至高の一打   作:もぐもぐファンタ爺

147 / 148
青道ー稲城実業
6ー7(9回表、1アウト時点)

ランナー2、3塁、バッター:6番 山岡 陸


高校名
稲実
青道




後攻 青道 スターティングオーダー

打順名前ポジション打席
1番倉持 洋一ショート
2番小湊 亮介セカンド
3番結城 哲也ファースト
4番西 影次センター
5番滝川・クリス・優レフト
6番増子 透サード
7番伊佐敷 純ライト
8番御幸 一也キャッチャー
9番丹波 光一郎ピッチャー




先攻 稲城実業 スターティングオーダー

打順名前ポジション打席
1番神谷 カルロスセンター
2番白河 勝之ショート
3番吉沢 秀明サード
4番原田 雅功キャッチャー
5番井口 雄大ピッチャー
6番山岡 陸ファースト
7番平井 翼セカンド
8番梵 勝美レフト
9番富士川 慎也ライト




小湊 亮介視点


春季都大会 準々決勝 part5

 3塁に吉沢、2塁に原田がいるのを見て悔しさが込み上げてくる。それはこの1アウトランナー2、3塁のピンチ、これのきっかけになったのが自分のエラーだったから。1歩目は良かったものの、普段練習では取れている打球であるからこそ丹波に、そしてチームに申し訳無さがある。片岡監督を見ると、こちらを信じている目をしていて、どこかで挽回しなければと思わされる。

 

「外野タッチアップあるぞ!内野は4つ意識!スクイズも警戒!稲実はやってくるぞ!」

 

「これ以上離されるわけにはいかないぞ!」

 

「丹波ー!攻めていけ!変わるんだろうが!」

 

 プレーで足を引っ張ってしまった。そう感じたのならそれは声かけやプレーで地道に返していくしかない。内野全体が気持ち少しだけ前進し、小刻みに足踏みして次の打球に備える。

 

 打席にいる山岡は率は低いものの一発があるバッター。速い打球が予想されるため、内野で止めてさえしまえば、3塁ランナーを牽制しつつ1塁でアウトを取れる。

 

 丹波は初球カーブで空振りを奪うと、続く高めのストレートでも空振りを奪い、簡単に2ストライクと追い込む。

 

(1つアウトもらって腕の振りが戻った?ランナーが出たり打たれたりしたら崩れることが多かったけど、前の登板で何か掴んでから練習でもいい投球していたことに何か関係が?まだ不安定なところもあるけど、1試合でこんなに変わるもんなんだね。そしてそれを後押しする強気のリード)

 

「ストライク!バッターアウト!」

 

(あんなに組むの避けてたのに…なんだ…意外に相性いいんじゃん。クリスがあっさりと御幸にキャッチャー譲ったのは納得いかなかったけど、こう見せられるとね)

 

 インコース低めのフロントドアとなるカーブに手が出ず、山岡は3球で三振となり2アウトに。

 

「ナイピッチ!」

 

「丹波ええぞー!」

 

「2アウト!内野ゴロは確実に1つで!外野は前進!余計なランナー返さないよー!」

 

 内野は定位置に戻りセーフティバントも警戒する。打者は左打ちの平井で、ここまでヒットも出ているバッター。2アウトではあるが、なにかしてきそうな雰囲気がある。

 

 

ギィン!

 

 

「ファール!」

 

 これまで原田以外の打者は当てることすらできていなかったカーブに、平井は初見で軽く当ててくる。

 

(2年生に注目が行きがちだけど、やっぱりこいつもいい打者だ)

 

「丹波!相手は捉えきれてない!押し続けていけ!」

 

 哲の声に丹波は目を合わせることで返し、セットポジションからアウトコース低めにストレートを投げきる。

 

「ストライク!」

 

「うっしゃ!追い込んだぞ!そのままいけやゴラァ!」

 

深く息を吸って適度に脱力する。

 

 

キィン!

 

 

綺麗な金属音が聞こえるやいなや、背走してボールを追いかける。

 

(1歩目は完璧!純は…突っ込んできてる…!?)

 

「任せた!」

 

「うぉらぁぁぁ!」

 

 自分は横に逸れ、純は懸命に走ってグローブを突き出して飛び込み、ボールを巻き込んで転ぶ。

 

「まわれまわれー!」

 

稲実の走者が純の態勢を見て更に次の塁に進み始めるが、純は飛び込んだ態勢のままグローブを天に掲げた。

 

「アウトー!」

 

「しゃあー!」

 

「さぁ!いこう!俺らの攻撃だ!」

 

純を起こしてねぎらいながら、ベンチへと引き上げる。

 

 

 

高校名
稲実
青道

 

 

 

 ベンチに戻ると坂井がバットを振って準備をしていた。

 

「頑張りなよ!」

 

「あぁ!」

 

ブルペンを見ると、昨日登板した真木が投げている。成長痛がほぼなくなり2メートル近くの身長、そして落合コーチの完全管理のもと鍛えられた肉体をフルに使ったフォームで、指先からスピンの効いた重いストレートを弾き出す。

 

 夏へ向けた調整でまだ試運転の状態であるが、昨日は力を抜いた状態で帝東打線を5回無失点にまとめ上げた。万全であれば実力的には成宮に匹敵すると落合コーチは断言している。

 

「真木は今日投げない予定だったけど?」

 

「勝つために投げますよと直談判だとさ。俺がいるっていうのによ」

 

純が若干いじけながら答えてくる。

 

「今のままだと真木の方が実力としては上だもんね」

 

「うっせ!それは俺のほうが実感してんだよ!」

 

 じゃれ合いながらも井口のピッチングを観察していく。ストレートを軸にスライダー、カーブを使い分け、御幸に1球投げてきた新球種のシュート。ほぼストレートに見えたと御幸が言うシュートは確かに厄介だろう。それなら追い込まれるまでに打てばいい話だが

 

 

ギィン!

 

 

 坂井がストレートを打ち損じ、ファーストの山岡が捕球して1アウトとなる。ネクストサークルに向かう際に坂井に

 

「ボールがキレてる。かなり気合入ってるぞ」

 

という言葉をもらい、井口の表情を見ると鬼気迫るものを感じる。

 

(そういえば点差とかは違うけど、状況としては去年の夏と同じかな?去年は南野さんからスイッチした成宮が敬遠失敗。同点になってから登板した井口が、後続を抑えきれずうちの勝ちだったよね)

 

 井口は右腕をしならせて力一杯に倉持を圧倒する。初球のストレートをインコース高めに投げて、倉持の上体を起こす。そして2球目にインコースの低めに外れるカーブで空振りをとり簡単に追い込む。

 

「倉持ー!ボールしっかり見ろー!」

 

「青道を代表してその場に立ってんだろうが!」

 

「タイム!」

 

 倉持は1度打席を外して深呼吸をし、軽く素振りをして打席に戻る。そしてボールは

 

 

ギィン!

 

 

鈍い音をたてて1塁線上を転がっていく。ノロノロと転がるボールは、山岡の眼の前でゆっくりと止まった。

 

「セーフ!」

 

 アウトになれば絶体絶命の場面。そこでスリーバントを決めた倉持に感心する。

 

(試合では左に専念してるアピールしてるけど、俺たちは右でも素振りしてること知ってるんだから。でも表情を見るに、塁に出るために形にこだわらない覚悟が決まったみたいだね。まったく…色々考えすぎたりかっこつけたり忙しいんだから…)

 

打席に入って肩幅ほど足を開き、ネクストサークルに入った哲を、そして影次、クリスを見る。

 

(そう、俺たちにはこんなに頼れるバッターが後ろにいるんだ。迷うことなんてない。繋げるんだ!)

 

「走った!」

 

 

キィン!

 

 

初球、インコースへシュート気味に来たストレートを、適度に力を抜いたスイングで捉え、ライト線目掛けてバットを回しきる。

 

「フェア!」

 

「ヒャハ!」

 

あらかじめスタートをきっていた倉持が2塁、3塁を蹴り、ホームを楽々陥れる。

 

(力んだが故のナチュラルシュートだったか。御幸、話が違うじゃん。さては丹波と久々に試合で組んで集中してなかったな?でもこれなら大丈夫だろうな)

 

2塁上でガッツポーズをすると、青道側の観客席に自分よりも前髪は長いが、同じ髪型をしている小さい影を見つけて手を振る。

 

(春市、今年の夏は俺たちが甲子園に連れてってあげるよ。でもまずは関東大会へ)

 

「3番 ファースト 結城くん」

 

「タイム!」

 

1アウト2塁で1打サヨナラの場面、ここからは青道が誇るクリーンナップ。自分が逆立ちしても勝てないであろう3人が並ぶ。天才2人の前を打つことが許された、努力を積み上げ続ける秀才。同級生ながら自分が背中を追い続けたキャプテンが打席に入る。

 

 それは無駄なボールを振らない。稲実のタイム後、相手バッテリーはボールが先行し、マウンド上の井口は汗まみれになっている。曇りなき目で見極め、下半身から始まった動きが完結すると、打球は弾丸を思わせるような伸びを見せ、バックスクリーンへと叩き込まれていった。

 

 ホームをしっかりと踏みしめ、1歩、2歩と進んで反転する。隣り合った影次と、後ろから迫ってくる多くの聞き慣れた足音をBGMに、軽く笑いながらホームを踏みしめて片手を上げる哲を迎えた。

 

 

 

▽金丸視点

 

 

 

「先輩たちやべー!選抜ベスト8の稲実に競り勝った!」

 

「キャプテンのホームランやばかった」

 

「クリーンナップ全員ホームラン打った感じ?」

 

観客席からは歓声よりもどよめきの方が大きかった。改めてスコアボードを見る。

 

 

 

高校名
稲実
青道

 

 

 

 選抜では成宮さんと井口さんのダブルエースが、3試合で計4失点と全国区であることを示した稲実投手陣を、後半一気に攻略しての勝利に脱帽する。それとともに、改めてすごい学校に入ったのだと身震いする。

 

「秀明!やっぱうちの打線は強いな」

 

「うーん」

 

「勝ったのに浮かない顔してどうしたんだよ?」

 

そう聞くと秀明は周りを軽く見てから、小さい声で

 

「エースの伊佐敷さんは、ゾーン勝負でテンポはいいけど、全国区の打線だと2巡目には対応されちゃうね。コントロールがとても良いわけでもない。槙原さんも打たれ続けてたし、投手陣は付け入る隙もありそうだなって」

 

「ま、まぁ去年の武藤さん、井手さんに比べると厳しいけど」

 

「うん、決めた」

 

そう言って秀明はこちらを力の籠もった目で見てくる。

 

「高校では投手に専念するよ。向井じゃなくて俺が青道のエースになって、甲子園で優勝する」

 

ペットボトルの蓋を開けて一気飲みすると続けて

 

「そのためには南野、佐々木以上のバッターも必要になるんだけど…信二がなってくれるよね…?」

 

「うぐ、あいつら以上のバッターか。」

 

いきなりの展開にビビったが、向き合って固く握手をする。

 

 そんなことをしていると、父兄や高校野球ファンが多くいる席からのざわめきが広がってくる。耳を澄ますと

 

「は?市大三高が準々決勝で敗退した?」

 

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