少し肌寒さを感じ、木の葉が赤く色づき始めるなか、秋季東京都大会の1回戦がおこなわれた。
青道の先発はエースである純さん。ストレートとチェンジアップの緩急に加え、9月中に覚えたツーシームで詰まらせて凡打の山を築き上げる。
打線はクリーンナップ中心に低く鋭い軽打を心がけ、7回までに大量得点をあげて、8-0で青道勝利に終わった。
しかし、そのなかでも倉持、亮さん、増子さん、門田さんの調子は上がらず、この4人が繋がればもっと大量に点数を取れ,5回コールド勝利できていたかもしれないと思わされた。
OBはコールドしたことに満足したようで、1次予選の後から出ていた、打線を不安視する声は一旦おさまったのだが、明らかに力を出しきれていない打線に対して、片岡監督、落合コーチら首脳陣はよりよい打順を模索していると、哲さんからは聞いている。
試合前のミーティングが始まると、偵察班から2回戦の相手である、明大一高の情報が提供された。
まとめると、エースは左腕の2年生ピッチャー 酒井さん。最速138キロのオーバースローで、スライダー、シュートを武器とする。安定感があり、基本的に試合を作るのはこのピッチャー。
そして、このチームのキーマンは、4番ショートの2年生 相田さん。非常に身体が大きいが機敏な動きのできるスラッガーで、ほとんどの得点に絡む攻撃の要といったところ。
打撃が相田さんなら守備に関してはキャッチャー、キャプテンの斉藤さんがキーマンであろうか。的確なコーチングに、常に落ち着いた穏やかな物腰でチームをまとめることに長けている。
個々の力では青道の方が上だが、チームとしてはどうなのか?それが試される試合になりそうだと俺には感じられた。
片岡監督は
「明大一高は新チームながらよくまとまったチームだ。油断はできない。エースである伊佐敷を登板させたいところだが、3回戦ではおそらく市大三高と戦う可能性が高い。連戦よりもしっかりと準備してもらった方がいいだろう。そこでだ」
と言いながら、スッと1人の選手を見る。
「槙原!お前に明大一高戦の先発を頼みたい。やってくれるな?」
「はいっ!」
緊張した面持ちで槙原さんは答える。
槙原さんも小柄なピッチャーではあるが、最速137キロの直球にカーブ、フォーク、シュートを混ぜ合わせて打ち取っていくタイプだ。四球癖さえなければいいのだが、なかなか治らない。
そんな槙原さんが先発であることに不安はあるが、今現在のチームでは現状2番手。頼らざるをえない。
槙原さんは1学年上にいた井手さんの投球に憧れて、今までであれば際どいところに投げようとしていたのだが、ストライク先行を意識して、多少甘くなってもゾーンで勝負するとのこと。御幸とのやりとりを聞いていたが、果たしてそれができるかどうか。
そこが明大一高戦の肝になってくるだろう。出来が悪ければ、そこから川上、川島が投げるだろうし、最悪の場合は純さんが投げきって、3回戦の市大三高戦も完投することになるだろう。
丹波さんが抜けたのが痛すぎる。そう思わずにはいられなかった。
「続いて打順だが‥‥」
……
秋季東京都大会 2回戦
後攻 青道 スターティングオーダー
| 1番 | セカンド | 小湊 | 左打 |
| 2番 | ショート | 楠木 | 右打 |
| 3番 | サード | 西 | 右打 |
| 4番 | ファースト | 結城 | 右打 |
|---|---|---|---|
| 5番 | レフト | 滝川 | 右打 |
| 6番 | キャッチャー | 御幸 | 左打 |
| 7番 | ライト | 坂井 | 右打 |
| 8番 | ピッチャー | 槙原 | 右打、右オーバースロー |
| 9番 | センター | 白州 | 左打 |
先攻 明大一高 スターティングオーダー
| 1番 | レフト | 長谷川 | 左打 |
| 2番 | センター | 江川 | 右打 |
| 3番 | ピッチャー | 酒井 | 左、左オーバースロー |
| 4番 | ショート | 相田 | 右打 |
| 5番 | サード | 佐藤 | 左打 |
| 6番 | ライト | 飯島 | 右打 |
| 7番 | キャッチャー | 斉藤 | 右打 |
|---|---|---|---|
| 8番 | セカンド | 君嶋 | 右打 |
| 9番 | ファースト | 海老名 | 右打 |
*打順太字はキャプテン
昨日のミーティングで打順を聞いてから、4番を外されるという事実をうまく消化できないまま、試合時間になってしまった。
試合直前にベンチ前で片岡監督の話を聞く。
「準備はいいか!」
「おう!」
片岡監督は1つ大きく深呼吸をする。
「槙原!先発として役割を果たしてこい!川島!川上!お前ら2人はリリーフとして待機しておいてくれ!‥‥いけるな?‥‥川上」
「はいっ!やれます!」
「よし!いってこい!」
「おう!」
返事をして3塁へと向かうが、いつもより足取りが重い気がする。これではいけない、迷惑をかけてはいけないと思い、グッと伸びをしてから、気持ちを試合に切り替える。
槙原さんは明大一高の先頭打者 長谷川さんに対して、アウトローの直球から入りストライクをとる。続く2球目、インハイへのストレートをファールにされるが、3球目のボール球となるフォークを振らせて空振り三振に仕留め、いいスタートをきった。
「1アウトー!ここからテンポよくいこう!」
久しぶりのスタメンで、ショートを守る楠木さんは笑顔でチームを盛り立てていく。その影響か隣を守る亮さんの足取りは軽く、内野陣の雰囲気は良さそうだ。
「さぁ!こいー!」
ボールを呼んで自分の気持ちを、チーム全体の気持ちを高めていく。
ギィン!
「ショート!」
楠木さんはしっかりと回り込んで捕球して、1塁へと送球する。
「アウトー!」
「2アウト!槙原いいボールいってるよ!」
「おう!」
兄貴や神田さんの教えだろうか。楠木さんは倉持とは違って、しっかりと周囲に声をかけながら、常に笑顔でチームを鼓舞していく。
「影次!次ボテボテの打球注意ね!」
「はいっ!」
新チームではスタメンにいなかったタイプの内野手のおかげで、哲さん、亮さんもよい方に引っぱられて声を出していく。
「槙原!こっちに打たせてこい!こっちなら踏むだけですむぞ」
「こっちに打たせてもいいよ。俺が3アウト目はとってあげるよ」
槙原さんに発破をかけていく。槙原さんも調子が出てきたのか、しっかりと試合に集中しているようだ。
パァン!
「ストライク!バッターアウト!」
インコース低めギリギリに決まるフォークで空振り三振をとり、初回を無失点と好投する。
ベンチに戻ると
「いい守備だった。攻める方でも相手を圧倒していくぞ!小湊!」
「はいっ!」
「自分らしく、思いきってやってこい」
片岡監督は力強く亮さんの背中を叩いて打席へと送り出す。
「初回から相手にプレッシャーをかけていくぞオマエら!」
「おう!」
純さんの声に返事をして試合に集中する。
亮さんはストレート、スライダー、シュートを後続に見せると、役目はすんだとばかりに軽打してライト前ヒットを放つ。
続く楠木さんはバントをして、1アウト2塁で俺が打席に立つ。ここはしっかりと打点をあげる場面だが、いまいちしっくりとこない。打席に立つとなぜ4番から外されたのかを考えてしまう。
キィン!
「あっ」
打球が上手く上がらずにショートライナーとなる。
「ナイススイング!当たりは良かったぞー!」
若干自分の思い描いていた軌道とはずれていたため、それを修正するためにベンチに戻ってからも、邪魔にならないようにバットを軽く持つ。こんな状態では4番にふさわしくない。
続く哲さん、クリスさんの連続ヒットで先制点をあげ、更に2アウト1、3塁の場面。
カキィン!
御幸の放った打球はライトスタンドに吸い込まれていった。
「あはは、入っちゃった」
「御幸ー!強打の正捕手いいぞー!」
「ガンガン打ってけー!」
ボーッと同級生が活躍している姿を見る。
「スリーアウト!チェンジ」
‥‥
「おい!影次!守備いくぞ!」
「はっはい!」
グローブを準備して3塁へと向かう。
その後、槙原さんは安定した投球を見せて、3回までパーフェクトピッチングを続ける。しかし、相手エースは持ち直したのか、2回を三者凡退で抑え、3回に哲さんがヒットを放つものの、楠木さん、俺、クリスさんは打ち取られてしまった。
俺にもいい当たりは出るが、どうも打球が上がらない。
……
「ボール!フォアボール!」
4回表、槙原さんは先頭打者である1番 長谷川さんに四球を与えてしまった。
「槙原ドンマイ!次に切り替えよう!」
すぐさま楠木さんは槙原さんに声をかけて、立ち直らせようとする。
しかし
「フォアボール!」
連続四球でノーアウト1、2塁のピンチとなる。打席には相手エースの酒井さん。自分の失点を取り返そうと打ち気が全面に出ている。御幸はたまらずマウンドへ向かう。こういう時の御幸はピッチャーをのせるのが上手いので、完全に任せておく。
内野はゲッツーシフトをとり、外野は中間守備をとる。その初球
キィン!
速く鋭い打球が2遊間を越えて外野を強襲する。
「前へ出るな!後ろだ!」
そう言ったものの、それでは遅かった。1歩目を前に踏み出したセンター 白州は伸びていく打球に対処できず、ボールは頭の上を越えていく。ライトの坂井さんが懸命に回り込んでボールを中継へと投げるが、ランナーを一掃するタイムリーツーベースヒットとなった。
打ったエースの酒井さんは2塁上で雄叫びをあげ、それに呼応するように相手ベンチからは歓声が上がる。
この流れはまずい。チラッとベンチを見るが片岡監督は動かず、槙原さんを真剣な目で見ている。落合コーチは冷静に川上に投球練習を指示していた。
そういったベンチの動きを見て槙原さんは腹をくくったのか、腕をしっかり振り切り、思いっきり投げるようになった。すると面白いようにコースにボールが決まり始める。
ギィン!
打ち取った打球、サッと亮さんがボールを右手で掴むと、こちらへボールを投げてくる。素早くタッチするが
「セーフ!」
ギリギリのところでランナーの手の方が早かった。連続フォアボールに連続エラーでピンチが広がる。4-2とリードはしているが、いまだノーアウト1、3塁。バッターは5番 佐藤さん。
この場面を抑えるかどうかでこの試合が荒れる。そう直感が告げる。
「タイム!」
審判の声が聞こえてベンチの方を向くと、伝令として純さんがこちらに向かってきていた。