仮面ライダー月紅   作:PlusⅨ

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第3話・仮面の騎士

 南叡山。蓮華王院、三十三間堂。

 

 京都東山区、六条通を東に進み鴨川を渡ってすぐに位置する、天台宗妙法院の境外仏堂であり、建立は長寛二年、西暦1165年である。

 

 本堂は名称の通り三十三の柱間によって構成され、柱間ひとつの長さが拾二尺・約3.6メートルであることから、本堂の横幅は南北に約120メートルにも及ぶ。

 

 その堂内中央には本尊・十一面千手千眼観世音菩薩坐像が東向きに座し、その周囲を四天王象が取り囲んでいる。

 

 堂内の東側、三十三の柱間をおよそ等間隔に、二十八部衆が異様な迫力を持って立ち並び、さらに風神・雷神の像が本堂の両端をその威容を持って固めている。

 

 その二十八部衆を前にして、本尊と四天王の左右にずらりと居並ぶ十一面千手千眼観世音菩薩立像。

 

 その数、実に千体。

 

 堂内を埋め尽くす金色の千手観音の大群は整然として、また静寂なる面持ちもって佇む。

 

 時刻はすでに深夜を過ぎ。

 

 堂内は暗く人気も無い。

 

 千と三十五体もの仏に満ちたこの空間に響き渡るは、屋根を打つ雨だれの音のみだった。

 

 三月。

 

 春を間近に控えたこの季節に似つかわしく、外は冷たい氷雨に覆われていた。

 

 

――……キィン

 

 

 雨だれの音に満ちる堂内に、かすかな金属音が届いた。

 

 

――……ザザザザザ

 

 

 砂利を踏みしめる足音。

 

 

――……キィン…キィン……ザザザザ…キィン

 

 

 繰り返し響く金属音と足音。

 

 それは仏像の背後から鳴り響いてくるようであった。

 

 本堂の西側、三十三間堂背後では京都伝統行事のひとつである“通し矢”が行われる場所であるゆえ、一面に砂利が敷き詰められている。

 

 今、氷雨降りしきる暗黒の中、その砂利を踏みしめ二つの人影が対峙していた。

 

 夜空を覆う暗雲の一画が閃光を発し、そこに対峙する二人を照らし上げる。

 

 そこにあったのは異形だった。

 

 二人の身体は血のように紅く、その相貌は、どちらも鬼のシャレコウベか昆虫の顔のようであり、巨大なエメラルドの瞳が爛々と相手を見つめている。

 

 互いが手にした刀剣が、青白い稲妻に照らされ激しく煌めいた。

 

 遅れて鳴り響いた轟音とともに二つの紅い異形が激突した。

 

 氷雨を切り裂き、鋭い斬撃が互いを襲う。

 

 

――ガキイィン!

 

 

 同時に上段から振り下ろされた刀剣は、お互いの肩にぶつかり激しく火花を上げた。

 

 その紅い身体は鋼鉄のように硬く、鋭利な刀剣をもやすやすと弾き返す。

 

 砂利を踏みしめながら互いは素早く後退し間合いを取った。

 

 間髪いれずにまたも両者は激突し、火花が上がった。

 

 今度は一撃では済まず、互いに何度も斬撃を繰り出し続ける。

 

 防御をまったく考慮に入れぬ、攻撃のみの技の応酬。

 

 どちらかが倒れるまで続く、まさに人外の戦いであった。

 

「トォォォオオ!!」

 

「ムウウゥウン!!」

 

 裂帛の気合とともに激しい一撃が繰り出され、ついに互いの身体が離れた。

 

 技は互角、と見えた。

 

 しかし、

 

「月紅……もう終わりか?」

 

 陰々と響く声。

 

 その声に押されるように、片方がガックリと膝を突いた。

 

「く…くそ……」

 

 倒れそうになるところを、手にした剣を地に突き刺し、何とかとどまる。

 

 だが、その息は乱れ肩が激しく上下している。

 

「ま…まだだ!」

 

 剣を杖代わりに、力を振り絞って立ち上がる。

 

「ふっ……来いよ」

 

 相手は手にしていた剣を放り出し、手ぶらのまま悠然と構えていた。

 

「う…うおおぉぉぉ!」

 

 剣を腰だめに構え、気合とともに全身でぶつかっていく。

 

「この程度だったか」

 

 相手は悠然と構えたまま、吐き捨てるように呟いた。その異形の相貌に、冷笑に似た輝きすら浮かんだように見える。

 

 その片腕が迫る切っ先を容易く捌き、残る片手がうなりを上げた。飛び込んできた顔面を下から打ち上げる。

 

 

――グワッシャァ

 

 

 アゴに強烈な一撃を喰らい、その身体が弓なりに仰け反った。そこへさらに追い討ちとして前蹴りが繰り出される。

 

 黒雲が閃光を発す。

 

 だが続いて響き渡った轟音は、果たして雷鳴か、それとも異形の一撃ゆえか。

 

 攻撃を食らった異形は10メートル近くを吹っ飛び、砂利を巻き上げ墜落した。

 

「雄介ぇっ!?」

 

 木越の足元に、傷ついた友の姿があった。

 

――ジャリ……

 

 近づく足音に、木越は視線を上げる。

 

 友と同じ姿をした異形が、堂々とした足取りで、実に無造作に歩み寄ってこようとしていた。

 

「に…日紅……」

 

 ニッコウ。

 

 太陽の石を持つもの。

 

 その力で怪人を生み出し、美織とその家族を襲い、月の石を奪おうとする者。

 

「ふっ……、月の石を持つもの、月紅の力はこの日紅の力と互角と聞いたが」

 

 ぎらり、と日紅のエメラルドの瞳が、木越と、倒れ付す雄介を一瞥した。

 

「所詮、使いこなせぬ素人。出向くまでも無かったか」

 

 日紅の右腕が、雄介の腰に伸ばされようとしていた。

 

「畜生、させるかよ!」

 

 木越は思わず身を乗り出し、雄介の前に進み出ると日紅の腕を掴んでいた。

 

「お前にベルトは渡さねぇっ!!」

 

 木越はその紅い豪腕を、両手で掻き抱くようにして全身で押さえつけようとした。

 

「邪魔だ」

 

 呟きとも聞こえる声とともに、日紅の左手が木越の右肩を掴んだ。

 

 

――ミシィ

 

 

 日紅の指の下、木越の骨が軋みを上げ、その全身を激痛が貫いた。

 

「がっ――!???」

 

 あまりの痛みに声も出せず、思わず全身が仰け反った。

 

 日紅はそのまま左手で木越を吊り上げ、その身体を脇にどかすと、自由になった右手を再び雄介の腰へ伸ばそうとする。

 

 雄介は動かない。

 

 あまりのダメージに、もはや動けない。

 

「むっ!?」

 

 日紅の腕が止まった。

 

 日紅の異形の相貌を、木越の掌が掻き毟っていた。

 

「ゆ…雄介」

 

 日紅に肩を掴み上げられ、激痛に顔を歪めながら尚、木越は日紅の顔面に指を突き立てていた。

 

「とっとと立てっ、美織を渡すつもりかこの野郎!!」

 

 

――バキッ

 

 

 枯れ枝を折ったような音がして、木越の右腕がだらりと垂れ下がった。

 

 日紅は握りつぶした肩を掴んだまま、木越を雄介の前に放り出す。

 

「あ……あが……ぐぁっ……!?」

 

 肩が焼け付くように熱い。目がくらむ。息ができない。全身が痛い。気が狂いそうだ。

 

 顔面蒼白で七転八倒する木越。

 

 それでも、必死に喉を振り絞った。

 

「雄介ぇ……逃げろぉ…」

 

 ベルトを、美織を守るんだろう?

 

「良い根性だ。………お前は俺の手で殺すに値する」

 

 日紅の拳が振り上げられた。

 

 その拳が、木越に向かって叩き下ろされようとして――

 

――ダメェェェッ!!

 

 閃光が瞬いた。

 

 稲妻か?

 

 いや違う。

 

 雄介のベルトが、そのバックル部の水晶“月の石”が輝いているのだ。

 

 その輝きは一筋の光線となって、木越の肩を打ち抜き、日紅の腰のベルト“太陽の石”へと差し込んだ。

 

「こ、これは!?」

 

 その瞬間、日紅の身体を衝撃が走りぬけた。

 

 まるで強力な一撃を食らったかのようにその身体が激しく後方に吹っ飛ぶ。

 

(レッド…ホッパー……)

 

 かすかな“声”だった。

 

 だが、木越は確かにその声を聞いた。

 

 閃光と雷鳴とともにレッドホッパーが飛び込んでくる。

 

「きゅうー!!」

 

 いつに無く真剣な鳴き声に、木越はとっさに雄介を抱き起こしながら立ち上がった。

 

 驚くべきことに、肩の痛みはまったく無く、それどころか折れてもいないようだった。

 

「逃がすかぁぁっ!!」

 

 怒涛の叫び声とともに、日紅が襲い掛かってきた。

 

「ホッパー!」

 

「きゃうっ!」

 

 雄介と木越を乗せ、レッドホッパーは大きく跳躍した。

 

 瞬く間に境内を飛び出し、鴨川の河原へと飛び出した。

 

 身を切るような氷雨の中、木越は傷ついた友を背に抱えレッドホッパーを疾走させる。

 

 闇の中へ…。

 

 闇の中へ…・・・・。

 

 

 

 ……

 

 

 

 ………

 

 

 

 …………

 

 

 

 ……………

 

 

 

「……………ですって」

 

「えっ?」

 

 ぼんやりしていたみたいだ。

 

 彼女の言葉を聴きそびれた。

 

「ごめん、何だって?」

 

 謝ると、彼女は「仕方ない人」と笑った。

 

「もうすぐ、日食が見られるんですって。ニュースで言ってたの。日本で見られるのは二十年ぶりの機会みたい」

 

「へえ」

 

 彼女と肩を並べながら、小路を歩く。

 

 時折みえる庭先の梅はもう花開き、穏やかな春風が梅香を運ぶ。

 

 ここは祇園かな。

 

 見知らぬようで、見覚えのある景色。

 

 暖かい日差しの下、静けさがあたりに満ちていた。

 

「何だか、気の無い返事」

 

 彼女は拗ねた様な表情をしていた。

 

「い、いや、そんなこと無いよ……ちょっと、惚けてたみたい。この陽気のせいだよ」

 

「変な言い訳」

 

 彼女はクスクスと笑って、それから空を仰ぎ見た。

 

「でも、この日光だって日食になってしまえば全部隠れてしまうのよね。この地球よりも何百倍も大きくて、たった一つで空一面を照らし出す太陽なのに、それをただの衛星でしかない小さな月が覆い隠してしまう………凄いって思いません?」

 

「凄い……そうだね」

 

 天を横切る太陽の道・黄道と、月の道・白道が交わる一点。

 

 その場所をまったく同時に横切る一瞬の機会。

 

 太陽と月。

 

 大きさのまったく違う二つの天体が、まったく同じ大きさに重なる距離の偶然。

 

 人の身では奇跡としか思われないような、そんな現象。

 

 だから、こう思う。

 

「……素敵だよね、それ」

 

 そう言ったら、彼女は目をまるくしてこっちを見ていた。

 

「何?」

 

 その表情はまるで吹き出しそうになるのを堪えている様で、

 

「似合いませんよ~」

 

「ひどいなぁ、どういう意味だよ」

 

「“素敵”とか、“ロマンチック”っていうのは女の子の台詞ですよ」

 

「男には男の浪漫だってあるさ」

 

「それって、なんだか壮大で大袈裟そう」

 

 そう言って、彼女は腕を絡ませてきた。

 

「女の子のロマンは、もっと身近で、ささやかで……とっても簡単なことなんですよ」

 

 腕を伝わって、彼女のぬくもりを感じる。

 

 身を寄せ合って歩く二人の歩調が、さらに緩やかなものになる。

 

「……憧れだったんです。こういうの」

 

 やがて、二人の足が止まった。

 

 その頭上には、紅梅が艶やかに花開いていた。

 

「いつか、こんな風に花を見ることができたらいいなって、幼いころからの夢だったんですよ」

 

「……もうすぐ、桜も咲くよ。また見に行こう?」

 

「もう、良いんです。願いは叶いましたから………」

 

 するり、と彼女の腕が解け、その身が離れた。

 

「もう、思い残すことは無いから……だから……」

 

 風が吹き、紅梅が散った。

 

 一瞬、視界を奪われる。

 

「行くなっ」

 

 思わず叫んでいた。

 

 その手を彼女に向かって必死に差し伸ばす。

 

「雄介さん、どうか……どうか、生きて。私のことを忘れても良いから、月の石だっていっそ捨てても良いから……お願いだから、死なないで」

 

「駄目だ、行っちゃ駄目だ!」

 

 紅い花びらの向こうに、彼女の微笑が見えた気がした。

 

「……ごめんなさい。でも、……ありがとうございました」

 

 泣き出しそうな、その微笑。

 

「美織ぃぃぃ!!!」

 

 絶叫。

 

 

 

 

 そして暗転。

 

 

 

 

 宙空へ差し伸ばした手の先に、紅く染まった満月が浮かんでいた。

 

 雲ひとつ見当たらない夜空にぽっかりと浮かぶその月は、もう西にだいぶ傾いている。

 

 伸ばした手が、何も掴むことなく垂れ下がり、ベッドのシーツに下ろされた。

 

 そこでようやく気づいた。

 

 ここは、俺の部屋だ。

 

「雄介、気がついたか……」

 

 傍らからかけられた声に、雄介はベッドに臥したまま横を向いた。

 

 木越がベッドのふちに腰掛けていた。

 

「木越……?」

 

 西向きの窓から月光が差し込み、暗い部屋を赤銅色に染め上げている。

 

 なんだ、これは夢か。

 

 周りの景色が、ひどく現実感の無いものに感じられた。

 

「月が紅いな…」

 

「月食らしいからな」

 

 月食?

 

 日食じゃなかったのか?

 

 木越が立ち上がり、暗がりの中、玄関脇の台所で冷蔵庫の扉を開けた。

 

 1LDKの狭い部屋だ。

 

 ベッドからせいぜい三~四歩の距離。

 

 冷蔵庫の中の照明が一瞬部屋を満たし、それは再び月光に取って代わった。

 

 戻ってきた木越の手にはペットボトル入りのお茶。

 

「飲めよ」

 

 そういえば口の中がひどく乾いている。

 

 手渡されたそれを、雄介は上半身を起こして、ゴクゴクと喉を鳴らして飲み干した。

 

 夢にしては爽快な喉越しだ。その潤いが、雄介の意識を覚醒させた。空になったペットボトルを口から放し、膝元に置く。

 

 自分の腰に、ベルトが巻かれっ放しになっていることに気づいた。

 

 自分の身体を確認する。

 

 あの異形・月紅の姿ではない。

 

「それだけ、体力を消耗していたんだ。変身体を維持できないくらいにな……」

 

 と、傍らの木越。

 

 雄介はベルトのバックルの水晶に手をかざした。掌の下、水晶がぼんやりと淡い輝きを発する。雄介は気づいた。

 

 失ってはならないものを、失っていた。

 

「木越……説明してくれ……」

 

 振り絞った言葉は、かすれ声になってしまい、いっそ夢であれと念じていた。

 

 だが、これが現実だともう気づいている。

 

「東山で怪人に襲撃されたことは覚えているよな? ……その後、あいつが――日紅が――姿を現した」

 

「そして、俺は……負けた!」

 

「俺も重傷を負った。もう駄目だって、絶体絶命の瞬間のことだった。突然、お前のベルトが耀き出して、レーザーのような光が日紅を吹っ飛ばした。……その時、俺は聞いたんだ。美織がレッドホッパーを呼ぶ声をな。レッドホッパーに跨り、俺たちは何とか逃げ出したよ」

 

「……彼女は!?」

 

「俺にも、美織の影は見えねえよ……なぁ雄介、本当にそこに居ないのか?」

 

 逆に木越から聞いてきた。

 

 その目には、すがるような表情が浮かんでいた。

 

「居ない…どこにも居ないんだっ!」

 

 その叫びを発した後、部屋には静寂が満ちた。

 

 今ほど、この静寂を恐ろしいと感じたことは無かった。

 

 美織と出逢って二ヶ月。いつも、どんなときも、彼女の存在を肌身に感じていたのに……

 

 …その不在が、心に形容しがたいまでの喪失感をもたらしていた。

 

(――忘れても良いから……)

 

 夢の中、美織が見せた笑顔。

 

 なぜ、あんな夢を見た?

 

 あれが俺の心が生んだ夢ならば、どうして忘れようとしたのだ?

 

 もし美織の心が見せた夢ならば、どうして忘れさせようとした?

 

「美織は、もしかしたら――」

 

 と、木越がふと呟いた。

 

「木越、美織がもしかしたら何だって言うんだ?」

 

「ベルトから発した光は、日紅のベルトの水晶に差し込んだんだ。あの光がもし、美織そのものだとしたら……」

 

「彼女は、“太陽の石”に居る!?」

 

 一つの可能性だ、しかし他にすがるものは無い。

 

 そのとき、窓の外、赤茶けた夜空をいくつかの影がひらめいた。

 

「っ!?」

 

「蝙蝠!?」

 

 いつぞやの怪人“蝙蝠”ではない。

 

 ごく普通の掌ほどの蝙蝠が二~三匹、夜空を飛び交っていた。

 

 そのうちの一匹が窓の外の軒下にぶら下がる。

 

 と、蝙蝠は逆さの状態でその羽を広げて見せたかと思うと、その影から漆黒の何かがドロリと下へたれ落ちた。

 

「これはっ」

 

 それは窓の外で数秒もぞもぞと蠢いていたが、やがてすぐに二本の足ですっくと立ち上がって見せた。

 

 真っ黒人間。

 

 “翳(かげ)”と呼ばれ、怪人たちに使役される存在。

 

「日紅様よりお言葉を伝える」

 

 翳は輪郭をザワワと揺らめかせながら、陰々とした声を発した。

 

「少女の魂は我が手にあり。欲しくば“月の石”を持って我が元へ来い」

 

 翳の役目は伝言だけなのか、それ以上なにも言おうとせず窓の外に立ち続けている。

 

 雄介と木越は互いに視線を交わす。

 

 可能性が確信に変わった。

 

「場所は?」

 

「一乗寺下がり松」

 

 それだけ言うと、翳はスウと融けるように消えてしまった。

 

「木越、お前は――」

 

「ついていくぞ。一人で行くなんていうな」

 

「足手まといだ」

 

 そういった瞬間、木越の拳が雄介の顔面めがけ放たれた。

 

 だが雄介はやすやすとそれを受け止めた。

 

「雄介っ、こいつは取引なんかじゃない。罠だ。いいや、罠ですら無え!」

 

「そんなこと判ってるさ。だから、お前を連れて行くわけにはいかない」

 

「勝ち目があると思っているのか」

 

「……美織ちゃんを頼むよ。必ず救け出すからさ」

 

 雄介の手が緩み、掴んでいた木越の拳を放した。

 

――雄介は頬を力いっぱい殴られた。

 

「ふざけんなっ、命と引き換えにするつもりか!?」

 

「……そうしなきゃ救けられない」

 

「命をかけたヒーロー気取りかよ」

 

「そうだ。俺は、彼女にとってのヒーローでありたい」

 

 殴られた頬を自分の拳で拭った。

 

 唇が切れたか、手の甲に血がついている。

 

「俺は……仮面ライダー月紅だ」

 

 異形の都市伝説の名を背負うこと。

 

 それは、自分自身への覚悟の表れだった。

 

 命を賭す、その決意。

 

 しかし、

 

「認めねえ」

 

 木越はまっすぐ雄介に指を突きつけそう言った。

 

「木越、俺は――」

 

「勝手に死のうって奴を仮面ライダーだなんて、俺は認めねえ。何より、お前が死んだら美織が哀しむ。………あいつの泣き顔なんか、金輪際見たく無いっ。……俺だって、あいつのヒーローでありたいんだ。だから、俺も行く。頼む、行かせてくれっ!」

 

 木越の奴、身勝手なことばっかり言いやがって。

 

 行けば自分以上に危険な目にあうのは間違いない。

 

 それでも、

 

「木越…お前は馬鹿だ」

 

 雄介は、木越へ手を差し伸ばしていた。

 

「雄介…そいつはお互い様だ。この大馬鹿野郎」

 

 二人の手が、がっしりと握りあわされた。

 

 

 

 

 

 




次回予告

 少女は祈る。来ないでくれと。私を見捨てて、平穏な世界で生きてくれと。
 そんな少女の想いを、異形が嘲笑う。
 青年たちは疾る。ただ、彼女のためだけのヒーローであるために。

第4話「仮面ライダー月紅」

 ここは一条寺下がり松。
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