至高の一打   作:もぐもぐファンタ爺

31 / 148
青道オーダー

1 藤堂 センター (右)
2 柳 レフト (左)
3 江藤 ショート (右)
4 植松 ファースト (左)
5 倉田 ライト (右)
6 西 セカンド (左)
7 東 サード (右)
8 中山 キャッチャー (右)
9 糸原 ピッチャー(右投げ、オーバースロー)

青道-稲城実業 1-1
8回裏2アウト2塁
打者 2番 柳


試合の行方

声援がうるせぇなと、スタンドの観客席にいる成宮は顔をしかめる。

 

共に甲子園出場経験のある高校で、そのうち青道は昨年の夏大会の覇者。そんなチームが、下馬評の低い、しかしカリスマ監督率いる稲城実業と1-1の接戦を、お互いがチャンスを作り、それを潰し合い、拮抗した戦いをしているのだから、無理もないかとため息をつき諦める。

 

西さんと同じく、怪物と呼ばれる柳さんも粘ってはいるが、マウンドの南野さんのが上手のようだ。7球目のスライダーを引っ張り、打ち上げられたボールは最後に失速し、フェンス際のライトフライに倒れた。

 

9回表となり、攻撃は稲城実業へと移る。青道のピッチャーは1年生の武藤。1つ前の試合では、1イニングをしっかり抑えていたが、表情に余裕はない。カルロスに

 

「あいつ、去年南野さんが投げてて、セカンドがミスした時の顔つきしてるよな、あの全国の3回戦のやつ」と言うと、苦笑いをしながら

 

「青道の監督はまだ2年目らしいし、そこら辺がまだ見極めれてないんじゃねーの?新チームからあまり結果出てないんだろ?ま、うちの監督も見逃してたけどな」と返してきた。

 

それでもなんか起用の仕方にブレがあるよなー。

 

と思っていたら、早速先頭の7番打者に四球を出していた。「あれされると守ってる方もたまったもんじゃねーよな」とカルロスが呟く。

 

ショートの人が声をかけたり、西さんが背中を優しくポンッと叩いたりしたおかげか、ようやく落ち着いたようだ。

 

俺ならそんな事してもらわなくても抑えれる、と思いながら戦況を見守る。ふと視界の端に動く人影に気がつく。

 

あそこで隠れながら、こそこそ見ているのは‥江戸川シニアの御幸か?‥

 

向こうもこちらに気づいたみたいで声をかけ、手招きするとこっちへ屈みながらやってきて、軽く挨拶をして隣に座ると、静かにグラウンドに目を向けていた。

 

成宮も試合に目を戻すと、ちょうど8番打者がバントをし、1アウト2塁になるところであった。

 

そして、9番打者に入っていた南野さんに変わって、3年生の選手が打席に入った。隣の御幸がソワソワしているが、無視をする。

 

ここで青道としては、失点を防ぎたいからであろう、若干外野が前に出てきている。そしてファーストが前に、セカンドの西さんが少しだけ1塁方向へと寄っている。バントも警戒かと納得する。

 

ピンチになると、ピッチャーとしては点を取られたくないし、普通ならどこかで力むんだろうなー、と考えていると、1ストライク2ボールの状況で、投じられたボールが、アウトコースに構えられたミットとは異なり、真ん中に浮いた棒球となり、打者がコンパクトなスイングで打ち返す。これが左中間へと抜けるヒットとなった。

 

2塁にたどり着いたバッターランナーが拳を突き上げると、それとは対照的に御幸は頭を抱え込み、視界の下の方へ消えていった。

 

スタンドの興奮冷めやらぬなか、稲城実業の1番打者が初球をライトスタンドへぶちこんだ。

 

3点差、ここまで稲城実業の投手陣に、抑え込まれている青道が逆転できるであろうか。青道側スタンドが一瞬静かになるが、野球部を中心にまた声を出して、味方の先輩、同級生、後輩の応援をしていく。中には既に涙を流しているものもいる。

 

成宮はお前らの力が足りないから、こういうことになってるんだぞと、かなり厳しい見方をした。同じ怪物と呼ばれてても、どうも他の2人は西さんとは違うし、他が強くないと結局は勝てない。せめて絶対的なエースがいればよかったけど、その人は稲城実業に行っちゃったしなぁと思う。

 

最後まで投げ抜く、マウンドを守りチームを勝たせるのがエース。俺が認めてるのは南野さんと、市大三高の田辺さんくらい。エースの周りにふさわしい選手が揃うのはどこかと考えると、やはり稲城実業かとこの試合を見て考える。

 

武藤は、ホームランを打たれてかえって正気に戻ったのか、2番、3番打者を抑えると、9回裏の青道の攻撃が始まった。

しかし、3番打者は、代わったばかりの3年生投手の球筋、球種を後ろに見せるのに精一杯で1アウト、4番打者は簡単に打ち取られて2アウトとなった。

 

 

 

 

 

 

9回裏2アウトの場面、ランナーはいない、後がない、そんな場面ではあるが、5番打者の倉田さんは落ち着いているように、西からは見えた。

 

今マウンドにいるピッチャーが厄介なのは、球速が非常に速いから。恐らく140キロ後半は出ており、ストレートの制球がとてもいいのだ。変化球が入る時と入らない時があり、バラつきがあるものの、ストレートが素晴らしい、この1点で江藤さん、植松さんはアウトにされていた。

 

ネクストのサークルで、倉田さんを応援する。ストレートで押していくが、しっかり当ててファールにされるのに、痺れをきらしたのか、変化球を投げてボールカウントが増え、12球目に四球となり、倉田さんが叫ぶ。1塁へ到達するとこっちを向いて何かを言う。「任せたぞ」と口の動きで判断し、右手で軽くヘルメットのつばを触って返事をする。

 

自信のあるストレートを打ち砕き、こちらに流れを持ってくる。そう決意し打席に立つと、キャッチャーが自分から離れるように立ち上がる。

 

は?‥と思考が止まったが、1球、2球と投げられると、敬遠されていることに気がついた。そのまま1塁へと向かう。

 

より一層激しくなった球場の周りの声に萎縮したのか、いつもの様子でない間中さんに声をかけることもできずに、打ち上げられたボールをファーストが、ファールゾーンでキャッチするのを、見ていることしかできなかった。

 

 

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