1 藤堂 センター (右)
2 柳 レフト (左)
3 江藤 ショート (右)
4 植松 ファースト (左)
5 倉田 ライト (右)
6 西 セカンド (左)
7 東 サード (右)
8 中山 キャッチャー (右)
9 糸原 ピッチャー(右投げ、オーバースロー)
青道-稲城実業 1-1
8回表2アウト満塁
打者 6番 天海
初球のストレートをアウトコースに外す。糸原は、こちらを見てくる右打席の天海に、一挙手一投足を全て観察されているように感じる。そして、天海が時折チラッと中山の表情を確認して、その度にバットを握り直す。
これは、俺ではなく中山を意識しているのか?視線は、全力の西と同じように全体を見て、こちらの隙をうかがっているようだ。だが、意識の割き具合が中山に比重が傾いている気がする。
2アウト満塁で普通はすることのない牽制を、サードに緩く投げる。敢えて間をとり、天海が打席を外して目を閉じ、深呼吸をする間に、キャッチャーの中山に手を小さく振ったあと、首を横に振る。
インコースへと投じられるはずだった、フロントドアとなるスローカーブのサインをキャンセルした。
そしてインコースの中段から真ん中の低め、ストライクゾーンからボールゾーンへと逃げていくスローカーブを投げると、体勢を崩されながらも天海が、必死な形相で食らいつき、1塁側スタンドに入るファールとなった。追い込まれていないのに?‥
前の打席もそうだが、川口の時もアウトコースへの球には、追い込まれるまでは手を出していないことに糸原は気がついていた。そして、初球外のストレートに無反応、インコースから逃げていくスローカーブにノーストライクから過剰に反応してきたことから確信する。完全なインコースヒッター、それがこの天海。
他のコースは叩いてファールにし、四球を狙い、インコースにきたところを振り切るバッター、そうあたりをつけた。
インコースを中山がいつ要求するのか気になるのだろう。狙いが分かっているとは言え、この試合で、バットに簡単に当てられているような俺のボールでは、天海にインコースで勝負できるのは見せていない球、SFFだけであると分かっている。
さっきはストレートを意識付けて、情報のないツーシームでなんとかアウトにできたが、今回はどうか。
ボールを握る右手から汗が滴り落ちる。ロージンを手に取り、再び間をとる。
インコースの捌きかたは、さすが、2年生ながら稲城実業でレギュラーを勝ち取ったバッター。前の打席、川口が打たれたホームランを思い出してそう思う。
だか、追い込むまではそこまでは怖くないと、アウトコース低めギリギリいっぱいにツーシームを投げ2ストライク1ボールに。
ここで、天海の表情に変化が現れた。感じるものがあるのだろうか、何故か動揺が見られる。バットを握る手に力が入りすぎている。
深く、ゆっくりと呼吸をして投球動作に入ると、インコース中段から鋭く落ちるSFFで天海から空振り三振を奪った。
▽
「うぁ‥‥なんで、くそ!くそ!くそ!」
ベンチに戻り、自分自身のグローブに、拳を何度も何度も打ち付けながら、涙を流す天海を見る。既に天海の交代は申請している。
いつも温厚で、ボーッとした少年、どちらかと言うと、チームを癒してくれるようなそんな存在。
そんな天海が、こんなに感情を出して泣いている。
8回裏の守備に向かうメンバーはその姿を目に焼き付ける。悔しいという気持ちは全員にある。ただ、それは自分自身で折り合いをつけていくもの。余計な言葉はかけずに、全員が、いつものように天海の頭を順々に撫でていく。
「いくぞ!次こそ点をとるぞ!」と言う主将の言葉に天海を除くベンチに入ったメンバー全員が応え、グラウンドへ、自分の守備位置へと散っていく。
それを国友は頼もしそうに見ると、天海へと目を移す。
今回は気持ちが大きすぎて、結果を出すことはできなかったが、スポーツ選手として大事な闘争心、悔しさ。それを一気に得た天海は、これを乗り越え、更に大きく成長してくれるであろうと信じている。
だが、チームとしては、センターかつ6番打者のレギュラーが欠けるのは痛いものがある。経験の豊富な国友と言えども、これがどう試合の展開に影響するのか、分からなかった。
誤字報告ありがとうございます。
見直しはしているのですが、どうしても訂正しきれていない部分があるので、とてもありがたいです。