至高の一打   作:もぐもぐファンタ爺

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閑話:がんばれ!かねまるくん!①

ついに!ついに足を踏み入れた青道高校!

 

強豪ひしめく西東京の中でも突出した3校のうちの1つであり、昨年の甲子園春夏連覇を達成した名門である。同地区に今年の春甲子園を制覇した市大三高、ベスト8を達成した稲城実業と合わせて西東京の3強として、全国から恐れられている。

 

今夏の甲子園で西東京勢4連覇が期待され、その3校が進学先としてかなり注目を集めていたが、その中でも青道は魅力的であった。

 

まず第一に、打者として成長するのであれば、市大三高や稲城実業よりも青道と言われている。昨年度のチームではスター揃いだったスタメンのみならず、背番号2桁メンバー主体で組んだ打線で、都内の強豪校をコールドで下すなど、育成力の強さを見せつけていた。

 

2つ目として挙げられるのが投手陣である。3年生にはエースの伊佐敷さん、2年生には次期エースとなるであろう真木さんがいる。各学年に軸となるであろう投手がいるのは大きい。

 

それに加えて、春夏連覇の立役者であるドラフト1位指名された武藤さん、大学へ進学した井手さんの2枚看板は記憶に新しく、今年も有望な投手が進学するのであろうと噂されている。現に、同じ松方シニア出身の東条 秀明が進学しているのだから、これに関しては嘘はないだろう。

 

また、滝川さん、御幸さんといった全国有数のキャッチャーが在籍しているのは大きい。おそらく兄と同じく稲城実業へ進学したであろう、城南シニアの南野 辰貴と張り合えるのはこの2人だろうな。‥‥U-15の3番キャッチャーめ‥‥次は必ず倒す!

 

最後に、プロ注目の選手が多いことが挙げられる。その中でも特にクリーンナップとキャッチャーの御幸さんに注目する記事は多い。ちなみに、市大三高では神宮寺さん、大前さん、真中さん、天久さんに、稲城実業では原田さん、成宮さんにスカウトが注目していると言われている。

 

そんなすごい高校に進学し、荷物を持って寮に入ると、いきなり叫び声が聞こえた。何だ?と疑問に思うが、周りにいる先輩たちには焦るような雰囲気は見られなかったので、いつものこと‥‥なのだろうか?‥‥

 

気を取り直して廊下を歩き、自分の名前が書いてある部屋を見つけた。自分の名札の隣に2つ札がかかっているが、あえて見ないようにして、変に緊張しないように気を付ける。

 

ドアをノックし返事があったので、勢いよく開けて頭を下げながら

 

「松方シニア出身の15歳!金丸 信二です!これからよろしくお願いいたします!」

 

と挨拶をしたが返事がない。疑問に思って頭を上げると、自身が憧れにしている選手が2人いた。

 

青道の4番 西 影次さん。松方シニアでお世話になった異次元のスラッガー。打ってほしい時に必ず打つイメージがあり、俺にとっては4番と言えばこの人だ。市大三高に行った外面のみ野郎とは大違いだ!

 

西さんの後ろに見えるのは滝川・クリス・優さん。全国トップレベルのスラッガー。落ち着いた雰囲気は打席に立つと消え、野性的になる姿にカッコいいと思う人は多いのではなかろうか。

 

そんな2人が目の前に立っていた。何を話したのかあまり覚えていないが、いつの間にか寝ることになっており、気づけば入寮1日目は終わっていたのだった。

 

 

 

……

 

 

 

「やっべぇ!寝過ごした!」

 

部屋にかけてある時計が5時20分を示しているのを見て、寝ぼけた頭が一瞬で覚醒する。男 金丸 信二 15歳、憧れの先輩2人との約束を初っぱなから破っていた。

 

焦りながらも手早くジャージに着替えると、自分の机の上に置き手紙があることに気がつく。

 

「夜寝れてなさそうだから起こさなかった。俺達が戻る前に目が覚めたなら、ストレッチをして身体をほぐしておくように。滝川より」

 

手紙を手にとって声に出して読み、先輩たちが遅刻したやつは見捨てるスタイルではなかったことに安心する。言われた通りにストレッチをしながら、昨日はよく確認できなかった部屋を見渡す。

 

部屋はそこそこ広く、3人で生活するぶんには充分な大きさで、とても綺麗に片付けられている。本棚には野球雑誌や人体の解剖書のようなものが並び、スポーツ医学書の数が多いように見える。

 

他にも特徴的なのはDVDの量で、それぞれ日付と対戦高校の名前が書かれている。また、それに対する分析をしたと思われるノートのページ数が書いてあり、持ち主がかなり几帳面な性格であることが推察される。

 

勝手に見るのは悪いよなと元の位置に戻して、ストレッチを再開すると、ドアが開き、クリスさんが顔を覗かせる。

 

「おはよう!よく眠れたか?」

 

「おはようございます!なかなか寝付けなくて寝坊してしまいました!すいません!」

 

頭を下げようとすると止められ

 

「初日から無理する必要はないからな。徐々に慣れていけばいい」

 

「はいっ!」

 

なんて優しいんだと心の中で涙を流し、ストレッチを継続していく。2分ほど遅れて西さんも部屋に戻ってくる。

 

「おはよう!金丸起きたか!6時から朝練始まるから、10分前には移動するぞ!このバナナとヨーグルト食べとけ」

 

「はいっ!寝坊してすいませんでした!」

 

「いいよいいよ。食べながら自己紹介考えとけよ~」

 

そういえばなにも考えてなかったと焦るが、トップバッターではないだろうしと、バナナとヨーグルトを食べることに集中する。口を軽くゆすいで、ストレッチの続きをしていると

 

「影次、金丸、そろそろグラウンドに行くぞ。道順を覚えるようにな。付いてきてくれ」

 

とクリスさんに言われたので、大人しく2人の後について歩く。グラウンドにつくと、先輩らしき集団と、同級生らしいおどおどとした人が大部分を占めている集団があった。

 

「お前はあっちな」

 

と指差された同級生らしい集団に混ざる。前と後ろの2列になっていたので、前の列に並ぶ。

 

「信二!おはよう!」

 

と声をかけられたので、その方向を向くと、同じ松方シニア出身で、エースを務めていた東条 秀明がいた。

 

「おぅ!東条はよく眠れたか?」

 

「ぼちぼちかな。優しい先輩たちでよかったよ」

 

「こっちもいい先輩だったけど緊張したわ」

 

「え?信二が緊張?誰だったの?」

 

「西さんと滝川さんの2人」

 

「うわ、思ったよりすごい部屋だったんだね」

 

右手で軽く自分の頭をかき

 

「やばかった」

 

と言った直後に、あのテレビで見たことのある片岡監督と落合コーチがこちらに歩いてくるのが見えたため、私語をやめる。周りを見てみると、いつの間にか部員が集まってきていたみたいだ。

 

「おはようございます!」

「おはようございます!」

 

各々が挨拶をするが、片岡監督と落合コーチは無言で1年生が作る集団の前にやってくる。

 

「これで入部希望者は全員か?」

 

「えぇ、遅刻などがなければこれで全員ですねぇ」

 

「うむ、まずはこちらから順番に、しっかりと大きな声で自己紹介をしてもらおうか」

 

その言葉を皮切りに、右端の前列から順々に自己紹介を始めていく。途中何人か聞き覚えのあるビックネームがあった。

 

「ピッチャー志望の向井 太陽です!全国一の打撃陣がいる青道こそ、世代No.1ピッチャーの俺が入るのにふさわしいと思って入学しました。よろしくお願いします」

 

「キャッチャー志望の南野 辰貴です。外野、ファーストもできます。兄を追い詰めた打線を育て上げた片岡監督の指導を受けたくて入部しました。4番でキャッチャーになるんで、よろしくお願いします」

 

「外野手志望の佐々木 伸介です!怪物世代に憧れて入部しました!精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」

 

周りもざわめいたこの3人は、全員シニア時代にU-15代表選出歴がある、将来を嘱望されたスター選手たち。こいつらに負けられねぇ。東条と俺の自己紹介でも騒がしくなる感じはあったが、あの3人ほどではなかった。

 

自己紹介が中盤に差し掛かった頃である。前列の左端のやつの自己紹介が終わった瞬間に

 

 

「あー!こいつ!遅刻したのに列に紛れ込もうとしているぞー!」

 

 

というわざとらしい声がグラウンドに響き渡った。

 

時が止まったように感じる重苦しい雰囲気が、グラウンドを包み込む。

 

みんなが向いている方向を見ると、きょとんとした顔をした黒い短髪の野郎が、ランニングするようなポーズで固まっているのが見えた。

 

「あ‥‥いや‥‥その」

 

「初日から遅刻とはいい度胸だ。しかもバレないように忍び込もうとするその腐った根性!気に入らん!朝練が終わるまで走っておけ!」

 

監督がそう言うと、先輩たちの方へと歩み寄り、

 

「こいつと同室の上級生は監督不行き届きだ。また、どさくさに紛れて新入生をたぶらかした大バカ者。お前らも午前中は走っておけ!」

 

「はいぃぃぃ!」

 

そう言っておそらく御幸さんだと思うが、眼鏡をかけた人と、ヤンキーっぽい人。あの大きいのはたぶん増子さんかな?その3人が遅刻した新入生と走り始めた。

 

 

 

アクシデントはあったが、全員が自己紹介を終え、全体の挨拶、スタッフやマネージャーの紹介、改めての監督、コーチ、キャプテンからの挨拶があった。

 

その後は新入生同士で軽くキャッチボールをして朝練が終了となり、朝御飯の時間となった。

 

初日から遅刻した例のあいつは、ずっと走らされていたからか、ご飯2杯目で吐きそうになっていたのは笑えたが、吐くなら是非とも見えないところでお願いしたかった。

 

 

 

 

 

 

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