至高の一打   作:もぐもぐファンタ爺

115 / 148
青道 スターティングオーダー

1 西影次 ショート (右)
2 柳 レフト (左)
3 栃谷 ファースト (右)
4 東 サード (右)
5 西晴之 セカンド (左)
6 神田 センター (左)
7 玉森 ライト (右)
8 真木 ピッチャー (右)
9 藤谷 キャッチャー (右)


最初の夏と最後の夏
王者の戦い


照りつける太陽の光、観客の視線が突き刺さってくる。おそらく、テレビでも自分が見られていることを自覚し、軽く1スイングして、バットを構え、相手ピッチャーを見据える。すると、アナウンスが聞こえる。

 

「お待たせいたしました‥‥第2試合‥‥まもなく開始でございます」

 

独特なサイレンの音が鳴り響く。相手ピッチャーが勢いづくために投げてきた、インコースのストレートを、その場で回転するように打ち払う。

 

 

 

カキィン!

 

 

 

大きい金属音が耳に届き、一瞬顔をしかめるが、全力で1塁へ走る。サイレンが鳴り終わり、一瞬すべての音が途切れる。何事かと周りを確認しようとすると、

 

 

 

「うわぁぁぁぁ!」

 

 

 

球場全体が歓声に包まれる。1塁コーチャーをしている道川さんに

 

「ナイスホームラン!ベース踏み忘れるなよ!」

 

と言われ、ようやく自分がホームランを打ったことに気がつく。なるべく平静を装いながら、ベースを1つずつ丁寧に踏んでいく。ホームでは笑顔の柳さんが待ち構えていた。

 

「甲子園デビューがホームランとか、やっぱ兄弟やんなぁ」

 

ハイタッチをして、ベンチに戻ると

 

「お前かますなー!」

「思いきりのいいバッティングだった!」

 

頭と背中をべしべしと叩かれる。めっちゃ痛い。

 

 

キィン!

 

 

鋭い打球が右中間を突き破る。柳さんはボールの行方を確認せず、1塁コーチャー 道川さんの指示を信じて、2塁まで駆け抜けた。

 

「おぉぉぉ!ナイバッチー!」

「もっと点とってけー!」

「なんで不用意にインコースを攻めるかなぁ!俺だったらよぉ!アウトコースでピシッとよぉ!決めたるぜぇ!」

 

知らないおじさん達の様々な声が、スタンドから聞こえる。西東京都大会では、少なくとも地元の人しかいなかったから、選手を否定するような言葉は少なかったが、全体から見れば少ないものの、ヤジが目立つ。

 

「色んな人が見に来ているからな。あそこではビールを飲んでるおっさんもいる。嫌な言葉が聞こえてきても無視すればいい」

 

そう兄貴に言われて、それもそうかと思う。とりあえず、そんな声は無視して試合に集中する。

 

「3番 ファースト 栃谷くん」

 

ノーアウト2塁の場面で、ヒッティングマーチのSee Offが流れ始める。栃谷さんの普段、少しいい加減そうな雰囲気が消え、相手打者を食い殺さんばかりの威圧が、相手ピッチャーを襲う。哲さんのここぞというときの集中力もそうだけど、栃谷さんはそれ以上に感じる。

 

 

キィン!

 

 

コンパクトに確実性を重視したスイングが、相手ピッチャーの決め球 スライダーを捉え、センター前へ飛んで行く。2塁ランナーの柳さんは、3塁を蹴ってホームに突っ込んでくる。外野からの送球がそれを追いかけるように、キャッチャーの元へ向かってくる。

 

「セーフ!」

「ボール2つ!」

 

キャッチャーが2塁へ投げようとするが、すでに栃谷さんは2塁に到達していた。初回から果敢に相手ピッチャーを攻める青道を、後押しするように球場の歓声が響く。

 

「4番 サード 東くん」

 

更なるチャンスを盛り上げるように、ヒッティングマーチのアゲアゲホイホイを、青道側スタンドから吹奏楽部が、汗を流しながら演奏する。地鳴りがなるような応援に、相手ピッチャーは更に飲まれていく。

 

ピッチャーは落ち着くために牽制を挟み、初球、ボール球を投げるが、東さんの集中力は増していき、雰囲気に落ち着けないまま

 

「ボール!フォアボール!」

 

東さんが四球でノーアウト1,2塁になる。次の打者は

 

「5番 セカンド 西 晴之くん」

 

ピシッと雰囲気が変わる。味方には絶対に点が入ると思わせる、安心感を与える兄貴の佇まい、ルーティーンは、相手にとっては絶望を与える準備運動に思えるだろう。表情は変わらないが、ピッチャーとの対戦を楽しみにしているのが自分には分かる。その初球

 

 

 

ドゴォ!

 

 

 

バックスクリーンに突き刺さるボールを見届け、グラウンドに目を戻すと、ゆっくりと甲子園の土を踏みしめる兄貴の姿があった。自分の実力を信じて、それに見合った結果を大舞台でも出しきる。勢いに任せてホームランという結果を出した自分とは違う、ある種覚悟の決まった強打者。これこそ自分が3年生になった時に、なっていなければいけない姿。

 

あまりにも高い壁に臆しそうになるが、これくらいの打者にならなければ、青道の主軸を打つにふさわしくはない。ベンチに戻ってきた兄貴とハイタッチをしながら、やっぱりこの人は、別格と言われる青道打線でも、更に別格なのだと再確認させられた。

 

 

 

……

 

 

 

初戦を27-0で勝利し、青道ナインは専用バスに乗って、寄宿舎に帰る途中、今日の試合のことを思い出す。6打数4安打1本塁打3打点。甲子園デビューとしては、かなりの好成績だと自分でも思うが、兄貴の2打席連続本塁打を思うと、かなりの差があることがわかる。

 

ほぼ全員の野手が出場し、バスの中で御幸、真木は若干興奮が覚めないような様子であったが、それとは対照的に、自分は秋以降、こういったチームが自分達で作れるかどうかを考え、頭が冴え渡っていた。

 

横にいる兄貴がそれを感じ取ったのか

 

「焦るなよ、チームはじっくり出来上がっていくさ」

 

とボソッとこちらに呟かれるが、その焦りの原因の世代に言われてもなぁ、という思いと、心配してくれてありがとうという思いが半々であった。

 

寄宿舎につくと、早速自主練習場へ行き、集中して素振りをしていく。

 

 

ブォン!

 

 

目を瞑り、更に鋭く、そしてブレがないように、まるで兄貴の鏡写しをしているかのような軌道を想像し、出力していく。

 

「お前と俺は違う」

 

青道に入学してすぐの練習が終わった後に、最初に言われた言葉が思い出されるが、首を振って打ち消す。自身が思う最高の打者、兄貴を思い浮かべ、理想のスイングを辿っていく。

 

カチッと嵌まるスイングがあったが、それは想像したものとは違うもの。修正を加え、加え、加え‥‥更に加え‥‥自分の思う最高の打者へ近づけていく。

 

これだと思って、それを続け、身体に無理矢理染み込ませていく。これなら打てる。そう思って素振りを続ける。

 

「おいっ!おいっ!」

 

そう呼び掛けられて、ハッと気がつくと、辺りは暗くなっていた。

 

「飯の時間に来ねえから心配したぞ、まだあがってなかったのか」

 

苦笑いをする栃谷さんが、横に立っていた。

 

「すみません、つい熱が入ってしまって」

「俺が自主練習し始めるより早くきて、風呂あがってもやってるって、すごい集中してたんだな。飯は残しておいてもらうように言っとくから、早く風呂入ってこい」

 

そう言われて、風呂に入りに行く。風呂、夕食を済まして、部屋に戻ると、栃谷さんと哲さんが将棋をしていた。

 

「何勝何敗ですか?」

「くっ!栃谷さんが強くてな、俺が全敗している」

 

そうでしょうねと思いながら、ペットボトルのお茶を飲んで一息つく。

 

「影次、お前は根を詰めすぎだ。今は甲子園大会中。疲労を残すようなことをするなよ。練習で実力を上げるのは、大会後だと割りきれ。変に疲労を残して結果を出せなくなる方が迷惑だ」

 

そう栃谷さんに強く言われ、心当たりはあるため反省する。そして、正直に

 

「秋以降、相手投手陣を打ち崩せるのかと考えていたら、不安で焦っていました。すいません」

 

と謝った。栃谷さんと哲さんはびっくりしたような顔をしていたが、

 

「そんなことを考えていたのか。確かに、俺も秋以降は不安だが、亮介にクリス、伊佐敷、真木、御幸。そして影次、お前がいるから、じっくりみんなで考えていけばいい。そう思っている」

 

と哲さんは優しい声で答えてくれた。それに続けて栃谷さんは

 

「俺達の代が異常なだけだ、心配すんな。普通は2,3人レギュラー当確かな?ってやつがいて、他をみんなが競い合うんだと思うぜ。今年のチームでベンチ入りできなかった、会田、山崎、石橋、増子、丹波、倉持も他のチームだったらレギュラー格だぜ。そんな心配すんなよ」

 

「それに、次の夏の甲子園まではあと1年ある。それまでお前は成長しないのか?どうなんだ?」

 

そう問い詰められる。

 

「青道の誇れる、誇らしく思われる4番になります!」

 

と力強く栃谷さんに言い返す。すると隣からオーラが沸き上がる。

 

「なるほどな、俺と4番の座をかけて競うか。いいだろう、相手になる」

 

と言われたので

 

「臨むところです。西 晴之の弟として、負けられません!」

 

お互いに向き合う。

 

「「お願いします!」」

 

パチンッ!パチンッ!と将棋の駒を進めていく。

 

「勝った!」

 

と言って俺はガッツポーズをし、

 

「ぐぅ、お前が4番か」

 

と哲さんが四つん這いになる。

 

「次の青道の4番を将棋なんかで決めてん‥‥じゃ‥‥」

 

将棋を貶されたと思った哲さんの、試合中並みの眼光に栃谷さんは怯む。

 

「お願いします!」

「くそ!8回目だろうが!いい加減諦めやがれ!」

 

そう言いながらも律儀に、将棋に付き合う栃谷さんに笑ってしまう。次はお前が相手をしろよという視線を無視して、ふぅっと畳の上に横になる。

 

秋以降の問題が消えたわけではないが、少し心が軽くなったような気がする。明日以降は無理な自主練習はしないことを決め、今日は早く寝ることを決意した。

 

 

 

 

 

 

青道は初戦から全国の強豪を蹴散らし、決勝まで、何の障害もなく駆け上がる、下馬評通りの戦いを繰り広げた。しかし、トーナメントの反対側では、青道首脳陣が決勝の相手になると予想していた西邦は、明石を休養させようとした3回戦で敗退し、準決勝は国士舘と大阪桐生の戦いになっていた。

 

国士舘はここまで、全試合を財前が完投し、勝ち進んだのに対して、大阪桐生は兵藤、館を温存しつつ、投手4人で負担を分散してきていた。

 

国士舘の先発は財前、大阪桐生の先発は館。大阪桐生の攻撃から始まった試合は、序盤、中盤と投手戦を繰り広げ、お互いに得点を許さない、緊迫した投手戦となる。

 

試合が動いたのは7回裏、4番財前がツーベースヒットでチャンスを演出すると、5番打者がバントを一発で決め、1アウト3塁という絶好の得点の機会が訪れる。6番打者が放った大きなレフトフライが、捕球されるや否や、3塁にいた財前がホームベースを陥れ、国士舘が先制点をとった。

 

しかし、その走塁が財前の体力を奪ったのか、8回表にとうとう大阪桐生打線に捕まり、4失点を喫してしまう。国士舘エース 財前はそれでも諦めず最後まで投げきり、9回を147球完投するが、チームは援護できず、1-4で準決勝敗退となった。

 

決勝のカードは青道-大阪桐生となり、春の甲子園準決勝以来となる、武藤と兵藤の直接対決に、高校野球ファンは、盛りあがりを見せているようだ。

 

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