至高の一打   作:もぐもぐファンタ爺

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無情にも

8回裏 市大三高の攻撃

 

side 東

 

6回表に犠牲フライで点をとったが、それ以降も点がとれていない。それに西に対して投げているボールと、他のメンバーに対して投げているボールの質、配球が違うのも気になる。

 

確実に見下ろされて投げられていると感じる。

これが全国、これが高校野球かと体に力が入る。

ショートの江藤さんに声をかけられ、集中し直す。

 

 

 

side 江藤

 

西は落ち着いてるが、東は少し打撃を引きずっているように感じる。声をかけたが大丈夫だろうか。

 

遠藤はしっかりと投げてくれている。この打線を3失点で抑えているのは、やはり頼りになるやつだと思う。

 

お前がピッチャーじゃなかったらキャプテンだったろう。それくらいに2,3年生は遠藤の大人びた精神性に魅せられ、信頼を寄せている。2年生の秋の大会以降球速が伸び、昨年の夏大会からの流れで背番号1だった糸原を押し退けて、今大会からエースを掴んだ遠藤の背中をみる。

 

選抜で更に成長した田辺に、打線は抑えられているが、遠藤も、それに俺たちも成長しているんだ。

 

気合いを入れ直し、パンッ!とグローブを叩き声を出す。

後ろからは呼応した外野陣の声が、横からは内野陣の声が聞こえてくる。相手の4番打者に対して遠藤がボールを投げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんでそこで蹲ってんだよ‥なぁ ‥

 

 

 

 

 

 

 

 

side 東

 

一瞬見失うほどの早いピッチャー返しが、遠藤先輩の全体重がのった左足に、鈍い音をたてて当たる。

 

マウンドの横に、すべてのエネルギーを失ったかのように、そこに落ちていたボールを掴むと、遠藤先輩は上半身の反動だけで1塁に送球し、バッターをアウトにした。

 

そして力尽きたかのように、脂汗を流しながら、左足を抱え込むような姿勢になった。

 

西がすぐさま駆け寄るが、江藤先輩と植松先輩は青白い顔をしたまま硬直していた。

 

 

 

 

side 糸原 3年生 ピッチャー

 

幼馴染みの遠藤が、担架に乗せられて去ることになったマウンドに、今、自分が立っている。

ジュニアからライバルで、ずっとエースを争ってきた。

 

コントロールが良くて、スピードがある俺がエースで、遠藤が2番手というのが基本だった。

 

ジュニア、シニアでは連投は基本なかったから、俺と遠藤の2枚看板でずっとやってきた。青道に入ると球速の早くて、コントロールの目処がたつ俺と、球速が遅くて、コントロールに粗がある遠藤、そして先輩ピッチャーの人数から、1軍と2軍と、初めて別れて練習し、経験を積んだ。

 

ずっと1軍だが、背が低いままで伸び代の少なかった俺と、背が高くなり伸び代があった遠藤。2年の秋までは俺が全て勝っていたのに、同じ練習をして、でも1軍の経験は俺の方が多くて。それなのに才能は残酷だった。

 

ずっと上にいて支えられるだけだったエースと、下から積み上げ、仲間と共に駆け上ってきたエース。

 

片岡監督は遠藤を選び、俺の背番号は11になった。

 

遠藤はいいやつで、エースになってもいいやつで、憎めなくて。

 

それなのに打球が当たって、エースに戻れるかもと思ってしまった自分が憎くて。

 

深呼吸して心を落ち着けていく。

 

お前が戻ってくるまで俺がやってやるよ。

でも俺がやる気になったからな。

戻ってきてもエースは俺のままかもな。

 

決意を胸に罪悪感を感じながら放たれたボールは甲高い音を鳴らした後、バックスクリーンへと叩き込まれた。

 

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