至高の一打   作:もぐもぐファンタ爺

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不安の種

新入生を迎え、青道高校は春季東京都大会への準備を進めていた。生活リズムを整え、早寝早起きを継続し、パフォーマンスの質を高めていく。4月にはいると、大会登録メンバーの発表があった。

 

 

 

背番号学年名前ポジション
3年生伊佐敷 純ピッチャー
2年生御幸 一也キャッチャー
3年生結城 哲也ファースト
3年生小湊 亮介セカンド
3年生増子 透サード
2年生倉持 洋一ショート
3年生滝川・クリス・優レフト
2年生西 影次センター
3年生門田 将明ライト
102年生真木 洋介ピッチャー
113年生丹波 光一郎ピッチャー
123年生槙原 悠翔ピッチャー
133年生宮内 啓介キャッチャー
143年生田中 晋ファースト
153年生遠藤 直樹セカンド
163年生楠木 文哉ショート
172年生樋笠 昭二サード
182年生白州 健二朗外野手
193年生坂井 一郎外野手

 

 

 

「なぁ、御幸」

 

「どうした?影次」

 

「登録枠1つ空けてあるのは、やっぱり1年生入れるためだよな?」

 

そう聞くと、御幸は一旦素振りをやめて、バットを地面に置く。4月になったとはいえ、日が落ちてからある程度時間の経過した20時頃の気温は肌寒い。

 

みんなが使っている室内練習場や中庭ではなく、俺と御幸、真木の3人で使っている、少し離れた場所で自己鍛練をしていた。そんな折の会話である。今は御幸と俺の2人だけだ。

 

「今年は豊作らしいからな。俺が受けたやつでは向井が飛び抜けてたわ。他にも面白そうなやつはいたんだけどな。あれは即戦力じゃねぇわ。打者としていいやつ、影次目線で誰かいたか?」

 

「期待していた金丸はまだまだだったな。くるとしても秋以降だろう。今の時期に上がってくるとしたら南野か佐々木だろうな。俺だったら春は向井の情報を隠すよ」

 

「だよなぁ。外野手でレギュラーなのは、現状守備がいい門田さん。白州もいい線いってると思うけど、あいつアピールが下手すぎるんだよな」

 

言われてみると確かに、白州は練習ではいい動きをしているが、試合でこれはという活躍をしたのを見ていない気がする。いや、いい仕事をしたなとは思うんだが、基本的に地味なのだ。

 

「打撃に穴がなく、守備と走塁も堅実な外野手。総合力ではレギュラーとってもおかしくないとは思うけどな」

 

御幸の言葉に頷くことしかできない。

 

「話を戻すけど、バッティングのみなら南野だが、外野守備がよりできるのは佐々木だから、どっちが上がってもおかしくなさそうだな。キャッチャーとしての南野はどうだ?」

 

「新入生のなかでは1番上手いけどなぁ。川上のボールはとれてたけど、槙原さんクラスになるとポロポロこぼしてたから、現状は使えないだろうな」

 

「特集されてた記事に強打の捕手!ってでっかく書かれてたもんな。守備に関してはあまり触れられていなかったから、そういうことかなとは思っていたけど。あの記事には稲城実業に進学か!?ってあったけど、青道に来るんだからどうなるか分からないよな」

 

今度は御幸がうんうんと頷いている。

 

「南野のキャッチングが急成長したら、御幸の立場危うくなるけどどうよ?」

 

「あいつは外野手、ファーストいけるから、そっちメインになるとは思うけどな。打線の厚みを考えると自然とそうなるだろ。まぁキャッチャーとして争うなら負けねぇよ」

 

「打線の厚みのことを考えるんなら、チャンス以外でももっと打てるようになろうな」

 

「うぐっ」

 

「それに、新チームでクリーンナップが俺以外1年生とか嫌だからな?」

 

そう言うと、御幸は苦笑いしながら頬をかく。1軍にいる2年生では、倉持は内野安打製造機。白州は地味な仕事人。御幸は得点圏のみの男。樋笠は不安定感ある打撃。

 

「今のままだと、上位打線で貯めたランナーを返す。ただそれだけの残塁処理係になってしまうぞ?チャンスメイクもできるバッターにならないと、上位打線は厳しい。現状、俺達2年生は結構つらい立ち位置なんだよな」

 

3年生が頼れるという状況で隠れているが、実際のところ、野手として打撃に信のおける存在が、1軍の2年生には少ないのである。最近御幸、倉持、白州に少し成長が見られたくらいであろうか。現チームでは下手すると、南野や佐々木のバッティング次第では、更に1軍の2年生が減る可能性もある。

 

御幸は打点バグで評価がすごく高く、倉持は圧倒的な足の速さで目立っているからな。なおさら白州に長所が何もないように見えてしまう。

 

白州よ、目立って生き残ってくれ!ついでに樋笠も!

 

そう思わずにはいられない。一緒に入学した仲間としては結構気になるところであった。

 

「分かってるけどな。1年生投手が入ってきて結構大変なんだぞ。手がかかるしな」

 

「大半はクリスさんに押し付けてるだろ?」

 

「ばれてら」

 

そう言って御幸は舌を出す。

 

「当然だ。チャンス以外でも、もっとしっかり集中できるようにしとかないと、痛い目を見るのはお前だけじゃないぞ。引っ張られるだけの、先輩たちに甘えるだけでいい時期は過ぎている」

 

「‥‥」

 

「それに丹波さんのことも考えないとな。相性とか関係なく─」

 

「あぁ!もうわかってるって!やればいいんだろ?やれば!丹波さん何か言うとすぐへこんで、その姿見せないようにどっか逃げるから大変なんだぞ!あの無駄にプライドの高い心臓スペランカー野郎が!」

 

少し貯まっていたものを吐き出すように、御幸は声を荒げるが、俺や真木の前では時々こうなるのでビックリはしない。ガス抜きは結構大事だ。

 

「丹波さんにも問題があるのは分かる。けど丹波さん先発の時に、いつもお前が打線から外れるだろ?そうなると上位で貯めたランナーを返す人がいなくなるんだよな」

 

「あー‥‥確かに丹波さん先発だと俺はベンチだもんな‥‥」

 

「先発は不安定で得点力は低下する。デメリットしかないからな。肝心な時にこれが響かなければいいけどなぁ」

 

御幸と同時にため息をついた。

 

 

 

……

 

 

 

春季東京都大会、1回戦は純さんが5回を零封して17ー0で、2回戦は真木が5回1失点と、秋からの復活をアピールして22ー1で勝利をおさめた。

 

特に2回戦では、ライトに純さんが入ることで、想定以上に下位打線の厚みが増し、青道高校!昨年並みの破壊力!といったネットニュースが出るほどの脅威を、他のチームに与えていた。

 

その流れで3回戦に乗り込んだ青道は、3本柱の1人である丹波さんを先発のマウンドに送ったのだが

 

「ボール!フォアボール!」

 

「連打くらって失点して、次の回には連続フォアボールかよ!」

 

「丹波ー!しっかりしろー!」

 

3回までは安定したピッチングを見せていた丹波さんが、4回にシングルヒットを打たれると、あっという間に3点を献上する。なんとか守備のファインプレーで3アウトをとるが、つづく5回にも連続フォアボールでノーアウト1、2塁のピンチとなっていた。

 

打線は後攻ながらも7得点をあげているが、ピッチャーがしっかり抑えてくれないと試合に締まりがない。投球のテンポが悪いことに加え、純さんや真木のように打撃が良いわけではないので、打線のストッパーになっており、ここまでいいとこなしであった。まさに懸念通りの展開である。

 

 

 

5回表時点の青道オーダー

 

打順名前ポジション打席
1番小湊 亮介セカンド
2番伊佐敷 純レフト
3番結城 哲也ファースト
4番西 影次センター
5番滝川・クリス・優キャッチャー
6番増子 透サード
7番楠木 文哉ショート
8番門田 将明ライト
9番丹波 光一郎ピッチャー

 

 

 

丹波さんに安心感を与えるためであろうか、3年生で固められた内野陣に、守備力を重視した外野陣。確かに丹波さんの心理的にはいいのであろう。だが、守備以外はどうか。

 

打線は4回7得点と、普通の高校であれば機能しているように思えるが、うちは打の青道である。下位打線で流れが完全に途切れてしまっているのはいただけない。いつもは御幸が7番や8番にいたおかげで、とりあえず後ろに回しておけば大丈夫という安心感があったのだが、今日はそれがない。

 

それが上位打線の選択肢を狭めていた。楠木さん、門田さんも悪いバッターではないのだが、得点圏の御幸と比べると分が悪かった。

 

「やっぱりこのチームの打線に御幸は必要だよな。下位打線にあいつがいると爆発力が違うわ」

 

自分の中における御幸の評価を更に上げる。現実逃避気味に打撃のことを考えていたが、今はノーアウト1、2塁のピンチ。

 

自分たちが話していたことは当然、監督やコーチも考えているわけで。今日のスタメンに監督からあらかじめ伝えられているのは、同点あるいは5点とられるまでに丹波さんが立ち直らなければ、すぐさま槙原さんに交代するということ。

 

すんなりと抑えるときもあれば、弱気になってボコスカ打たれるときもある。そんな不安定な投手を、今の豊富な投手陣に残しておく意味はない。一発勝負のトーナメントに不安要素は減らしておきたい。厳しいようにも思えるが、夏にベンチ入りできるかどうか、丹波さんへの試練だな。

 

周りを見渡すと、3年生メンバーは少し浮かない表情をしている。それもそのはず、同級生の、それも最後の夏に使ってもらえるかどうかを左右する試合だと、間接的に言われているのだ。2軍では川上、川島の2年生コンビが、落合コーチのもとで力をつけてきており、新入生に向井、東条という有望株もいる。決して脅しだけではないだろう。

 

そんな状態でも、結局やることは変わらない。打者とケースに合わせてシフトを敷き、投手を盛り立て傷口を広げない。これに尽きる。精神的に大人びているメンバー揃いなのもあって、これくらいのピンチは何でもないが、丹波さんだけがマウンドでテンパっていた。

 

 

 

 

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