至高の一打   作:もぐもぐファンタ爺

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秋季東京都大会3回戦 市大三高戦 part1

西東京の雄 市大三高、3年生エース 田辺さんと1年生主砲 北川さんを擁した夏以来、青道と稲城実業に甲子園への道を阻まれている。打線における大きな核である北川さんはいたものの、同学年には絶対的なエースと呼べる存在がいなかった。

 

雌伏の時は終わった、そう言わんばかりに甲子園から遠退いていたチームの、水面下で磨かれ続けていた才能が開花し始めた。グラウンドの王様 北川小虎という存在が市大三高に残したもの。それは厳しい言葉、練習についてきた後輩たち。

 

夏の敗戦を糧に、精神的な成長を果たしたエース 真中さん。北川さんの後を託された、新キャプテンで主砲 大前さん。投打の核がはっきりとした世代が中心となるチーム。市大三高史上最強打者はもういない。しかし、全体的に力があるのは投手力も揃った現チーム。新チームはそういった評価を受けていた。

 

 

 

秋季東京都大会 3回戦

 

先攻 青道高校 スターティングオーダー

 

1番セカンド小湊左打
2番ショート楠木右打
3番センター西右打
4番ファースト結城右打
5番レフト滝川右打
6番キャッチャー御幸左打
7番サード増子右打
8番ライト門田右打
9番ピッチャー伊佐敷右打、右オーバースロー

 

 

後攻 市大三高 スターティングオーダー

 

1番セカンド平川右打
2番ショート神宮寺右打
3番センター宮川左打
4番サード大前右打
5番ファースト星田左打
6番ライト中津右打
7番キャッチャー清水右打
8番ピッチャー真中右打、右オーバースロー
9番レフト田中右打

 

*打順太字はキャプテン

 

 

 

始まる前から感じる真中さんのオーラ。決して本塁打1本打たれただけでへこむような、夏大会時の水風船みたいなこけおどしではなく、しっかりと実の詰まったものに感じる。洗練された動き、腕の振りで投球前練習を黙々とこなしていく。

 

偵察班からの情報では、夏と変わらず直球は最速140キロに満たないものの、スライダーのキレは一級品であるとのこと。時折混ぜるカーブはカウントを整えたり、見せ球として使ったりするようだ。

 

打線において特筆すべきはやはり主砲である大前さん。強打の市大三高においても突出した北川さんの愛弟子は、既に全国区のバッターと言われており、甲子園出場はないながらもプロのスカウトが注目しているほど。

 

その両脇を固める宮川、星田は粗削りながらも、長打に魅力のある打者で注意が必要であろう。

 

このメンバーだけでも大変なのに、来年にはあいつまで加わるのだから嫌になる。しかし、甲子園への道は険しければ険しいほど達成感がある。試合が始まるのが楽しみでしょうがない。

 

 

 

……

 

 

 

1回表、青道の攻撃。先頭打者は出塁率の高い亮さん。初球、2球目のストレートを見逃して1ー1の平行カウントになる。

 

 

ギィン!

 

 

亮さんの振ったバットの根本に当たり、1塁線をきれるファールとなる。珍しく顔をしかめて痛みを我慢しているのがわかる。

 

右投手のスライダーをミートしやすい左打者であり、チーム内でも当てるのが上手い亮さんが、ギリギリバットに当てることができるレベル。その域まで進化している真中さんのスライダーに冷や汗が出る。

 

 

ドォン!

 

 

「バッターアウト!」

 

ストライクゾーンよりも内側を抉ってくるスライダーの後に、アウトローのストレート。亮さんはしっかりと踏み込むことができず、空振り三振に仕留められた。

 

「1アウトー!真中いいぞ!」

「しゃあー!まずは1つ!夏の借りを返すぜ!」

 

市大三高のテンションが上がっていく。この勢いのまま裏の攻撃に回るとまずい。しかし

 

 

ガキィ!

 

 

楠木さんは粘ろうとするものの、4球目のゾーンから逃げていくカーブに手が出てしまいセカンドゴロとなった。

 

「3番 センター 西くん」

 

名前を呼ばれて打席に入る。2アウトランナーなしで、相手エース 真中さんのエンジンがかかりきっていない初回。ここで何か仕掛けたいところ。

 

「影次ー!打てー!」

「お前ならやれるぞー!」

 

声援の圧に身を任せ、本能のおもむくままに真中さんを眼で捉えてバットを構える。あのスライダーが打ちたい、打ってみたい。そんな欲を抑えることなく前面に出していく。こいよ。

 

初球、インコース低めに外れるストレートで1ボール。2球目、インハイへのスピンの効いたストレートがくる。直感で外れると感じ、微動だにせず見逃す。

 

「ボール!」

 

キャッチャーが返球する間もバットを構えたまま、真中さんの目を見続けて全ての動作を見逃さないようにする。

 

「ボール!フォアボール!」

 

結局1球もストライクゾーンにこなかった。とりあえず真中さんが作り出したチームの勢いが、緩やかなものになったことにほっとする。

 

「哲さん!頼みます!」

 

グッと右拳を向け合う。第1リードを大きくとって、真中さんにプレッシャーをかけていく。ランナーに出すこと自体が危ないと思ってもらえれば勝負してもらえる。そう考えて真剣に次の塁を狙う素振りを見せる。

 

「セーフ!」

 

牽制をくらうがリードはそのまま大きく。神田さんから指導を受けたように真中さんの全身を見て反応する。

 

「セーフ!」

 

思った以上に効いているみたいだ。走るよりもここでプレッシャーをかけていた方が良さそうだと判断し、盗塁のふりだけをしていく。

 

初球、アウトコースへのスライダーを哲さんが空振りする。哲さんが空振り?青道側ベンチがざわつく。俺が打席に立った時に投げられたのはストレートのみ。スライダーの軌道を見ていないから正確な判断ができそうにない。

 

 

パァン!

 

 

「ストライク!バッターアウト!」

「しゃあ!」

 

フロントドア、膝元を抉るような7球目のスライダーに哲さんは反応すらできなかった。俺との勝負を避けて哲さんと真っ向勝負できるスライダー。今日この日のために全てを調整してきたのだろうか?哲さんを三振させた真中さんに凄みを感じる。それにしてもあの大きな変化量でコントロール抜群なのがヤバイ。

 

あのスライダー‥‥もしかすると今日は右打者ノーチャンスかもな‥‥

 

だが、真中さんを前チームは楽々と攻略したのは事実。チームとしての力が圧倒的に足りない。そう思わされる初回の攻撃であった。

 

 

 

……

 

 

 

闘志剥き出しに青道打線に立ちふさがる真中さんとは対照的に、純さんは冷静に市大三高打線に挑んでいく。チェンジアップがあるという情報を当然相手は掴んでいるはずだ。

 

その市大三高打線に対してストレートで押して、同じ軌道から落ちていくフォークを決め球にしていく。チェンジアップは一切使わない、そんな投球で三者凡退で1回裏を乗り切る。

 

出塁はしなかったが純さんのボールにくらいつき、10球粘った2番 神宮寺さんは警戒しないといけないだろうな。大前さんと同じく1年夏からレギュラーを掴み、セカンドとして北川さんとコンビを組み続けた俊足巧打の内野手だ。最上級生になってショートを守っているが、守備に関しては北川さん以上のものを感じる。

 

「おっしゃあ!攻撃もガンガンいこうぜ!」

 

チームに先制点を!エースの順調な滑り出しを見て、真中さんと対峙するが

 

 

パァン!

 

 

「バッターアウト!」

 

「クリスさんも空振り三振!?どんだけあのスライダーきれてんだよ!」

 

2回裏、先頭打者のクリスさんが三振に仕留められると、青道ベンチは驚きを隠せない。新チームとして初めて当たることになる好投手に対して、チームが浮き足立ち始める。

 

初めての壁ってとこか。これを越えない限り甲子園は夢のまた夢だな。

 

「まだ一巡目だ!しっかりボールを見ていけ!普段通りの攻めかたでいい!」

「はい!」

 

片岡監督の声に落ち着きを取り戻しつつあるが、全員が立ち直ったわけではない。

 

 

ガキィ!

 

 

続く御幸はスライダーに当て、いいところに転がるが神宮寺さんのファインプレーでショートゴロに、増子さんは全球スライダーで、大振りなスイングを嘲笑うかのようなリードでかわされ三振に。

 

やはりキーとなるのは左打者か。今日は倉持がスタメンではないため、左は亮さん、御幸の2人のみ。ここからどうやってチームで攻略していくかを考えていく。

 

監督からの指示はいつも通り、おそらく球数を使わせて消耗させていくのであろうが、今日の真中さんが展開する神がかった投球に、それだけでは足りないと感じる。

 

「4番 サード 大前くん」

 

2回裏、マウンド上の純さんを睨むように、オーラを纏った大前さんが右打席に立つ。

 

初球、インコース低めに外れるストレートを大前さんは見逃して1ボール。目だけでボールを追って悠々と見逃す姿に貫禄を感じる。

 

続くインハイ、打者に向かって抉るように沈むツーシームで1ー1の平行カウントに。大前さんは身体に近いボールに仰け反らず、冷静に打席内の土をならしてバットを構える。

 

とてもアウトコースへと投げづらい。そう感じさせる見逃しかただ。

 

 

パァン!

 

 

大前さんはしっかりと踏み込むが、アウトコース低めに外れるフォークを空振りする。少しでも浮いてゾーンに入っていれば打たれる危険なボール。攻める御幸のリードとそれに応える純さんに震える。あの人たち勇気あるな。

 

2ストライク1ボールと追い込んだ場面、大前さんはバットを短く持ち、重心をわずかに低くしたように感じる。

 

 

ギィン!

 

 

「ファール!」

 

決して大振りせずに、コンパクトなスイングでクサイところはしっかりカットしてくる。

 

「ボール!フォアボール!」

 

12球目のスライダーを見逃されてノーアウトのランナーが出る。チェンジアップで体勢を崩されても食らいついてくる執念に、北川さんの影を見る。タイプは違えど市大三高の4番を任されるだけあって怖いバッター。

 

「5番 ファースト 星田くん」

 

シニア時代から有名だった長距離砲の星田。左打ちということもあり、引く手あまただった大型内野手。夏には6番に座っていたがクリーンナップに昇格したあたり、順調な成長を遂げているのであろう。

 

夏は武藤さんに抑え込まれて印象は薄いのだが、元々地力のあるバッター。打席でゆったりと構える。

 

初球、バックドアとなるスライダーで1ストライク。星田は打席で不気味な落ち着きを見せ、スライダーには無反応であった。

 

2球目、インコースに食い込むストレートを見逃して1ー1の平行カウントに。これにはさすがに少し仰け反る。

 

3球目にはアウトハイのストレートを空振りする。

 

「純さんいいボールきてますよ!」

 

 

ドォン!

 

 

「ボール!」

 

アウトハイにストレートを続けるが、若干浮いて2ー2の平行カウントになる。身体がでかいだけじゃなくて、選球眼がいいな。同じボールだと判断して、内野へのポップフライを打ちそうなものだが我慢している。

 

御幸からツーシームのサインが出て純さんは頷く。引っ掻けさせてのダブルプレー狙いか。そう単純にいくかわからないがどうなるかセンターから見守る。

 

「走った!」

 

1塁ランナーの大前さんが動く。その言葉に気をとられたのか、ツーシームがインコース、若干甘めのところへ投げられる。

 

 

ガギィン!

 

 

確かに芯を外せはしたが亮さんの横をボールが鋭く抜けていく。

 

「門田さん!序盤ですからしっかり止めていきましょう!」

 

そう声をかけるが、門田さんは3塁で刺そうとして少し半身になって捕ろうとする。

 

「あっ!」

 

グローブでボールを弾いてライト線に向かってボールが少しだけ転がっていく。

 

「よりによってそっちに!」

 

門田さんは慌ててボールを掴むと亮さんに送球する。

 

ノーアウト1、3塁。大前さんと星田の足の遅さに助けられたが、市大三高ナインは歓声をあげ、先制点の入りそうな雰囲気に球場のボルテージが上がっていく。

 

「切り替えろ!ここから抑えていくぞ!」

「おう!」

「門田!切り替えろ!」

 

哲さんの言葉に応じて冷静でいようと心がける。次の打者は6番だが穴のない打線だ。侮ることはできない。青道に本格的なピンチが訪れていた。

 

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