至高の一打   作:もぐもぐファンタ爺

123 / 148
後攻 青道 スターティングオーダー

1 倉持 ショート (両)
2 小湊 セカンド (左)
3 結城 ファースト (右)
4 西 センター (右)
5 滝川 レフト (右)
6 増子 サード (右)
7 真木 ライト (右)
8 御幸 キャッチャー (左)
9 伊佐敷 ピッチャー (右、右オーバースロー) ○


先攻 相手

1 石井 サード (左)
2 山本 レフト (右)
3 橋本 ショート (右)
4 高橋 キャッチャー (右)
5 佐々木 ファースト (左)
6 青木 セカンド (右)
7 早川 ライト (右)
8 森田 センター (右)
9 中村 ピッチャー (右、右オーバースロー) ○

3回表 2-1
ノーアウト


本当の力

3回表、純さんは更にテンポ良く投げていく。先頭打者の中村をショートゴロに抑え、二巡目を迎える。純さん、御幸バッテリーはストレート、フォークを軸にしていた配球を、ストレート、スライダーを軸にしたものへと変更する。

 

1番 石井をインコースに突き刺さってくるようなスライダーで、空振り三振にきってとると、2番 山本を最後はインコースのストレートで、セカンドゴロに抑える。

 

エースの好投は流れを引き寄せる。3回裏、先頭打者の純さんはアウトコースのボール球を無理矢理外野へ運び、シングルヒットで出塁する。倉持はバントをしてランナーを2塁に置くと、バッターは2番の亮さん。

 

「亮介ー!ここで追加点頼むぞー!」

 

「うおおおぉ!小湊ー!」

 

応援の圧が強くなる。初球のストレートをじっくり見て1ストライク。

 

 

キィン!

 

 

2球目のアウトコースのスライダーを弾き返し、センター前へとボールが飛んでいく。

 

「ストップ!ストップ!」

 

外野が前進守備をしていたため、ホームへ帰ることはできなかったが、1アウト1,3塁。追加点が期待できる絶好のチャンスに、バッターは哲さん。

 

「哲ー!いけるぞー!」

 

「哲さーん!」

 

数多くの声援が哲さんに届けられる。しかし、

 

 

ガキィ!

 

 

セカンドへのゴロとなり、4-6-3のダブルプレーでチャンスを潰してしまう。

 

「くっ!」

 

「さぁ!守備からリズム作っていこー!」

 

これで3回は終わり。自分から声を出して、積極的にチームを盛り上げていく。

 

哲さんはいきなりの声に、ビックリしたような顔をするが、後輩にばかり頼ってはいけないと思ったのか、

 

「すまん。しっかり足を動かす!いつも通り!1つ1つやっていこう!」

 

「おぉ!」

 

たどたどしくはあるが、言いたいことは伝わってきた。3回までで2-1と、夏までの青道では都大会であまり見られなかった点数。しかし、哲さんの緊張状態が少しとけて、チームとしてはまとまりが出始めてくる。

 

まだチームとして慣れていないため、ぎこちないのは確かだ。それでも、各々がしっかりと声を出し始め、ケースや連携を確認し、エースの純さんを押し上げていく空気が生まれてくる。バッターは3番 橋本。前の打席で亮さんに阻まれたものの、しっかりと純さんのストレートを捉えていた好打者。

 

初球のストレートを見逃し1ストライク。前の打席とは違い、更に気合いの入った純さんのボールに驚いたか、橋本は一度屈伸してからバットを構え直す。

 

 

ギィン!

 

 

「ファール!」

 

ストレートを2球続け、弾き返された鋭いゴロが3塁線をきれる。そして、

 

 

パァン!

 

 

「バッターアウト!」

 

この試合初めてのチェンジアップに、態勢を完全に崩され、橋本は右膝を地面についた。あまりの球速差、キレに愕然とした表情をしている。このチェンジアップこそ純さんの投球の要。

 

4番の高橋はチェンジアップを意識したためか慎重になり、スライダーになんとか合わせるがショートゴロ。5番の佐々木は初球のストレートを打ち上げ、セカンドフライでこの回三者凡退で相手クリーンナップを沈黙させる。

 

やっぱりあのチェンジアップはすごいなと思わされる。1つ見せただけでこの反応。落合コーチの教え方が上手なのか、前エース 武藤さんのスローカーブ、井手さんのチェンジアップも落合コーチ直伝というのだから、コーチの指導力をとても頼もしく思う。真木も今後緩急を使えるようになればいいのだがな。

 

 

 

4回裏、チームとして機能し始めた今、ここで相手エースを崩しておきたいところ。右打席に入り、バットをゆったりと構えて、相手エースを観察する。

 

 

バァン!

 

 

「ストライク!」

 

初球、アウトコースのストレートを微動打にせずに見逃す。相手エースを睨み、威圧し、追い込んでいく。

 

 

キィン!

 

 

違う、違う、これも違う。首をふった末に投げられるストレート、カーブを全て、ボール球であっても軽々とカットしていく。

 

 

逃がさない

 

 

もう投げるボールはあれしかないだろう?早く投げろよ。そうそう、これだっ!

 

 

 

カキィン!

 

 

 

相手エースが、本能的に投げるのを嫌がっていた決め球 スライダーを、バックスクリーンに叩きつける。ゆっくりとダイヤモンドを一周し、ホームベースを踏む。

 

「狙ったな?」

 

クリスさんに言われたので

 

「もちろんです」

 

と笑顔で答える。

 

パンッ!

 

軽くハイタッチをしてベンチに戻る。

 

「ナイバッチ!」

 

「よくやった!」

 

と言われるがそれはただの受け身の反応。実に好ましくない。

 

「後が続かないと意味のない一発ですよ」

 

そう言って増子さん、倉持を見る。あんたらはあの人たちの背番号を受け継いで、この場に立っているんだ。中途半端なプレーは許さない。特に倉持。

 

「ボール!フォアボール!」

 

クリスさんが四球で出塁し、ノーアウトで追加点を取るチャンスがやってくる。相手エースは完全にペースを乱した状態で、バッターは増子さん。この攻撃で相手エースを攻略するか、復活させてしまうかが決まる、そんな大事な局面。増子さんのまなざしは、第一打席の浮かれたようなものとは違い、しっかりと投手を捉えている。

 

この程度の投手を、チーム全体で攻略することができなければ、市大三高の真中さん、天久、国士舘の財前さん、西邦の明石、稲城実業の成宮を打ち崩すなど夢のまた夢である。

 

自チームの打線を見定める。

 

増子さんは、初球のカーブを見送り1ストライク。先程のように、ブンブンと振りにいかず、じっくりとボールを見ていくようだ。続く低めに外れるカーブに手が出そうになるが、頑張って我慢して1-1の平行カウントに。

 

「増子さん!ボール見えてますよ!」

 

全員で大きく声をかけていく。

 

ウガァ!と返事をする増子さんを見て、固さがなくなったなと思っていると、

 

 

キィン!

 

 

インコースのストレートを、増子さんは上手く左中間に弾き返した。

 

「回れ回れ!」

 

1塁ランナーのクリスさんは迷いなく3塁を蹴り、ホームベースを左足で踏む。意外と足の速い増子さんは3塁を陥れガッツポーズをする。

 

「うが!!」

 

M!G!P!増子ガッツポーズ!

 

それに対して、元々2軍にいた選手達もガッツポーズして返す。初めて見るからよくわからないが、お決まりのポーズなのかと納得する。あのクリスさんもガッツポーズを返しているから、まぁ、そうなんだろうな。次からは返せるようにしておこう。

 

ノーアウト3塁、続く打者は真木。しっかりとボール球を見極め四球で出塁し、ノーアウト1,3塁で御幸の打席となる。その初球、

 

 

キィィィン!

 

 

ストライクを欲しがって投げた甘いストレートを、力の限り引っ張って走者一掃となる、ライトライン際へのタイムリーツーベースヒットとなった。

 

これで6-1の5点差となる。ここで相手はエースを諦め、2番手をマウンドに送るが、次の打者は絶好調の純さん。

 

 

ギィン!

 

 

「抜けろごらぁぁぁ!」

 

ポトリとセカンド後方に打球が落ち、タイムリーヒットとなる。追加点が更に入って1番の倉持に繋がり、いまだノーアウト。

 

「走った!」

 

純さんが走り、倉持がボールにバットを当てて、なんとか3塁方向へと転がす。サードが懸命にダッシュし、ボールを掴んで1塁へ投げる。

 

「セーフ!」

 

「あいつ足はえー!」

 

「お、おい!3つ投げろ!」

 

足を緩めず、純さんは3塁を陥れる。亮さんは相手の球種を引き出して四球で出塁すると、

 

「3番 ファースト 結城くん」

 

ノーアウト満塁で哲さんが打席に立つ。ここまで2併殺でいいところはないが、元々チャンスに強い強打者。相手に与えるプレッシャーは並大抵のものではない。

 

 

キィン!

 

 

澄んだ金属音がグラウンドに響く。

 

「ファール!」

 

哲さんは余分な力を抜くように、体を捻って再びバットを構え直す。そうそう、もっと力を抜いて自然体で。

 

 

ギィン!

 

 

「ファール!」

 

「まだまだ力入ってますよ!」

 

余分な力を排除し、一打に全てをかけた、侍を幻視するかのようなオーラを纏う。

 

 

 

カキィン!

 

 

 

鋭く振り抜かれたバットが、インコースのストレートを叩き潰し、木霊するバットとボールの衝突する音に遅れて、ポールが揺さぶられた音が耳へと届く。

 

上を見上げた観客が目をグラウンドに戻すと、そこには控えめなガッツポーズをしながら、2塁ベースを踏んで3塁へと向かっている、安心したように微笑む哲さんの姿があった。

 

 

 

「うおぉぉぉぉ!」

 

 

 

「やっべ、鳥肌たった」

 

隣で凄いものを見た、そういった表情の御幸に

 

「あれがうちのキャプテンだよ」

 

そう俺は返した。

 

 

 

……

 

 

 

あれから更に点をとって、13-1の5回コールドで、青道は初戦をものにした。

 

夕方、夏よりも早く太陽が沈み始め、暑くはあるのだが、どこか涼しいく感じさせるような虫の声が聞こえる。

 

「真木、足の調子はどう?」

 

「やっぱり運動のあとは痛くなるね。」

 

軽く素振りをしながら真木は答えてくる。

 

 

「さすがにヤバイなと思って、今日監督に言って検査してもらったんだけどね。成長痛らしい。ピッチングはできることなら、今は避けた方がいいみたい」

 

そう言う真木は悔しそうな表情を浮かべる。

 

成長痛、中学生の時期に起こることが多いのだが、真木は既に180cmを越えるにも関わらず、一昨日あたりからそれが起こっていた。

 

夏の大会が終わり、さぁ、エース争いをと思っていた矢先のこと。ピッチャー登録されているが、今の投手陣の厚さから、秋に真木が登板することはないであろうと思われる。

 

エースの純さん、カーブの使い手丹波さん、オーソドックスなオーバースローの槙原さん、サイドスローの川上。いずれも落合コーチに技、体を鍛えられ、片岡監督に心、体を鍛えられた投手。

 

俺達の代からエースを、そう思っていただけに悔しさはあるが、先輩たち、特に純さんには、これぞエースといった貫禄すらある。現に、今日の初戦でも慌てず、チームを鼓舞するピッチングをしていたのだ。

 

「まぁ焦らず行こうぜ、真木。層の厚い投手陣よりも、中堅校エースをまともに下位打線が捉えられない。こっちの方が問題あると思うけどな。」

 

「そうだな」

 

前チームでは8番を主に打っていたクリスさんが、新チームではクリーンナップ、そう言えば打線の格落ち感が伝わるであろうか。クリスさんですら、キャッチャーでなければスタメンに入れなかったのだ。前チームがどれだけ強力だったかがわかる。

 

しばらく振っていると、前園がやってくる。

 

「外野は影次以外固定がいないし、内野もまだまだある!バット振ってアピールすれば、次の大会レギュラーだってありうるんや!」

 

そう言って前園は、バットをがむしゃらに振っていく。確かにその通りであるが、前園は試合に出るにはまだ身体ができていない。器用さがあれば別だが、そのようなタイプではないので、現状、1軍に割って入るには難しそうに思える。

 

だが、一生懸命にバットを振る姿は、非常に好ましく、そして頼もしく思える。将来、1軍で一緒にプレイすることがあるかもなと思い、アドバイスをしながら、バットを振り込むのであった。

 

しかし前園‥‥お前の顔怖いな‥‥

 

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