至高の一打   作:もぐもぐファンタ爺

116 / 148
青道 オーダー

1 神田 セカンド (左)
2 玉森 ライト (右)
3 柳 センター (左)
4 東 サード (右)
5 西晴之 ショート (左)
6 西影次 レフト (右)
7 栃谷 ファースト (右)
8 岸谷 キャッチャー (右)
9 武藤 ピッチャー (右、右オーバースロー)



横綱対決

甲子園球場に入るまで、若干湿気を感じられた風は、グラウンドに入ると、乾いた風のように身体に襲いかかり、炎天下の中、照りつける太陽も相まって、まるで砂漠で野球をしているかのようであった。

 

「6番 レフト 西 影次くん」

 

自分の名前がアナウンスされ、打席に入る。直前のプレーへの歓声がやまないなか、理想のスイングを1回なぞり、相手ピッチャー 兵藤さんを見る。

 

最初から全力で抑えにくる兵藤さんに、一巡目の上位打線が完璧に抑えられる。そう思わされたときの一打であった。兵藤さんの決め球のフォークを難なく掬い上げ、兄貴は左中間にボールを運んでいった。チャンスを作ってもらっての打席。

 

現在お互いに無得点の2回裏、1アウト2塁、確実に先制点をとりたい場面。自然と手に力が入るが、一度深呼吸をして、力を抜いた状態でバットを構える。

 

初球、インコースのストレートが、こちらに向かってくるように

 

 

 

ドォン!

 

 

 

「ボール!」

 

完璧に見えていたボールを、目を切らさずに、少し身体をよじることで避ける。このストレートなら打てそうだと判断する。2球目の縦スライダーをじっくり観察して見送る。

 

「ストライク!」

 

あの球も当てるだけなら、いくらでも大丈夫そうだ。ストレート、縦スライダー以外に情報があるのは、ツーシーム、ドロップカーブ、SFF、フォークの4種類。新球はきた時に考えることにする。

 

「ボール!」

 

直感で、ストレートにしては何かが違うと、あえて見逃したボールが、ホームベースに到達する直前に沈んで、ストライクゾーンから外れた。今のがSFFと記憶し、次は何かとじっと相手を観察し続ける。ん?これは丹波さんのカーブに似ている?と思い、おもいっきり引っ張る。

 

 

キィン!

 

 

完璧に捉えられた打球がレフトへ飛んで行くが

 

「アウト!」

 

当たりが良すぎてレフトライナーとなる。あぁ、と残念がる観客の声が聞こえたが、今のは仕方ないと切り替え、ベンチへと戻る。最後のドロップカーブは、丹波さんのカーブと比べるとキレで劣るため、次も捉えることができると確信する。

 

 

パァン!

 

 

「ボール!フォアボール!」

 

つづく栃谷さんは厳しいところを攻められ、四球となり、2アウト1,2塁になる。続く岸谷さんは、兵藤さんの変化球に翻弄され、空振り三振となった。

 

150キロ前後のストレート、ツーシーム、ドロップカーブ、SFF、縦スライダー、フォークのなかでも、ツーシームとフォークの精度は抜群らしいが、それを自分に投げてきていないのが気になるところ。

 

バッティングセンターのように、球種をこちらが決めるわけではないから仕方ないが、ツーシームとフォークを見てみたい、打ってみたいという、打者としての欲が出てきていた。

 

武藤さんは大阪桐生打線を圧倒し、ランナー1人すら許さない投球を続けていく。試合が進み、4回裏に先頭打者の柳さんが四球で出塁する。

 

「4番 サード 東くん」

 

ノーアウトでやってきた先制のチャンスに、球場のボルテージが上がっていく。初球のフォークを東さんは空振りする。両者の高校生離れした変化球、スイングに歓声があがり、応援に熱が入る。

 

「ボール!」

 

アウトコースに外れるストレートを、じっくりと観るように見逃す。兵藤さんは汗を拭って、一度深呼吸をする。3球目、インコース低めのSFFを見送りボールとなる。

 

今度は東さんが首を振って、自分の頭を軽く2回叩いてバットの先を見つめ、再び構える。4球目

 

 

 

カキィン!

 

 

 

レフト方向へと打球が、大きな放物線を描いて飛んで行く。

 

「ファール!ファール!」

 

 

「ああぁぁぁぁ」

 

 

観客のため息、歓声、怒号が球場を満たしていく。2-2の平行カウントとなり、エースと4番の対決は緊張感を増す。太陽光が強く球児に降り注ぎ、ジリジリとした暑さは体力を少しずつ、そして確実に奪っていく。

 

 

パァン!

 

 

「スイング!」

 

東さんはバットを止め、キャッチャーが1塁審に判定を求めるが、1塁審は手を真横に広げる。フルカウントになり、兵藤さん、東さんの気迫がぶつかり合い、緊張感がこちらにも伝わってくる。

 

 

キィン!

 

 

鋭い打球がライト線を襲う。スライスした打球が、右方向へときれていく。

 

「ファール!」

 

約20cmくらいであろうか、僅かにライト線の右に着弾し、柳さんは再び1塁へと戻る。さっきから、柳さんもリードの大きさなどで、兵藤さんにプレッシャーをかけるが、全く動じていない。

 

「走った!」

 

 

ギィン!

 

 

東さんはなんとか右方向にゴロを放つ。

 

「アウト!」

 

1塁フォースアウトとなるが、ランナーの柳さんは2塁へ。チャンスで兄貴の打席になるが、

 

「ボール!フォアボール!」

 

敬遠をされ、1アウト1,2塁の場面で自分の打席が回ってくる。

 

「お願いします!」

 

と声を大きく出して、全身から余分な力を抜いてリラックスする。ストレート、ツーシーム、縦スライダーは見切った。これなら打てる。そう思ってバットを構える。

 

 

 

ドゴォン!

 

 

 

先程よりも威力、キレの増したストレートに手が出ない。

 

「ストライク!」

 

アウトコースの低めに外れるかと思ったボールが、目の錯覚か、浮き上がってストライクゾーンに入ってきたように見えた。これが本気かよと、気合いを入れ直す。

 

 

ガキィ!

 

 

ストレートになんとか当て、1塁線をきれていくファールとなる。

 

「ボール!」

 

インコース低めに外れるフォークに、全く反応できなかった。しかし、軌道を知れたのは大きい。イメージの中で、1打席目よりも変化、キレ、ノビを増したボールを想像していく。

 

ストレート、縦スライダー、ストレートと3球カットし、7球目のフォークが、ボールゾーンに外れるのをしっかり見極める。2-2の平行カウントとなり、より集中力を高めていく。インコースの直球を振りにいく。

 

 

ギィン!!

 

 

くっ!ボールの上っ面を叩いたのか?これが兵藤さんのツーシームか!

 

詰まらされてもなお、力強い打球がサード正面へ転がっていく。サードがしっかり捕球して3塁を踏むと、1塁へと送球する。

 

 

やめろ‥‥やめろ!!‥‥

 

 

懸命に走って、1塁ベースに向けてヘッドスライディングをする。一瞬の空白の後、

 

「アウト!チェンジ!」

「くそっ!」

 

思わず声に出してしまう。せっかく先輩達が、兄貴が作ってくれたチャンスを潰してしまったことに、悔しさが隠せない。

 

「おらっ!」

 

ポコンッと頭をグローブで軽く叩かれ、

 

「またチャンスで回すから頼むで!」

 

と笑顔で東さんに励まされる。

 

「次こそは」

 

そう言いながらグローブを受け取り、守備位置であるレフトへ駆け足で向かおうとすると、後ろから栃谷さんが

 

「進塁打だったけど、お前も普通にアウトになってたもんな」

「うっせ!次こそホームラン打ったるわい!」

 

という言葉が聞こえてくる。まだチャンスがある。そう自分に言い聞かせて、外野で柳さんとキャッチボールをする。ボールをベンチに返して、深呼吸をして、頭のなかでノーアウトのケースでやるべきことを思い浮かべる。

 

ボールが飛んできても、しっかり対応する準備はできていたが、武藤さんは5回表も大阪桐生打線を圧倒し、外野にボールは飛ばず、攻略の糸口すら掴ませない。テンポもよく、全く点を取られる気配がないため、1点も与えることができないというプレッシャーが、大阪桐生の守備の動きを固くする。

 

そういった状況でありながら、エースの兵藤さんは冷静で、5回裏 先頭打者の栃谷さんを三振に仕留めると、岸谷さんにシングルヒットを許したものの、続く武藤さんを三振、神田さんをセカンドゴロに仕留め、流れを青道に渡さない。

 

高校BIG3と言われる投手同士の戦いは、お互い無失点のまま、6回へと進んでいくのであった。

 

 

 

 

 

 

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