至高の一打   作:もぐもぐファンタ爺

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逃げの代償

夏のシニア、東京大会決勝 城南シニアvs丸亀シニア

場内は異様な雰囲気に満たされていた。

 

第4打席まで、シニア全国No.1打者と称される4番 西 晴之が敬遠されているのである。しかし、城南シニアは強豪であり、走者として出た西の揺さぶりから、点が入ることが多く、点を取り合うシーソーゲームとなっていた。

 

そして5対4と城南シニアリードとなった8回裏、ここまで出番のなかった男に白羽の矢がたった。

 

side 成宮

 

俺の名前がウグイス嬢に呼ばれ、1年生だということに観客が驚きの声をあげる。そして、西さんがキャッチャー防具を着けて出てきた瞬間、場内が歓声の渦に呑まれた。その歓声に丸亀シニアの応援の声が書き消される。

 

カルロスがよく買ってくる野球雑誌、それに西 晴之特集が載っていた。そのトピックの中に、キャッチャーとしてプロが注目している、というのが大きなトピックであったのを覚えている。

全打席敬遠され、見たかった打撃が見れなかった鬱憤があったのだろう。キャッチャー姿を見せ、俺の前に座っただけでこれだ。

フーッと長く息を吐く。

 

尊敬する先輩ではある。

 

でも歓声を受けて、誉められて、活躍し、また歓声を受ける。それは、一番は俺だというエゴがある。

 

一番の味方はあんた。でも、一番のライバルもあんただ。

 

呆けている打者に今までで一番のスライダーを投げ込んだ。

 

 

side 滝川

 

敬遠の指示を出したのは監督、だが実際にしたのは自分だと、対戦相手ではあるが申し訳なく思っていた。その心の乱れがリードに出ていたのだろうか、想定よりも城南打線に点を取られる。

 

バッターとして打席に向かおうとすると、成宮という聞き覚えのない名前が告げられた。そりゃ聞いたことない名前だから、この観客の動揺はあるだろう。しかも一年だとフッと緊張感が抜けてしまったのだろうか、いきなりの歓声にビクッとしてしまう。

 

あぁ‥ここでその姿が、ここで出てくるのかと体がこわばる。

 

心の準備ができないまま打席に入る。あの目が、あの眼が後ろからじっくりと見てくる。それから逃れようとバットを振るが当たらない。気づけば試合は終わっていた。

 

 

side 白河

 

クリスさんが打席が終わってからおかしい。それを見た監督にすぐに代えられていた。打席で何かあったのか?と、ピンとこないままショートの守備につき、三者凡退で9回の表をしのぎきる。

粘り強い打撃に上手い守備、そう評価されての7番打者。

秋からは2番が濃厚と言われているし、次期上位打線として、同学年には抑えられるわけにはいかない。

 

いけすかないやつだ。第一印象はそれだった。

 

しっかりとボールを見て‥なにこれ‥

あれ?そういえば4,5,6番のうちの打者が連続三振してたのか。

嫌だ!負けたくない!意地でストレート、スライダーに食らいついていく。この2球種なら!この速度はスライ‥

 

「ストライク!アウト!」

 

カーブがスライダーと変わらないフォームから‥こいつ‥

 

じーっと相手を見ながらベンチに戻る。

僕にできることはそれだけだった。




決勝、いつもと違う雰囲気、大きすぎる歓声
普段通りのことができるもの
気分が高揚し見落とすもの
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