1 伊藤 ファースト (右)
2 玉森 ライト (右)
3 柳 レフト (左)
4 西 ショート (左)
5 東 サード (右)
6 藤堂 センター (右)
7 角田 セカンド (右)
8 蜂須賀 キャッチャー (左)
9 坂井 ピッチャー (右投げ右打ち、オーバースロー)
青道vs帝東 1-1
3回裏 1番打者
サードの守備につく東は、あまり流れが良くないのを感じていた。
青道の攻撃は、伊藤さん、西、藤堂さんの3人が、起点となって始まることが多い。帝東のピッチャー、伊賀さんは、その起点をキレイに潰しにかかっている。元々藤堂さんの調子が、ここ2戦崩れているのもあるが、伊藤さんや西が思うようなバッティングを、させてもらっていないことが大きい。
西が言うには、このまま相手に自滅してもらおう、ということだが、わしには全く分からん。とりあえず、守備で点数をできるだけ離されないように、今は集中すればいいとのことなので、大人しく守る。あ、声をかけろやったな。
「坂井さん!前の回のピッチング!よかったです!どんどんいきましょー!」
前向きに、ガンガン攻めていく。これはいつも通りやろと、坂井さんに声をかける。
しっかり坂井さんが三者凡退に抑えると、相手の3番打っとる伊賀さんが、ぶつぶつ言いながらベンチに戻る。
なんか近寄り難そうな雰囲気しよるなー、と若干苦手な印象を受ける。
うちの4回表の攻撃は先頭打者の角田さんが、鬼の形相で10球も粘って出塁するも、蜂須賀さん、坂井さんと2アウトになる。
西が「ここで相手のピッチャーは四球とりにくるな」と言うと、伊藤さんは本当に四球で塁に出る。
「玉森!ホームランを忘れて、いつも通り鋭さを意識しろ!」と西が声をかけると、玉森よりも、ピッチャーの伊賀さんの方が嫌な顔しとる。
「2アウト1,2塁で次の打者は柳。ここでは四球は使えない。今の言葉で、玉森は前とは違って大振りにならない。まぁ、そもそも同じ間違いをするとは思えないが。あのピッチャーはどうするかな」と西は伊賀さんを鋭く睨み付けている。
さすがに戦略に鈍いわしでも、わざと四球出して、打ちそうな打者とは、勝負を避けとったのはわかった。
ネクストのサークルにいる柳を見ると、笑顔ではあるが、ハイライトの消えた目で伊賀さんを見ていたので、怖くてスッと視界から外した。
伊賀さんや‥たぶん色々考えて変なことやっとるけど‥怪物怒らしてんで。柳と西の表情は違えど、睨まれる伊賀さんに心のなかで合掌する。
恐らく玉森に対して、わざとではなく、本当に四球を与えてしまい、相手の監督が、伊賀さんを冷静に見つめながらタイムをとる。よく見れば伊賀さんの汗の量が尋常ではない。打席のすぐ外では柳が既に、伊賀さんを静かに睨んで待っている。
左打席だから3塁側の相手ベンチには背を向けた形。柳の表情など見えはしないだろう。伊賀は柳に対しても四球を与えて、青道は押し出しで勝ち越し。西に対してはまさかの敬遠で押し出しの追加点。
エースってのは大変そうやな、と思いながら、ここまで消耗しても自分を貫く伊賀に、やり方は気にくわないが、敬意を込めて、初球の、最初よりキレのなくなったストレートを、レフトスタンドへと放り込んだ。
(そりゃ、既に100球以上、うちの打線のプレッシャー浴びながら投げとるんや。疲れとるわな。)
ベースを1つずつ丁寧に踏みながら、今後対戦する時には柳と西が本気で崩しに行くんやろなと、伊賀さんに同情した。
青道vs帝東 11-5
青道の選抜出場確定
▽
片岡監督は選抜出場を決めて、バスで青道へ到着すると、3年生に迎えられ、普段は見せない笑顔で応えた。
一通り東京都の秋季大会優勝を祝った後、選手たちが自主練習で、素振りをするのを横目に、監督室へと入り、電気をつける。そして、なんとか勝てたことにほっとしながら、椅子に座り、今日の試合について、記録を見ながら考えていく。
今回のように実力がありながらも、相手を想像して、勝負を避けて、安全だと思う打者を、選んでしまう投手がいる。そういう人間がいることは分かっているが、投手としては致命的な欠陥のように思える。一見クレバーで、良い投手に見えるが、東にホームランを打たれたように、大事なところでの勝負根性に欠けていた。
投手は勝負したい、勝ちたい、抑えたい、そういう強い気持ちが1番大事だと考えている。この気持ちを持てない限りは、背番号は1でもエース足り得ない。
ピッチャーの伊賀が、柳、西に四球を出していた間も、その後も、しきりに帝東ベンチの岡本監督を見ていたにも関わらず、岡本監督は無視をして、あえて伊賀をうちの打線との勝負に挑ませた感じがあった。
岡本監督のインタビューを見たことがあるが、やはり熱い男なのであろう。伊賀の更なる成長を期待して、チームの勝ちのために嫌々勝負を避けることと、自分から逃げることは違うということを、トラウマにもなりかねない方法で、叩き込んだのだろうと思う。
果たして、自分がそういった方法でエースを育てる、つまり心中を覚悟するのか、それともチームの勝利を選ぶのか、答えは出ないままであった。