城南シニアは、夏の東京大会が始まると、強豪と当たることはなく、全学年を幅広く出場させ、1,2年生の経験を多く積ませることができた。城南シニアは強豪らしい、非常に強い勝ち方で決勝まで登り詰めた。
決勝の相手は強豪丸亀シニアで、松方シニアや、江戸川シニアなどを破ってきている。特に注目されているのが、キャッチャーの滝川で、2年生ながら4番を打つ大黒柱として君臨している。ショートは1年生の白河が努めており、城南シニアの神谷と共に、強豪シニアでの1年生レギュラーとして、かなり注目を集めているようだ。
side 滝川
決勝の相手が城南シニアであることを何度も確認する。
しかし相手は何度見ても城南シニアだ。
去年の秋に自分は、リード面、経験の観点からキャッチャーとしてではなく、ファーストのレギュラーとして試合に出ていた。
先輩から城南シニアには、1年の秋で4番キャッチャーだった人がいると聞いていた。準決勝であたった時、その人の名前はショートのところにあった。キャッチャーでないことを残念に思った。だが試合が始まると悪夢が待っていた。
1回表、こちらの攻撃から始まると三者凡退、それも全部がゴロで簡単に打たされ、テンポの良いものだった。裏の相手の攻撃もいつも通り三者凡退、2回表も、良い当たりはあるものの、全員ゴロで三者凡退。
投手戦になる、うちのチームメイトはみんなそう思ったであろう。だが2回の裏に4番が打席に入った瞬間に、今まで感じたことないプレッシャーを感じ、守備陣全員の体が一瞬固まった。
打者に目を向けると、全体を見渡すような、どこを見ているかわからない、けれどしっかりとピッチャーを見ている、不思議な眼をこちらに向けてくる。深呼吸をし、なんとか気を取り戻したが、あの眼を真っ向から見た、見てしまったエースの投じた初球、いつもなら後半の決め球として温存するスライダーを真芯で捉えられ、ライナーでスタンドへと運ばれた。
そこからはエースが連打され、そのままの流れで5回10点差のコールド負けを喫した。試合をあの一打だけで決められてしまった。他で何を挽回しようがかなわない、そう思わされた、打者の表情もあいまって無慈悲な、しかし美しい一振りであった。
あの光景、プレッシャー、雰囲気が思い出さ‥
「クリスさん!クリスさん!」
ハッと前を見ると、少し心配そうな顔をした白河がいた。
「監督からクリスさんをお呼びするようにと言われたのですが‥体調が悪いようならお伝えしておきますが‥」
言いかける白河に大丈夫だと伝え、監督室へと向かう。
ノックをすると返事があったため入室する。
「お呼びとの事でしたがどうされましたか?」
「クリス‥明日の相手は城南なのは知ってるな?」
「はい‥先ほど知りました‥」
しばらくお互いに無言でいると
「明日は、相手の4番 西を、全打席敬遠しようと思っている」
といつもよりトーンの低い、口の中で何か引っ掛かるような声が監督室に響いた。