1 藤堂 センター (右)
2 柳 レフト (左)
3 江藤 ショート (右)
4 植松 ファースト (左)
5 倉田 ライト (右)
6 西 セカンド (左)
7 東 サード (右)
8 中山 キャッチャー (右)
9 糸原 ピッチャー(右投げ、オーバースロー)
青道-稲城実業 1-1
8回裏 ノーアウト
先頭打者 8番 中山
基本的な書き方は変わらないと思いますが、色々といい形を模索していこうと思っています。
ピンチの後にはチャンスがくる。それは相手も重々承知していること。前の回よりも圧力をかけてくる稲城実業の野手陣、そして前の回では、やる気がなさそうだった、マウンド上の1年生、南野の絶対に抑えるという気迫。
ベンチの中にいる伊藤でさえも、かなりのプレッシャーを感じていた。
青道の先頭打者、8番の中山さんが打席にはいると、青道側、そして稲城実業側のスタンドから、互いのチームを押し上げるような声援が浴びせられる。
相手のピッチャーの観察をしながら、攻守交代する前に片岡監督から
「次の回、中山がランナーとして出ても出なくても、糸原のところで代打で使うぞ」
と告げられたことを思い出す。1年生ピッチャーである武藤を最終回に送るのかと、片岡監督の判断を意外に思う。
だが、この場面で任せてもらえるからには期待に応えたい。
相手ベンチからバットを握っているのを見えないようにしながら、感触を確かめる。
南野が中山さんに初球、ストレートを投げるがボールの判定。この場面でも冷静に、自分のバッティングをしようとする中山さんに敬意を抱く。2球目も低めに外れてボール。天海と同じように力んでいるのかと思い、南野の様子をうかがうが、そこにいるのが当然と言わんばかりの自然体で、キャッチャーの返球を受けとっている。
インコースの低めにシンカーが投げられると、中山さんが反応するも、バットを止めて見逃し1ストライク2ボール。そしてアウトコースへ130キロ後半のストレートが投げられると、悠然と中山さんはそれを見逃す。
ベンチやスタンドから応援する声が大きくなる。三振を奪え!抑えろ!打て!負けるな!という両チームを後押しする声がグラウンドに響き渡る。
5球目、インコース低めに投げられた、加減されたストレートを、中山さんがフルスイングし、3塁方向への強い当たりが飛ぶと、球場に悲鳴や歓声が上がる。だが、打球があまり上がらず、サードの正面へライナーとなり1アウトとなる。
代打 伊藤 叶とウグイス嬢がアナウンスすると、バットをもって打席に向かう。
「度胸のあるピッチャーだ、気をつけていけよ。あと球速を変えて球種を惑わせてくる」とすれ違う中山さんから声をかけられ頷く。
右打席から、南野を見据える。東、中山さんへのピッチングから精神的に強く、かなり器用な選手だという印象を受ける。さすが、シニアで全国優勝を経験し、U-15にも選ばれていたピッチャーだと感心する。西が同じシニアということもあるだろうが、1年生ながら、強打者に対しても臆することがないのは、敵ながらすごいと思う。
自分の後ろには藤堂、柳、そしてクリーンナップと、期待値の高い打者が続いていく。塁に出ることを第一に、相手の出方を観察していく。
初球、アウトコース低めにギリギリはいってくるスライダーで1ストライク。2球目も同じコースにスライダーがくるが、変化量が大きかったのか、外れて1-1の平行カウントに。
一度打席を外して考える時間をとる。右のサイドスローで、ストレート、シンカー、スライダーがあり、球速と変化量を調整して打ち取ってくるピッチャー‥どこのプロのベテランだよと思いながら、2回軽く素振りをする。それに、決め球に知らない球種を、糸原さんがやったみたいに投げてくる可能性もいれていく。
少なくとも1打席では、対応するのは難しそうだと判断する。再び南野に目線を戻して、少し短く持ったバットを構える。
インコースに沈み込むようなシンカーを、バットを止めてなんとか見逃し1ストライク2ボール。南野がロージンに触れて少し間を調整する。
体に向かってきて、こちらに届く直前に、抉るように曲がるスライダーがインコースの低めに決まって2-2の平行カウントとなる。
体から力を抜いて、どんな球でも対応できるように、柔らかさを意識したフォームに切り替える。3球粘り、続いて投げられた、アウトコースから外へと逃げるスライダーを、ノーリアクションで見逃す。
南野がまたロージンを触り、深く息をつく。直感で次の球が勝負球なのだなと理解し、今までに投げられた球を全て思い浮かべる。アウトコースの低めに投げられた、初見のカーブをギリギリカットし、次のボールで四球をもぎ取り、ガッツポーズをし、代走の伊達さんと交代した。
▽
2年生の伊藤から
「後は頼みました」
と声をかけられた3年生の伊達は、ファーストランナーとして周りを確認した後に、監督からのサインを見る。打席には頼れる後輩の藤堂、2年生ながらも不動のセンターを守る外野の要。
俺の強みは足の速さと、走塁の上手さ。昨年、2年生時の夏の大会では、それだけでベンチ入りし、試合後半での代走や、守備固めで使われていた。また、続く秋の大会では、セカンドのレギュラーの伊藤が足を怪我した直後、交代を告げられ代走に入り、そのまま打つことができずに負けてしまった。悔しくて素振りなどに力を入れたが、結局打撃は改善せずに、1年生の西にレギュラーを譲るような形になって、最後の夏の大会を迎えてしまった。
ベンチには入れていたものの、2年連続で、後輩に、それも新入生にレギュラーを取られたのは悔しいし、自分の実力不足に腹が立つ。だが、一緒にやってきた仲間だ。
昨年は負傷退場でやむなくの交代だが、今回は足りないものをお互いに補うための交代。こちらに声をかけてきた伊藤の目に、自分もこのチームのメンバーで、今共に戦っていると実感させられた。体が熱を持ち、観客の声など関係ない、ピッチャーの南野をよく観察する。
自分の視覚と、耳から入ってくるランナーコーチャーの声以外の情報をシャットアウトする。藤堂が南野から粘って、6球目のボールがレフト方向へ放たれ、三遊間へと飛んでいく。ゴロになると判断した瞬間、思いっきり地面を抉って2塁へと駆け出す。
ショートが横っ飛びで好捕したのを横目で確認しながら2塁へと頭から滑り込んだ。
「‥!セ!セーフ!セーフ!」
起き上がると体が勝手にガッツポーズをし、雄叫びを上げた。そして、ファーストへと目を向けると、アウトになり、闘志を剥き出しにしながら、ヘッドスライディングをした後の格好で、藤堂が両拳を握りしめながら叫び、立ち上がると次の打者である柳に左手拳を向けた。そしてこちらに軽く一礼して、ベンチへと駆け足で戻っていった。