至高の一打   作:もぐもぐファンタ爺

127 / 148
国体 決勝戦

後攻 青道 スターティングオーダー

1 玉森 センター (右)
2 神田 セカンド (左) ○
3 結城 ファースト (右)
4 西 影次 サード (右)
5 滝川 レフト (右)
6 城之内 ライト (右)
7 山崎 ショート (右)
8 藤谷 キャッチャー (右)
9 武藤 ピッチャー (右、右オーバースロー)



先攻 大阪桐生スターティングオーダー

1 飯田 セカンド (左)
2 名倉 ライト (左)
3 有働 サード (右)
4 兵藤 ピッチャー (右、右オーバースロー)
5 土門 キャッチャー (右)
6 梅田 ショート (右) ○
7 堂上 レフト (右)
8 斉木 センター (左)
9 勅使河原 ファースト (右)



青道-大阪桐生 1-1
7回裏ノーアウト



国体 part3

玉森さんの本塁打ですぐに追い付いた青道は、イケイケムードであったが、大阪桐生エース 兵藤さんはすぐに立ち直って、球数は使ったものの神田さんを空振り三振に仕留める。

 

流れを切るために本気で抑えにかかった投球を見て、兵藤さんでもやはり疲れが隠せていないのが分かる。本来主軸の4人が打線から外れてはいるが青道の強力打撃陣を打ち取るために奮起していたのだ。

 

点を取ったことで一瞬集中力の切れた隙を穿たれ、同点に追い付かれたところで更に好打者が続く場面。武藤さんのように三振を奪えずに、打たせて取るのが精一杯であった兵藤さんの体力は消耗していた。現在7回半ばで球数130を越えていることから分かるであろう。

 

誰もが簡単にはアウトにならず、相手エースを消耗させていく打線。怪物世代のどこからでも点が取れるというのは、青道というチーム全体で控え選手ですらそれが徹底できているから。チーム特有の雰囲気が相手エースを泥沼へ引きずり込んでいく。

 

 

ギィン!

 

 

3番打者の哲さんが、7球目の三振をとりにきた低めのフォークを1,2塁間へと綺麗に転がし、打球の速さでファーストとセカンドの間を食い破るシングルヒットを放つ。

 

「しゃあ!ナイバッチ!」

 

「いけいけー!この回で勝ち越すぞー!」

 

打席に向かいながら、ベンチで監督に言われた言葉を思い出す。

 

「後ろを信じて繋げ。お前の後ろにはクリス、そして代打の用意をしている道川が控えている。自分のバッティングをしてこい」

 

自分のバッティング‥‥自分の打ちたいものを打っていくのか?4番としてどうするかを考えて打っていくのか?‥‥

 

いきなりそういうことを言われてもよく分からない。ただ兄貴には自分の理想とするスイングを探せと言われたのは覚えている。

 

「ボール!」

 

完全に見えている。ストレートが外れていくのを見送る。

 

兄貴は自分もまだ理想的なスイングは見つかってはいないと言っていたが、どういうことであろうか。あれほどの打者ですら自分のことをはっきりと理解していないのか。

 

「ストライク!」

 

インコース低めギリギリに決まるフォークの球筋を、しっかりと記憶するように目だけで追う。

 

兄貴ですら理解していないものを考えるだけ無駄かと開き直る。来た球をただ自分が持ちうるもの全てを出しきってぶつける。結局兄貴とは違って、自分みたいな凡才はそれしかできないのだ。何も考えずに次にくるボールを打つと決める。

 

サインだけ確認し、頭のなかを空っぽにして、兵藤さんの動きだけに集中する。集中する?できているのか?これは。

 

全てがスローモーションに見え、兵藤さんのボールを持つ手がツーシームを投げようとしているのが分かる。

 

これはインコースの低めに決まる。何故かそう思えたのでスイングを始動する。身体に力は入らずただただ自分の持つバットが煌めき、いつも素振りをしている軌道上を素直にバットが滑り降りていく。

 

その軌道とは少し外れていたはずのボールが、ホームベース直前で軌道に吸い寄せられるかのように沈む。

 

その瞬間、下半身のみを動かし全ての力をバットからボールへと注いでいく。

 

 

 

「‥‥」

 

 

 

全ての音が消え、バットを振り切った瞬間弾かれたように1塁へと走る。ランナーコーチャーの回す手が見え1塁を蹴る。1,2塁間半ばで

 

「影次!すべれー!」

 

頭から2塁ベースへと突っ込むと、ベースに触れた数瞬後に背中に触れるものがあった。

 

「セーフ!」

 

ベースを踏んだまま起き上がり、哲さんが3塁にいることを確認する。お互いに拳を突き出す。

 

「5番 レフト 滝川くん」

 

1アウト2,3塁、青道絶好の勝ち越しチャンス。

 

「クリスさん!行けますよ!」

 

そう言って軽く足踏みする。

 

初球のストレートを見逃して1ストライク。余裕のある雰囲気でクリスさんは兵藤さんを見つめる。

 

 

キィン!

 

 

鋭く速い打球がサードを越える。懸命に走るが

 

「ファール!」

 

3塁審の声で止まって2塁へと戻る。そこから兵藤さんは感じるものがあったのかフォーク、ストレートが連続で外れて2-2の平行カウントとなる。

 

 

ガギン!

 

 

ピッチャー前で高く跳ねる打球となった。哲さんはその間にホームを陥れ、俺は3塁へと走っていく。チラッとサードコーチャーを見ると腕を回している。兵藤さんを見ると、頭の上を越えた打球を捕球しようと1塁を確認しながら2塁方向へと身体を向けていた。

 

いける!

 

3塁を蹴り、更に加速してホームへと向かう。視野の左側では兵藤さんが反転して1塁へと送球するのが見える。

 

自分の限界を越えて足を回転させていく。

 

「ホーム!ホーム!」

 

こちらに気づいたキャッチャーがファーストへと声をかける。

 

滑り込んで左手でホームベースを触り、スッと立ち上がり哲さんと右手でハイタッチをする。

 

「セーフ!」

 

審判の宣告を聞いて左手でガッツポーズをする。

 

「しゃあ!」

 

ホームへと投げられたボールをキャッチャーが後逸しており、カバーがいないためクリスさんは2塁を陥落させる。

 

「6番 城之内くんに代わりまして道川くん。バッターは道川くん 背番号3」

 

勝ち越した後、続く1アウト2塁のチャンスで代打の切り札 道川さんを投入する青道に対して、応援が更に激しくなる。大阪桐生エース 兵藤さんは笑顔を見せると、道川さんへ真っ向勝負を挑んだ。その3球目

 

 

 

ドゴォン!

 

 

 

「バッターアウト!」

 

今日1番のストレートがインコース高めにズバッと決まり、道川さんを三球三振に仕留める。明らかに限界を越えたエースの力投に、大阪桐生側からの応援が強くなっていく。

 

そのままの勢いで兵藤さんは7番 山崎さんをショートゴロに抑え、ピンチを乗り切った。

 

 

 

ドォン!

 

 

 

青道ベンチからミットを揺るがす重苦しい音が聞こえる。音のした方を見てみると兄貴が岸谷さんに対してボールを投げていた。

 

「まじ?」

 

そう思わず声が出てしまうが

 

「影次はショートへ!山崎と交代で東はサードへ!玉森と交代で柳はセンター!道川と交代で栃谷はライトへ!藤谷と交代で岸谷はキャッチャー!武藤のところへ晴之!久々の公式戦でのピッチャーだ。やってこい」

 

「はいっ!」

 

 

 

青道オーダー

 

1 柳 センター (左)

2 神田 セカンド (左)

3 結城 ファースト (右)

4 西影次 ショート (右)

5 滝川 レフト (右)

6 栃谷 ライト (右)

7 東 サード (右)

8 岸谷 キャッチャー (右)

9 西晴之 ピッチャー (左、右オーバースロー)

 

 

 

兄貴の登板にスタンドからざわめきが聞こえる。

 

その初球

 

 

 

ドゴォン!

 

 

 

打者の膝元へ全く垂れないストレートが突き刺さる。電光掲示板を見るとそこに記されていた数字は151km/h。余力を残してゆったりと投げられたはずなのにこの球速。

 

それにスライダー、カーブがポンポンと低めに決まり、ストレートと思えばシュートで詰まらされる悪魔のようなピッチングを、ここまで休養十分な兄貴が試合後半から繰り広げる。

 

それに対して、大阪桐生打線はなす術なく凡退をしたが、兄貴の投球に呼応するように兵藤さんは意地を見せつけ、8回3失点で完投を成し遂げた。負け投手ではあったが、ドラフト注目選手を多数擁した青道打線を唯一5失点以内で抑えきった投手として、兵藤さんはプロ注目筆頭となった。

 

また兄貴は国体の後のインタビューで、投手としてもプロで通用するかチャレンジしてみたいと答え、ドラフト会議を目前として爆弾を放り込んだのであった。

 

 

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