1 神田 レフト (左)
2 佐々木 ライト (左)
3 藤堂 センター (右)
4 加賀谷 ファースト (右)
5 加山 サード (右)
6 滝川 キャッチャー (右)
7 田中 セカンド (右)
8 山崎 ショート (右)
9 川口 ピッチャー (左投げ左打ち、サイドスロー)
1年生でいきなり1軍に抜擢される。それは去年の東、西、柳を思い起こさせる。川口は今日バッテリーを組むクリスのことを考える。憎らしいくらいに礼儀正しい、しっかりとした芯を持つキャッチャー。守備では蜂須賀に一歩劣るものの、打撃においてはキャッチャー陣随一であろう。現レギュラー陣の下位打線にいても違和感がないくらいの実力者である。
今でも反発する1,2軍ピッチャーが多く、選抜ベスト4だからとクリスのアドバイスを、素直に受け入れられない者は多い。まだ認めたわけではないが、こちらを思って言っていることはわかる。クリスの前では実践していないが、真剣に野球が上手くなるために全てに目を通し、吟味もしている。
ただ、理論でいくら考えようが、腕を振りきれないというのは、自分で克服しないといけない。自身の課題を見定め、最速140キロを越えたストレート、これをしっかり投げることさえできれば、そう打たれることはないはずである。春の甲子園大会の準決勝では、腕が振りきれなかっただけ、そう思いながらマウンドへあがる。
初回、先攻をとった仙泉学園の、左打席に立つ1番打者に対して、初球、インコースのストレートが外れて1ボール。
「とてもボールがキレてます!」
そう言いながらクリスが返球してくる。実力は認めているキャッチャーからの言葉に、腕は振れているようだと安堵する。
2球目のアウトコース低めに逃げていくスライダーを投げ、空振りを奪う。
(ん?‥‥投げやすい?‥‥)
主に井手や、クローザーの武藤と組むことが多いクリスと、本格的に試合でバッテリーを組むのは初めてだが、いつもよりボールが走っている気がする。蜂須賀に比べると、守備は全体的に粗いところがあるものの、天性のキャッチングの上手さか、投げやすいように感じる。
(これは実際にバッテリーを組んでみないとよくわからない、そんな才能だな。野手陣のレベルが高いせいか、去年の柳、西、東のような衝撃はなかったから、単に同級生の1軍枠を奪いにきた年少のライバル。そう捉えられていたが、もしかして片岡監督はこれを見抜いて、期待していたから、今日のスタメンマスクを岸谷じゃなくクリスに任せたのか?)
そうであるならば、なるほどなと納得する。
(蜂須賀にも、岸谷にもない、努力を伴ったこの才能、青道の投手陣の救世主になりうるかもしれない。)
半ば確信し、
「クリス!ガンガン攻めていくぞ!」
と声をかける。実力では蜂須賀も負けてないという、同級生を思う気持ちを持ちながら、2才年下のキャッチャーのミットに全力で投げ込んでいく。
初回を三者凡退に終えると、クリスに声をかけて肩を組み、
「俺を輝かせてみせろよ、天才キャッチャー」
と、こちらを驚いて見てくるクリスに発破をかけた。
5回まで無失点で、クリスと言葉を頻繁に交わしながら抑えてきた。ヒットは3つ、四球を1つ与えたが、落ち着いて、1つ1つアウトカウントを増やしていく。
打線は藤堂を中心に点をとっていき、既に6点をとっている。4番の加賀谷にホームランも出ており、ベンチの雰囲気もいい。逆に、仙泉学園側の空気は悪そうだ。野手のレギュラーが1人も入っていない、同地区のライバルに6点もとられているのだ。実際に自分達がその立場なら焦るであろう。
「クリス、とても投げやすかった。それと、今まで悪かった。ちゃんと必要だと感じた練習は隠れてしていた。だからか、今日はうまく投げることができた‥‥ありがとう‥‥」
「‥‥いえ‥‥こちらも新参者なのに、いきなり言い過ぎました。私にはない高校での積み重ねがある。それを考えず、必要だと思って淡々と語った自分も悪かったです。」
▽
川口がクリスを認めたの見て、ピッチャー陣のクリスを見る目が変わった。その瞬間を藤堂は静かに見ていた。
2年生にレギュラーをとられる、これは努力する姿、限界を越える姿を目の当たりにしていたから納得できていた。それが入ってきたばかりのぽっと出の1年生に、今のポジションを脅かされる。当の本人である蜂須賀は気にしていなかったが、周りの3年生、俺達は何故だと、言動には出さないが反発心を持っていた。
スタンドに、今日スタメンで出ると連絡したら、応援にかけつけてくださった、昨年度の3年生の中に間中さん、伊達さん、手塚さんがいるのを確認する。この3人は去年春までレギュラー争いをしており、新入生の柳、西、東にいきなりレギュラーを奪われた3人だ。
あの人達は悔しがる様子はあったが、それと同時に、お前らが青道のレギュラーにふさわしいように指導してやるぜ!と意気込んで、更に練習に力を入れ、後輩とコミュニケーションをとり、より一層の努力をしていた。
あの人達と比べると、自分達の小ささを実感させられる。右手を握りしめ自分の胸板を強く叩く。スタメン全員がこちらに注目しているのを確認して、深呼吸をしてから
「まだだ!まだ6点しかとっていない。俺達は打の青道!ベンチ一丸となって更に点を取っていくぞ!」
「「「おぉぉ!」」」
1番から始まる好打順、味方がチャンスを作ってくれることを信じて、藤堂は前を見据える。