至高の一打   作:もぐもぐファンタ爺

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継承

side 武藤

 

「俺は夏の大会に間に合わない。」

 

病院から帰ってきた、白目が赤く充血している遠藤さんに、部屋から連れ出されると、俺にそう語りかけてきた。な!?と声をあげようとすると、口を手で塞がれる。

 

 

「これは今は俺と監督、保険医しか知らない。あまり大声を出すな」

 

 

コクコクとうなずくと、手を離してくれた。

 

 

「監督も、俺も、足にヒビが入ったくらいだと思っていたが、病院で検査をすると、ポッキリいってるらしい。しっかりとくっつくまでに4~6週間、全治3ヶ月が妥当だろうと言われた。2週間は入院するのが普通みたいなんだが、お前らをほっとけなくてな。監督からも頼んでもらって、保険医が常駐してるからという理由と、経過の記録、連絡をする約束で、寮に戻れるようになった。」

 

 

じっと黙って遠藤さんの話を聞く。

 

 

「俺の高校野球は終わってしまったが、まだ俺の同級生の高校野球は終わっていない。どうか、あいつらの力になってやってくれ!」と遠藤さんが俺に頭を下げてくる。慌てて顔をあげてもらう。

 

 

「たぶん糸原が暫定エースになるだろう。2年生の川口は怪我からまだ立ち直っていない。坂井は心が体に追い付いていない。入部してからすぐ、挫折から立ち直り、自分と向き合えたお前の力が必要なんだ。」まっすぐな眼で俺を見てくる。

 

 

 

 

 

 

色々と話をしていると、1時間も経過していた。遠藤さんと毎日自主練習をすることを約束しながら部屋へと戻る。

 

翌朝、外野練習で藤堂さんが、声を全体へとかけていくが、どうもみんなの反応が悪い。柳とアイコンタクトしながら、どうにかならないかと思っていると、松葉杖をついた遠藤さんが歩いてきた。

 

 

「お前ら、藤堂と柳、武藤以外は、俺の仇をとってくれないのか?声をだせ!しっかりボールを捕って投げろ!リハビリ含めて3ヶ月かかるかもな!それまでに負けてたら承知せんぞ!」

 

真剣な顔をして叫ぶ遠藤さんの姿に、俺はどうしても耐えられなくて、でも見届けないといけないような気がして、誰にも気づかれないように、泣かないように、歯を食い縛りながら、去っていくエースの姿を、藤堂さんの後ろから見つめていた。

 

 

 

side 片岡

 

松葉杖を伴った姿ではあるが、遠藤が声をかけていくと、全員が遠藤が復帰したときのためにと、練習に熱が入り始めた。

 

本当は私がしっかりと選手の気持ちを、闘志を戻すように声をかけるべきだった。怪我というものは、自分が現役の高校球児だった頃から身近にあり、多くの選手を苦しめてきた。先輩、同級生、後輩、そして教え子の怪我を経験している。

 

だが、精神的支柱たるエース、キャプテンの怪我となると、経験したことはなかった。

 

教え子に救われた。ありがたい気持ちと、自分の経験の浅さへの恨みを味わいながら、この経験を糧にすることを誓った。

 

しかし、遠藤は復帰すると言ったが、全治3ヶ月だぞと、練習の後に思い出して頭を抱えることになるのは、今現在本人は知らない。

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