至高の一打   作:もぐもぐファンタ爺

135 / 148
秋季東京都大会 準々決勝

先攻 青道高校 スターティングオーダー

1番セカンド小湊左打
2番ショート楠木右打
3番センター西右打
4番ファースト結城右打
5番レフト滝川右打
6番キャッチャー御幸左打
7番サード増子右打
8番ライト門田右打、
9番ピッチャー伊佐敷右打、右オーバースロー



後攻 市大三高 スターティングオーダー

1番セカンド平川右打
2番ショート神宮寺右打
3番センター宮川左打
4番サード大前右打
5番ファースト星田左打
6番ピッチャー天久右打、右オーバースロー
7番キャッチャー清水右打
8番ライト真中右打
9番レフト田中右打


*打順太字はキャプテン


高校名
青道
市大三高


6回裏ノーアウト
バッター: 2番 神宮寺


秋季東京都大会3回戦 市大三高戦 part4

夕立にしては早い時間に降った雨が完全にやんで、グラウンドを太陽光が照らしている。冷えて心地よかった風の温度が上がり始め、グラウンドの土に含まれる水分が空気中へと解き放たれていく。

 

金属音が響き、スライス回転のかかったボールを追って懸命に背走する。左手を懸命に伸ばすが届かず、俺の目の前でボールが跳ねる。泥にまみれたボールが急速に勢いをなくしてその場にとどまるのを見て、右手でそのまま掴むと、滑らないように縫い目を指で探して中継に入った楠木さんへ送球する。

 

6回裏、市大三高の先頭打者 神宮寺さんが放ったセンター後方へのツーベースヒット。打たれたのは純さんが決め球に使っているフォーク。チェンジアップの後のストレートを見せ球に、インコース低めに鋭く落ちる変化をしたボールを、体の回転だけで上手く運ばれた形である。

 

強打の市大三高で1年生から上位打線を担うバッターは、やはりものが違うなと思わされた一打であった。チーム事情から2番を打っているのだろうが、全国で戦った高校のクリーンナップにいてもおかしくない。

 

チームから信頼されている打者がヒットを打つと、チームとして勢いがつく。ノーアウト2塁の場面で、ここまでノーヒットの3番 宮川。勢いそのままに初球のストレートを打ち、ゲッツーシフトで2塁ベース寄りにいた亮さんの真上をボールが越えていく。

 

前へと猛ダッシュし、グローブを突き出すが、ボールが地面に着くのが早かった。ショートバウンドで捕球するとすぐさまホームへ向かって低く力強い送球をする。

 

3塁にたどり着いていた神宮寺さんはその場でストップし、バッターランナーの宮川は、カットに入った純さんを見て軽めのオーバーランにとどめる。

 

いまだノーアウト1、3塁のピンチ。打者は前の打席でホームランを放っている市大三高の主砲 大前さん。

 

先程の雨が嘘だったかのように雲がなくなり、夏よりは弱くなったとはいえ、日差しが容赦なく照りつけてくる。下から熱気が上がってきて、蒸されているような感覚になる。

 

普通に立っているだけでも少しずつ体力を奪われそうな状況だが、純さんは大丈夫だろうか?少し心配しながらも、自分にできることはないかと頭を働かせる。

 

3ー2と1点リードしている場面で、投手陣に不安があるのは俺達青道だろう。真木が1、2回投げるにしてもまだ6回裏で、4回相手の攻撃を防がねばならないのだ。川上、川島には荷が重い気がする。

 

指示された守備位置は長打警戒のため深めで、同点ならいいと監督は判断したのだろう。

 

「ボールの表面に水分つきますから!結構滑りやすいです!注意していきましょう!」

「おう!低ければ中継がとってくれるからな!高め厳禁で!」

 

思い付いたことをポンポンと口に出して、外野手同士で声掛けあっていく。

 

 

キィン!

 

 

大前さんは5球目のスライダーを軽打して、レフト方向へとボールが飛んでいく。

 

「クリスさん!伸びます!バックバック!」

 

1歩目に躊躇したクリスさんの遥か頭上をボールが越えていく。フェンスにぶつかって鈍い音をたてたボールをクリスさんは捕球して、中継にはいった楠木さんへ送球する。

 

「ボール3つ!」

 

楠木さんはすぐさま反転して3塁へと送球するが

 

「セーフ!」

 

3ー3の同点となりいまだノーアウト、ランナーは1、3塁のピンチ。バッターは5番の星田で純さんにボールについてきている。

 

ベンチからタイムがかかり、槙原さんが伝令としてマウンドへ向かっていく。

 

純さんの続投か‥‥おそらくエースとして試合を任せるということだろうが、星田と7番の清水さんは純さんのボールに対応してきている。個人的にはかなり危険な賭けな気がする。

 

首を振って不安感を消す。

 

エースを信じなければ。正直なところ、武藤さんよりは実力が低いことはわかっているが、このチームがチームとしての体裁を保っていたのは、純さんがエースとして揺るぎない活躍をしていたから。ここで支えないでいつ報いればいいのか。

 

純さんで打たれたら仕方ない。その時の覚悟を決めてセンターを守る。

 

その数瞬後、バットとボールの衝突音が木霊するのをBGMに、ボールがライトフェンスを越える光景を見ることとなった。

 

 

 

 

 

 

記者である峰は記者席から、9回表青道側の攻撃を見ていた。ふと電光掲示板に目を向ける。

 

 

 

 

高校名
青道
市大三高

 

 

 

「7回は三者凡退であったが、8回に天久くんから4点を奪う猛攻を見せ、9回には小湊くん、楠木くんが倒れるが、2アウトから西くんの四球、結城くんがヒット。クリスくんと御幸くんの連続タイムリーで2点を返したが、流れを変えるために再びマウンドに真中くんがあがった」

 

「バッターアウト!ゲーム!」

 

「ここまでか。市大三高エースが最後にマウンドへ戻って増子くんを簡単に抑えて見せた。これで市大三高はエースに経験を積ませ、次期エース候補だが、サボり癖のある天久くんに同世代における全国レベルの打者を経験させ、成長を促したのだろう。打線にとっては伊佐敷くんを打ち崩したというのは自信になるだろうな」

 

うんうんと頷いて情報を書き出していく。

 

「青道の強力打線は格落ちは仕方ないものの、クリーンナップと御幸くんがずば抜けているな。総合的にも全国屈指の打線と言っていいだろう。だが投手力では市大三高の方が上だった」

 

「新チームを作るのに1ヶ月ほど差があったが、その影響がでかかったな。市大三高は各人が地に足つけていたのに対して、青道は空回りする場面が多かったように感じる。実際の実力としては拮抗、いや青道の方が上だったかもしれないな」

 

そう結論付けて撤退の準備をする。

 

「夏の西東京大会、中心となるのはやはり市大三高、青道の2校だろう。そこにフォームを修正して復活してきた成宮くん率いる、1年生主体の稲城実業がどう絡んでくるか見ものだな。来年の夏も熱そうだ」

 

そう言って峰は球場を後にした。

 

 

 

……

 

 

 

青道を破った市大三高はトーナメントを駆け上がり、決勝で稲城実業と戦うこととなった。一皮剥けた真中と1年生エース成宮との戦いは投手戦となると思われたが、市大三高打線は成宮を堅実に攻略していく。

 

穴がなく総合力の高い打線に対して、まだ体のできあがっていない成宮は7回4失点でノックアウト。後続の井口も抑えきれずに、稲城実業は市大三高に対して完全な力負けを喫した。

 

投げては真中が1失点完投勝利をあげ、東京では青道以外に敵なしという姿を堂々と見せつけた。

 

いいことがあれば悪いことも起こる。真中がエースとして覚醒するのに対して、天久はチームから距離をとるようになり始めた。かなり不安定な次期エースに対して、チームは見守ることにしたようであった。

 

 

 

時が流れ3月に入ると、甲子園の地に高校球児が足を踏み入れる。東京からはエース真中、2番手天久を擁する神宮大会ベスト4である市大三高、新2年生エース成宮、2番手井口を擁する稲城実業の2チームが春の甲子園で躍動した。

 

稲城実業はオフに鍛えたためか、得点力の向上と成宮の完成度が上がっており、春の甲子園ベスト8を記録した。

 

それに対して、市大三高は圧倒的な力を見せつけ、相手高校を蹂躙して春の甲子園覇者となった。特にエース真中は3種の魔球スライダーを操るプロ注目投手として注目され、大前は世代No.1打者の座を西邦 佐野と競う逸材と言われるようになった。

 

そういった栄光の陰で、青道ナインは徹底的な基礎訓練と紅白戦で実力を磨き、雌伏の時を過ごし、新年度を迎えることとなった。また、甲子園が終わると、唯一真中を攻略した打線こそが青道打線であるという記事が、人々の目に届くこととなったのである。

 

 

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