仮面ライダー月紅   作:PlusⅨ

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 プロット、ストーリーに、平成五年に上映された映画「仮面ライダーZO」をモデルとしております。
 とりわけ、映画版ではなく同時展開された漫画版「仮面ライダーZO(作・島本和彦)」から強い影響を受けています。
 そのため、展開や描写等に非常に似通った部分が多々ありますが、ライダー愛深き故のリスペクトですので、パクリとか言わんで下さい(^_^;)
 お楽しみいただけたなら、幸いです。


第2部・仮面ライダーJo
第1話・勝手に決めるな!


「送るよ」

 

 辰巳(たつみ)丈介はそう言って、愛車の鍵を彼女に掲げて見せた。そこに繭玉人形のキーホルダーが揺れている。

 

「それじゃあ、お願いしようかしら」

 

 夏目優子はそう言って、デスクの上の荷物をまとめ、それから羽織っていた白衣を脱ぎ捨てた。

 

「研究論文、はかどってないみたいだな」

 

「研究室にこもってばかりにも行かないからね。そんなことより、自分はどうなの」

 

「うちの研究室は仕事をためないことで有名でな」

 

「たまるほどの仕事も無いんじゃないの」

 

「そうとも言うな」

 

 大学の研究室の中、書籍に半ば埋もれる様にして卓上時計が午後七時を告げた。

 

 窓の外、春の景色はもう夜だ。

 

 大学の駐車場に停めてあるホンダ750に跨り、エンジンをかける。優子もタンデムシートに跨った。

 

「保育園までどれくらいかかりそう?」

 

「安全運転で二十分ってところだな。とばすか? 待ってるんだろう、博之君が」

 

「安全運転でお願いします。事故を起こしたりしてあの子から母親を奪わないで」

 

「ふふん、だったらあまりしがみつくなよ。理性がとんでどうなっても知らんぞ」

 

「………」

 

 優子がピッタリと身体を密着させてきた。その腕を丈介の首に廻す。

 

「ぐぇええ!」

 

「どう、理性がとんじゃう?」

 

「理性どころか意識までとぶわ!」

 

 大学は銀澤市街から五キロほど離れた山間部の中腹にあり、町に出るまで多少の峠道を超えなければならない。深夜近くともなると走り屋達が大挙して押し寄せるスポットでもある。

 

 優子も自家用車を持っているが、仕事柄残業も多く、夜遅くにこの道を通らなければならないことも多い。そんな時、走り屋が暴走する現場に居合わせることも多かった。

 

 そんな彼女を送り届けてあげようと紳士的に――下心満点で――申し出たのが一年前のこと。

 

 一ヶ月ほどはけんもほろろにあしらわれ、いつの間にか下心が本気の恋に変わったと自覚し始めた二ヶ月目に、ようやく彼女をタンデムシートに載せることに成功した。

 

 優子がシングルマザーと知ったのもこの頃だ。

 

「もうすぐ博之君の誕生日だったよな」

 

「あら、憶えていてくれたの」

 

「君を初めて送った日だ。あのときも君は残業していて、辛そうな顔して電話をかけていた」

 

「母からかかってきたのよ。幼子を押し付けて仕事にのめり込むバカ娘って怒られたわ。ふふっ、あの時のアナタの運転たら酷いものだったわよね。走り屋の間では今でも伝説になっているらしいわよ?」

 

「今夜も伝説を創るか。愛しいわが子に早く会いたいだろう」

 

「あの時、正直言って二度とバイクになんか乗りたくないって思ったんだけど」

 

「安全運転で行かさせていただきます……今年で三歳だったか」

 

「うん、あちこち走り回ってやんちゃな時期よ」

 

「俺のこと覚えているかな?」

 

「どうかしらね。時々遊んでくれる変なオジサンぐらいには思ってるかも」

 

「おいおい」

 

 峠に入り、森に囲まれた道を走り抜ける。他に車は無く、ナナハンのエンジン音だけが響き渡る。空に、満月が浮かんでいた。

 

 キラリ、と優子の指で指輪が煌いた。一週間前に丈介が贈ったものだ。同じ指輪が丈介の指にも光る。

 

 式は六月に挙げるつもりだった。

 

 だった。

 

 過去形。

 

 もう過ぎたこと。

 

 二度と戻れない、過去。

 

 丈介が目覚めたとき、すでに四年の月日が経過していた。

 

 

 

 

 

 

 

 始めは対向車だと思っていた。ハイビームにしているのか、強力な光芒が差し込んでいた。

 

(迷惑なヤロウだ)

 

 こちらの姿は確認しているだろうに、対向車はライトを通常に切り替えるそぶりを見せない。視界を奪われそうになり、やむなく速度を落とした。

 

 と、光芒が更に近づいてくる。それも真正面から。

 

(バカヤロウ!!)

 

 思わず叫んでいた。ハンドルを切る。まるで追いかけるように光芒が迫ってきた。

 

 衝突。

 

 全てが暗闇に包まれた。

 

 不思議なことに痛みも何も感じなかった。

 

(死んだのか)

 

 こういう感じなのか。ずいぶんと呆気ない。

 

(っ!? 優子!!)

 

 慌てて辺りを見回す。だが全てが暗闇で何も見えない。

 

(優子! 優子ぉぉッ!?)

 

 見渡す、身体を動かそうとする。身体の感覚はあった。しかし、なにかに拘束されているかのように動けない。

 

――落ち着きなさい。

 

 突然、耳元で声がした。いや、耳元どころか頭の中に直接響き渡るような声だ。頭がガンガンする。

 

(誰だ!)

 

――あなたは選ばれたのです。

 

(だから誰だ!?)

 

――いいですか、あなたは死んでいません。死なれては困るのです。

 

(誰だって聞いてるだろうが!?)

 

――これから、この世界に恐ろしい厄災が降りかかるでしょう。それを食い止めることが出来るのはあなたしかいません。

 

 駄目だ。まるでこちらの意思が伝わらない。向こうの意思が一方的に伝わってくるだけだ。

 

――あなたに力を与えます。その力でこの世界を守ってください。

 

 暗闇の中、一条の光が丈介に降り注いだ。その光は丈介の腹部に差し込む。

 

(!!!!!!!!!!!!!!??????)

 

 腹の中の臓物をぐちゃぐちゃに引っ掻き回されているようだ。全身の筋肉がよじれ、引き千切られそうになる。

 

 一体何なのだ。

 

 これは一体何なのだ?

 

――全ては、あの子の為に……仕方ないのよ……

 

 丈介は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――おきて

 

 声がする。

 

――おきて

 

 嫌だね。眠い。

 

――おきて

 

 せめて後五分。

 

――おきて

 

 あぁもうしつこい。五分だって言ってるだろうが。

 

――おきて

 

 ええい、クソ。

 

――おきて

 

 やかましぃっ。

 

――おきて

 

 判ったよ。

 

――おきて

 

 起きるさ。起きてやるよ。

 

――おきて

 

 起きるつーとろーがぁっ。

 

――おきて

 

「うるせええええええっ!!」

 

 丈介の叫び声が森の中に響き渡り、動物が驚いたか、森の中がざわついた。

 

「森…だと?」

 

 森だった。

 

 見渡す限りに木々が生い茂っている。時間は夕方か、森の中をオレンジ色の日差しが斜めに差し込んで、森の中に明暗を生み出していた。

 

 何故、こんなところにいるのだろう。ここは一体何処なのだろう。丈介は自分の立っている場所を見下ろした。

 

 丈介はそこに、生えていた。

 

「なにいぃぃぃっ!?」

 

 大地にしっかりと根を降ろし、頑丈な幹が聳え立ち、青々とした新緑の青葉を枝に茂らせている。

 

「こ、こ、これ……これは?」

 

 いや、よく見てみると、ちゃんと自分の足はある。手もある。身体がある。首がある。丈介は巨大な古木の幹の中、まるで押し抱かれるように埋め込まれていた。

 

「信じられねえ」

 

 一体何がどうしてこうなっているのか。不可解な現象だというのは確かだ。もしかしたら夢なのだろうか。

 

 きっとそうだ。

 

 そうと判ってしまえば急に気分が落ち着いてきた。周囲を眺める余裕も生まれてくる。

 

 太陽の傾き、森の様子から判断するに、初夏の季節といったところか。六月ぐらいかもしれない。梅雨に入る前の一時の晴れ間。これだけ夕暮れが綺麗に見えるのだから、明日もきっと晴れだろう………眠い。

 

 古木に抱かれているという感覚は、思ったより良いものだった。不思議と安心感がある。それは何だか母親の胸に抱かれているような感覚で、そういえば最近、実家に帰ってないなぁ、なんて思いが頭を過ぎる。こんな夢を見るのもそれを気にかけてのことだろうか。そんな風に冷静に考えてみる………本当に眠い。

 

――目覚めなさい!

 

 またあの声だ。頭の中でがんがんと響きやがる。二日酔いか。

 

――エネルギー不足なの? ……あの木が邪魔をしているのね。

 

 やかましいな、耳元でぶつぶつ言いやがって。

 

――木を破壊しなければ、彼は起動しないわけね。仕方ないわ。

 

 木を破壊するだと? よせ、こいつは最高のベッドだ。きっと母性の象徴なんだぜ。フロイト風に解釈するなよ、あれだと変態にされちまう。

 

 薄目を開けた丈介の視界に森の景色が広がる。何だか様子がおかしい。森が暗い。もう日没か。湿っぽい風が鼻腔を擽った。

 

「雨? ……あの夕焼けでかよ」

 

 いい加減な夢だ。いや、夢だからいい加減なのか。

 

 雨が降り出した。滝のような土砂降りだった。

 

 稲妻が光る。雷鳴が轟く。

 

 とてつもない衝撃が全身を貫いた。巨大なハンマーで身体の中から脳天ぶっ叩かれたような感触とともに、丈介の身体が宙を舞う。

 

 地面に投げ出されたとき、丈介の視界いっぱいに赤々と燃え上がる巨大な木の姿があった。頂点から根元まで引き裂かれたように真っ二つになりながら激しく燃え上がっている。

 

 雷に打たれたのだ。あれは自分を抱いていた古木だ。

 

――よかった。起動したのね。

 

「雷を落としたのは手前ぇかぁっ!?」

 

 土砂降りの雨の中、声の主を探す。古木の炎に照らされた森の中、しかし、誰の人影も無い。

 

――脳波が激しく乱れている? 落ち着いて、あなたを解放しただけよ。

 

 目の前で古木の幹がめきめきと音を立てて崩れ落ちた。何故だろう、無性に悲しかった。

 

 雨に打たれ、炎の熱にあぶられ、丈介の思考が明確化し始める。どうやら俺は夢を見ているわけではなさそうだ。

 

 そう、雷に打たれたのも現実だというわけだ。

 

 自分の身体を抱きすくめてみる。妙な感触だった。全身に力が漲っているようだ。

 

――エネルギー補給も上手くいったようね。

 

 脳に響く“声”。人の話をまったく聞かないこの態度。こいつは、覚えがある。

 

「手前ぇ……俺の身体に何をした」

 

 丈介の目の前に、水溜りが出来ていた。古木の火がそこに写る像を照らし上げる。

 

 そこに異形が居た。

 

 爛々と輝く紅く巨大な瞳。

 

 二本の触角の伸びるその顔はまるで飛蝗だ。

 

 全身の筋肉は隆々と盛り上がり、その体色は深き緑色。

 

 丈介が己の顔に手を伸ばすと、水溜りの中の異形も同じように顔に手を伸ばした。

 

――私の次元の科学力を持てる限り投入したわ。このスペックならあの子を押さえることができるかも知れない。

 

「何をしたって訊いているんだぁあっ!?」

 

――あなたのボディを戦闘用に改造しただけよ。大丈夫、基本ソフトまで手をつけていないわ。その証拠にあなたの自我が保たれてるでしょう。だから落ち着いて。

 

 丈介の記憶が一気に再生された。

 

 次元の狭間の中、身体をバラバラにされ、組み替えられていく。

 パワーソースは腹部に埋め込まれたサイコクリスタル。

 骨格は素材のものを強化し、筋肉は一度切り離した後、外部刺激とコンドリアエル培養液により強制進化させた後装着。

 強化筋肉に従い人工心肺機能を増設。

 血液中にナノマシンを投入することにより循環機能、治癒能力もアップ。

 神経伝達は脳内に組み込んだバイオチップが脳内ホルモンを大量分泌することにより、神経回路を段階的に発達。しかし、脳機能に重大な損傷を与える恐れがあるので、脳改造は限定的なものに留める。故に戦闘モードを維持できる時間は限定的なものとならざるを得ない。次回の研究に対する課題である。

 

 何だこれは、俺の記憶じゃない。

 

 次元航行理論により、この改造手術は到着予定よりかなり早いものとなった。

 私たちがこの次元に到達するのは――後である。

 

 丈介の記憶が一部変化する。

 

 到着するのは四年後である。

 その間のエネルギーロスと万が一の事態を考え、この改造体を待機状態のまま現地に隠蔽。

 …想定外だ。

 改造体に組み込んだサイコクリスタルの影響で、周囲の植生が異常成長。改造体を取り込んでしまった。

 植物の成長を見るに改造体からかなりのエネルギー供給を受けていると思われる。場合によっては植物側から別のエネルギーが流れ込んでいるかもしれない。改造体への影響が懸念される。

 改造体の自立起動は失敗。外部から強制的にエネルギーを送り込む。

 成功。

 

 丈介の脳裏に悲鳴のような声が届いた。同時に落雷に引き裂かれる古木のイメージ。いや、あの木は四年程度の若い木だったのか。改造体の起動を確認…

 

「もういい」

 

 丈介は頭を振って立ち上がった。振り払われるように、丈介の頭から一匹の蝶が離れた。

 

「そうか、あんたの記憶か。異次元から来た科学者様って訳だ」

 

 蝶じゃなかった。小さな人指し指くらいの背丈の少女だった。その背から蝶の羽が広がっている。その全身がぼんやりと光っていた。

 

――ようやく判ってくれたようね。もう時間が無いから、手短に使命を伝えるわ。もうすぐ、次元を超えて究極の厄災がやってくるわ。あなたと同じ改造体よ。あの子を止めて。

 

「失せろ」

 

――えっ?

 

「失せろっ!」

 

 丈介は蝶めがけ拳を振るった。短い悲鳴を上げながら蝶は慌てて飛び去っていった。

 

 木を燃やす炎が土砂降りの雨の中、ぶすぶすと音を上げながら消えかかっている。

 

 あの蝶はこの雨の中でも水に濡れていなかった。実体じゃないのだろう。精神だけを飛ばす一種のテレパシーだ。さっき強制的に見せられた記憶のせいか、その理論まで今なら説明できそうな気がする。

 

 こいつを発表すりゃノーベル賞だって夢じゃねえ、まったく大したものだバカヤロウ。

 

「バッカヤロォォォ」

 

 丈介は吼えた。

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