至高の一打   作:もぐもぐファンタ爺

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改めて新チーム

ドラフト会議の裏でも高校野球は止まらない。その放送1週間前には秋季東京都大会の本戦抽選会が行われていた。

 

哲さんに太田部長が付き添う形で青道はくじを引いたが、今回はどこかのブロックに強豪が集中するということはなかった。

 

注目されている高校としては我らが青道高校を筆頭に、エース 財前さんが君臨する国士舘。総合力の高い帝東。1年生に粒揃いの選手が揃った稲城実業。青道の対抗馬として真中さん、天久のダブルエースと主砲 大前さんを抱える市大三高。

 

前回の青道1強とはうってかわって、この5強であろうという前評判であった。これら5校は以下のように別れた。

 

Aブロック:青道、市大三高Bブロック:帝東
Cブロック:稲城実業Dブロック:国士舘

 

 

 

その中でもエースの純さん、そしてクリーンナップの哲さん、俺、クリスさんを抱える青道は、力を落としたが優勝候補筆頭と噂されていた。しかし、その前評判とは異なり、実情として青道はたくさんの問題を抱えていたのである。

 

まず1つ目として打線があまり機能しないこと。クリーンナップの3人は大丈夫だが、1番 倉持は積極的に振っていくのはいいのだが出塁に難があり、2番 亮さんは倉持のぶんも球数を稼ごうとして結果的にスランプに陥っていた。

 

6番に昇格した御幸はクリーンナップがお膳立てしたチャンス以外に打てず、7番 増子さんはパワーはあるものの大振りしていて率が残せない。ホームランは打てるのだが確実性が欲しいところ。

 

8番 門田さん、坂井さん、白州は今のところ横ばいで、誰が出ても厳しいだろう。真木が外野手として入ることもできるが、成長痛のため無茶はさせれない。この3人に頑張って欲しい。

 

 

 

次に2つ目の問題として投手陣が挙げられる。こちらの方が深刻なのだが、エースである純さん以外が計算できないのである。真木は成長痛で無理はできない。丹波さんは突然の乱調と、ヒットを打たれると腕の振りが鈍って連打されてしまう欠点が直らない。

 

川上は連続死球からいまだ立ち直っておらず、マウンドを任せるのは酷であろう。武器であったスライダーのキレが失われている今、登板しても傷を広げるだけ。槙原さんは四球癖、安定感のなさが新チームで登板機会が増えると露呈してしまった。

 

 

 

最後にこれが1番大きいのだが、丹波さんがゲーム形式でのバッティング練習を終えた後、右肘の違和感をクリスさんに相談したところ即病院へ。結果として秋大会の本戦出場が絶望的になったのである。

 

カーブをより曲げようとしたり、キレを鋭くしようとしたりと試行錯誤をするうちに肘へ負担がいっていたようだ。聞いた話だからこれが正しいかは分からないのだが。

 

丹波さんを枠から外し、1年生ピッチャーの川島が登録されたものの、力量としては中堅校に通用するか疑問がある程度。焼け石に水である。

 

現に練習試合では川島、槙原さんが7回5~7失点→純さんが締めるパターンと純さんが完投するパターンのみの継投?状態となっており、丹波さんが抜けた穴は大きかった。

 

こうなってくると川上をただ置いておくわけにもいかない。

 

 

 

そういうことで1軍メンバーである1年生、全員ではないが俺と御幸、真木の3人は川上をなんとか使える状態にできないかと、哲さんや純さんに相談されていた。

 

「テメェら何かいい案でもあるか?無理そうなら俺がガツンと言ってやろうか?」

「純、やめておけ。1年生の間で壊れたガラスのノリちゃんと呼ばれてるんだ。お前の語気で直接的な言葉を聞いたら粉々になるぞ」

「チッ!情けねぇ」

 

純さんと哲さんは頭を悩ましている。それを見て苦笑いをしていた御幸が

 

「ああいうのは自分で乗り越えるものですし、そういった強さがないと今後もやっていけないでしょ」

 

とニヤけながら言う。一見突き放すような言葉に真木は少しムッとした顔になるが、こらえて咄嗟に出そうになった言葉を飲み込む。仕方がないので

 

「でも御幸、川上がいないと甲子園へは行けないぞ。正捕手として何かしないのか?」

 

俺がそう聞くと

 

「投げればなんとかなるだろ。実戦形式の相手が3年生だから厳しいように見えるけど、ドラフト1位の先輩にしっかり投げきってんだ。倉持が壊れたガラスのノリちゃんってからかってるけど、あいつはとうに前を向いてる。女房役としては大丈夫だと思ってるぜ」

 

そう自信ありげに補足するので、真木はそれならばと静観することにしたようだ。御幸も冷たいやつではないが、ポンッと結論を言って肝心なところを伝えない。自身がどう思っているかを上手く伝える術を心得ていないように感じた。

 

キャッチャーとしてグラウンドに立つ時はしっかり相手に想いを伝えるのに、普段の等身大の御幸はある種不器用なようだ。不器用と言えば真木も自分のことはあまり周囲に話さないタイプに思えるので、注意が必要だろう。

 

 

 

川上の話題はそれでよしとして、野球雑誌の特集について話題が移っていた。純さんが

 

「かぁー!眼鏡姿が端正な青道の1年生イケメン正捕手 御幸 一也に迫る!得点圏で必ず回されるから最多打点とってるだけのやつがデカデカと取り上げられやがって!いい気になんなよチクショー!」

 

と御幸に絡んでいた。そう、純さんは最速140キロを越える直球を投げる青道のエースなのだが、身長が低いため伸び代がないだろうと、実績があってもライターからの評価は低めで、特集自体は少ないのだ。

 

ポッと出の活躍したての御幸に嫉妬しまくっていた。特に御幸のリードがいいから純さんで抑えることができている。そう書かれていた記事すらあったため、純さんは若干ピリピリとしていた。

 

それでもガンガン言いたいことを言ってスッキリして、実際の試合ではエースとして相応しい振る舞いを続ける姿には尊敬しかない。意外と御幸にはこういう言いたいことをしっかり言うタイプのピッチャーが合ってるのかもしれない。

 

川上は俺や真木、御幸、特に倉持には遠慮がちな態度をとるため、自分たちからも関係を改善したり、他の選手、例えば樋笠や白州と仲良くなってくれればと思う。兄貴の世代とバリバリやっていた俺達3人に遠慮するのは他の2軍選手の同級生にもいるから分かるが、倉持のは相性だろうな。

 

「ちょっと飲み物買ってきます!いるものとかありますか?」

「いや、大丈夫だ」「おぅ!おれもこいつがあるからいいや」

「わかりました!行ってきます」

 

 

 

少し歩きながら1人で考える。

 

野球やるより人間関係のが難しい‥‥

 

今思えば兄貴の世代が特殊すぎたのだ。兄貴を筆頭に大人びたシニア組がチームを引っ張り上げ、先輩に言うのはあれだが、お調子者の東さんが場を盛り上げる。武藤さんはメンタル的に不安定だったらしいが、それも2年の秋には改善して弱点のない覇権チーム。

 

羨ましくないと言えば嘘になるが、御託はいいから素振りだ!を地で行く、言葉ではなく背中を見せて引っ張るキャプテンの哲さん。オラついて煩いが決めるときは決めるエースの純さん。顔からして高校生を逸脱した存在感のクリスさん。

 

軸となる3選手がいるため、前チームからはかなり劣るものの、1つ1つ積み重ねていけば強いチームになる。俺は今までの雰囲気からそういうふうに感じていた。そう、秋の1次予選が始まるまでは。

 

キャプテンとして迷いを見せるが、持ち直した哲さんは再び迷い、崩れるときがくるかもしれない。小さい体にチームを背負い、1人で秋の都大会を投げ抜くと覚悟を持ったエース純さんが大会中に潰れるかもしれない。

 

そんな不安が自身の中で大きくなっていく。

 

「珍しく辛気くさそうな顔してるな」

 

いつの間にか地面を見ていた自分に声がかけられる。顔をあげるとそこにはクリスさんがいた。

 

 

 

……

 

 

 

「なるほどな。確かにそういったことは今後あるだろうな」

 

納得したようにクリスさんはうなずく。

 

「クリスさんは不安に思うことはないんですか?」

 

俺がそう聞くと

 

「確かに不安に思うことはある。だが、前チームも最初はこんな雰囲気だったよ。西さんが離脱した直後は最悪だった。東さんは塞ぎこんで練習に出てこない。柳さんはどこか上の空」

 

クリスさんは思い出しながら懐かしむように笑う。

 

「キャプテンの神田さんはチームをまとめようと空回りして、栃谷さんとは意見が合わずに衝突。玉森さんは一匹狼のマイペースで我関せず。岸谷さんと武藤さんはそれぞれキャッチャー、ピッチャーをまとめるので精一杯。その前のキャプテンだった藤堂さんはやっぱり偉大だったと思い知ったよ」

「え!そんな状態で秋大会優勝したんですか?」

「前の代が西東京大会で破れて準備期間が長かったのもあって、徐々にまとまりが出てきたんだが、西さんの一言でチームが甲子園へ動き始めたんだ」

 

クリスさんはそう言ってこちらを力強く見てくる。

 

「確か復帰戦が甲子園か~みたいなことを言ってみんなに火を着けてたよ。」

「‥‥」

「全員で1つの目標を持ったチームは強いぞ。完成度は藤堂さんがまとめていた時の方があったが、ここぞという時の力強さは西さんの世代の方が強かったと思うよ」

「1つの目標ですか」

 

買ったお茶を1口飲み喉を潤す。

 

「あぁ、今のチームに足りないものだな。前チームには劣るが、そこまで俺達は捨てたもんじゃないと思っている。しかし影次、お前は1年なのに色々と考えていたんだな」

「いえ、国体で感じたものをまとめていただけなので。何か自分がやらないとって気持ちがしてました」

「フッ、お前らの代の方が大変だろうに。俺らも大概だがお前らは個性派の集まりだからな。個が過ぎればまとまりがなくなり、チームがバラ‥‥いや‥‥そうだな」

 

そう言いかけるとクリスさんは軽く笑う。

 

「どうしたんですか?いきなり笑って」

「いや、なに。東さんはすごいなと思っただけだよ」

「はぁ‥‥」

 

よく分からないがあまり聞かない方がいいだろうか。

 

「とにかく、影次は青道の誇る4番打者としてどっしり構えてくれていたらいい。チーム全体のことは俺達2年生がどうにかする。4番打者たれ。これはお前にしかできないことだ。頼む」

 

そう言ってこちらに頭を下げてくるのを慌てて止める。

 

「えぇっと!!わかりましたから!頭上げてくださいよ!」

 

 

 

そこからはいつものように、たわいのない話をするのであった。

 

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