至高の一打   作:もぐもぐファンタ爺

144 / 148
青道ー稲城実業
0ー0(2回裏終了時点)

高校名
稲実
青道




後攻 青道 スターティングオーダー

打順名前ポジション打席
1番倉持 洋一ショート
2番小湊 亮介セカンド
3番結城 哲也ファースト
4番西 影次センター
5番滝川・クリス・優レフト
6番増子 透サード
7番伊佐敷 純ピッチャー
8番御幸 一也キャッチャー
9番門田 将明ライト




先攻 稲城実業 スターティングオーダー

打順名前ポジション打席
1番神谷 カルロスセンター
2番白河 勝之ショート
3番吉沢 秀明サード
4番原田 雅功キャッチャー
5番成宮 鳴ピッチャー
6番山岡 陸ファースト
7番平井 翼セカンド
8番梵 勝美レフト
9番富士川 慎也ライト







春季都大会 準々決勝 part2

試合展開が落ち着き始め、両チームのエースはテンポよく投げ込んでいく。3回表、純さんは先頭打者の平井さんを歩かせてしまうが、続く梵さんをショートフライに、9番 富士川さんをセカンドゴロからのダブルプレーで切り抜ける。

 

純さんの投球に呼応するように、成宮も徐々にギアを上げていく。1番から始まる青道打線に外角攻めを基本として、倉持と亮さんを力で抑え込む。

 

「3番 ファースト 結城くん」

 

「キャプテンー!」

「哲ー!頼むぞー!」

 

哲さんへの声援がグラウンドを埋め尽くす。プロ球団からのスカウトがよく訪れる青道の中でも、かなりの人気と実力を誇るキャプテンが、稲城実業エース 成宮と対峙する。

 

気温が上昇してはいるが、まだ少し肌寒い。しかし、そんな微妙な気温を感じさせないほど、キャプテンvsエースの対決を見て、スタンドでは熱狂的に応援するファン達がいた。

 

初球、先ほどとはうってかわって、インコースへのストレートがミットを揺らす。

 

「ストライク!」

 

「おぉ!」

「146キロ!自己最速更新してるじゃないか!」

 

これまで観察してわかったのだが、成宮はスロースターターだっただけでなく、今日は初回から身体全体の動きが硬かったようだ。球数を多く消費したことで硬さがとれ、十全な動きができるようになったが、その代償としてスタミナを無駄に消費している。

 

その一方で、ボールの質自体はかなり良くなり、哲さんでもついていくのがやっとのようだ。5球目、アウトコースのカーブをファールにして2ー2の平行カウントとなっている。

 

お互いに一息つき、哲さんはバットを力感なく構え、成宮は適度に脱力して原田さんのサインを覗き込む。特等席であるネクストには、哲さんの必ず打つ、打って繋げるという強い意志が伝わってくる。無意識にバットを強く握りしめていた手を緩め、

 

「哲さん!俺に回してくださいね!」

 

と叫ぶと、ヘルメットの鍔を左手で軽く触って返してくれる。

 

成宮がサインに頷き、静止するとスタンドからの声が弱まり、マウンドの成宮に視線が集中する。その視線をものともせず、成宮は投球動作を開始し、渾身の力でボールを指先から放った。

 

ミットに向かって直進するボールが、ホームベース上でバットに弾かれると、ショート白河のグローブを避け、左中間を破ってバウンドする。

 

歓声を受けながら哲さんは、2塁を陥れてガッツポーズをする。最近は自身のバッティングで流れを作るなど、更にキャプテンの貫禄が出てきたな。そんなキャプテンが作ってくれたチャンス。ここでものにしないと

 

「4番 センター 西 影次」

 

この打順に俺がいる意味がない!

 

少し気合いを入れてバッターボックスに入る。前の打席では、初見のチェンジアップにやられたが、流れをこちらに持ってくるためには、今回はやられるわけにはいかない。

 

適度に力を抜いて、成宮を観察する。ボール自体のキレは良くなっているが、コントロールが抜群にいいわけではない。何よりここまでチェンジアップは俺と御幸に投げた2回だけで、ただの見せ球だった可能性がある。

 

身体を軽く捻って、ぐっと腕を伸ばしてからバットを構える。ストレート、カーブ、チェンジアップは見ることができた。後はスライダーとフォークを打席では見せてもらっていない。

 

軽く息を吐いて呼吸を整える。先程は慎重にアウトコースから入って、途中インコースをついてからのチェンジアップで決めてきた。今回はどう攻めてくるか。2アウト2塁の場面だが、積極的に4番に勝負を仕掛けてくるだろうか?

 

初球、インコースのストレートが外れて、ボールカウントが1つ増える。2球目もインコースへスライダーが外れて2ボールとなる。ここまで反応を見せていないが、投げづらそうにしているのが分かる。というか表情に出ている。

 

いまだにストライクカウントはないため、アウトコースに山をはって待ってみる。成宮がボールを放つと同時に、俺は思い切り左足を踏み込む。

 

「ボール!」

 

アウトコース、打ち頃の高さから鋭く落ちるフォークを、完全に見切って見逃す。昨年の兵藤さんのフォークと比べると、質としては低いな。再び軽くストレッチをしてバットを構え、余分な力を抜く。

 

4球目は甘い球のみ狙って待っていると、アウトコースの厳しいところへスライダーが決まり、1ストライク3ボールとなる。見せ球と思われるチェンジアップは来ないと思うが、次はどうくるか。球筋はすべて確認しているため、1球は余裕を持って見逃すことができる場面。

 

成宮が頷き、放たれたボールはインコースへと厳しく抉り込んでくる。

 

 

パァン!

 

 

「ストライク!」

 

こういった緊迫した場面で、インコースへのスライダーを投げ込める。2年生ながらさすが稲城実業のエース。ゆっくりと地面をならしてバットを構え、成宮の様子を窺う。逃げるなら3ボールの時点で外すはず。決め球として使えそうなのはストレート、スライダーの2球種。これにチェンジアップが絡んでくるかどうか。

 

どんなボールにも対応できるように、身体全身から力を抜いて、バットに手を添えるだけのイメージで打席に立つ。成宮は地面を蹴りあげ、腕をしならせる。

 

 

ギィン!

 

 

詰まった打球がサード方向へ飛んでいく。

 

「ファール!」

 

サードの吉沢さんはグローブを伸ばすが、ギリギリ届かず、ボールはファールゾーンへ落下する。スライダーを追いきれなかった。自分のなかで成宮の変化球を上方修正して次のボールを待つ。

 

 

ギィン!

 

 

「ファール!」

 

更に3球粘り、お互いに集中を増して勝負に入れ込んでいく。サインを見て、成宮がより意気込んだ顔になる。もしかしてと思いながらも首を1度回してバットを握る力を調節する。風は特になく、強くなってきた日差しはとても心地よい。

 

下半身をより意識して次のボールを待つ。成宮は腕をしっかりと投げ込んできた。腕の振りは鋭く、ブレーキの効いたボールが、少し高めな位置から急激にスクリュー方向へとスライドする。下半身は若干崩されたが、ヘッドの位置はそのままバットを振り切る。

 

鈍い音をたててボールが速い球足で転がっていく。ファースト 山岡のグローブとセカンド 平川さんのグローブの間を鋭く破り、ライト 富士川さんが捕球して内野がボールを受け取った頃には、哲さんがホームを踏んで喜びをあらわにする。俺は1塁上でガッツポーズをして

 

「なんとか対応できたか」

 

と呟いた。

 

 

 

続くクリスさんの左中間へのヒットで、2アウト1、3塁とチャンス拡げるものの、増子さんは空振り三振となり攻守交代となる。

 

ノリにのってきた成宮からの先制点で状況は動き出す。4回表、稲城実業は1番 神谷からの好打順。ボールを引き付けるバッティングで、しぶとくレフト前のテキサスヒットを放ってくる。神谷は1塁上から盗塁を仕掛けようと揺さぶってくるが、純さんは丁寧な牽制とそこそこのクイックで盗塁をさせまいとする。しかし

 

「セーフ!」

 

神谷は抜群のスタートをきって2塁を陥落させる。スイングで盗塁のアシストをした白河はスリーバントではあるが、しっかりとバントを決めて1アウト3塁となる。この試合初めてのピンチでクリーンナップを迎える。

 

 

 

 

 

 

「3番 サード 吉沢くん」

 

吉沢が呼ばれるのをネクストに入りながら聞く。1点ビハインドになった直後の攻撃で、後輩が作ってくれたチャンス。自分がキャプテンとして、エースの相棒として、4番としてできること。確実にこの回で少なくとも同点に持っていくこと。タイミングをとりながら軽く素振りをする。

 

青道エースである伊佐敷は小柄ながらも、身体全身を大きく使ったピッチングをする。140キロを越える直球、ツーシーム、スライダー、フォーク、チェンジアップを丁寧に低めに集めてくるピッチャー。コントロールはピンポイントではないものの、毎回試合を安定してつくる様は敵ながら見事というしかない。大崩れしない印象がある。

 

吉沢に対してストレートを軸に強気の投球をしてくる。キャッチャーが御幸の時にハマると、ズルズル完投を許してしまうチームが多い。今日もインコースへのストレートが多く、それに手を出そうとするとスライダーで逃げる配球も混ざってきてかなり厄介だろう。

 

「アウト!」

 

吉沢がファーストフライに倒れ、悔しそうな顔をして戻ってくる。俺は吉沢の右肩をポンッと叩き、

 

「次は頼むぞ。この回は俺がやってくる」

「すまん、任せた」

 

バッターボックスに入る。

 

「雅さん!後ろには俺がいるからねー!」

「原田ー!1本頼むぞー!」

 

周りからの声、信頼に後押しされてバットを短く構え、手から余分な力を抜く。チラッと御幸が俺の手元を見てくる。ここで点を取れなければそのまま負ける。やるしかない。

 

初球、アウトコースへボールがくる。短く持ったからといって御幸が安直に要求するか?バットを振りたくなるのを懸命に下半身で押し留める。

 

「ボール!」

 

わずかに低めに外れるチェンジアップの軌道を目に焼き付けられてしまう。あわよくば簡単にゴロで終わらせようとしてきたか。おそらく次は速球系だろうが、まだストライク2つぶんの余裕がある。あえてチェンジアップのみに絞る。

 

 

パァン!

 

 

「ストライク!」

 

外へのスライダーを見逃して1ー1の平行カウントになる。伊佐敷の表情からは何も読み取れない。バットを構えて相手を見据える。必ずこのバッテリーはインコースを見せてくるはず。それをたたく!

 

伊佐敷が投球動作を開始して、ダイナミックなフォームでボールを投げ込んでくる。アウトコースへのストレートを見逃す。

 

「ストライク!」

 

2ストライク1ボールとバッター不利のカウントとなる。これでコースに拘ることもできなくなった。ここからどうするか。

 

「雅さん!ごちゃごちゃ考えすぎ!バッティングなんてきたボールを打つだけでしょ!」

 

うちのエースの言葉に脱力する。いつの間にか変な力が入っていたか。センスで打ってる成宮とは違うし、俺は読んで打つタイプなんだがなと思いつつ、成宮の普段と変わらない態度が少し笑えてくる。俺は4番だからよ。ここでやるしかないよな。

 

伊佐敷が投げたボールは、インコースから逃げていく。それをバットでなんとか絡めとり、前へと押し出す。反応したショート 倉持が俊足を発揮し、ボールへと追いすがっていく。その行方を確認することなく1塁へと走りだす。

 

周りの歓声、悲鳴がうるさいが、1塁を駆け抜けた後に、審判の声が耳に届く。

 

「セーフ!」

 

どうなったかわからないが、吉沢がホームで成宮とハイタッチをしているのを見て、同点に追い付いたのを把握する。俺が見ていることに気がつくと、成宮はこっちに向かって手を軽く上げる。

 

頷くことで返事とすると、バッターボックスに成宮が入る。その初球、

 

 

 

カキィン!

 

 

 

伊佐敷にしては不用意であった甘いストレートを、成宮は強振する。2アウトであるため懸命に走るが、3塁ランナーコーチャーの矢部が、

 

「入った!鳴のやつやりやがった!」

 

と言うのを聞いて審判を見ると腕を回している。ホームで待っていると、鳴が満面の笑みで還ってきた。

 

「出来すぎだな」

「いつもこれくらいはできるんだけどね!譲ってあげてるだけなんだから」

 

こんな時も生意気な後輩のヘルメットをとって頭を撫でまくる。

 

「なにすんのさ!雅さん!」

「勝つぞ」

「っ!」

「この試合勝つぞ」

「‥‥もちろん‥‥」

 

青道との戦いの中で更に成長する後輩を頼もしく思いながら、俺は次の回の配球を頭の中で組み立てていくのであった。マウンド上の伊佐敷を見ると、へこむどころか、かえって闘志を燃え上がらせているようだった。

 

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