side 川口 2年生 ピッチャー
西が空振り三振をくらうと、ベンチの1年生達が動揺しているのが見えた。隣にいた柳を落ち着かせる。
今まで試合で、西が空振りをすることはなかった。めちゃくちゃ悔しそうな雰囲気だが、無表情で帰ってくる西に、お前でも当てれないボールがあるんだなと言うと
「次こそは」
と眼をギラギラとさせながら呟いてきた。綺麗な金属音がしたグラウンドに目を向けると、相手先発の田辺は、西を抑えて気が抜けたのか、中山さんにツーベースを打たれていた。
次打者の東は‥まぁ、西の三振に動揺して、仲良く三振していた。
西は基本に忠実なバッティングをする。特に1打席目ではそれが顕著で、猫の皮を被ったような、あまり気迫のない雰囲気を醸し出す。そして、その無害そうな雰囲気を出しながら結果を出していく。修北の最後の打席以来見せていなかった、野球を心から楽しむようで、それでいて相手の心を折る獰猛さ。
同じベンチにいればわかる。1年生で1番安定感があるのは柳だ。オカマ口調でふざけているように見えるが根は真面目だ。勝負を楽しんで、東や西と競うようにバットを振る。
東は年相応で、野球を楽しみながら精一杯やっている。
野生のゴリラのようでいて、情に厚く、メモをまとめたノートをこっそりと、大事にしまっているのを見かけたことがある。
少女マンガに詳しい意外と繊細なやつだ。
西はチームメイトが楽しそうに野球をしていると、とても嬉しそうな雰囲気を出す。かつてできなかったものを取り戻すかのように、チームプレイに過剰なほど執着することで、持ち味を失っているように感じていたのが、少し心配だと藤堂と話し合っていた。
スタメンが守備に移るためにグラウンドに向かう。
遠藤さんの調子を見るといつも通り、相手打線を抑えそうな感じがする。だが、相手はあの超高校級右腕の田辺 俊樹だ。
あの西が修北の最終打席に見せた、おそらく本来の姿を、わずか1回の戦いで引き出した相手のエース。
珍しく投手戦になりそうだ。
ふと右手を左肘に添える。
去年の冬合宿の接触プレー、調子に乗っていつもなら取りに行かないフライを取りにいき、セカンドの同級生、角田とぶつかり、一緒にこけて、判断を間違えるほど練習で疲労していた俺の左腕に、角田の全体重がかかった。
骨折をした左腕が完治して、ボールを久々に投げると、全くしっくりこない。狙ったところにボールがいかない、キレもノビもない。どこかまだ違和感のある左肘を守るように、右手で擦りながら、左拳を強く強く握りしめた。
[実況]
春季東京大会の準決勝!
青道と市大三高の戦い、現在7回の裏が終わって、1-3と市大三高がリードしています。市大三高の田辺くんの前に、6回表の攻撃で、青道はなんとか西くんのツーベースから、中山くんのバント、東くんの犠牲フライでとった1点のみと、なかなか打ち崩すことができておりません。
先発の遠藤くんも粘り強い投球を続けていますが、選抜ベスト4を経験してきた打線相手に、非常に苦しい状態が続いています。
青道に登録されているピッチャーですが、ベンチには3年生の糸原 隼人くん、2年生の川口 望くんがいますね。
おっと2年生の坂井 祐吾くんもいました、失礼しました。
この坂井くんの弟さんが、昨秋のシニアの大会で好成績を残しているとの情報もあります。兄弟で同じ高校になるとかはあるんですかね。
話が脱線してしまいましたが、青道の遠藤くんがなかなか厳しい投球を続けていますから、そろそろ替えどきとは思いますが、片岡監督はどう動くのでしょうか。
地面のならしが終わったため、8回の表に移ります。
片岡メモ
3年生 糸原 隼人 ピッチャー
右投げ右打ち
オーバースロー
コントロールが良く、130キロ前半のストレートにスローカーブ、チェンジアップを混ぜた緩急を武器にし、遠藤と協力して投げられるようになったツーシームで、凡打を狙うピッチングスタイル。球の軽さが主要な欠点として挙げられる。
中堅校までには通用するが、強豪校にはパワーや、技術で攻略されることが多く、遠藤と比較すると心許ない。
川口が怪我をしてから、2番手ピッチャーの位置付けとなっている。
2年生 角田 武雄 セカンド
右投げ右打ち
2年生では1番背が高く、がっしりとした体をしている。
バッティングはパワーがあるものの、ボールに当てる技術に乏しい。守備範囲は狭いが、それゆえにエラーは少なく、堅実な守備をする。ノックで少し横にボールを打つと、ファインプレーに見えるような飛び込みを観客に見せつける。