至高の一打   作:もぐもぐファンタ爺

133 / 148
秋季東京都大会 3回戦

先攻 青道高校 スターティングオーダー

1番セカンド小湊左打
2番ショート楠木右打
3番センター西右打
4番ファースト結城右打
5番レフト滝川右打
6番キャッチャー御幸左打
7番サード増子右打
8番ライト門田右打、
9番ピッチャー伊佐敷右打、右オーバースロー



後攻 市大三高 スターティングオーダー

1番セカンド平川右打
2番ショート神宮寺右打
3番センター宮川左打
4番サード大前右打
5番ファースト星田左打
6番ライト中津右打
7番キャッチャー清水右打
8番ピッチャー真中右打、右オーバースロー
9番レフト田中右打


*打順太字はキャプテン


高校名
青道
市大三高

2回裏ノーアウト1、3塁
バッター:6番中津


秋季東京都大会3回戦 市大三高戦 part2

攻めたフォアボールとヒットでノーアウト1、3塁。エースである純さんが投げているとはいえ、1点は覚悟しなければならない場面。

 

データでは市大三高の6番 中津さんは、長打ではなく単打を狙っていくスタイル。外野は前進し内野はゲッツーシフトをとる。ランナーは2人とも足は速くないためトリッキーなことはできないであろうと判断してクリスさん、門田さんに声をかける

 

「落ち着いていきましょう!」

「おう!」

「次はミスしない!」

 

前にきた打球をしっかり捌いてゴロなら1塁ランナーを3塁へ行かせないこと。フライなら3塁ランナーのホーム突入を阻止しなければならない。ぐっと伸びをしてその時を待つ。

 

初球、2球目とストレートで強気に押していくが、中津さんはしっかりとバットに当ててついてくる。

 

「まだ2回!後ろにだけはそらさないように堅実にいきましょう!俺達なら点数とれますよー!」

 

門田さんが少しかたいなと感じる。先程のはミスしていなくてもランナー1、3塁になっていたが、グローブで弾いたのを気にしているようだ。

 

 

ギィン!

 

 

ストレートの下を叩いた力のないフライが左中間へ飛んでくる。

 

「オーライ!おれがいきます!」

 

クリスさんにしっかりと自分が行くことを伝えて、落下点に一直線に入り、確実に捕球して楠木さんに送球する。

 

「1アウトー!純さんボールキレッキレ!」

「おうよ!次も頼むぜ!」

「はいっ!」

 

アウトを捕れたことで全員の硬さが少しとれる。

 

「7番 キャッチャー 清水くん」

 

守備は並みだが打撃はいい。そういった評価を受けている攻撃型キャッチャー。神宮寺さんや大前さんが注目されているが、清水さんも安定した打撃力がある。

 

ランナーに足はないため、長打警戒で外野は深め。内野はゲッツーシフトのまま。外野に飛べば1点は仕方ないと割りきって守っていく。

 

 

ギィン!

 

 

三遊間に引っ張った鋭い打球が飛んでいく。

 

「うがぁ!」

 

増子さんが精一杯飛び込むがグローブの先をボールが抜けていく。

 

「クリスさん!ゆっくり中継まで!」

「あぁ!」

 

クリスさんはしっかりとボールを捕球して楠木さんへボールを送る。

 

「おし!先制点だ!」

「清水ー!よくやった!」

 

市大三高側スタンドから歓声があがる。それでもグラウンドに出ているうちのメンバーは動じていない。門田さんを心配していたが杞憂だったようだ。声をかけてお互いの気持ちを切らさないようにしていく。

 

「門田さん!リラックス!できることを1つずつやっていきましょう!」

「影次も無理するような場面じゃないからな!」

「はい!」

 

次の打者は真中さん。打撃は正直凡庸であるが、気合いのはいりかたが半端ではない。

 

 

キィン!

 

 

鋭い打球がセンター方向へと飛んでくる。ワンバウンドしたボールを亮さんがダイビングキャッチをすると

 

「亮介!」

 

素早くグラブトスされたボールを楠木さんが捕り、2塁を踏んで1塁へ。

 

「アウトー!チェンジ!」

「ナイスコンビ!」

「うちの二遊間も負けてねぇぞ!」

 

ダブルプレーをとり、1失点でピンチを切り抜ける。

 

点が入ると試合が動くとはよく言われるが

 

「ストライク!バッターアウト!」

 

3回表、門田さん、純さんが打ち取られ、亮さんはなんとか四球で出塁するも、楠木さんはスライダーに手が出ず三振してしまう。

 

好投を続ける真中さんに対して、純さんもギアを上げ始めて、3回裏は2アウトから神宮寺さんにツーベースヒットを打たれたものの、宮川をチェンジアップで翻弄しホームを踏ませない。

 

 

 

4回表、先頭打者として迎えた俺の第2打席、真中さんは深呼吸をしてこちらを睨んでくる。

 

勝負か?

 

そう感じ、バットを構えて待ち受ける。初球、アウトコース外へ外れるストレートで1ボール。

 

今日は徹底的に勝負しないのか?と考えるが、2球目、インコースからホーム直前で大きく横滑りしていくスライダーを空振りする。

 

なるほど、確かにこれだと哲さん、クリスさんの2人が手こずるのも分かる。スライダーのみで言えばキレだけは武藤さんのもの以上と言える。続けてスライダーがくるが

 

 

ガキィ!

 

 

「ファール!」

 

1塁方向へと鋭い打球が飛んでいき、ラインから右側へときれていく。思った以上に曲がるが、次は捉えると意気込む。

 

「ボール!」

 

インコース内側へ外れるストレートを見逃して2ー2の平行カウントへ。ストレートかスライダーのどちらがくる!!

 

アウトコースギリギリのところへボールが投げられる。

 

ストレート!もらった!そう思いスイングしようとするが、ボールの軌道に僅かに違和感を感じてバットを止める。すると弾かれたようにボールがホームベース直前で曲がるのは見えたが、追いきれなかった。

 

「ボール!」

 

ふぅーっと深く息を吐き、今のボールがなんだったのかを考える。ボールに目がついていかなかったのは久々で、少しワクワクしながら1度打席を外して頭のなかで整理する。

 

握りに変わりはなさそうでストレートと同じ速さ。軌道はストレートにしては気持ちが悪く、初見であれば直前に目がついていかないボール。ミットを見た限りは自分から離れていく方向へと曲がる感じ。

 

「使い勝手のよさそうなボールだな」

 

思わず声に出してしまう。

 

ストレートと見間違いそうになるボールだが、おそらくは高速スライダー。下手にストレートと思って打ちにいけば空振りする、決め球になりうる魔球と言っていいだろう。

 

球速は140キロないが、キレがおかしいことになっている。このボールからは真中さんの意地みたいなものを感じるが、くるとわかっていれば打てるように感じる。

 

 

ギィン!

 

 

「ファール!」

 

 

続けてインコースへ投げられた高速スライダーを軽くカットすると、真中さんは驚いたような顔をする。確かにキレはいいが武藤さんのスライダーよりも球速は遅いし、ボール自体の力は劣っている。次は確実に捉える。そう思って全身の余計な力を抜いてバットを構える。

 

こい!

 

 

キィン!

 

 

より変化量の大きいスライダーをジャストミートするが、ファールゾーンへ飛んでいく。

 

 

キィン!

 

 

続く高速スライダーもジャストミートするが、真中さんの執念か、レフトライン近くに落ちたものがファールの判定を受ける。フルカウントから繰り広げられる攻防に、スタンドから一喜一憂の声をあげる者、息を大きく吐き出す者、変わらず応援し続ける者がいた。

 

少し気持ちが昂りすぎているか、そう思って深呼吸をする。気づけば口の中がカラカラであったため、口を少し動かして唾液を出し、口の中を潤す。ベンチに戻ったら飲み物欲しいなと気楽に思いながらバットを構え直す。

 

じっと真中さんと睨み合い、次の球種、コースは何だと考える。む?これは

 

 

キィン!

 

 

低めに外れるストレートを掬い上げ、左中間へと運んでいく。

 

 

ゴォン!

 

 

フェンスに直撃したボールを確認して2塁を陥れる。真中さん、最後の最後で弱気になってはずしてきたか。

 

「おっしゃぁぁぁ!影次ナイバッチ!」

「結城も続けよー!」

「打の青道らしいところ見せろー!」

 

この試合初めて得点圏にランナーが、しかもノーアウトで出たことで青道側スタンドが盛り上がる。ここで市大三高の田原監督は伝令を送る。

 

これはチャンスかな?と思い、その間に1塁コーチャーの真木を呼んでバッティンググローブを渡しながら小声で

 

「スライダーだけじゃなく高速スライダーがやばい。ストレートの球速で曲がるから、ストレートと思って振りにいくと視界から消えるぞ」

「それは本当か?」

「あぁ、切り札を用意してたみたいだ。また使ってくるかわからないが監督に伝えといてくれ」

「わかった」

 

そう言って真木は早足でベンチに情報を伝えにいく。ベンチに一旦戻っていた哲さんにも伝わったみたいで、少し驚いたような顔をした後に打つ気満々のオーラを出している。あれを見るとやっぱり頼もしく感じるな。

 

哲さんと真中さんの対戦を2塁上で見守る。

 

 

パァン!

 

 

「ストライク!」

 

哲さんは初球のスライダーをじっくりと観察する。今のスライダーを見る限りは真中さんは持ち直したみたいだ。夏とは違って精神的にはやはりしぶとそうだ。

 

2球目のインコースのストレートをファールにして2ストライクとなると、哲さんは1度打席を外して、タイミングをとる素振りを見せる。続く3球目

 

「ファール!」

 

アウトコースへのスライダーについていき、バットに当てることには成功するが、鋭い打球が1塁線をきれる。

 

「哲!スライダーについていけてるぞ!」

「キャプテンー!うてー!」

 

声援をうけ、更に哲さんのオーラが膨れ上がる。それに対して、真中さんはキャッチャーのサインに頷き、4球目のボールを思いっきり投げる。

 

一瞬の静寂の後、審判の宣告が響き渡る。

 

「バッターアウト!」

「しゃああ!」

 

高速スライダー。新たなる武器で哲さんを空振り三振に仕留めると、真中さんは雄叫びを上げ、それに呼応するように市大三高側の内野陣、ベンチ、スタンドから声の圧がくる。

 

今日の真中さんは別格だなと思わずにはいられない、かなりキレのある高速スライダーであった。

 

「5番 レフト 滝川くん」

 

若干勢いを削がれた青道だが、いまだに1アウト2塁のチャンス。クリスさん、御幸へと打順が回るため、最低でも同点には追い付いておきたいのだが、哲さんですら2連続で三振させられたという事実がどう影響してくるか。

 

打席に入るクリスさんを見る限りは影響はなさそうで、ネクストサークルにいる御幸は真中さんを凝視している。御幸は集中力にムラがなければいい打者なのにもったいない。いつもこの状態でいてもらいたいものだ。

 

「セーフ!」

 

そんなことを考えていると、牽制球がきたので試合に集中していく。

 

 

ガキィ!

 

 

クリスさんは6球目のアウトコースのスライダーになんとか当てて、バットを振り切る。ゴロだと判断してスタートをきり、3塁へスライディングして到達する。

 

「アウトー!」

 

セカンドゴロで2アウト3塁となり、バッターはチャンスに強い御幸。普段のふざけたような感じはなく、青道の打者として恥ずかしくない雰囲気を醸し出している。

 

ヒッティングマーチの狙い打ちが青道側スタンドから聞こえてくる。今分かっている球種はストレート、スライダー、カーブ、高速スライダーの4つ。できれば決め球であるスライダーか高速スライダーを狙い打って欲しいが欲張りすぎか。

 

声をかけようかと思ったが、いつも以上に集中しているように見える。あいつもここで点を取っておかないと、試合が決まってしまいそうなのは分かっているのだろう。

 

「御幸ー!打てやー!」

「青道の打点王ー!」

 

息を吐きながら真中さんの投球フォームを見つめる。何か違いはないか、夏には投げていなかったはずのボール。ストレートと同じ球速で曲げているのならどこかに無理が出ているはず、そう考えて3塁側から癖を探っていく。

 

「ストライク!」

 

御幸は初球のストレートに反応を見せずに見送る。これに反応を見せないということは、スライダーに狙いを絞っているのだろうか?そう疑問に思いながら見守る。

 

 

ギィン!

 

 

初見であるはずの高速スライダーに御幸が食らいつく。今のスイングを見る限りは高速スライダーに山を張っていたが、思っていたよりも変化が大きかったのであろうか?

 

どんな形でもいい!御幸!ここで打ってくれよ!

 

そう思いながら3塁から真中さんへプレッシャーをかける。

 

3球目、真中さんがクイックで投げたボールはアウトコースの更に外へ投じられる。それを御幸はおそらくスライダーだと判断したのであろう。高速スライダーに合わせてとっていたタイミングを崩されつつも、上体を粘り強く残し、スライダーに合わせてバットを振り切った。

 

 

パァン!

 

「バッターアウト!チェンジ!」

 

ここでカーブかよ。おそらく御幸が思い描いていたであろう軌道よりも、沈み込むような軌跡をたどって、キャッチャーのミットへとボールは吸い込まれていった。

 

4回表終了時点で青道はわずかに1安打。この数字に前チームとの力の差が如実に現れていた。

 

 

 

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