side 片岡
5回戦、対稲城実業戦のオーダーは、4回戦と少しかえて
1 藤堂 センター
2 柳 レフト
3 江藤 ショート
4 植松 ファースト
5 倉田 ライト
6 西 セカンド
7 東 サード
8 中山 キャッチャー
9 川口 ピッチャー
にしようと考えている。
川口は、2回戦では力んでの自滅があったが、気持ちが入りすぎていたためであること。4回戦では4回に登板し、地に足をつけて無失点で1回を、しっかりと投げ抜いたことから、試合を作ってくれるだろうと信じている。
川口よりも計算のできる、しかしながら、1年生である武藤にはあまり無理はさせたくない。糸原は3試合連続の先発登板で、疲れが貯まっている可能性が高い。
坂井は登板の度に失点している。ボールの質は今のところチーム随一なのだがな‥
全員が自分なりに真剣に、野球と向き合っている。監督として選手を信じて送り出すのが役目だと、選手達の顔を見て、稲城実業戦の対策を練っていく。
side 国友 稲城実業監督
今年は1,2年生に素質ある選手はいるものの、現在プロ注目と呼ばれるような、スター性のある選手はいない。守備と打線に穴はないが、例年と比べると物足りない。春季東京大会では、市大三高の超高校級右腕、田辺 俊樹にノーヒットノーランをくらい、OBからは、来年のチーム作りを進めていくべきだという声があがっていた。
母校である稲城実業の監督に就任して6年、就任してから春夏合わせて10回甲子園へと導いた実績のある監督、私はそう世間から認識されている。それ故、指導力の問題ではなく、選手に問題があるのではないかと、選手へOBからの声が、公式大会のふがいない成績を理由として、襲いかかってくる。
私が就任してから、2季連続で甲子園の出場を逃した世代として、OBから期待されず、ノーヒットノーランをされて、ため息をつかれる。しかし、あの子達が負けて涙を流した姿、バットを遅くまで振る姿、そして勝利した時の笑顔を思い出すと、今現在を懸命に、こいつらの監督としていようと思える。
俯き嘆くのはここまでだ。私の名声を信じて入学し、私の指導を信じて練習をし、指揮を信じて試合をする。来年のチームを作るためという言い訳で、私についてきた3年生を裏切りたくない。
王者として君臨していたカリスマが、今大会は挑戦者として、昨年の夏の都大会覇者、青道へと牙を剥く。
side 川口
片岡監督から、明日の先発が俺だとチームに共有された。正直、戸惑いのほうが強かった。糸原さんが3戦連続で先発をしていて、回避するのは妥当だとは思っていた。だが、なぜ武藤じゃないのか?
自主練習場に到着すると、フォームをチェックする。骨がくっついたのが2月、リハビリして、4月初めには投げれるようにはなった。だが完成度は低く。3ヶ月間何もしなかったわけではない。色々と相談しながら仕上げてきたつもりだ。
しかし、より結果を出して、チームの期待に応えているのは武藤だ。
何で俺が先発で、なぜ武藤じゃないのか?
同じ事をグルグルと考えながら、フォームチェックをしていると、同学年の伊藤が歩いてきた。
sideout
「変な顔してフォームチェックしてんな。明日の先発が武藤じゃなくてお前なのを気にしてるのか?」
「‥」
「望‥お前ならやれるさ」
「結果を出していて、ふさわしいのは武藤だ。」
「‥なぁ、望。武藤がさ、遠藤さんがもう試合に出れないのを知ってから、無理してるのを知ってるだろ?」
「あぁ‥」
伊藤が急に川口の胸ぐらを掴み
「おい!いつからそんな腑抜けになったんだよ!俺みたいに、満足にやりたいことができないやつを作らないでくれよ!」
泣きながらしゃがみこむ。
川口はそれをバツの悪そうな顔で見下ろしていた。