2 柳 レフト (左)
3 江藤 ショート (右)
4 植松 ファースト (左)
5 倉田 ライト (右)
6 西 セカンド (左)
7 東 サード (右)
8 中山 キャッチャー (右)
9 糸原 ピッチャー (右投げ、オーバースロー)
稲城実業-青道 1-1
7回裏2アウト
打者:6番 東
西に打たれたエースをすぐさま交代させる。稲城実業の国友監督は、迅速に青道の1年生、西 晴之のホームランによって作り出された、青道の打撃に味方する流れを切るために、2番手のピッチャーをマウンドに送る。甲子園で怪物を、時に相手取り、時に教え子として導いた経験のあるカリスマは、ピッチャーをかえることで、対処しようとした。
青道の7番を打つ、ニヤついていた東も、長打力に関して言えば、怪物だと判断する。
怪物には怪物を‥
奇しくもホームランを打った西と、同じシニア出身で、同学年の、シニア全国優勝経験のある1年生をマウンドへと送った。
▽
おぇー、初っぱなから清国ちゃんと対戦かよー、と少しやる気のなさげな、軽く天然パーマのかかった黒髪をぼそぼそかきながら、マウンドへ向かっていく。
稲城実業 1年生 南野 竜 ピッチャー 背番号12
シニア時代では、右のサイドスローながら130キロ前半のストレートを武器に、 スライダー、カーブ、シンカーと、中学生とは思えない器用さで、相手を翻弄していた。
中学3年生の時には、U-15に西と共に選ばれ、先発したこともある。3年生の夏の大会で、全国大会の1戦目に登板し、ノーヒットノーランを記録している。残念ながらその全国大会では3回戦で姿を消すが、その試合での被安打は1、自責点0であった。
▽
東が打席に入ると、タイムがかかり、相手の監督がピッチャー交代を主審に伝える。すると見覚えのあるやつがだるそうにマウンドに。
公式戦での対戦経験はないが、あの西とジュニア、シニアで野球をし、唯一、U-15で登板した全試合で無失点であった、頼れるピッチャー。そんなやつが敵として、目の前に立っている。
圧巻であった。アウトコースの低めに変化球と思わせるような、遅いストレートで1ストライク。ワンバウンドになるシンカーを、ひとつ前のストレートと同じ球速で投げられ、つい手が出てしまい2ストライク。
そして、スピン量の多い130キロ後半のストレートを、アウトコースに投げられ、ボールの下を振り抜き、東は三球三振した。
完全に東を知り尽くした投球であった。
▽▽
片岡は難しい顔をしていた。表情に出てしまうところが、この監督の若さか。7回裏に東を三球三振に仕留め、次の回にも投げるであろう南野を、どう攻略するかを考えており、今現在の守備にあまり意識がいっていなかった。
それが青道の実際に守っている選手に、伝染したのであろうか、稲城実業の先頭打者、一番打者のセーフティーバントを、東がお手玉してしまい、ノーアウト1塁と、勝ち越しのランナーが出てしまう。
「足を動かせ!バント!エンドランも頭にいれとけー!」と叫ぶショートの江藤に内野陣が応える。
不味いと片岡監督が思ったのはひとつ遅かった。気づけば、先程のエラーを気にして、半ば呆然としていた東の、股足を抜ける鋭いゴロをレフトの柳が捕球し、糸原が投げる前から走っていたランナーが2塁へと到達し、オーバーランしていたのを牽制するところであった。
タイムをとり、東に代わり3年生の間中にサードを守らせる。
代わって出てきたピッチャーに抑えられ、エラーを2連続でしてしまった東は、ベンチで泣き崩れる。
その姿を西は見ていた。
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これは勝たなければならない。東の泣く姿を見て思う。
西にとって、東は初対面の時から、この無表情を気に掛けず、気さくに接してくれた大事な友達である。
中学2年生の秋のU-15に初召集された際に、「あいつ何考えてんのかわかんねーんだよな」と、周りが腫れ物扱いをするなか、持ち前の明るさを全面に出しながら、西に話しかけてくれ、他のみんなと繋いでくれた。
このまま、泣かせたまま終わらせるかよと声を出し、内野陣を江藤さんに負けないくらい鼓舞していく。
そして三番打者が放った、鋭く抜けそうなライナーを、2塁方向への横っ飛びで掴むと、グラブからそのままボールを放り、江藤さんがボールを受け取って、ランナーが帰塁する前に2塁を踏んだ。
▽
「あのセカンドやべぇー!」などと、叫ぶ観客の声を聞きつつ、稲城実業の国友監督は、コキコキと首を鳴らしながら、グラウンドで守備をする青道ナインを、真顔で見ていた。