至高の一打   作:もぐもぐファンタ爺

118 / 148
青道 オーダー

1 神田 セカンド (左)
2 玉森 ライト (右)
3 柳 センター (左)
4 東 サード (右)
5 西晴之 ショート (左)
6 道川 ファースト (右)
7 栃谷 レフト (右)
8 岸谷 キャッチャー (右)
9 武藤 ピッチャー (右、右オーバースロー) ○

青道-大阪桐生 3-2
7回裏ノーアウト


エピローグ

7回裏 先頭打者の武藤さんが打席に入ると、大阪桐生は前進守備をとる。武藤さんは力を抜いて、手に衝撃がいかないように、球数を投げさせることだけに専念する。無理はせず、5球目のフォークで見逃し三振となった。

 

1番打者の神田さんに対しても、大阪桐生は内野のみ前進守備のままでいた。兵藤さんは投げ込んでいくが、4巡目の青道打線。疲れの出てきた兵藤さんのボールに食らいついていく。

 

8球目のストレートを流し打ちして、レフト前ヒットとなり、大阪桐生は伝令がマウンドへ向かう。

 

「2番 玉森くんに代わりまして、結城くん。バッターは結城くん 背番号14」

 

玉森さんに背中を叩かれ、哲さんが打席に向かう。

 

「哲ー!いけー!」

 

「ここでぶっぱなせごらぁぁぁ!」

 

ベンチ、スタンドから哲さんへの声援が飛んでいく。

 

「走った!」

 

その声に反応して、兵藤さんはアウトコースに投げるが、神田さんはすぐさま反転し、1塁へと戻る。

 

「ボール!」

 

神田さんが塁に出ると、全然状況が変わってくるのがわかる。これまで乱れる様子を見せなかった兵藤さんが、ペースを乱している。

 

「ボール!」

 

2球目のフォークが外れ、2ボールとなる。哲さんはピッチャーに集中し、かなり打ちそうな雰囲気を出している。

 

「走った!」

 

兵藤さんは構わず、バッターに対してボールを投げる。

 

「ストライク!」

 

キャッチャーが送球すらせず、2塁を諦める。1アウト2塁の場面、チャンスとなり、哲さんの集中力は更に増していく。

 

 

キィン!

 

 

低めのストレートを、綺麗にセンター前へ打ち返す。神田さんは快足を飛ばして3塁を蹴り、更に加速していく。中間守備のシフトを敷いていたセンターが捕球して投げるが、神田さんは内野にボールが届く前にホームを陥落させた。

 

2点リードとなった場面で、バッターは柳さん。

 

「走った!」

 

兵藤さんは完全にランナーから意識が外れており、哲さんが2塁への盗塁を成功させる。先程の回の攻撃で、たくさん走って疲れが蓄積しているからか、肩で息をし、大量の汗を拭う。

 

「ここでもエースでいくんだ?」

 

そう兄貴に聞くと、

 

「エースでいくか、館に代わるか悩みどころだが、恐らく兵藤のままだろうな。こういった場面は頼れるエースを選択せざるを得ないだろう」

 

なるほどと思い、試合の行方を見守る。

 

柳さんは粘って四球で出塁し、1アウト1,2塁となる。続く東さんは

 

 

 

カキィン!

 

 

 

あまりにも強烈な打撃がレフト前と飛んでいく。レフトが身体をはって止め、すぐさま内野に送球する。1アウト満塁の場面で、バッターは兄貴。初球のストレートを見逃して1ストライク。それを見て、さすがにこの場面では敬遠しないかと安堵する。

 

兵藤さんは首を2回振り、頷き、投球モーションに入る。ワインドアップした瞬間、甲子園がざわつく。恐らく1番自信のある球であろうボールを、兄貴に対して投げる。

 

兵藤さんが投じたボールを、金色の軌跡が拐っていくと、綺麗な金属音が響き渡り、ボールはどこにいったか探すが見当たらない。ボールが落ちたであろう外野席の方から、さざ波のように、ゆっくりとこちらへ広がっていくように感じた歓声が球場を埋めつくし、兄貴がゆっくりとダイヤモンドを一周するのを見て、ようやくホームランを打ったことに気がつく。

 

あまりにも自然なフォーム、流れからのホームランに、ベンチのみんなも感嘆の声を漏らしたり、目を見開いたりしていた。バットが身体に一体化したような、あれこそ全く無駄のない理想的なスイングだと直感するものはとても美しく、それはまさに至高の一打と言っていいもので、目に焼き付いて離れなかった。

 

「ナイスバッティング!」

 

そう兄貴に声をかけると、

 

「ありがとう、お前も自分のスイングを見つけろよ。俺もまだまだではあるけどな」

 

と兄貴は返して、他の3年生のところへハイタッチしに行った。自分のスイングか‥‥今までは、兄貴のスイングがいいと思って、それに近づけるようにと思っていたけど、あの違和感、ズレた感じがしていたのはそういうことなのだろうか?自分の身体にとっての理想のスイングはあれではない‥‥そういうことを言いたいのかな?と思わされた。

 

兵藤さんは、兄貴と勝負して満足したのか、交代を受け入れると、少し涙目になっている館さんに笑顔で

 

「すまないな、後は頼んだぞ」

 

そう言ってマウンドを降り、ライトの守備についた。館さんは奮起して、道川さんをショートゴロ、栃谷さんをファーストフライに抑えた。

 

8-2と6点リードになったが、大阪桐生の打線も侮れない。

 

代打で出た哲さんは城之内さんに交代して、そのままライトの守備に入る。

 

8回表、武藤さんは、SFFを封印した状態で、ストレート、カーブ、スローカーブを軸に、スライダー、ツーシームを混ぜた配球に変更するが、先頭の8番打者は、点差が広がったのも関係なく、ボールをじっくりと見て、粘っていく。

 

投球の軸であったSFFが使えないため、打者はかなり食らいついてくる。

 

「ストライク!バッターアウト!」

 

なんとか7球目のストレートで見逃し三振を奪うが、武藤さんもこの炎天下のなか、打線のプレッシャーを受け続けている。汗を拭い、ロージンに頻繁に手をつける。

 

 

キィン!

 

 

前の回に続き、甘く入ったストレートを狙い打たれ、バッターランナーは2塁に到達する。打者は武藤さんのボールに慣れてきた1番打者。片岡監督は伝令を出す。

 

「1点でも入れば、ピッチャーを代える。井手!準備してくれ」

 

「井手さんはこの回が始まると、ブルペンに行きました!」

 

「‥‥そうか‥‥」

 

若干恥ずかしそうに、片岡監督は帽子を深めにかぶって、戦況を見つめている。

 

14:00頃から始まったため、徐々に気温は下がってはきているものの、いまだ太陽は照りつけ、ピッチャーの体力を奪っていく。

 

「武藤さん!エース!頼みます!」

 

各々が思い思いの言葉をかける。武藤さんは笑って、1度伸びをして笑う。

 

「琉斗、捕ってくれるだろ?」

 

「死ぬ気で止めてやるよ」

 

「じゃ、SFF投げるんで!頼むぜ、相棒」

 

お互いのグローブをぶつけ合い、マウンドとホームに別れる。初球

 

 

パァン!

 

 

「ストライク!」

 

SFFをしっかりと岸谷さんはミットで捕球する。武藤さんの決め球には流石に目が追い付かないか、さすがの大阪桐生が誇る1番打者も、1度打席を外して間をとる。次のスローカーブに体勢を崩され、2ストライクとなる。

 

3,4球目と粘り、アウトコースの高めに外れるストレートを、しっかりと見逃す。あのバッターは速球に強いのか?と思っていると、岸谷さんもそう感じていたのか、次はゾーンにカーブを要求する。

 

 

ギィン!

 

 

完全に崩されても、片腕一本を残し、なんとかファールにしてくる。6球目のSFFをバッターは空振りするが、再びワンバウンドする。岸谷さんはしっかりと正面で止め、2塁ランナーを牽制し、動きを止めた。これで2アウト2塁。

 

SFFを岸谷さんが止めたことで、武藤さんの表情が若干明るくなる。

 

 

 

ドゴォン!

 

 

 

力を振り絞って投げられたストレートが、岸谷さんのミットを揺らす。三球三振に仕留め、8回表を切り抜ける。

 

8回裏のマウンドには館さんがそのままあがり、重い球質を活かした投球で岸谷さんをショートゴロに抑える。片岡監督はそのまま、武藤さんを打席に送る。1度も振ることなく、三振に終わり、2アウト、神田さんの打順となる。

 

兵藤さんとは違い、力で押してくる投球とは相性が悪く、バットに当てることはできたものの、打球が上がらず、セカンドゴロとなった。

 

武藤さんはそのまま、9回表もマウンドにあがる。

 

「ノーアウト!最終回も1つずつしっかりいこう!」

 

もう同じチームで聞くことができないかもしれない、そんなかけ声をしっかりと受け止める。

 

「1アウトー!ナイピッチ!ボールまだまだキレてるよ!ガンガンいこー!」

 

その瞬間が徐々に近づいてくる。

 

自分の持てる限りの力を相手にぶつける。それを体現した俺達のエース 武藤さんが、大阪桐生の4番 兵藤さんを圧倒していく。

 

「ストライク!バッターアウト!」

 

2アウトになり、打席には泣き笑いをして、顔をぐしゃぐしゃにした館さんが立つ。

 

1つ、ストレートの下をバットが掠めファール。

 

2つ、SFFがバットを掻い潜りミットを揺らす。

 

3つ、スローカーブがストライクゾーンから外れ、2ストライク1ボールとなる。

 

その瞬間を今か今かとベンチで眺め、球場全体がその瞬間を待ち受ける。

 

 

 

ドゴォン!

 

 

 

「バッターアウト!ゲーム!」

 

甲子園球場が揺れ、あらゆるものに押し潰されるような感覚を無視し、マウンドへ向かって走り出す。自分が何をしゃべっているか分からないし、何を話しかけられているのかも分からないが、とても高揚し、チームの一体感に溢れていた。

 

そのなかで確かに覚えているのは、泣きながら感謝する岸谷さんの背中を叩きながら、武藤さんが

 

「やっとこれで俺もエースになれたよな」

 

とボソッと呟いた言葉であった。一瞬、何のことか聞こうと思ったが、歓喜に溢れた場では無粋だと思い、この話題は避けることにした。

 

 

 

……

 

 

 

武藤さんは、決勝を9回2失点の完投勝利で胴上げ投手となり、青道は甲子園大会の春夏連覇を達成し、怪物世代は歴史に名を刻んだ。

 

閉会式が終わり、バスに揺られて寄宿舎へ帰って来た。とても濃厚な時間を過ごしたため、脱力感に襲われる。身体はまだまだ元気であるが、どうも何かやろうという気は起こらない。

 

まずは風呂に入って汗を流し、脇腹に当てていた氷嚢のタオルを、清潔なものに変えて、大人しく部屋の畳の上で横になる。

 

「あっ、精密検査どうしよ」

 

これから祝勝会という時に、自分だけ病院というのもいただけない。怪我を隠してもいいことはない、そういうことは兄貴に酸っぱく言われているし、兄貴が2年生の秋を、それで棒を振ったのは知っている。

 

片岡監督に申し出ると、急を要しないため、明日病院に行くこととなった。やることが1つできると、他にもないかなと考えてしまうのは自分の性分。自分だけのバッティングスタイル、スイングを探求していくこと。

 

兄貴もまだまだということはかなり真髄は深いのだろう。とりあえずなんとかなるかと、祝勝会まで、時間を潰すことにした。

 

「哲さん、将棋しましょう!」

 

「受けて立つ」

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