至高の一打   作:もぐもぐファンタ爺

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青道 スターティングオーダー

1 倉持 ショート (両)
2 小湊 セカンド (左)
3 結城 ファースト (右)
4 西 センター (右)
5 滝川 レフト (右)
6 増子 サード (右)
7 真木 ライト (右)
8 御幸 キャッチャー (左)
9 伊佐敷 ピッチャー (右、右オーバースロー)


相手

1 石井 サード (左)
2 山本 レフト (右)
3 橋本 ショート (右)
4 高橋 キャッチャー (右)
5 佐々木 ファースト (左)
6 青木 セカンド (右)
7 早川 ライト (右)
8 森田 センター (右)
9 中村 ピッチャー (右、右オーバースロー)



偵察班情報

主砲 キャプテンの高橋を中心としたチーム。前チームでも3年生を押し退け、レギュラーを勝ち取っていた橋本、高橋、佐々木のクリーンナップには注意が必要であろう。

新エース中村は最速137キロのストレート、決め球はスライダー。カーブでカウントをとってくることもある。コントロールは試合を作ることはできるだろう程度。


暗雲

青道は夏の甲子園大会の覇者である。しかし、覇者であるがゆえに、新チームの始動が全国で1番遅れていた。新しい1軍メンバーで行った試合は部内試合の2回のみで、どこまでも勝ちきってしまった夏の影響がここに出ていた。

 

甲子園大会が終わってから、わずか10日後に、新チームの公式戦が行われるのが早すぎるだけかもしれないが、青道は、怪物世代が抜けてからの対外試合初戦を、公式戦にせざるをえなかった。

 

秋季東京都大会1次予選、初戦の相手はいつも3、4回戦敗退の中堅校。

 

なかなか難しい戦いになりそうである。その試合を前日に控えた夕方、俺は監督室に呼ばれていた。こんな時期に呼び出しとは何かやったかな?と自身を振り返るが、特に思い当たることはない。

 

向かう途中で真木と鉢合わせて、一緒に向かっていく。

 

「いったい何の用事なんだろうな?」

 

「さぁ?影次も呼ばれてるから、投手関連とかではなさそうだけどね」

 

監督室のドアをノックして許可をもらったので入室する。中には片岡監督、落合コーチ、太田部長、高島副部長が勢揃いしていた。

 

何を言われるのかソワソワしていると、片岡監督が

 

「ご苦労。明日の試合だが、これから引っ張っていく2年生の行動を見ておきたい。チームの雰囲気が悪いと思っても、3回が終わるまでは自発的な行動はしないように頼む」

 

いきなり言われて唖然とする。

 

「えっと、何かあっても2年生がチームを立て直すのを待て、そういうことですか?」

 

と真木が聞くと、そうだと言わんばかりに片岡監督、落合コーチが大きく頷く。太田部長はわたわたした様子を隠せていないが、高島副部長は面白いものが見れるとばかりに、うっすらと笑みを浮かべている。

 

「プレーは本気でやっていいのでしたら、大丈夫です」

 

真木の方を見るが、異論は無さそうだ。

 

「歯痒いかもしれないが、2年生が自力でどうにかするのを見守ってほしい。後輩となるお前らに言うのは違うと思うが、踏んできた場数が違う。頼んだ」

 

 

 

……

 

 

 

昨日のことを思い返しながら、整列して挨拶をしたが、うちのチームはどこか地に足ついていないような気がする。

 

片岡監督、落合コーチ両名は気づいているようだが、昨日言っていたように、あえて様子を見るようにしているのか、動きはみられなかった。大丈夫そうなのは純さん、クリスさん、亮さん、真木くらいであろうか。御幸は集中できてないな。

 

懸念があるなか、後攻の俺達は各々守備位置につく。

 

「プレイボール!」

 

そのまま試合が始まる。じっくりと球を見てこようとする先頭打者の石井に対して、純さんは簡単に2球で追い込むと、ボールゾーンへ逃げるフォークで空振りをとり、三球三振に仕留める。

 

これで勢いに乗ってくれればと思うが、まだ全体の動きは硬い。

 

 

ガキィ!

 

 

どん詰まりのゴロが3塁方向へと転がっていく。増子さんはしっかりと捕球するが、ステップが1つ多い。1塁へ投げると

 

「高いっ!」

 

哲さんは懸命にジャンプして腕を伸ばすが届かない。バッターランナーは1塁を駆け抜けた後、方向転換して2塁へ進塁しようとする。

 

 

パァン!

 

 

「セーフ!」

 

増子さんが投げる前から、1塁後方へカバーに走っていた真木がなんとか2塁に投げるが、1アウト2塁のピンチとなる。

 

「1アウト!ここはしっかりやっていくぞ」

 

哲さんが内野陣に声をかけるが、哲さん自身が緊張した状態であり、かえって増子さん、倉持に緊張が移る。亮さんは大丈夫そうだが、今まで自分より頼れる3年生と野球をしてきたのだ。こういうときの声のかけ方、タイミングがわからず、不安そうな顔をしている。

 

 

「また飛んでくからよ、頼むぜ!」

 

 

いつもの対戦形式のバッティング練習と変わらない様子で、純さんは笑顔ではあるが、力強く、内野陣に呼び掛ける。それに呼応して

 

「さぁ!こいー!」

 

小柄ながら精一杯大きい声を亮さんが出し、それに続くように全員が声を出していく。3番打者の橋本は3球目、アウトコースのストレートを弾き返して、二遊間にライナー性の当たりが飛んでいく。

 

「あぁぁぁぁ!」

 

雄叫びをあげながら亮さんは、2塁方向へ横っ飛びしてボールを掴むと、2塁へグラブトスをする。しかし、倉持の反応が遅れており、ランナーの帰塁の方が速く、2塁はアウトにできなかった。

 

「あのセカンドうめぇぞ!」

 

「あいつ甲子園で活躍してた小湊じゃん!なるほどなぁ」

 

「おい、ショート西ならゲッツー取れてただろ今!」

 

亮さんは顔を若干赤くしながら

 

「2アウト!ここからどんどんいくよ!」

 

と声を少し裏返しながら、チームを鼓舞する。ここで迎えるは相手の4番 高橋。打てる捕手として名をあげている、西東京の有力選手である。

 

 

キィン!

 

 

高橋は3球目、インコースのストレートを引っ張って、レフト方向に弾き返す。

 

「回れ回れ!」

 

「クリスさん!ボール4つ!」

 

クリスさんは捕球すると、ホームへ送球するが、ボールに指が少し引っ掛かったのか、1塁方向へとそれる。

 

「セーフ!」

 

「2つ!おい!御幸!ボケッとすんな!」

 

御幸がランナーにタッチをして、審判の判定を気にしている隙に、バッターランナーが2塁を陥れる。再び2アウト2塁の場面、打者は5番 佐々木。

 

「うぎぎぎぎ!」

 

御幸がマウンドに呼ばれて、純さんに頭をグリグリされている。あれは痛い。だがそれで目が覚めたのか、気の抜けたような状態からは脱したようだ。増子さんも1点とられて、気を引き締め直したみたいだ。

 

 

キィン!

 

ショート正面に強烈なゴロが放たれ、ランナーと交錯する。

 

「抜けたー!」

 

倉持がゴロをトンネルし、ボールが外野で跳ねる。

 

「何してんだ!くそやろうが!」

 

思わず口汚くなるが、回り込んで捕球態勢をとる。

 

「ボール4つ!」

 

クリスさんの声を聞いて、全力でバックホームする。倉持の頭上の空間を切り裂き、白球は一直線にミットに収まった。

 

「アウト!」

 

相手のキーマンである主砲 高橋が、ホームを踏むのを阻止できたのは大きい。

 

罰の悪そうな顔をした倉持の頭をグローブで叩き、無言でベンチへと戻る。

 

「やったエラーに取り消しはきかない。だが、それを反省し、集中してこれからに活かせ、2度としないよう肝に銘じておけ。1点先制されたがここから巻き返すぞ!」

 

「「おぉ!」」

 

片岡監督の言葉で若干雰囲気を持ち直すが、2年生からのアクションは特にない。哲さんは何か言おうとしているが、上手く全体にかける言葉が見つからない様子。純さんは御幸と次の回どうするか相談するので忙しい。

 

亮さんはネクストサークルにいて、打撃のことで頭がいっぱい。クリスさんは何も言わず、時折片岡監督を見ているから、俺や真木と同じように見守るようにと言われている可能性がある。他のメンバーは初めての1軍での試合ということで、ガチガチになっていたり、変にハイテンションになっていたりと様々であった。

 

 

 

初回に先制を許した裏の攻撃、先頭打者の倉持は先程のエラーを取りかえそうと、張り切っているように見える。相手エースが右投げのため、左打席に入る。積極的にバットを思いきり良く振っていくが、初球、ボールゾーンへと逃げる変化球に、簡単に手を出してファーストゴロで1アウト。

 

片岡監督の額に青筋が浮かぶ。

 

亮さんは相手に球数を投げさせ、8球目のストレートを見逃し四球で出塁する。ネクストサークルに移動して、哲さんの打席を見守る。

 

「うてぇぇ!てつぅぅぅ!」

 

「いけるぞキャプテンー!」

 

声援を受け、更に哲さんの手に力が籠るのがわかる。

 

 

ガキィ!

 

 

普段なら長打を打っているであろう、甘いストレートを打ち損じ、6-4-3のダブルプレーとなった。チラッとベンチを見ると、片岡監督の苛立ちが増している。さっきまでは我慢していたのが、少しオーラのようなものが漏れ出しているのに戦慄する。

 

あの人は自分で言った、3回までは我慢するというのを守れるのだろうか?そう疑問に思いながらセンターの守備につく。

 

ここまで純さんがまともに打たれたのは、3番のセカンドライナーと4番のレフト前ヒット1本のみ。しかもそれは、御幸の気が抜けた雑なリードであったから。ストレート3連続で3番を押しきろうとするなんて、純さんの球質でやるもんじゃないよな。真木ならわかるが。

 

2回表は6番打者をセカンドゴロ、7番打者を空振り三振に仕留め、テンポが良くなり始めると、8番打者の3塁線のゴロを増子さんがしっかりと処理し、三者凡退でしのいだ。

 

 

 

2回裏、1点差で負けている状況、エースがテンポ良く相手打線を抑え始め、チームにリズムが生まれてきた。ここで4番としてできること、それは

 

 

キィン!

 

 

打球方向を確認し、スタンディングで2塁に到達する。声をかけることが制限されているのであれば、打線の繋がりの切っ掛けを作り出す。それが今の俺ができる2年生へのエール。右手を突き上げ

 

「しゃぁぁぁぁ!」

 

2塁上で雄叫びをあげる。打の青道として、攻撃による圧迫感を相手に与えていく。次の打者は試合に飢えていた強打者。

 

 

 

カキィン!

 

 

 

クリスさんのバットから炸裂した火の出るような打球が、レフトスタンドに突き刺さる。4番、5番のパワフルな攻撃に、グラウンド全体のボルテージが上がり、簡単に逆転した青道新チームへの期待が高まる。

 

しかし、続く増子さんは変化球に対応できず三振し、真木はいい当たりであったもののレフトフライ、御幸は簡単に凡打に倒れ、相手エース攻略を期待していた観客は、肩透かしをくらう。

 

夏までは、中堅校にすら2回で10点差を平気でつけていた怪物世代との落差に、厳しい顔をするOBが出始めていた。


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