至高の一打   作:もぐもぐファンタ爺

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春が終わる

side 青道野球部OBのおっちゃん

 

「くぁー!ビールうめぇ!」

1人で飲んでるのについ口に出してしまった。

 

スーパーで買ってきた半額シールのついた刺身を、醤油にたっぷり浸して口に入れる。

 

最近野球部を見に行けてねぇなと思いながら、朝、嫁さんが郵便受けから取って、布団に放り投げたであろう新聞を読む。

 

「うわー!昨日試合やってたのかよー!」と叫ぶと隣からドン!と壁を叩く音が聞こえた。

 

隣から叩いてきただろう娘に、たくましくなったよなぁ‥と思いながらビールをまた1口。

 

昨日休みだったのになぁと思い新聞のスポーツ欄に目を通すと顔をしかめる。

 

遠藤が怪我か‥怪我は嫌なもんだ‥うん。

去年の冬辺りから、他のOBどもがあいつはよくなったって言ってたかなと、刺身をもふもふ食いながら思い出す。

しっかし5-7って結構接戦だったんだなと、負けた新聞を読みながら、ビールを飲んでいると、熱燗を用意してくれた嫁がドアをノックする。

 

お酌をしてもらい、青道のことを聞くと、元マネージャーでも今年は盛り上がっているとか。

 

そりゃなんたって打の青道だ!俺が4番打ってた頃からガンガンやってるぜぃと力こぶを作ると、はみ出した腹をさすられ、いい笑顔を向けられる‥

 

はぃ、痩せます‥

 

しっかし、まぁなんともうちは頼れるエースってもんがいねぇよなぁと、7回裏までは3失点で抑えていたエースや、内容をよく確認することなく、熱燗を楽しみ始めた。

 

 

 

side 片岡

 

勝っていたはずであった。

遠藤が完投し、市大三高に勝ち、関東大会へ進む。

そして、春季東京大会の決勝で、まだ登板経験の少ない坂井に、強豪の空気を感じてもらい、川口へ継投する。2年生ピッチャーに経験を積ませる予定だった。

 

市大三高のエース、田辺のスタミナをじわじわと奪い、9回表には4点をとった。打線は非常によかった。

田辺から合計5点取ることのできる打線は、全国でもそうはない。

 

紛れもなく遠藤は青道が求めていた、私が思い描いていたエースであった。しかし、離脱して、1ヶ月の療養期間、そこからリハビリをしていく。

 

ピッチング動作の最後に、全体重を支える左足の負傷であるから、走ることすらできない。スタミナ、そして下半身の劣化による制球力、球速への影響。

 

これだけでも、遠藤本人だけでも課題がたくさんあるのに、精神的支柱であった遠藤の離脱により、2,3年生に元気がない。

 

これからどうするかと、市大三高戦が終わったバスのなかで、若き監督は必死に頭を働かしていた。

 

 

 

side 西

 

バスから降り、風呂に入って飯を食う。

チームの中心であった、遠藤さんが怪我したからであろうか。2,3年生の顔色は優れない。だが習慣から体が覚えているからだろうか、決められた時間に全員が、しっかりと風呂に入って、飯を食っていた。

 

部屋に戻ると、机に向かって今日の配球のコピーを、同じところを鉛筆で直しては塗りつぶし、直しては塗りつぶす中山さん。ボーッと布団の上に寝転がり、天を見上げる佐々木さんがいた。

 

 

唐突にギューっと力強く、蹂躙するかのように、中山さんの肩を揉みしだく。

 

「ぬぉーん!!!??」と悲鳴を、なんだその声は‥こほん‥あげる中山さんを素振りに誘う。今はほっといてくれと言う中山さんを、無理矢理、自主練習の場所へと連れ出す。

 

 

誰もいないことを確認する。

 

 

 

 

 

「あの配球を何度見直しても、遠藤さんにピッチャライナーがいった。その結果は変わりませんよ。」

 

 

 

 

 

顔に衝撃を受けて、倒れていたことに、数秒して気がつく。

顔をあげると

 

「すまん‥すまん‥」と泣く中山さんが座り込んでいた。

 

 

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