不信。不誠実。不和。不義理。純粋なだけで、気持ちが悪い。ここは気持ちが悪い妖精たちが住まう異なる世界。そんな『可哀想な妖精たち』を恐怖で支配する女王の国。
くるりくるりの手のひら返し。邪魔になったら恩義をぽい。使えないごみは捨てましょう、斬って砕いて突き刺して、はぁいそれではさようなら。
ありがとう!ありがとう!やくにたってくれてありがとう、きずついてくれてありがとう!きみのおかげさ、ありがとう!でももうきみは、つかえない!
それにしたってきたないなぁ。それじゃあごみだ、きえちゃえよ!きたない、きたない!ふれたくない!さわればぼくらがよごれちゃう!やくたたずだし、もういらない!
こわいよ、こわいよ!ばけものごろしのえいゆうだ!いつかぼくらにもやりをむけるぞ!ぼくらはむりょくでかわいそう!ただのきのいいようせいなのに!こわいきゅうせいしゅなんていらないや!
そうだ、あいつのじゃましちゃおう!にんげんのうーさーでうさばらしだ!
「や、めろ……――――」
妖精どもの身勝手な怨嗟の声が聞こえる/分かっていた。私の心に奴らの理不尽は届かない/昔からお前たちは何も変わらない。
「やめろ、やめ……ろ……――――」
妖精たちが、剣を振るって私を突き刺す。片手が取れた/肺が貫かれる。だが、それがどうした。やらねばならないことがある。だから止めろ、邪魔をするな。
「わたし、は…このくに、を」
そうだ、私はこの国を……――――ブリテンを。私の国を守るのだ。汎人類史では手に入れられなかった、私の世界。私の居場所。
「わたしを――――玉座に――――」
目に刃が突き刺さった/脚の筋を斬られた。だが、まだ動く。大嫌いな芋虫のように、地べたを這い蹲ってでも、あの場所へ向かわなければ……――――。
「ブリテン、を――――わたしの、わたし以外の……――――」
あの孔の底には、ブリテンを壊す呪いが…、私がこの異聞帯に呼び出された理由が――――。妖精どもの罪の負債が、まだ残っている、それから、お前たち妖精どもを守って来たのは、私だ――――マヴでも、予言の子でも、ない――――わた、し、が。お前らなぞ守っていない、ただお前らを支配していれば国として成り立っていた、だから許されないお前らに自由を許した。
「だれが、このくにをまもると――――」
守りたかった。守らなければならなかった。だってお前だけが、私に感謝してくれた。私と同じように妖精たちに使い潰され、それでもお前は…――――。お前は、お前は――――。
「ばー…ヴぁん、しー……」
――――どうして、私はいつも、こうなのだ…。
ぐさり。ざくり。ぷつん。こときれた。
こうして、国を恐怖で支配した悪い魔女と、残酷で恐ろしいその娘は死にました。妖精たちは喜びました。めでたしめでたし。そして知っての通り、妖精たちはおしまいです。
ざまぁみろ。まぁ、傍観者としてはどっちでもいいけどね。
「あ……――――、うぁ…」
ズタズタに裂かれ、欠損した身体中からとめどなく赤い血が流れる。腕や肢が千切れているのに関わらず、どうして生きているのかなど分からない。ただひとえに人よりも頑丈な種族だったからなのか。己が意思(はたまた意地?)を貫き通す彼女の心の強固さ故か。
異聞世界ブリテンの支配者『モルガン・ル・フェ』は“薄暗い洞穴”の中で目を醒ました。開く目は片方しかないが、水色の妖精眼は周囲の静謐を映している。
(ここは、どこだ…?いや、なぜわたしは……――――生きている…?)
――――人の理は、そして人類の歴史は、彼女の夢を断じて許さなかった。苦い結末、築いたもの全てを壊される絶望。どちらの世界であってもモルガンの泡沫の夢は、それらと共に流れていく。
――――それでも魔女の願いは変わらない。『我が手にブリテンという美しい国を』。だが、この人理の軛より外れた異世界に、そんな国は存在しない。
そして、それゆえに。人の理そのものが彼女を女王にしなかったというのならば。この人理が存在しない異なる世界には、彼女が“授かった王位を退く理由”もまた存在しないのだ。
(どうなっているかを調べようにも、動けない…。妖精どもに斬られた個所を治しているが…、魔術が、使えないというのか?…ッ!)
「がっ…は、あ…!」
血を吐きだした途端、急激にモルガンの身体を蝕む苦痛と倦怠感。明らかに不味い状況だった。
(…、いまは、この状況を打開、しなければ…!初級魔術でも何でもいい…、わたしの体内の回路、オドとマナをこの状況でも使用できるよう再調整を……――――!)
だが、手詰まりという他無かった。時間をかけても
(…こんな、ところで…!)
「…、――――ぃ。おい!大丈夫か⁉」
(……――――な、に?だ、れだ…?)
薄れゆく意識の中で、モルガンは誰かの声を聞いた。妖精眼に映ったそれは、心からの心配と助けなければという焦りに満ちており、彼女が永い間感じる事の無かった『嘘のない正しい感情』だった。
彼女が視線を動かせば、その先にいたのは一匹の――――小さなスライムだった。
「っ、は……!」
「おーう、起きたー?」
気を取り直したモルガンの目には、洞窟の天井で発光する鉱物が映っている。声の主を探すと、首を動かした隣にゲル状の生命体が控えていた。
「…、聞きましょう面妖な生き物。ここはどこですか。わたしはブリテンのキャメロットにいたはずですが…」
ゆっくりと体を起こすモルガン。
「…ん?ブリテン?『イギリス』のことか?…ってことは、貴女もこの世界に来たわけか!」
「……『汎人類史』で言えばそうです。成程あなたのその口振り、どうやらここは歴史さえ異なる別世界ということか…」
口に手を当て思考を巡らせ、粘液生命体を一瞥するモルガン。青い妖精の瞳が、そのスライムの本質を見抜いていた。
「『視た』ところ、あなたは地球からやって来たチェンジリング――――それに準じた魂の漂着が起きた者のようですね」
「…理解ちょう速くね?」
「これでも人より長く生きて、様々な体験をしてきましたから。ですが、異世界に生まれ変わり、そんな体となったとは……わたしも初耳です」
「ところで、わたしの身体を治したのもあなたですね。何をしたのです」
キャメロットの王城で切断された身体の隅々が、五体満足の状態に戻っていた。彼女は試すように手を握ったり、開いたり。彼女は万全な状態を確認すると、フェイスベールを持ち上げた。
(おぉ、美人さんだぁ……)
スライムがそう思うのも無理はない。傾国の美女ともいえるその美貌は、暗がりであっても――――いいや、むしろ昏き中でこそ際立つものがある。
妖精たちにめった刺しされた体の痛みは引いている。しかし、美麗な黒と水色のローブドレスはボロボロのまま。穴だらけの服にきめ細かな白い肌がアンバランスに露出しているのは、なんというか実に背徳的だった(のちスライムは語る)。
「あ、これ、ヒポクテ草っていうんだけどさ、これを使ってポーションを作ったんだ!いやぁ、成功して良かったよ!」
「そうですか。……大儀でした。わたしもあなたに相応の恩賞を下賜すべきですが、何分いまは手持ちがありません。いつもであれば魔術で宝石やリソースを生成するのですが……それもかないませんね」
「……『いつも』?『魔術』?ちょ…、ちょっと待って!」
「なんですか、面妖な生物」
ぷるぷると身振りで驚愕を伝えているスライム。一々何を驚いているのか、モルガンには分からなかった。
「えーっと、つまりアンタは…」
「ブリテンの女王に『アンタ』とは不敬ですよ、面妖な生物。わたしの名は『モルガン・ル・フェ』。女王陛下と……――――いえ、もはやわたしに民も国もありませんか……――――、ならば特別に気安く呼ぶことを許可します。有難く思いなさい」
彼女の傲岸不遜だが丁寧な物言いにスライムはシュンとした。『本当に女王様気質な人っているんだ』と気圧された、ともいう。一方のモルガンも気まぐれなのか、はたまた枯れ果てた先の自棄なのか。必要最低限の質問には答えるつもりだった。
「…あ、はい。じゃあモルガンさん。地球を知ってるってことは異世界転移してこっち来たってことであってる?で、地球にいた時は魔法使いだった、と?」
「『魔法使い』ですか。――――まぁ、今はこの世界でわたしの魔術を使えないようですが。えぇ、あなた方が空想する大概なことはできましたよ、面妖な生物」
「……もしかしてだけど、俺のいた地球と別っぽいよなぁ。魔法使いがいる地球もあったりするんだ…、やばいなファンタジー」
一人うんうんと納得するスライムは、はっと気が付いたようにエクスクラメーションマークを頭に出現させ(ご丁寧にスライムボディで形成)、モルガンの方へ居住まいを正した。正確に言えば、そういうふうに見えた。
「おっと、俺の自己紹介してなかった。俺は三上悟、今は『リムル=テンペスト』。面妖な生物じゃなくてスライムだ。僕悪いスライムじゃないよ!」
「えぇ、あなたに『悪意がない』のは承知しています(……カルデアのマスターと同じ日本人でしたか)」
「……や、そういうことじゃないんだけど。ま、しょうがないか…」
そして、モルガンはその奇妙なスライム『リムル』と会話を交わすことになる。この世界には魔素と呼ばれるエネルギーがあること。どうして死に際にタイミングよく対処ができたのかは、保有するスキルに反応があったということ、声帯がないであろう体のどこから声が出ているのか……などなど。多くの疑問が解決し、貴重な情報を入手でき、モルガンはもう十分だろうと立ち上がる。どういうわけか手元にあった黒い槍杖を持ち上げた。
「……ではわたしはここで」
「おーい、どこ行くんだー?」
「決まっています。ここが異なる世界であろうと、わたしがすることは変わらない……。そう、変わりはしない……」
言い聞かせるようにモルガンの口が動くと同時、彼女の瞳が曇った。絶望か、失望か、はたまた儚い希望の兆しか。ほんの少しの変化だったが、リムルが首を捻るには十分だった。
「やーでもここさ、意外と物騒だよ?」
「それがどうしてわたしと行動を共にする理由に繋が、ひゃあッ⁉」
「『水刃!』」
……ここで起きた数秒の出来事を書き表すとこうだ。顔をリムルの方へ向け踵を返したモルガンだったが、その前方に蠢く気配があった。ハタと気づくのはリムルもモルガンもほぼ同時。だが、自ら近づいているモルガンには対処のしようがない。
モルガンの目の前には、一体の『巨大な毛虫』が口を開いて待っていた。ぱっくり縦に裂けた昆虫の顎は、なお悪いことに丁度彼女の顔の辺りだった。
ちなみに(ご存知かと思うが)モルガン女王陛下は、芋虫がとっても苦手である。
引き攣りを通り越してもはや無表情となった彼女の顔、その横に水でできた高圧切断刃が飛来したのは、0.2秒もかからなかった。
「ま、まさか気配感知を掻い潜る魔物がいるなんてなー、はは?」
「……」
モルガンは一切喋らない。凍ったように硬直したまま、どこを見るでもなく死んだ目をしていた。目の前には緑の臓物をブチまけて、今なおぴゅうぴゅう噴水のように体液を吹き出している、気持ち悪い死体が転がっている。
「……そのー、一緒に行こうぜ、な?」
「…………わかりました。それと今のことを掘り返したら殺します、誰かに言いふらしたのなら殺します、良いですね?」
「お、おう…」
……そんなわけで、十数日に渡るスライムと妖精女王の珍道中の幕が開けた。
一方その頃。洞窟から程近い簡素な集落の傍らで……――――。
「『ロブさん』、『ワグさん』!その『予言の子』ってどうなったんすか⁉」
「おうおう焦んじゃねーよ、まだ話の途中だろうが。そうだなぁ、じゃあ今日は俺達がグロスターを通り過ぎた平原に立ち寄った時のことを話すとするか!」
続くかどうかは不明。
名前:モルガン・ル・フェ
種族:
加護:湖の加護、最果ての光、?????
称号:
髪:灰銀 瞳:水色 肌:白
魔法:なし(独自魔術)
技能:異聞スキル…『狂化』『対魔力』『道具作成』『陣地作成』『妖精眼』『渇望のカリスマ』『アヴァロンの妖精』『最果てより』
耐性:(異聞スキルに統合)
宝具:『
備考:間違えた歴史を辿ったとして剪定されたイギリス異聞帯にて、滅びるはずのブリテンを維持し2000年もの間『妖精國』に君臨した女王。しかしその最期は誰にも報われず、誰よりも助けたかった愛娘の目の前で惨殺されるというものだった。