至高の一打   作:もぐもぐファンタ爺

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決断

紅白戦が終わった後、部員全員が集められ、結城は1年生の列の端に並ぶ。片岡監督から、今年は新たな試みとして、6月の初めに1軍メンバーを固定し、そのメンバーを中心とした夏合宿を行う。そして、更なる精鋭として、夏の大会を迎えることを告げられた。

 

事前に聞いていたレギュラー陣以外で、驚く者は多いが、覚悟をしていたことが早くなるだけのこと。全員が前を向いて、片岡監督の話を聞く。

 

「紅白戦の結果を踏まえ、1軍メンバーを1枠入れ替える」

 

その言葉を聞き、全員に緊張が走った。

 

「昇格するのは、1年生の結城 哲也。降格するのは3年生の田中 栄太郎だ。」

 

(‥‥え?‥‥俺?)

 

固まっていると、柳さんがやってきて、いつもの自主練習の場所へと連れ出される。

 

「今は何も考えるなや」

 

そう言ってバットを渡してくる。追い付いてきた東さんに

 

「スイング見てやるから本気で今から振るんやで」

 

そう言われバットを振る。

 

 

 

 

振って

 

 

 

 

 

振って

 

 

 

 

 

振って

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(3年生の田中 栄太郎さんって‥‥紅白戦で、すごく声かけてくれてた人だよな‥‥)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バットが手からこぼれ落ちる。

 

「泣くなや!泣くことは許されん!!」

 

東さんの大きな声にビクッとする。

 

「泣いてる暇があってボーッとしとったら、選ばれんかった者が浮かばれんで!お前の活躍する姿があいつらへの手向けになるんや!」

「死んではおらんのやけどなぁ」

 

東さんにバットを持たされる。

 

「昨日の4回裏、レフトフェンス直撃のヒット、あの時のスイングに監督も感じるものがあったんやろう。3年生への情と、1年生の将来の柱。監督はお前らの将来を選んだっちゅうこっちゃな。」

「せやなー。うちもあのスイングには感心したわ。普段の素振りもええけど、1軍のかかってた勝負どころに強いのはええね。あんまり自覚はないみたいやけど。」

 

言葉に表せない感情が溢れていて、よく聞こえない。ただ、励ましてくれていることはわかる。涙を袖で拭って、バットをしっかり握りしめ、素振りを再開する。

 

「力が入りすぎとる!昨日のスイングを思い出しや!」

「そうだ、それでいい。力を抜いて鋭く振れ」

 

さっきまでいなかったはずの西さんの声も聞こえる。がむしゃらに、しかし聞こえる声にしっかりと耳を傾けながら、必死にバットを振り続けた。

 

 

 

 

 

 

「昨日3エラーの1年生を入れてもよかったんですか?確かにヒット1本打ってますけど、ポロッポロでしたよ?」

「ですが、打撃においては、いつの間にか1軍レベルになってましたね。最近ではあの2年生居残り組に混ざって、毎日素振りをしているみたいですし。」

「柳、西、東の弟子みたいなもんなんですかねぇ。しかし、安定感のある3年生を出した方が、無難だとは思いますが」

 

太田部長と高島副部長が話し合うのを、片岡監督は静かに聞いていた。

 

「‥‥1人だけ‥‥1人だけ結城は、3軍の1年生の中で練習後に素振りをしていました」

「それは知ってますよ!大方2年生の誰かが誘ったんでしょうが」

「いいえ、違います」

 

片岡監督は立ち上がって

 

「あいつは、初日の練習の後、1人で黙々素振りをしていました」

「初日からですか!他の1年生はすぐ寝込んでいたと聞きましたが」

「次の日も、その次の日も。それを続けたまま今に至ります。1人、強い思いを持って入学し、それを2ヶ月間とは言え継続できる精神力。結城の思い、行動に周りが気付き、現2年生が最初から形作っていた、切磋琢磨できる強固な集団。これが1年生でもできればと思っています。」

 

片岡監督は椅子に座り直す。

 

「今は3年生がいますが、秋からは絶対的な強さを持つ2年生と、まだまだ試合で使うには時間の必要な1年生、この2学年をチームとしてまとめていかなければなりません。ピッチャーの丹波を上げることも考えましたが、将来的にキャプテンとなりうる選手に、一足先に1軍の2年生が、試合で出す雰囲気を感じてもらおうと考えました」

 

「秋のことも考えての編成です。拙い判断かもしれませんが、このチームでよろしくお願いします」

 

そう言って太田部長、高島副部長に頭を下げた。

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