1 藤堂 センター (右)
2 柳 レフト (左)
3 江藤 ショート (右)
4 植松 ファースト (左)
5 倉田 ライト (右)
6 西 セカンド (左)
7 東 サード (右)
8 中山 キャッチャー (右)
9 糸原 ピッチャー(右投げ、オーバースロー)
青道-稲城実業 0-1
7回表ノーアウト
糸原は、怪我から復帰してから左肘を気にして、昨日まで、腕を振りきれていなかった川口が、鬼気迫る投球で、稲城実業の打線を抑えたのを嬉しく思っていた。
▽
2年生、特に、藤堂、川口、伊藤は責任感が強く、幸運にも、1年生から甲子園を経験した選手として、先輩達が抜けた秋から、チームとして主力となっていった。1番伊藤、2番藤堂のコンビは後輩ながら頼もしく、遠藤が成長痛で苦しむなか、2番手ピッチャーとして力をつけてきた川口。
昨年の夏に、甲子園に出場できたのは、3年生の先輩達がしっかりしていたから。その先輩達に大部分が甘えてしまっていた俺たちの世代。
なかなかそういった気質が抜けないなか、しっかりと自分を持った江藤、植松、中山‥そして遠藤は飛躍し、俺や倉田達は、榊前監督がやめるかもという噂から、有力選手が少なかったせいで、なぁなぁでレギュラーとして、使ってもらっていた。
片岡監督の練習は厳しかったが、それだけで、自主練習なんかしなくても、レギュラーとベンチを行き来し、使ってもらえる。
そんな俺達を突き上げてくる2年生の存在。そのままいっていれば、自分達も雰囲気に押されて努力していたのだろうか。
しかし、伊藤が離脱し、次に川口が離脱した。
藤堂は自分がやらないといけないと考え、2年生を引っ張っていった。他の2年生は今大会ではレギュラー落ちしてしまったが、佐々木、蜂須賀、角田など、どんどん、続いていく存在が出てきはじめる。
そしてついに、1年生が入学し、怪物3人が呆気なく、燻っていた3年生の場所を取っていく。そういうこともあるよなと、半ば諦めかけていたが、本当であれば、エースとして背番号1を背負っていた遠藤。あいつの怪我のおかげ、といってはなんだが、3年生に火がついた。
もっと早くから真剣にやっていれば、スタンドでそう思わずにはいられなかった。
▽
7回表、糸原が、目を閉じて深呼吸をし、マウンドへ。
昨年の秋や、4月の春の大会とは違う、引き締まったオーラを纏った糸原を見て、稲城実業の打者は各々、警戒レベルを上げる。
糸原は元々は遠藤を凌駕するピッチャー。ほどほどに頑張るだけで、2年生の秋の大会でエースを任せられていた、素質溢れた選手であった。努力量の差で遠藤に先に行かれ、そのまま言葉だけ悔しいと述べる。才能の差だったんだと言い訳をして逃げていた、あの頃の糸原はもういない。
遠藤がいない、川口、坂井がそれぞれ苦しみ、そして、ひとつ間違えば伊藤のように潰れかねない、1年生の武藤で構成された投手陣。
先輩に連れていってもらった甲子園に、今度は自分が後輩を連れていくために、俺がやらねばならないと、稲城実業のバッターを睨み付けた。
▽
7回表、1アウトをとり、6番打者である2年生の天海が右打席にたつ。
ボーッとした表情で、何を考えているかわからない天海を、キャッチャーの中山は観察する。
川口が投げていたとき、5回表に先頭打者としてたつ天海は、先制ホームランを放っている。1打席目は追い込まれるまで反応がなく、インコース低めのスライダーを、まるで感触を確かめるように軽く当て、レフトへヒットを放っていた。
ホームランを打たれた2打席目では、インコースにツーシーム、アウトコースにシンカーで、2ストライクに簡単に追い込むが、そこから4球連続で粘られた。そして、アウトコースに外れるストレートの後、インコースに外れるスライダーを選択した。
身体にバットが絡み付いたかのように、綺麗に腕を畳んだまま、天海がその場でクルッと回転すると、芸術的な放物線を描いて、レフトスタンドにボールが落下した。
そんな前までの2打席を思い出し、どのボールで仕留めるかを考えていく。糸原の持ち球は、130キロ後半まで伸びたストレートに、スローカーブ、チェンジアップと緩急をつけるもの、ゴロを打たせるためのツーシームに、遠藤から託された魔球SFFがある。
ボールの質が6月辺りからよくなり、前ほど飛ばされにくくなったことから、ストレート、スローカーブ、チェンジアップの3球種のみで通用してきたため、いまだにツーシーム、SFFは隠しているままだ。
先程までの打席から、横にスライドする球、またはインコースが得意なものとして、リードを頭で組み立てていく
アウトコースへストレートを投げ1ストライク。アウトコースに外れるストレートで平行カウント。まだ天海に動きはない。
インコースにあえて全力でストレートを投げさせ、わざと高めに外して印象付ける。フロントドアのスローカーブで2-2の平行カウントに。天海はスローカーブをじっくりと観察をし、膝でタイミングをとっている。
そして、天海が得意と思われる、インコースの低めにツーシームを要求すると、しっかりとコントロールされた球に天海は強振し、鋭いゴロがレフト方向へと放たれるが、ショートの江藤が横っ飛びで好捕し、ファーストへとストライク送球し、アウトとなった。
▽
送球をして、セカンドの西とハイタッチをしたあと、定位置に戻る際に、ふと江藤が天海をみると、天海は中山を見定めるように見ながら、駆け足でベンチへと戻っていった。
国友の秘蔵メモ
天海 賢治 2年生 稲城実業
右投げ右打ち センター
一般入試で入学してきた素材型の選手。
黙々と練習をこなし、止めるまで愚直にやり続ける。
1年生の入学時は下から数えるのが早かったが、1つずつ積み重ねて冬合宿後から、レギュラーに名を連ねるようになった。