至高の一打   作:もぐもぐファンタ爺

131 / 148
秋季東京都大会 2回戦

後攻 青道 スターティングオーダー

1番セカンド小湊左打
2番ショート楠木右打
3番サード西右打
4番ファースト結城右打
5番レフト滝川右打
6番キャッチャー御幸左打
7番ライト坂井右打
8番ピッチャー槙原右打、右オーバースロー
9番センター白州左打



先攻 明大一高 スターティングオーダー

1番レフト長谷川左打
2番センター江川右打
3番ピッチャー酒井左、左オーバースロー
4番ショート相田右打
5番サード佐藤左打
6番ライト飯島右打
7番キャッチャー斉藤右打
8番セカンド君嶋右打
9番ファースト海老名右打


*打順太字はキャプテン

高校名
明大一高
青道


4回表ノーアウト1、3塁
バッター:5番 佐藤


秋季東京都大会2回戦 明大一高戦 part2

内野陣全員がマウンドに集まる。4回表ノーアウト1、3塁のピンチ。全て自分達のミスが連鎖して追い詰められている状態。

 

伝令である純さんがマウンドにくると、槙原さんの背中を叩いて

 

「おぅ!武藤さんや井手さんが守ってきたマウンドだぞ!そんなしょっぱい顔してんじゃねえ!代わるか?あぁ?」

 

といきなり槙原さんにガンをつけ始めた。

 

「いや、投げきるよ。ちょっと力が入っただけだ」

「ふんっ!どうだかな!井手さんに憧れんのもいいけどよ。それで井手さんの、青道投手陣が守ってきたマウンドを汚すんじゃねえぞ!2つのエラーはお前の四球が原因だ!反省しろコラ!」

「‥‥」

 

槙原さんは無言で頷き、気合いの入った顔つきになる。

 

「哲!亮介!やっといい顔になった新米先発ピッチャーを頼むぜ!槙原!ここで負けたら怪我した丹波の霊が出てくるからな!」

「俺はまだ死んでない」

「オマエらを信じて肩は作ってないからよ。頼むぜ

 

そう言うと純さんはベンチへと戻っていった。

 

「ふがいない投球をしてすまん!ここから力を貸してくれ!」

 

槙原さんはとても悔しそうな顔をしている。そんな槙原さんの左肩に哲さんが手を乗せる。

 

「確実に1つずつアウトをとっていくぞ。俺達はチームだ。槙原‥‥お前だけに背負わすことなどしない‥‥やるぞ!」

「あぁ!」

 

その言葉を合図に各ポジションに戻る。

 

3塁から全体を見渡そうとすると、哲さんが深呼吸して喉の調子を確かめているのがわかる。1回頷くと

 

「さぁ!ここから抑えていくぞ!足を動かせ!ボールがくるぞ!」

「おう!」

 

哲さんの言葉に自然と返事をさせられる。言われたように足を動かして、次の打球に備える。

 

槙原さんは初球、インコースのストレートで空振りを奪うと、2球目は様子を見るように、ボールゾーンへ落ちていくカーブを投げて1ー1の平行カウントとなった。

 

「スクイズあるぞー!3塁ランナー挙動不審だよー」

 

目だけが笑っていない楠木さんが3塁ランナーを牽制する。それが怖かったのか、3塁ランナーの酒井さんのリードが小さくなる。

 

 

ギィン!

 

 

打球が1塁方向へ転がっていく。哲さんがボールを捕球し、スタートの遅れた3塁ランナーを目で抑えると、3ー6ー4のダブルプレーで2アウト3塁となる。

 

「しゃあ!小湊カバー早かった!」

「内野動けてるぞー!次の打者で切るぞ!」

 

せめて守備ではと集中していく。派手なプレーはなくていい。今やれることを1つ1つこなすことが大事。打撃がスランプだと感じている時は尚更そうだと兄貴に言われている。

 

 

キィン!

 

 

体の正面で強烈な打球を止め、しっかりとボールを掴むと1塁へと送球する。

 

「アウト!」

「影次ー!ナイスガッツ!」

 

ショートの楠木さんに背中をポンッと軽く叩かれ

 

「気合い入ってたね。さすがだよ」

「いえ‥‥打撃で役に立てていないので‥‥」

「‥‥?‥‥!」

 

ベンチに戻り、御幸を応援する。

 

 

ポコン♪

 

 

テンポよくピッチャーゴロを打ち、1アウトとなる。

 

「ヒャハッ!御幸!集中しろ!」

「得点圏以外は相変わらずか」

 

倉持はスタメンから外れたからか声を荒げ、先輩達は苦笑いしている。坂井さん、槙原さんも続いてアウトになり4回裏は無得点で終わってしまった。

 

「槙原!6回まで頼むぞ!」

「はい!」

 

マウンドに立つ槙原さんは完全に落ち着いたようで、先頭打者の7番 斉藤さんをセカンドゴロに仕留める。井手さんほどコントロールは良くないが、低めに丁寧にボールを集め、8番、9番も内野ゴロを打たせてテンポよくアウトにした。

 

「槙原さんナイピッチ!」

 

声をかけると笑顔で右手をガッツポーズして応えてくれた。ベンチに戻ると片岡監督は

 

「よく持ち直した。槙原は次の回がラストだ!しっかり締めるぞ。倉持!代打でいけるな?」

「はい!」

「倉持から小湊、楠木、影次へと繋がっていく。形としては上位打線となる。影次!」

「へ?はい!」

 

いきなり名指しされてびっくりする。

 

「4番から3番に変わってもらったが、期待しているのは実質4番としての仕事だ。打者としては新チーム随一と思っている。影次‥‥頼めるな?‥‥」

「はい!命にかえましても!」

「キャラちげぇぞ!」

 

我ながら単純なのだろうか、自分が足りなかったから、そういった理由で代えられたのではないと知って、いや、監督に信頼されていると改めて全員の前で言葉にされて身体に力が漲る。

 

「少しは西さんに恩を返せたかな?」

 

倉持は初球の難しい球を上手くサード前へ転がし、ギリギリで1塁セーフとなる。

 

「あの足で強襲セーフティやべぇ!」

「あいつクソ速いぞ!」

 

まわせ

 

倉持は相手エースを塁上から翻弄し、2球牽制を引き出すがリードをそのまま大きくとる。続く亮さんは右中間に綺麗に弾き返した。

 

「ボール3つ!いや4つだ!4つ!」

 

倉持は最短距離でダイヤモンドを駆け回り、明大ナインを嘲笑うかのようにスライディングなしで本塁を陥れる。

 

「おい!ボケッとすんな!」

 

意識の隙をついて亮さんは2塁を陥れる。楠木さんはこちらを見て微笑むと右打席に立つ。

 

まわせまわせ‥‥やり返させろ

 

漲って抑えきれそうにない力を少しでも発散するために、普段から使っている相棒とも言うべき黒バットで素振りをする。ネクストサークルだが関係ない。身体の動くままに本能に任せてバットを振っていく。

 

すると、相手エースと目が合う。何やら顔をひきつらせているが怖いものでも見たのであろうか。顔色は良くない。こっちばかり気にしてもいいのか?今目の前にいるのはおそらく兄貴と神田さんの弟子だぞ?

 

 

キィン!

 

 

確かに突出した才能はないかもしれない。しかし、今できる極限まで磨かれたであろうスイングが、インコースのストレートを薙ぎ払う。

 

「小湊まわれー!」

 

センター前へ弾かれたボールを見て、亮さんはホームへと突っ込む。

 

「セーフ!」

 

キャッチャーは同じ失態は繰り返さないと言わんばかりに、捕球後すぐにバッターランナーを警戒する。

 

きた

 

待ちに待っていた打席に口角が自然と上がる。

 

「お願いします」

 

短く告げバットを構えるが、キャッチャーはタイムをとってマウンドへ向かう。極限まで神経を研ぎ澄ませるが、あいつはやばいだの敬遠しようだの聞こえてくる。

 

その程度のピッチャーなのか?と相手エースの目を抉るように見つめる。

 

結局キャッチャーは立ち上がって敬遠することになったが、そのボールはおぼつかなく、たった4球の中に暴投になりそうなボールが3つ含まれていた。

 

哲さん、あの程度のピッチャーなら甲子園で山程打ち崩してきました。一気に決めましょう。

 

 

キィン!

 

 

哲さん、クリスさんはホームランを狙わずに、丁寧にセンター前へと運び、得点圏で御幸の打席となる。

 

ホームを踏んでベンチに戻ったところで、ようやく打順の意図に気づいた。9番の白州を1番に見立てたダブルチャンス打線。御幸を活かすために哲さん、クリスさんが後ろへ繋ぐように連打を重ねていく形。それなら素直に白州を1番にすればいいのになぁ。

 

「頭が冷えたようで良かったよ」

「お荷物のまま代えられなくて良かったね?」

 

楠木さんと亮さんに言われ、右頬をかいてごまかす。

 

「自分の中で4番ってのは特別だったんで。城南リトル、初めて兄貴が野球の試合しているのを見たのが、4番ショートで相手を圧倒しているところ」

 

そう言ってスポーツドリンクを飲む。

 

「俺はまだこのチームで4番やるの諦めてないですよ。それに、ショートで出ることも」

 

楠木さんを見ると嬉しそうにしている。

 

「いいよそれで。倉持には足以外負けそうな気がしないからね。ショート争いしようよ」

 

求められて右手で握手をする。

 

「でも、まずはこの試合勝たなきゃね。全力を尽くそう」

「はい!」

 

「俺を無視していい青春してるね」

「ゲッ!亮介!すまん」

「すいません」

 

亮さんは黒い笑みを見せると

 

「これは倉持は2軍落ちかなー?」

 

わざと大きい声を言う。御幸のタイムリーツーベースヒット。その後に3連凡を成し遂げた役者の1人がビクッと反応する。

 

「足だけじゃだめだよ。守備も目立とうとして派手にやるけどミスが多いし、打撃も1軍の中ではいいわけじゃない。足で内野ゴロをなんとかしてるだけ。守備は連携が大事ってリトルで習わなかったの?」

「お、おいそれは言いすぎじゃ」

 

「影次はセンターへ!増子は倉持のところに入ってサードへ!門田は坂井のところへ入ってライト!」

「はいっ!」

 

6回表、10ー2と青道の8点リード。倉持がベンチの中で落ち込むのを横目に守備に集中する。槙原さんは1番から始まる上位打線を丁寧なピッチングで、三者凡退に仕留めてすぐに6回裏、青道の攻撃となる。

 

先頭打者の亮さんが立ち直ろうとするエースから四球を選ぶ。続く楠木さんは亮さんが走ったのを見て、三遊間へ打球を低く鋭く転がす。2塁へカバーに走ったショートの虚を突く打球に相手が浮き足立つ。

 

ノーアウト1、2塁。ここで打席に立つのは俺。先程は逃げられたがここで終わらせる。そう意気込んで打席に立つ。俺から逃げても後ろには哲さん、クリスさん、そしてチャンスに滅法強い御幸がいる。

 

「いけっ!影次!」

 

チームメイトからの応援が力になる。4番を外された程度でこの声に気づかなかった自分の小ささが少し嫌になる。チームのために。そして自分のためにバットを振り抜く。

 

身体が勝手に動く、いや、動かされる。甲子園や国体ですら感じたことのない高揚感を感じながら飛んでいくボールを見届ける。

 

「君!早く走りなさい!」

 

その言葉で現実に引き戻されると、1塁から順々に踏みしめて、ホームベースを最後に確かに踏む。そこから見る景色の中には、笑顔のチームメイトとはしゃぐ太田部長がいた。

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