1 神田 セカンド (左)
2 玉森 ライト (右) ○
3 柳 センター (左)
4 東 サード (右)
5 西晴之 ショート (左)
6 西影次 レフト (右)
7 栃谷 ファースト (右)
8 岸谷 キャッチャー (右)
9 武藤 ピッチャー (右、右オーバースロー)
青道-大阪桐生 0-0
6回表
6回表、大阪桐生の先頭打者はフルカウントまで粘る。レフトからは遠くて、表情はわからないが、精一杯食らいついているようだ。あっ、外へのスライダーで空振り三振。
これで打者16人に対して10個目の三振。相手エースの兵藤さんが絶好調で、うちの打線を抑えるのに呼応してか、武藤さんの調子も更に尻上がりに良くなってくる。
8番打者はショートゴロに、続く9番打者を三球三振仕留め、6回を投げて、完全試合ペースの武藤さんに、球場全体から拍手が送られる。
「ボール!フォアボール!」
その球場の雰囲気に後押しされてか、6回裏、玉森さんが四球で出塁する。
「3番 センター 柳くん」
2打席目では、しっかりとボールを見極め、四球で出塁した柳さんが打席に入る。いつもの笑顔とは違い、相手を射殺せんばかりの眼光で兵藤さんを貫く。様子の違いに大阪桐生に僅かではあるが動揺が見られる。その初球
「走った!」
キィン!
アウトコースのストレートを、柳さんは丁寧に捌き、三遊間へ流し打ちする。しかし、ショートはランナーの盗塁に釣られずに、逆シングルで捕球すると、そこから踏ん張って1塁へ送球し、1塁フォースアウトとなる。
あのショート凄いなと思っていると、兄貴がネクストサークルに向かう準備をしながら、
「春の甲子園でやったラン&ヒット、1点の攻防で緊張する場面だが、1度やって見せた攻撃だ。さすが大阪桐生、しっかり対応してきたな」
その言葉にそういえばと、スタンドから見ていた青道の攻撃を思い出す。あのときはランナーが兄貴で、柳さんが今回のようにショートに転がしていたか。
「影次、前までの打席を忘れて、きた球を打て。俺みたいに、配球はどうだとか考えるんじゃなくて、何も考えずに反応して打つ方がお前らしいと思うぞ。この大会の初戦、ストレートを反射的に打ち返して、先頭打者本塁打を打ったときの方がな。まあ、ごちゃごちゃ難しく考えず向かっていけ。お前まで回すから頼むぞ」
「‥‥俺らしく‥‥」
自分がするべき打撃とは何か、それを後少ししかない時間で考えていく。その間に、東さんは兵藤さんに8球投げさせるが、最後はライトフライに抑えられ、2塁ランナーの玉森さんは、タッチアップで3塁にいく。
「5番 ショート 西 晴之くん」
兄貴の名前がアナウンスされると、球場が歓声に包まれるが、キャッチャーが立った瞬間にブーイングに変わる。
「逃げんなよ!」
「正々堂々やれや!」
など自身のプライドよりも、チームの勝利を優先する兵藤さんに、心ない言葉が浴びせられるが、兵藤さんは淡々と4球投げ終えた。
「6番 レフト 西 影次くん」
3度目となるチャンスでの打席に入ると、色々な声が聞こえてくる。
「弟だけど今のところノーヒットだろ?」
「チャンスをことごとく潰してるよな」
「兄が凄いからって優遇されてるんじゃないの?」
という声があれば
「打てー!影次!将来の青道主砲ー!」
「落ち着いていけよー!」
「3度目の正直や!」
後押ししてくれるような、よく知った声も届いてくる。兄貴の言ったように何も考えずに、兵藤さんの挙動だけを見つめる。
「走った!」
パァン!
「ボール!」
兄貴は楽々と2塁を陥れ、2アウト2,3塁となる。じーっと兵藤さんを観察する。2球目が投げられる。これは外れるなと思い、軌道を目に焼き付ける。
「ボール!」
アウトコース低め、外へわずかにずれたフォークを見逃す。兵藤さんの動きと、2ボールというカウントだけを頭に、投げられるボールに集中する。
ドゴォン!
インコースのストレートを見逃し、1ストライク2ボールへ。4球目、これだと直感する。インコース低めの直球を、身体の力を抜いて、上から押し潰すように振り抜く。ストレートの軌道から僅かに沈んだボールと、迷いのないバットがかち合い、スライス気味の回転をしながら、サード方向への強烈な打球となる。
「抜けろぉぉぉ!」
サードが2塁方向へと横っ飛びをするが、ボールはグローブから逃げるように跳ね、ショートも後ろに回り込んで取ろうと追いかけるが、ボールの方が速かった。
俺は必死に1塁を駆け抜け、自分がアウトになっていないことを、歓声や道川さんの表情から把握すると、右腕を突き上げ
「おっしゃぁぁぁ!」
と雄叫びをあげた。青道側スタンドの応援が更に活発になる。外野が前進守備であったため、兄貴は3塁でストップしているが、待望の先制点に青道は盛り上がる。
「7番 ファースト 栃谷くん」
2アウト1,3塁、先程と同じケースでチャンスにとても強い栃谷さん。
「打たれちまったが、ここを抑えて逆転するぞ!」
相手エース 兵藤さんは、落ち着いた様子でチームを鼓舞する。その初球
カキィン!
低めに外れる、様子見であったであろうフォークを力強く叩き上げ、これ以上点をやらないと、気合いを入れた外野にボールが飛んで行く。2アウトのため、打球を確認せずに懸命に次の塁へ駆け抜けていく。
「行けるぞ!回れ回れー!」
3塁コーチャーの城之内さんの声を信じ、3塁を蹴る。ネクストバッターの岸谷さんが
「影次!すべりこめぇぇ!」
と絶叫するのを聞いて、キャッチャーのいる右側に滑り込み、キャッチャーの足の隙間から、左手でベースをタッチする。それに一瞬遅れて、脇腹に衝撃を受け、地面を転がる。
「セーフ!」
審判の宣言を受け、ガッツポーズをするが、痛みで立ち上がれない。歓声と悲鳴がうるさい。
「影次!ゆっくり息をしろ!」
そう言われて自分が息を止めていたことに気がつき、意図的に呼吸をしようとする。ズキズキと痛む脇腹が気になるが、兄貴に肩を貸してもらって立ち上がり、ベンチへ向かう。片岡監督が慌てたように
「影次よくやった!1塁コーチャーに藤谷!行ってくれ」
「はいっ!」
「影次、道川と次の回から交代だ。脇腹をすぐ診てもらえ」
出たい気持ちはあるが、本当に痛いのでベンチに戻ってきた道川さんに
「後はお願いします」
と言うと、道川さんは笑いながら
「お前よりも打ってやるよ」
と言ってファーストミットをスポーツバッグから取り出す。球場から落胆の声が聞こえたので、グラウンドに目を移すと、岸谷さんがセンターフライに倒れたところであった。
太田部長に付き添ってもらって裏に行き、救護班の方に診察してもらう。
「派手に吹き飛ばされてたからヒヤヒヤしたけど、これは軽い打撲でいいだろうね。息を吸って‥‥吐いて‥‥痛みが酷くなる感じはあるかい?」
「いえ、痛いですが、特に変わりはありません」
「大丈夫そうだね。なるべく冷やしておいて、後から精密検査を受けるように。いいね?」
頷き、お礼を言ってベンチに戻る。大丈夫か?と尋ねようとしたメンバーは、太田部長の表情を見て、大丈夫そうだなと判断する。太田部長が
「え?みんな聞いてこないの?」
とボソボソ言っているのが気になるが、普段ならそれでも声をかけてくる先輩達が、懸命に出場している選手達に声をかけるのを少しおかしいと思い、目をマウンドの方に向ける。
その先には、ランナー1,2塁にいる状態で、マウンドに内野手が集まっているという光景が広がっていた。
「そんな‥‥安定したピッチングをしていたのに‥‥どうして」
そう言うと、哲さんが説明してくれる。
「武藤さんの調子が良すぎたんだ。先頭打者を追い込んだあとのSFFのキレがありすぎて、空振りを取ったのはいいが、岸谷さんがワンバウンドしたボールを後ろにそらして振り逃げ。それにテンポを崩されたのかフォアボールで、今の状態、ノーアウト1,2塁になっている」
「なるほど」
大阪桐生打線も全国屈指の実力。さっきまで1点を争う緊迫した状態だっただけに、3点先制した直後、本人の気がつかないところで綻びが出てもおかしくない。それが今出てしまっているのだろう。
しかし、さすがエースであろうか、マウンドにいる武藤さんに焦った様子はない。内野陣が各守備位置に散り、3番打者への初球、インコースのストレートを投げきる。
「ストライク!」
電光掲示板には152km/hと表示され、青道側スタンドからは歓声が聞こえる。2球目のSFFで空振りを奪い、ボールはワンバウンドするが、岸谷さんは身体で止め、ランナーを進めさせない。
先程そらしたボールを、気合いで止める岸谷さんに拍手が起こる。
ドゴォン!
「ストライク!バッターアウト!」
電光掲示板に153km/hと、自己ベストを更新する数字が表示され、ノーヒットノーランの期待もあり、武藤さんを応援する声が増えていく。
「4番 ピッチャー 兵藤くん」
エース同士の対戦に、青道ベンチ、大阪桐生ベンチ共に精一杯声を出して応援していく。
「武藤さーん!1つずついきましょー!」
脇腹が多少痛むが、声をしっかり出していく。
初球のストレートに、兵藤さんはなんとか当ててファール。2球目のスライダーを堂々と見逃すが2ストライク。1度打席をはずして素振りをして、再びゆったりとバットを構える。
キィン!
少し甘く入ったストレートを弾き返し、鋭い打球が左中間を突き破っていく。
「回れ回れ!」
大阪桐生の2塁ランナーはホームへ到達するが、1塁ランナーはセンター 柳さんからボールが返ってきたのを見て、3塁でストップする。1アウトランナー2,3塁とピンチが続く。
3-1となり、試合を楽しみにきた観客は、ノーヒットノーランがなくなったのを嘆くのと共に、点が入ることに期待し始める。
「5番 ライト 館くん」
2年生の強面2番手投手が打席に入る。強面なのに笑顔を絶やさない選手で、顔がとても印象的であるが、次期4番でエースはこの館さんだと言われているほどの素晴らしい選手である。
キィン!
「アウトー!」
サード東さんが横っ飛びで直接ライナーを掴む。
「去年のボコボコ打たれてたときより、しっかり抑えとるんや!晃太!ガンガン投げてけや!」
「ありがとよ」
東さんから武藤さんにボールが渡る。次は今日2三振の6番打者。2球ストレートで簡単に追い込むと、SFFで空振りを奪うが
「そらした!走れ!」
試合中に更にキレが鋭く進化したSFFを、岸谷さんは再びそらしてしまう。すぐにリカバリーするが、3塁ランナーはホームへ突入し追加点、2塁にいた兵藤さんは3塁へ、2アウト1,3塁の形となる。
1点差になるが、青道ベンチに焦りはない。武藤さんはなんとか7番打者を三振に仕留め、青道は1点リードの3-2で7回へと移ることとなった。
武藤さんはベンチに戻ると
「おぅ、影次、生きてたか。点取ってもらってなかったら危なかったわ!ありがとな」
「いえ、自分はチャンス潰してしまっていたんで、なんとか打てて良かったです」
「チャンス潰した量で言えば清国の方が多いんだから気にすんなよ」
なにをー!と東さんは憤慨するが、ベンチの雰囲気は和やかだ。
「じゃあ行ってくるよ」
そう言う武藤さんが、打席に向かうのを見送った。