後攻 青道 スターティングオーダー
1 玉森 センター (右)
2 神田 セカンド (左)
3 結城 ファースト (右)
4 西 影次 サード (右)
5 滝川 レフト (右)
6 城之内 ライト (右)
7 山崎 ショート (右)
8 藤谷 キャッチャー (右)
9 武藤 ピッチャー (右、右オーバースロー)
先攻 大阪桐生スターティングオーダー
1 飯田 セカンド (左)
2 名倉 ライト (左)
3 有働 サード (右)
4 兵藤 ピッチャー (右、右オーバースロー)
5 土門 キャッチャー (右)
6 梅田 ショート (右)
7 堂上 レフト (右)
8 斉木 センター (左)
9 勅使河原 ファースト (右)
青道-大阪桐生 0-0
2回裏1アウト
本格的な秋という季節まで、あともう少しといった気温だと朝の天気予報では言っていたが、大声を出して応援する観客の熱や、ハイレベルな戦いに対する自身の興奮によって、夏の甲子園球場並みの気温に感じられる。
青道エース 武藤さんと大阪桐生エース 兵藤さんはお互い一歩も譲らない投手戦を繰り広げる。武藤さんはボールのキレがよく、ストレートとスライダー中心の配球で三振をとっていくのに対して、兵藤さんはツーシーム、ドロップカーブを中心とした組み立てで打たせて取る対照的なピッチングであった。
俺の2打席目は8球粘ったものの空振り三振。他の打者に対する打たせて取る投球ではなく、完全にギアを上げた状態での対戦であった。最後は低めに外れる今日1番のフォークにバットが回ってしまった‥‥あれは絶対止まってたのに1塁審め‥‥
6回終了時まで両エースは、ランナーを出さないパーフェクトピッチングであったが、7回表、武藤さんが3球目に投げたアウトコースのストレートを、大阪桐生の先頭打者 飯田さんがなんとかセンター前へ運んで、両チーム合わせての初ヒットを記録する。
そして、1塁ランナーに2盗を決められ、バントで更にランナーを送られてしまい、1アウト3塁のピンチになる。大阪桐生のバッターは3番 有働、準決勝で3打点と大暴れした主軸の1人。
スイングは鋭く、パワーがあるため、なかなか侮れないバッターである。ホームベースに被さるように立ち、武藤さんを睨み付けている。
俺の近くでは3塁ランナーの飯田さんが、絶えずプレッシャーをかけてきており、最低でも内野ゴロで1点を獲ってやろうという思いを強く感じる。
ドゴォン!
「ストライク!」
打者の目の前を通るインコースへの厳しいストレートを、有働さんは避けることなく、歯を食いしばって見逃して1ストライク。手が出なかっただけのようだが、油断はできない。
パァン!
鋭くインコース低めへ落ちるSFFを空振りして2ストライク。たった2球で大阪桐生の好打者 有働さんを追い込む。
ドゴォン!
「ストライク!バッターアウト!」
さすがに外へくるだろうと、思いきって踏み込んだ有働さんの胸を抉るようなストレートが、インコースで唸りをあげて藤谷さんの持つミットの中に入って音をたてた。
ランナーは動けず、2アウト3塁で4番 兵藤さんの打順になる。初球、キレの増したSFFが兵藤さんのバットを避けるように鋭く落ちてワンバウンドする。
兵藤さんは冷静にこちらへ左手を向けてランナーを制する。その後ろでは身体の正面でボールをしっかりブロックして、右手でボールを掴み、3塁ランナーの飯田さんを睨み付ける藤谷さんがいた。1ストライク、知らず知らずのうちに止めていた息を軽く吐き、1回深呼吸をして気持ちを整える。
夏よりも気温が下がっているはずだが、緊張感が尋常ではなく、自分が大量の汗をかいているのが分かる。
「さぁー!2アウトー!1つずつしっかりいくぞー!」
1歩目を早くするために足を軽く動かし、チームメイトに声をかけて集中をきらさないようにする。
ギィン!
鋭く放たれたゴロに飛び付く。
グローブの中に捕まえたボールを握って1塁へと全力で投げる。
「ファール!」
ボールのみを見て、それ以外を意識から外していたからか、3塁線をきれていたことに気がつかなかったようだ。
「ナイスガッツ!」
「いい動きやったでー!」
ベンチからの声に帽子を取ることで応え、しっかりと被り直して気持ちを再び作っていく。絶対に後ろにはいかせない!
キィン!
反射的に2塁方向へ飛び込む。
俺のグローブの少し先を、ボールが通っていくのが見えた。
しかし、ボールの行き先にはショートの山崎さんが回り込もうとしており、逆シングルでボールを捕球すると、足を懸命に踏ん張って1塁へと送球した。
起き上がって状況を理解しようとする。
ホームベース近くでは大阪桐生の飯田さんがガッツポーズをし、藤谷さんは歯を食いしばっている。
「セーフ!」
観客席から大きな声援、叫び声、悲鳴、怒号が混ざりあって、俺達青道ナインに襲いかかってくる。くそっ、先制点をとられたか。
「2アウト!追加点を与えないことが大事だ!切り替えて次の回やってやるぞ!なぁ!結城!」
「はっ!はいっ!その通りです!」
セカンドを守る前キャプテン 神田さんが、余裕の笑みを浮かべてチームを引き締め、哲さんをイジる。
「声が裏返ってんで結城!キャプテンが1点取られたくらいで変な声だすなや!」
ベンチから東さんの大きい声が聞こえてくる。
「次から代打でわしらも出るからさっさと終わらせてこいや!晃太!エースやろが!締めてこい!」
「わかってるよ!」
武藤さんも点を取られたのにリラックスをして笑っている。山崎さんが
「なんで笑ってるのかって顔をしてるな。純粋に大阪桐生との試合が楽しいからさ。普段の大量得点で勝つのもいいけどさ、こういった最高峰の舞台で1点のビハインド、相手はあの大阪桐生。こんな場面なんて滅多にないぞ。ワクワクするだろ」
と話しかけてくる。
「晴之達に感謝してるんだぜ。今日出てるメンバーだけじゃ到底この場はもちろん、甲子園にも来れなかったんだ。最後にスタメンとして出させてもらえただけでも嬉しいよ。それでさ、欲張りだと思うけどさ、俺にとっての最後の公式戦は勝って終わりたいんだ。影次、力を貸してくれないか」
「っ、もちろんですよ。この回を抑えて逆転しましょう!」
グータッチをしてお互い定位置に戻る。ずっと兄貴の控えで、それでもずっと努力し続けていたのに、自分が1軍枠に入ってしまったが故に最後の夏を奪ってしまった先輩。おそらく葛藤があったに違いないし、もしかしたら恨まれているかもしれない。
それでもあの真剣な目で、チームメイトとして力を合わせよう、そう言われたら否が応でも身体の芯から力が湧いてくる、そんな感じがした。思い返せばさっきのゴロは、本来なら自分が処理できていた打球だ。
知らず知らずのうちにあった力みを身体を軽く揺らし、ほぐして万全の態勢をとる。
キィン!
3塁方向へ山崎さんが横っ飛びして、ワンバウンドした打球を捕球する。
「山崎さん!」「影次!」
自分の進行方向へ勢いよくグラブトスされたボールを直接右手で掴み、1塁へと全力で投げきる。
パァン!
ファーストミットの音が鮮明に聞こえる。一瞬の間があり
「アウト!」
1塁審の声を聞いて思わず飛び上がり、起きあがったばかりの山崎さんに抱きつく。
「よくやった影次」
「ありがとうございます!」
「2人ともよくやってくれた!」
神田さんにも感謝される。
今この瞬間、言葉では伝えられていたものの、本当の意味で怪物世代を擁したチームの一員として認められた気がした。
ベンチに戻ると哲さんと一緒に東さんに撫でられまくった。
「ようあそこで止めたで!ああいうプレーができたってことは、やっと肩の力がぬけたっちゅうこっちゃな」
ニヤリと東さんが笑う。柳さんが続けて
「試合が始まる前の片岡監督が言った言葉を意識しすぎやんな。自分らだけで点をとろうなんて気負わんでええんや。」
「周りを頼ってプレーで盛り上げろ。そうすれば新チームでも上手くいくさ」
と兄貴が締めくくった。‥‥盛り上げるか‥‥
「まずはできるのは応援や!影次!結城!そして遅れてきて寂しそうにしてるクリス!声を出せ!どんなときでも声を出して迷う姿を見せるな!」
「「「はい!」」」
3人が声を揃えて返事をして、打席にたつ7回裏の先頭打者 玉森さんを応援していく。
カキィン!
「おぉ!」
鋭いスイングから放たれた打球はバックスクリーンへと消えていった。
「玉森先輩!ナイスバッティング!ナイスホームラン!」
「全員で点取ろういうときにいきなりホームランかますやつがあるかい!」
東さんが怒鳴るが、ベンチに帰って来た玉森さんはどや顔でガッツポーズを決める。飛びかかる東さんをいなしてからかい続ける玉森さんは、久しぶりに目立てたからか生き生きとしていた。
書いていたデータが消えて2日くらいのたうち回ってました。すいません。