至高の一打   作:もぐもぐファンタ爺

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春休み明け

新入生の入寮を明日に控えた3月下旬のある日。一昨年や昨年よりも早く新入生が合流することとなったのだが、特別バタバタと忙しい日々を送ることはなく、落合コーチはのんびりと監督室で書類整理をしていた。

 

太陽が姿を現さない早朝の5時であるためか、いささか肌寒い。試しに息を長く吐いてみると、別に白い空気が出るわけでもないが、身を震わせるには十分な気温であった。

 

ドアをノックする音が聞こえ、片岡監督が入室してくる。

 

「おはようございます」

 

「片岡さん、おはようございます。今年の新入生はネームバリューで言えば豊作ですな」

 

そう言って野球部志望者リストを片岡監督に渡す。

 

「実績のみで言えばエース候補として東条 秀明、向井 太陽。将来の野手レギュラー候補としては金丸 信二、南野 辰貴、佐々木 伸介、高津 広臣。核となりそうな選手が多いですな」

 

「うむ、それ以外にも中学生では無名だった結城みたいな選手がいるかもしれない。今年度の新1年生は、影次を中心としたクリーンナップに惹かれて希望者が多い。夏の甲子園優勝校であることも一因だが、昨年の秋、市大三高に対して唯一互角に渡り合ったことが大きいだろうな」

 

「そうですなぁ」

 

そう返事をしながら、あの時から成長した現戦力を思い返す。

 

 

 

1番 セカンド 小湊 亮介(左打ち)

 

強化されたミート力、打撃技術は全国でも通用するほど磨きあげられた。攻める守備と言っていい自分だけの武器を手に入れ、小柄ではあるがボールに食らいつく姿勢は見事。

 

要所で毒づき、味方を発奮させるような言葉がけは、前チームでは見られなかった独特な雰囲気を醸し出している。

 

 

 

2番 サード 増子 透 (右打ち)

 

大振りをやめさせ、オフの間に片岡監督が付きっきりでシャープでコンパクトなスイングを身につけた。率が向上し、バントなどの小技も上手くこなすことができるため、長打力と堅実さが同居する打撃の鬼。

 

超攻撃型2番打者として、打線を引っ張る側へと逞しく成長した。守備での雑さは残るものの、体をはったプレイは魅力的。足は速い。

 

 

 

3番 ファースト 結城 哲也(右打ち)

 

長打、巧打共に熟す中距離バッター。弱点はなく、得点圏にも強い頼れる強打者。課題であったパワーをオフの間に強化し、長打率を向上させた。

 

背中で引っ張るだけでなく、影次を介して2年生へ指導する機会が増え、自他共に認めるキャプテンとして成長を見せている。

 

 

 

4番 センター 西 影次(右打ち)

 

オフの期間に更なる成長を遂げた怪物打者。秋の国体で高校通算二桁本塁打を達成したが、春の段階で既に40本塁打を達成した。試合数よりもハイペースで本塁打を放つ姿は、兄とは違った可能性を感じさせられる。

 

4番に復帰させると気負うことなく率を向上させるなど、生粋の4番打者であるのだろう。片岡監督と相談し、東同様打順固定することとした。

 

 

 

5番 レフト 滝川 クリス 優(右打ち)

 

バランスのよい強打者で、パンチ力は増子と肩を並べる。外野手としての守備面でも成長を遂げた。キャッチャーとしても優秀で、御幸の相談役兼2番手キャッチャーとして補佐を積極的にこなしている。

 

将来的に青道の柱となる御幸に対して、かなり厳しめに指導する姿は頼もしく感じる。2軍投手陣をメインで指導する姿も見られるなど、後進の教育に興味を示しているようだ。

 

 

 

6番 ショート 倉持 洋一(左打ち)

 

本格的に代走要因として固定されそうであったためか、率のよい左打席に専念し始めた。クリーンなヒットを狙うスタイルから、何がなんでも出塁し、ランナーをどんな形でも返そうとするスタイルへと変化を遂げる。

 

守備面、走塁面ではオフに徹底的に体に叩き込んだため、秋のようにかっこつけるだけの中身の伴わないプレイはしないであろう。すぐ後ろに迫る楠木の圧力を受けながらも、なんとかレギュラーを死守している。

 

 

 

7番 ピッチャー 伊佐敷 純(右打ち、右オーバースロー)

 

しぶとい打撃でなんだかんだ出塁率が良い。右方向への打撃がうまく、小技も器用にこなす。倉持を1番と見立てた2番打者の立ち位置として機能する。

 

投手としては最速143キロの直球、ツーシーム、スライダー、フォーク、チェンジアップを武器に相手を打ち取るピッチングを繰り広げる。

 

 

 

8番 キャッチャー 御幸 一也(左打ち)

 

得点圏に非常に強いバッター。今では得点圏だけではなく、ランナーのいない場面でも打てるようになったが、まだまだムラがあるため、上位を打たせるには成長が必要であろう。

 

クリスからよく発破をかけられているようで、1年生の初期よりも必死に練習をこなすようになった。ポジションを脅かすライバルが年下に現れれば、更なる成長を見込めそうだがどうであろうか。

 

 

 

以上がスタメンとして固定されているメンバーであり、9番ライトが流動的である。門田、坂井、白州の3人の実力が拮抗しており、新入生がスパイスになればと言ったところであろうか。

 

打線は全国でも上位で、市大三高と比べて見劣りするどころか、こちらの方が上と言っても問題ないような陣容である。強いて言えば、7番を任すことのできる巧打のうまい選手がいれば、伊佐敷が投手に専念できるくらいか。

 

投手陣は安定感のある伊佐敷に加えて、身長が2mに迫る次期エース候補の真木。怪我から復帰してスローカーブを習得し、緩急を更につけることができるようになった丹波。メンタル面で持ち直し、シンカーはまだ封印しているが、ストレートとスライダーをコントロールよく投げ込める川上。この4本柱が中心となってくるであろう。

 

 

 

充実した戦力に目を細めるが、西東京という魔境には倒さなくてはならない強豪が2チーム存在する。

 

1つ目は稲城実業。左腕 成宮をエースとした2年生主体のチーム。怪物世代で青道に有望株が集まったのと同様に、2年生の世代では成宮の呼び掛けで神谷、白河、山岡、矢部といった近隣シニアの有望株が稲城実業に集中している。おそらく来年は、甲子園への最大の壁として立ちはだかってくるであろう。

 

しかし、現段階でも未完成ではあるが才能に溢れ、爆発力は侮れないチームとなっている。春の甲子園ベスト8という実績を獲得し、チームをまとめているのが4番、キャッチャー、キャプテンである原田である。プロ注目の逸材とされていて稲城実業のキーマンとして注意しておきたい。

 

 

 

2つ目として挙げられるのが、夏の大本命とされる春の甲子園覇者 市大三高。スライダーのスペシャリストとして持ち上げられるエース 真中に加えて、潜在能力は真中を越えると言われている天久を中心とした磐石な投手陣。

 

神宮寺や主砲 大前を中心としたタレント揃いの超強力打線は、並みの投手ではこんがり炎上してしまうであろう。その打線に、U-15で4番 キャプテンをしていた北川 大雅(現阪神 北川 小虎の弟)が加わるため、手がつけられない。明らかに今夏最大の障害である。

 

 

 

「戦力はいくらあってもいいですからな。打線としては外野手に1人、2人いいのが入ってくれると、影次をショートとして使うことができる。そうなれば穴はなくなりそうですな」

 

「えぇ、倉持、楠木もいいショートですが、打撃に関しては正直なところ物足りないところが多い。本人への指導はもちろん、他の選手の能力を底上げし、更に打線の完成度を上げていく。その上で新入生がどうチームに絡んでくるか」

 

片岡監督の言うことがもっともだとして頷き、コーヒーをいれる。

 

「まだ寒いですからな。片岡さんもどうですか?」

 

「ありがとうございます、いただきます」

 

ポットから注ぎたてなので約90℃であろうか、湯気をたてたコーヒーをいれたカップを、いつの間にか座っていた片岡監督の前にあるテーブルに置く。空気中へ消えていく湯気を見ながら、片岡監督の正面に座ってリストを見直す。

 

「「早いうちに紅白戦を」」

 

言いかけて止める。お互い考えることは同じようだ。お先にと促すと、片岡監督が話し始める。

 

「早めに紅白戦をして、固定化されてきたレギュラー陣に脅威を与えそうな選手を見出だし、春期大会へ帯同させる」

 

「ちょうど良い刺激になるでしょうし、1軍、2軍の入れ換えも積極的に行いましょう。1年生の体はできていないでしょうが、劣勢であればあるほど選手の真価が問われる。そしてそれが期待できる実績を持った選手が揃っている」

 

「あぁ、次世代を担うことができる人材が出てくるか、そんなものは新入生にはいないのか。それとも、新たな怪物としてレギュラーすらも獲得するものがでるか。教育者としては失格かも知れないが、期待せずにはいられないな」

 

「フッ、片岡さんも男ですなぁ」

 

ほどよく冷めてきたカップで乾杯して、ちびちびとコーヒーを飲む。まだ結構熱い。少しやけどした舌を気にしながら、お互いに舌足らずになったのをスルーして、本日の練習メニューを再確認するのであった。

 

 

 

 

 

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