1 藤堂 センター (右)
2 柳 レフト (左)
3 江藤 ショート (右)
4 植松 ファースト (左)
5 倉田 ライト (右)
6 西 セカンド (左)
7 東 サード (右)
8 中山 キャッチャー (右)
9 糸原 ピッチャー(右投げ、オーバースロー)
青道-稲城実業 1-1
8回表2アウト満塁
打者 6番 天海
2アウト満塁で、5回表にホームランを打っている天海に打席が回ってきた。片岡は冷や汗を流す。昨年は絶対的なエースとまではいかないものの、試合を作れる3年生が二人に、糸原、怪我をする前の川口という、投手4枚をフルに使うことのできる、万全の体制であった。
今日は、不安要素のあった川口が試合を作り、なんとか稲城実業に食らいつき、糸原に繋いだ。そしてその糸原が連投の疲れか、前評判の低い稲城実業打線に対して、窮地に陥っており、本来であれば継投してもよいタイミング。しかし、ベンチを見ると、残っているのは1年生の武藤に、ピンチに弱い坂井。
国友監督のように、1年生ピッチャーを出すことで、流れを変えることも考えるが、先程の東の泣き顔が頭をよぎる。
ピッチャーの糸原のもとへ、伝令として伊藤を送る。糸原を信じて、任せることに決めた。相手打者の天海の表情に気がつかないまま。
▽
伝令の伊藤から、気合いを入れてもらった糸原は、打席に入ってこちらに相対している6番打者、天海の闘争心を露にしたような表情に気がつく。
去年の伊藤のように気負っているようではない、気迫に溢れたオーラ。先程の間中に助けられて、長打にならなかった4番打者よりも危機感を感じる。まるで合宿中に対戦した、監督が持ち得るものを全て使っていけと、指示をされた西が右打席に立って、こちらを威圧してきているようで、しかし、その時よりも強い圧迫感。
さっき対戦したのとは別物だと感じる。それを感じたのは自分だけではないのか、スタンドの観客は一瞬静まり帰ったあと、各々気を取り直し、再び応援し始め、守備陣も一拍遅れて、声を出し始める。
伝令によって落ち着きを戻していた自分達が、浮き足立っているのを自覚し、プレートから足を外して内野陣のいる後ろを振り返る。「ボールいくから、頼んだぞ」
その言葉を聞いて、目を大きく見開いた後、笑ったショートの江藤は、「ここで止めて俺らが勝ち越し点を先にとるぞ!」と全体を引き締め直した。
▽
監督である国友としては、天海 賢治という教え子は、最初の体力テストの時には、将来レギュラーをとる選手になるとは全く思えていなかった。打つのは好きだが、ボーッとしていてトロいところがあり、勝負事へのこだわりの薄い普通の少年、そのような印象であった。
あまり深いことは考えず、練習を黙々とやっていく。先輩の教えてくれることを、できるようになるまで、じっくり、納得できるまでやり続ける、そんな子であった。中学2年生と、遅くから野球を始めたことから知らないこと、できないことは多いものの、真面目に練習をこなし、また先輩をしっかり尊敬し、礼儀正しいことから可愛がられていた。
そういう子がいるとチームにプラスになるから、全体としてはいいかと、夏の大会、秋の大会ではベンチ入りすらしていなかったが、アドバイスをしながら微笑ましく思っていた。
それが冬の合宿を越えた、新年の紅白戦で、4打席4安打と活躍をした。それは全てインコースを打ったものであった。
インコース打ちだと、レギュラー並みかもしれんなと声をかけると、「インコースの打ち方が完成したので、そう思ってもらえた嬉しいです」と言われ、あれ‥こいつも実はヤバイやつだったのか‥と思わされた。
今は他のコースも練習しているようだが、インコースのみはどんな球でもヒットにしていたことから、天海の中では、それは完成しているのだろう。
その天海が7回表に、そのインコースでアウトを初めてとられた。時間がたつごとに、だんだんと目が変わっていく天海。南野が「あの人も勝ちたいとか思うんだなー」と言っているのを聞き、理解した。
自分の領域で戦って負けた、その悔しさを今嚥下し、初めて味わっているのかと。遅くから始めた素人が、今まで戦いの土俵に立ててすらいなかったものが、一足飛びにレギュラーに定着し、今年から勝負というものの経験を積んできていた。
今まで、インコースの打ち損じはないというのは、データとして確認している。かわりつつある教え子を見守り、打席へと送る。
今、天海 賢治の才能が花開く。
何も進まなかった‥