

 

「翳(かげ)ども、奴を取り押さえろ」

 

 蜘蛛のぼやきに続き、蝙蝠の命令によって真っ黒人間がぞろぞろと店内に入ってきた。

 

 真っ黒人間たちは、ザワ、ザワワワワと奇妙な気配を漂わせながら、異形と化した雄介の周りを取り囲んだ。

 

「征け」

 

 蜘蛛の命令で、二・三人が一斉に飛び掛った。

 

 雄介の紅い拳が唸りを上げて二人の真っ黒人間をぶちのめした。

 

 残る真っ黒人間があわてて跳び退る。

 

 と、それを追って雄介が蹴りを見舞った。

 

 まるで大砲でも喰らったように、真っ黒人間の身体が勢い良く吹っ飛び、周りに控えていた数人の真っ黒人間を巻き込んでぶっ倒れた。

 

 ザワワワワワワア。と、残る真っ黒人間たちの間に、さざ波のように動揺が広がる。

 

「何をしている、全員で押さえつけろ」

 

 蝙蝠の陰々とした声に圧されるように、残っていた四人の真っ黒人間が前後左右から一斉に飛び掛った。

 

 雄介の身体が独楽のように回転した。

 

 振り上げられた回し蹴りが次々と真っ黒人間たちをなぎ倒していく。

 

 なんと鮮やかな戦いぶり。木越はその光景に首を捻った。雄介ってそんなに喧嘩が強かったか知らん。

 

「くそったれ」

 

 蜘蛛はそう言い捨て、同時にその口――らしきところ――から白い糸のようなものを吐き出した。

 

 白い糸はぴゅーと宙を渡り、雄介に向かって浴びせかけられた。雄介の紅い身体は見る見るうちに白い糸に覆い尽くされていく。

 

 もがけどもがけど、糸は取れない。まるで蜘蛛の巣に捕らえられたかのように身動きが取れない。

 

「いまだ、やれ」

 

「応さ」

 

 蜘蛛の言葉に蝙蝠が答え、白い塊と化した雄介へと近づいていく。その指先にはギラギラと輝く凶暴そうな長い爪が伸びていた。その爪の先端から透明な雫が滴り落ちる。

 

 雫が床に落ち、その瞬間、真っ白な煙が上がり、床には黒い焦げあとが残っていた。

 

「りゅ、硫酸!?」

 

 木越は思わず声を上げた。どういう仕組みか、蝙蝠の爪には強力な酸が仕込まれているらしい。それを雄介に突き立てようというのか。

 

 蝙蝠が、白い塊の上に腕をかざした――

 

「な、ばかな」

 

 蝙蝠は狼狽した。

 

 白い塊を突き破って紅い腕が蝙蝠の腕を掴み上げたのだ。

 

 途端に白い塊からモウモウと煙が上がり始めた。同時に立ち込める焦げ臭いにおい。糸が燃え出したのだ。

 

 炎の塊の中から、全身に焔のような虹色のオーラを立ち昇らせた雄介の紅い影が、すっくと立ち上がった。その手は蝙蝠の腕を掴んだままだ。

 

 蝙蝠が自由な片手で雄介に爪を振り上げた。それよりも早く、雄介の片手が蝙蝠の顔面に拳をぶち込んでいた。

 

 バキィイッと激しく鈍い音が響き、蝙蝠の顔面がひしゃげた。

 

 そのまま蝙蝠がガックリと崩れ落ちる。

 

「何てことだ」

 

 蜘蛛は叫び声を揚げると、サッと身をひるがえして店の外へ飛び出していった。

 

「えっ、逃げた?」

 

 木越にはそう見えた。

 

 と、ピクリとも動かなくなった蝙蝠の身体からぶすぶすと煙が上がりだした。雄介が慌てて蝙蝠の身体を店の奥に放り出し、木越のほうへ駆け出してきた。

 

「ひぇええ!!」

 

 友人とはいえ、異形の姿がこちらに一直線に走ってくる姿は不気味そのもので、思わず悲鳴が漏れた。

 

 雄介は木越の首根っこを掴み上げると、信じられないくらいの勢いで店の外へと飛び出した――同時に響き渡る爆音。

 

コーヒーショップが爆発したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ~あ」

 

 木越は眼下に広がる惨事の痕の景色に、思わずため息をついた。

 

 五条の通りは何台もの車が玉突き事故を起こして煙を噴き上げていた。通りを挟んで向かい合うようにして店を構えていた雑貨屋とコーヒーショップも、それぞれモウモウと黒煙を噴き上げている。

 

 遠くからパトカーと救急車のサイレン音が近づいてきていた。

 

「……とんでもないことになってるなぁ」

 

 なんて呆然と呟く木越が何処にいるかといえば、なんと雑貨屋の入っている五階建てのビルの屋上だったりする。

 

 雄介はコーヒーショップから木越を引っつかんで飛び出した後、人間一人を肩に担ぎながら大ジャンプをかまし、呆れたことにこの屋上まで飛び上がってきたのだった。

 

 着地してしばらくの間、木越は生きた心地もしなかった。まぁ気絶していないだけ我ながら立派だとは思うが。

 

 木越は傍らの人物をちらりと眺めた。

 

「んで、お前は平気なのか?」

 

「……多分」

 

 自信無さげに答えたのは、雄介本人だった。

 

 もうあの異形ではない。腰のベルトを外した瞬間、拍子抜けするほど簡単にもとの姿に戻ったのだった。

 

「で、つまり何が起きているんだ?」

 

 と、木越の質問。

 

 雄介は「う~ん」と唸ると、

 

「どうやら怪人がこのベルトを狙っているらしい」

 

「それは、判る」

 

「ベルトをつけると変身できる」

 

「それも判る。目の前で見たし」

 

「そんで、これは“月の石”というらしい」

 

「そういや、そう言ってたな」

 

「で、あの怪人は死ぬと爆発するんだって」

 

「あ、やっぱり?」

 

「怪人たちは“太陽の石”を持つ者の命令で動いていて」

 

「ふむふむ」

 

「この“月の石”と“太陽の石”が組み合わさると凄い力が手に入る」

 

「へえ」

 

「奴らは月の石を手に入れるためなら、どんな手段も選ばない恐ろしい集団!!」

 

「おおう?」

 

「このベルトを狙うものたち、その名は“ジョーカー”」

 

「お~い?」

 

「……と、さっきから俺に説明してくれてるのが、この“ミオリ”っていう子なんだけど」

 

「………」

 

 雄介はおかしくなったのか? いや、たしかに異形に変身したりとおかしくなったのは確かだが……

 

 なんて木越が思い悩んでいる目の前に、雄介が手にしたベルトをぶら下げてきた。

 

「まぁ、この水晶をよく見てみろよ」

 

 言われて木越は覗き込んでみる、と――

 

「なんてこった」

 

 少女がいた。美少女だった。なんて先ほど使った表現そのままだが、つまりあの少女が水晶の中にいた。

 

 木越は慌てて屋上の端から路上を見下ろす。

 

 少女はいた。首を捻じ曲げ、路上に倒れていた。

 

(そう、私は死んだのよ)

 

 聞こえた声に、木越はその方向へ振り返った。

 

 そこにベルトをぶら下げた雄介がいた。

 

(はじめまして。そして巻き込んでしまってごめんなさい)

 

 声のようであり違うようである。少なくとも雄介の声じゃない。

 

「美織ちゃんだよ。どうやら俺が意識を向けた相手には声が伝わるようだ」

 

 今度は雄介の声だった。

 

「美織ちゃんって……水晶の中の娘か?」

 

(ええ……私の身体は死んでしまい、魂のみがこのベルトに残されてしまったの。雄介さんが私の声に応えてくれて助かったわ)

 

「………」

 

 木越はとりあえず深呼吸をした。

 

 そして考えた。

 

 雄介に腹話術しながら女の子の声マネをするなんてことが出来たっけ?

 

 いいや、そんな器用で気味の悪い特技は知らん。ではこの声(っぽいもの)は本当に水晶の中に見えた娘のものだろうか?

 

「美織ちゃんもベルトをつけて怪人たちと戦っていたらしいけど、力およばずベルトを剥ぎ取られちゃったんだと」

 

「待て待て。まだ状況をよく理解できていないんだから、あまり話を進めないでくれ」

 

 木越は頭を両手で押えて呻いた。そして、

 

「つーか、雄介。何でそんなに落ち着いてるんだ?」

 

「いやぁ、美織ちゃんからいろいろ説明してもらって、じゃぁ仕方ないな、って」

 

「おいおいおい」

 

 ずいぶんとのん気なもんだ。

 

 そういえば「美織ちゃん」だの「雄介さん」だの親しげな呼び名になっている。この短い間にいったいどんな遣り取りをしていたのやら。

 

(とりあえず、よ)

 

 と、雄介。ではなく美織。

 

(あの蜘蛛がまだ私たちを狙っているはずよ、油断しないで)

 

 その台詞を聞いて、どうやら自分たちがとっても危険なことに巻き込まれていることは判った。

 

 ではどうするか。

 

「警察に届けよう」

 

 雄介も頷く。

 

「そうだな、それがいい」

 

「とりあえず落し物として、そのベルトを預けるってことで――」

 

(だめよっ!!)

 

 美織が激しく却下した。

 

(私まで一緒に落し物扱いされるじゃない!)

 

「仕方ないだろう。このままじゃ俺たちの身まで危ないし。という訳だから大人しく雄介から離れてくれ」

 

(最っ低、それじゃまるで私が幽霊みたいじゃない!!)

 

「幽霊そのものじゃないか。おとなしく成仏してくれ――」

 

 と、木越が言ったとき、その首に真っ白な一本の糸が巻きついた。

 

「へ?」

 

 突然強い力によって糸が引き寄せられ、木越は数メートルの距離を一気に引きずられた。

 

「うげげげげぇぇ~!!」

 

 そして糸に引き寄せられた先に待ち構えていたのは、

 

「く、蜘蛛!?」

 

 あの蜘蛛の怪人だった。

 

 怪人は木越の身体を抱え上げると、その首に手をかけた。

 

「おとなしくベルトを渡せ。さもないと、わかっているよな?」

 

 まさに黄金パターンだ。このお約束を理解できない奴はまずいないだろう――

 

(絶対に渡さないわ!!)

 

 断固として拒絶された。

 

(何があっても絶対よ。どんな犠牲を払おうとも渡さないわ!)

 

 ダメ押しまでされた。

 

「いやいや、そういう訳には行かないだろ」

 

 雄介のフォローに、木越はホッと胸をなでおろす。

 

「雄介、そんなベルト渡しちまえぇっ!」

 

(あんたなんか絞め殺されてしまえばいいのよっ)

 

「どっちも駄目だって」

 

「どっちかにしろぉっ!」

 

 蜘蛛の怒鳴り声に三人(?)はピタリと口をつぐんだ。

 

「五秒だ。それまでにベルトをよこせ。渡さなかったら――」

 

「もし殺してみろ。お前を全力でボコボコにしてやる」

 

 雄介がキッと蜘蛛を睨みつけて言い放った。

 

 おお、頼りになる顔するじゃないか、と人質の木越。

 

「……五秒後にこの男の腕を折る。それでも渡さないのなら、もう片手。それでも嫌と言うなら足の指を一本一本ボキボキと――」

 

「――お願いだから渡してぇっ!!」

 

(安心しなさい、両手両足が無くても生きていけるわ!)

 

 幽霊娘はとっても不吉な励まし方をしてくれた。

 

「冗談じゃねぇ!!」

 

「五秒だっ。まずは左手を折る!」

 

 蜘蛛の手が木越の左腕をねじり上げた。

 

「痛いいたたたいたい!!」

 

 木越の悲鳴に雄介が叫んだ。

 

「レッドホッパアァァ!!」

 

 断っておくがここは屋上である。雄介と木越と蜘蛛以外の誰もいない場所である。

 

 その屋上に突然、真っ赤な巨体が踊りこんできた。

 

 それは一目散に蜘蛛めがけ突っ込み、盛大に体当たりをぶちかました。

 

「うおぉおお!?」

 

「ひいぃえええぇぇぇ!!?」

 

 ついでに木越も吹っ飛ばされた。

 

 その身体は宙を飛び、屋上の端を越え、地上20メートルの高さを真っ逆さまに落っこちていく。

 

「ぎゃああぁぁぁあ!!」

 

 俺って悲鳴ばっかり上げてるなぁ、なんて思いが木越の心中を掠める。

 

 一方で、屋上の雄介も、木越と蜘蛛が弾き飛ばされた瞬間、彼らめがけ駆け出していた。木越が落ちると同時に、雄介も空中に身を投げた。

 

「変身!」

 

 ベルトは既に装着していた。オーラに包まれながら、雄介はビルの壁面を垂直に駆け下りる!

 

 異形の姿となった雄介が、空中で木越の身体を受け止め――いや、突き飛ばした。

その直後、雄介はすぐに身体を捻り、足を下に向けた。

 

 大音響と共に雄介は路上に着地した。足元のアスファルトでは放射状にひび割れが起きており、それが着地の衝撃の凄まじさを表していた。もうもうと土煙が上がる中、雄介はそのエメラルドの巨大な眼を、近くの街路樹に向けた。

 

 木の枝に引っかかるように、木越がいた。

 

「雄介~、ちゃんと受け止めてくれよ」

 

「無茶言うなよ。抱えていても着地の衝撃は一緒だぞ」

 

 それならいっそ、街路樹の枝をクッションにした方がまだマシだろう。そう判断しての処置だった。

 

 木越の引っかかっていた枝が折れ、彼はその下の植え込みに落っこちた。

 

 とりあえず無事なようだ。

 

「木越、立てるか」

 

「まぁな……つーか、その姿でも喋れるんだな」

 

 20メートルの高さから落ちた後だというのに、変なところに感心する奴もあったもんだ。と、雄介はあきれた。やっぱりこの友人の思考回路は少しずれている。

 

 二人の目の前に、新たな影が舞い降りた。

 

「こ、これは、バイク!?」

 

「レッドホッパー……らしい」

 

 さっき蜘蛛を――ついでに木越を――吹っ飛ばしたものだった。成程、外見はバイクだ。レッドと言うだけに全体が真っ赤だが……

 

 なんだかとっても“ホッパー”っぽかった。

 

 つまり、飛蝗(ばった)そのままなのだ。紅い飛蝗が巨大化してバイクと融合したような姿だった。

 

 美織の説明によれば“月の石”を護衛するための“使い魔”らしき存在らしいが――呼べばすぐに来るらしい――また凄いものが出てきたものだと雄介は思う。

 

 そのレッドホッパーの顔がクルッっとこちらに向けられた。

 

 バイクで言うならライトに当たる部分にある、雄介と同じエメラルド色した二つの大きな瞳が、雄介を見つめた。

 

「うきゅっ♡」

 

 ……鳴き声はとても可愛らしかった。

 

「いいかげんにしろぉぉ!」

 

 今度はとっても嫌な濁声が響いてきた。頭上を見上げると、ビルの壁面にへばりつく様にして蜘蛛の姿が!

 

「小細工なんか止めだ。俺一人でも力ずくで奪い取ってやる!!」

 

 言うや否や、大量の糸を吹き出してきた。

 

「逃げるぞっ!」

 

「お、おう!」

 

 雄介は颯爽とレッドホッパーに跨った。木越も飛び乗るようにして後ろに跨る。

 

「いくぞレッドホッパー!」

 

「うっきゅ~」

 

 ……緊迫感の欠片もない鳴き声を上げて、レッドホッパーは走り出した。が――

 

――グワオオォォォン!!!!

 

 レッドホッパーはフォーミュラーマシンもかくやと言うほどの爆音と、疾走振りを見せた。路上を埋め尽くした事故車の群れを一息に飛び越し、集まったパトカーの屋根を踏み越え、蜘蛛が吐き出す糸を間一髪で避けながら五条通を東へ向けて疾走する。

 

「木越、しっかり捕まってるか!?」

 

「落ちる落ちる落ちる!」

 

「うっきゅきゅ~」

 

「畜生、楽しそうじゃねえか、この萌えバイクがぁ!?」

 

 悪態を吐く木越を落とさないようにしながら、雄介は堀川通りをぬけて烏丸通りにレッドホッパーを進入させた。

 

 その後ろを、蜘蛛がビルからビルへ糸を投げながら、まるで某アメコミヒーローのように追いかけてくる。

 

 烏丸の交差点はちょうど信号が赤で、今まさに大型トレーラーが横切ろうとしている最中だった。

 

「もらったぁ」

 

 蜘蛛が叫び、糸が宙を走った。

 

 雄介の目の前でトレーラーがタイヤを糸に絡ませ、交差点のど真ん中で立ち往生してしまった。

 

「跳ぶぞ!」

 

「どうにでもなれぇ!」

 

 レッドホッパーが前方を塞ぐトレーラーの車体を軽々と跳び越す。

 

「掛かったな、これぞわが罠よ」

 

 蜘蛛が不気味なことを口走る。

 

 飛び越えた先、信号待ちをしていた車の間中に、大量の白い糸が這わされ、まさに一面蜘蛛の巣と化していた。

 

「飛んで巣に入る冬の虫よ、ふわっわっわ」

 

 なんだかとてもしょうも無いことを叫んでいる気がするが、だがレッドホッパーは蜘蛛の巣に飛び入ろうとはしなかった。

 

「なにぃ!?」

 

 動物(?)の勘とでもいうのか、レッドホッパーは初めから斜めにむけて跳んでいたのだ。

 

 結果、蜘蛛の巣に飛び込まずに済んだものの、その向かう先は――

 

「――ぶつかるぅ!?」

 

 目の前にビルの壁面が迫っていた。

 

「木越、振り落とされるなよ!」

 

 レッドホッパーが空中で真横に傾いた。タイヤがビルの壁面に向けられ、そのまま壁面に真横に着地した。

 

 爆音をあげてレッドホッパーは壁面を走りぬけ、蜘蛛の巣を越えたところで再び路上に飛び降りた。

 

 背後からは変わらず蜘蛛が追いすがり、レッドホッパーは河原町五条を横切り、ついに鴨川にまで達した。

 

 五条大橋に乗るかと思われたが、雄介はそこでレッドホッパーを橋の途中から鴨川の川原へと飛び込ませた。

 

 その川べりで急停止する。

 

「木越、おりろ」

 

「何する気だ?」

 

「ここでケリをつける。ここなら多少の爆発も平気だろうしな」

 

 蜘蛛が糸にぶら下がりながら、ビルの影から振り子のように飛び出してきた。

 

 そのまま五条大橋の欄干に飛び乗る。

 

「気をつけろよ」

 

 木越がそう言って離れていくのを見届け、雄介は再びレッドホッパーを走らせた。しかし、その進行方向は、蜘蛛に背を向けた遠ざかる方向だった。

 

「逃がすかよ」

 

 蜘蛛が欄干から大きく跳躍した。

 

 その瞬間、雄介はレッドホッパーをUターンさせた。空中の蜘蛛めがけ、全力で走り出す!

 

「トオォォォォ!!」

 

 鋭い掛け声と共に雄介は跳んだ。

 

 その意外な行動に、蜘蛛は驚き、そのため空中での対応が遅れた。レッドホッパーの速度、雄介自身の跳躍力が空中での凄まじい速度を生み出していた。

 

 その勢いのまま、雄介は蜘蛛に飛び蹴りを見舞う!

 

「はぁああああああ!!!」

 

「なにぃ!?」

 

 足が蜘蛛の胴体を捕らえた。

 

 雄介の勢いの全てが蜘蛛に伝わり、蜘蛛は盛大に反対方向へと吹っ飛んでいた。

 

 そしてそのまま空中で――蜘蛛は爆発四散した。

 

「ふう」

 

 地上に舞い降りた雄介は、空中に広がる爆炎を眺めながら腰のベルトを外した。まるで手品のように雄介の姿は紅い異形から、元の姿へともどる。

 

(雄介さん、お見事♪)

 

 美織が嬉しそうに語りかけてきた。

 

 ベルトの水晶を覗くと、そこに彼女の笑顔があった。

 

「お~い雄介」

 

 木越も駆け寄ってきた。

 

「すげぇ技だったな、きっちり蹴りをつけたわけだ。ははは」

 

 ベルトの中で、美織の笑みが消えた。

 

「ん、どうした?」

 

「美織ちゃん、お前に呆れてものも言えんって顔だ」

 

 そういって木越にベルトを見せた。

 

「このやろう、人質の俺を見捨てようとしたこと忘れねぇぞ」

 

(野郎とはなによ、私は女の子よ。だいたい先に見捨てようとしたのはそっちじゃないのっ!?)

 

「巻き込んどいてグダグダ抜かすな、幽霊女!」

 

(幽霊って言うな! 私だって、私だって……)

 

 ふと、美織の口調が変わった。

 

(わ、私だって……私だって、もっと生き…て……)

 

 そこから先はもう、言葉にならなかった。

 

 雄介は、意識の伝達を止めた。

 

 美織の声が木越には聞こえなくなる。雄介はベルトを手元に引き寄せた。

 

 木越は、打ちひしがれたような表情をしていた。彼にも判ったらしい。水晶の中で、美織は泣いていた。

 

「……すまん」

 

 木越はポツリと呟いた。

 

 雄介は応える。

 

「ああ、伝えておくよ」

 

「……本当に、すまん」

 

 雄介は、少女のすすり泣きを耳にしながら、ただ、ベルトを胸に抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

 古くから伝わる宝具【月のベルト】を守るため、少女は若き命を無残に散らした。
 それを目の当たりにした青年はその思いを受け継ぐ決意をする。

 竹林を冷たい風が吹き抜けるなか、異形の怪人たちの魔の手が迫る。

第2話「受け継ぐ思い」

 そこは、京都嵐山。
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