至高の一打   作:もぐもぐファンタ爺

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青道オーダー

1 藤堂 センター (右)
2 柳 レフト (左)
3 江藤 ショート (右)
4 植松 ファースト (左)
5 倉田 ライト (右)
6 西 セカンド (左)
7 東 サード (右)
8 中山 キャッチャー (右)
9 糸原 ピッチャー(右投げ、オーバースロー)

青道-稲城実業 0-1
7回裏 ノーアウト
先頭打者 4番 植松


怪物の更なる飛躍

6回までで青道は柳が1本、西が2本のヒットを放っただけで、いまだに得点を奪えずにいた。

 

7回裏、先頭打者の植松は、2,3年生が全く打てず、1年生のみがヒットを打っている現状に、苦々しく思っていた。

 

あらかじめ、偵察班から、稲城実業のエースは、140キロ前後のストレートに、高速スライダー、カーブ、スローカーブ、フォークとバランスのいい、右投げのオーバースローのピッチャーであることは伝えられていた。

 

打の青道と持ち上げられ、ここまで全て2桁得点をして、自分達の実力を過信していたのだろうか。いや違う。事前にわかっていた球種に、インコース、アウトコースに分けて投げられるシュートに、詰まらされての凡打が多いのだ。

 

初球、左打者の俺にたいし、バックドアのカーブが投げられ、アウトコース低めいっぱいに決まり、1ストライク。ワンバウンドになるスローカーブに、体勢を少し崩されるが、我慢をして1-1の平行カウントに。

 

6回裏からストレート主体であった配球が、変化球主体へと変化し、全く別のピッチャーと戦っているような感覚になる。

 

バットを握る手に力が入り、思うようなスイングができず、インコースのストレートを打ち損じ、セカンドゴロとなった。

 

 

 

 

 

 

7回裏、2アウトで西が左打席に入る。じわじわと稲城実業に追い詰められている感覚を受ける。チーム内で冷静なのは藤堂さん、柳、中山さん、糸原さん、そして、あまり深く考えずノリで楽しんでいる東くらいであろうか。今大会初めて1点ビハインドで迎えた試合終盤、自然と力みが出て、焦りを覚えるのは、若者としては仕方ないものとして考える。むしろ、柳、東が落ち着いているのは大したものだと思う。

 

高校に入ってから更に身体、脳が成長したからか、前世と今世が更に溶けて混じったような気がする。前世で仕入れたであろう知識、そして魂に染み付いた技術、野球観、どう戦っていくか。

 

野球において、打撃は、打順によって基本的には役割が決まっている。1番は出塁することを大事に、2番は1番を進塁させ、また出塁もし、チャンスの拡大を狙うなど、チームによってほぼ確立された行動指針がある。

 

現在自分がいるのは6番打者で、チャンスであれば打点を、ランナーがいなければ出塁、チャンスを演出し、後ろへと繋げる役割である。今までランナーがおらず、6番打者として確実にヒットを打って東へと、中山さんへと繋げるバッティングをしてきた。

 

しかし、それでは、このままでは負ける。ズルズルと負けていく。そんな流れが来てしまうと、勘がささやく。

 

しかし、監督からは狙い球を絞って、確実にいけというオーダーがきている。ホームランを打てそうなボールだ。確実に出塁できるであろう。だがそれでいいのかと、初球のインコースのストレートを微動だにせずに見送る。

 

ピッチャーの手に汗が流れたのだろうか、ユニフォームのズボンで手を擦り、ロージンを持って、丹念に利き腕の手で揉む。

 

ベンチの片岡監督のどこか焦ったような顔を見て、3年生の年相応の不安そうな顔を見て、決心する。ここで決めると。

 

気分が高揚し、打順に関係なく自分が勝負をしてしまう。それが出てしまったのは春季大会の市大三高戦であっただろうか。前世で得た知識では4番が勝敗を決めるのだと、そういった憧れのようなものが強くあり、また自分で試合を決めるといった、自分勝手なエゴのようなものを恥ずべきものと思っていた。

 

無理矢理自制していたものを解き放つ。6番打者なら、こうしなければならないという枠を壊す。ここまで一緒にやってきた監督、中山さんを初めとした3年生のために、打順の役割というものを放棄する。

 

 

 

▽▽

 

 

 

 

初球微動だにしなかった西が、ピッチャーが間を取っていると、打席を外して、いつもの無表情で味方ベンチを、何か考えるようにして見てくる。

 

目を閉じ、空を見上げて大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出すと、打席へと戻る。

 

突如安定していた、相手のピッチャーが、意図的になのか、ボールをホームベースに叩きつけるような球を投げ、1ストライク1ボールとなる。ここまで好投していたピッチャーの顔が、強張っているように見えた。

 

 

 

 

 

 

ここまで柳、西が結果を出し、自分だけが打てていない。東はネクストのサークルでタイミングを取りながら、バットを握る手にいつも以上に余計な力が入ってると感じて、首を横にふって、気持ちを切り替える。

 

そうしていると、いきなり青道側スタンドを中心として、球場全体から歓声があがった。何事やと目線を上げると、西が右手拳を突き上げ、2塁手前をゆっくり走っているのが見えた。

 

何腑抜けた走塁をしとんのや!と怒鳴ろうとしたが、相手ピッチャーがその場で項垂れているのを見て、様子が違うことに気がつく。そして目の前に西がやってくると、「お前なら打てるだろう」と左肘を軽く叩かれた。

 

 

 

 

 

 

ニヤッと笑った東が、打席へと向かうのを見届けると、ベンチに向かう。生まれて初めて、前世のセオリーに逆らうことを、わざと自分からしてしまった。だが、ベンチで喜び、安堵する監督、チームメイトを見ると、これでよかったのだと、前世に別れを告げるように、天へと突き上げた拳を、今度はベンチに向かって突き出した。

 

 

 

 

 

 

スタンドに観戦にきていた成宮は、西を凝視しながら冷や汗を流していた。

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