至高の一打   作:もぐもぐファンタ爺

146 / 148
青道ー稲城実業
5ー7(8回裏、ノーアウト時点)

ランナーなし、バッター:5番 滝川・クリス・優


高校名
稲実
青道




後攻 青道 スターティングオーダー

打順名前ポジション打席
1番倉持 洋一ショート
2番小湊 亮介セカンド
3番結城 哲也ファースト
4番西 影次センター
5番滝川・クリス・優レフト
6番増子 透サード
7番伊佐敷 純ライト
8番御幸 一也キャッチャー
9番丹波 光一郎ピッチャー




先攻 稲城実業 スターティングオーダー

打順名前ポジション打席
1番神谷 カルロスセンター
2番白河 勝之ショート
3番吉沢 秀明サード
4番原田 雅功キャッチャー
5番井口 雄大ピッチャー
6番山岡 陸ファースト
7番平井 翼セカンド
8番梵 勝美レフト
9番富士川 慎也ライト




影次視点


春季都大会 準々決勝 part4

 自分の手にホームランの感触が残るうちに、クリスさんがバットを振り抜くと1拍、グラウンドの時間が止まる。クリスさんが悠然と1塁へと歩み始め、自分は打球の行方を確認した御幸たちと歓声を上げハイタッチする。

 

 2者連続ホームランで稲実に1点差へと迫り、スタンド席からの応援にも熱が入る。成宮から代わったばかりの井口さんは苦々しい顔をしてはいるが、初球をスタンドに運ばれたことで目が覚めたのか、映像で見たときよりも鋭い目をしている。しかし、井口さんの目の前にいる男はどうだろうか。

 

 金属バットと衝突して軽い音を奏でたボールは、三塁線の内側をなぞるように転がる。

 

「キャッチャー!」

 

 バッターの増子さんはパワーがあるため、下がり気味だった稲実サードの吉沢さんが原田さんに声をかける。

 

「あっ!」

 

 キャッチャーの原田さんはボールをお手玉し投げられない。増子さんのセーフティバントが成功し、同点のランナーがノーアウトで1塁へ。

 

「しゃー!逆転するぞ!オラァ!かかってこい!」

 

 打席に立った純さんが叫び、それに呼応して青道の応援が激しくなる。

 

「タイム!」

 

 同点になれば勢いでそのまま勝負が決まってしまいかねない、そんなギリギリのラインで相手の国友監督がタイムを要求する。伝令に駆け出したのは、帽子を深くかぶって目元を隠した成宮だった。

 

 稲実ナインが集まっている間に、クリスさんが話しかけてくる。

 

「成宮の性格を読んでのストレート待ちは完全に当たったな」

 

「はい!クリスさんの言った通り、ファーストストライクはストレートでした。変化球だったら見逃してましたね」

 

「それでいい。井口の初球を狙って原田から崩したかったが」

 

クリスさんはそう言いかけてグラウンドに目を移す。その先には引き締まった表情ながらも、成宮に対して謝り、時には笑顔を浮かべる原田さんがいた。

 

「立ち直ったな…ここからの攻撃が大事になるな…」

 

「ですね」

 

 自分の失点を挽回したいと思っているであろう純さんは、ピッチャーを本職とはしているものの打撃が良く、出塁率を高水準にキープしている。また右方向にも臨機応変に打てる。期待を込めて打席を見守っていると

 

「走った!」

 

稲実のセカンド 平井さんの声がグラウンドに響く。純さんがフルスイングで空振りすると、ワンテンポ遅れて原田さんが2塁へと送球する。

 

「セーフ!」

 

 増子さんは完璧に盗塁を決めて、ノーアウトで得点圏にランナーがいく。純さんが吠えるのを聞きながら横を見ると、この試合出塁なしの倉持が悔しげに拳を握っている。

 

(そりゃそうだよな)

 

と納得していると、主審の声が聞こえてくる。1ストライク1ボールとなり、井口さんは深呼吸をしてマウンドをならしている。純さんは口では色々吠えているが、視線はしっかりと井口さんを捉え、集中しているように見える。3球目のインコース高めのストレートを見極め、1−2のバッティングカウントとなる。

 

 

ギィン!

 

 

鈍い音が聞こえ、ボールはセンター方向へと転がっていく。

 

「これは抜けるぞ!」

 

そういった声を、希望を断つようにショートの白河が追いつき、回転してから1塁へと送球する。ボールと純さんはほぼ同時に1塁に到達する。一瞬の間があり、

 

「アウトー!」

 

「くそったれが!」

 

審判の声を聞いた純さんが地面を叩き叫ぶ。しかし、アウトにはなったものの、ランナーは3塁へと進んでいる。そして次のバッターは

 

「8番 キャッチャー 御幸くん」

 

 逆転のチャンスに、この試合で1番の声援が御幸の背中を押す。いつも通り不敵に笑みを浮かべながら、バッターボックスへと入っていく。

 

「ここで打てよー!」

 

「油断するんじゃねえぞゴラァ!御幸ー!」

 

 いつも通り構えた御幸に対して、井口さんは真っ向勝負を挑んでくる。初球のインコース低めギリギリ一杯に入るストレートを見逃して1ストライク。2球目は内側へ抉りこむようなスライダーに、なんとか御幸は当てるが追い込まれてしまう。

 

(ここで御幸が打たないと、2アウト3塁で丹波さんか…代打を出す場面になるからまずいな…勝っていれば丹波さんを打席にそのまま送り出す選択ができた。この負けている状況なら監督は代打を出すはず。そうなれば残りの投手は、疲労のある純さんと昨日投げた真木のみになる。夏あたりになれば大丈夫だろうけど、まだ真木は本調子じゃないんだよな)

 

 そんな思いとは関係なく状況は進んでいく。御幸もそれが分かっているのだろう、際どいボールにも手を出してなんとか粘っていく。7球目のアウトコースの低めに外れるストレートを見極め、カウントを2−2まで整える。

 

「井口!ここで男を見せろ!」

 

「御幸!得意のチャンスやろ!打てや!」

 

両者に懸命な応援が飛んでくるなか、井口さんの雰囲気に違和感を感じる。何かしてくるかと訝しむが、特にベンチが動いたり、野手が特別なサインを出している様子はない。そして、井口さんが投球モーションに入ると

 

(特に何もない?いや、ボールの握りがおかしい?)

 

 

ギィン!

 

 

顔を顰めた御幸が振ったバットから快音は出なかったが、ボールはレフトライン際へとフラフラと上がっていく。

 

「落ちろー!」

 

と御幸が珍しく叫ぶが、ボールにレフトの梵さんが飛びつく。ボールが直接グラブに収まったのを確認した増子さんが、ホームへと走り始めた。

 

「増子ー!いけー!」

 

「吉沢っ!」「おう!」

 

梵さんからサードの吉沢さんへ、そしてホームへと練度の高い連携でホームはクロスプレーとなる。原田さんはボールの入ったミットを掲げて、レフトへとガッツポーズをする。

 

「アウトー!」

 

青道に傾いていたと思っていた流れが、均衡するどころか稲実へと傾いていくのを感じる。

 

(いや、丹波さんが続投できることを考えれば悪くはないか。互角に戦えているだけに、槙原さんの1点が悔やまれるな)

 

6−7と1点差には迫っているが、負けていることには変わらない。

 

「丹波なら抑えてくれる。次の回逆転するためにもしっかり守るぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

哲さんの言葉に全員で声を合わせた。

 

 

 

高校名
稲実
青道

 

 

 

「たはは、あの場面でシュートかよ」

 

 キャッチャー防具をつけながら、御幸は監督に井口さんが投げた新球種の特徴を楽しげに伝えていく。御幸の打席で井口さんが最後に投げたボールが気になるが、センターの守備につかねばならないため、聞いている途中ではあるが外野へ走っていく。9回表、稲実の攻撃もクリーンナップから。油断ならないバッターが続くが、ここは無失点で切り抜けたいところ。

 

 マウンド上の丹波さんは気負うことなく、堂々とした姿を見せている。長い間怪我やメンタル面に悩まされていたが、これが本当の丹波さんかと心にくるものがある。

 

「3番 サード 吉沢くん」

 

 しかし、それは稲実の3年生にも言えること。それぞれ壁を乗り越え、結果を出してきたからこそこの場に立っている。先程は見事な連携プレーで魅せた吉沢さんが右打席に入る。何が何でも塁に出てやるという気持ちが伝わってくる。

 

 丹波さんは初球カーブをインコースへ投げるが、吉沢さんは避ける素振りを見せない。

 

「ストライク!」

 

フロントドアのカーブは、自分の体に向かってくるように感じるはずだが、気持ちで向かってくる。

 

「さぁボールくるぞー!声出せー!」

 

「丹波!こっちに打たせてこい!」

 

「いったれー!」

 

 各々が声を出して丹波さんを盛り上げていく。2球目のストレートに吉沢さんは空振りする。

 

「追い込んだぞー!打ってくるぞ!」

 

更に気を引き締めて足を軽く動かす。

 

 

キィン!

 

 

ボールは二遊間を転がっていく。亮さんがなんとか追いつくが、グローブから弾いてボールが転がる。

 

「倉持!」

 

反応した倉持が右手で拾って投げようとするが、その頃には吉沢さんは1塁に到達していた。ノーアウトランナー1塁、そして打席には4番キャプテンの原田さん。

 

 丹波さんが2つ続けて、低めのカーブをゾーンに投げると、原田さんは2球目のカーブにバットを当ててカットしてくる。両者睨み合い、外のストレート、低めに外れるスローカーブを見極められ、2−2とカウントが進む。

 

「ランナー走った!」

 

「ボール!」

 

吉沢さんは走る素振りを見せただけで帰塁する。

 

「ボール!フォア!」

 

フルカウントになって丹波さんに力みが出たか、カーブが大きく外に外れてノーアウトランナー1、2塁となり、得点圏へとランナーが進む。5番に入った井口さんがバントを丁寧に決め、1アウトランナー2、3塁となった。

 

「6番 ファースト 山岡くん」

 

 打席には長距離砲の山岡、そしてネクストサークルには好打者の平井さんが控えている。これが丹波さんにとって、この試合初めての自分が招いたピンチとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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