1 藤堂 センター (右)
2 玉森 ライト (右)
3 柳 レフト (左)
4 東 サード (右)
5 西 ショート (左)
6 伊藤 ファースト (右)
7 神田 セカンド (左)
8 蜂須賀 キャッチャー (左) ○
9 武藤 ピッチャー (右、右オーバースロー)
後攻 仙泉学園オーダー
1 江島 センター (左)
2 高田 セカンド (左)
3 三宅 ファースト (右)
4 二階堂 キャッチャー (右) ○
5 平山 レフト (右)
6 小田切 ピッチャー (右、右オーバースロー)
7 寺田 ショート (右)
8 石垣 サード (右)
9 今井 ライト (右)
6回表 5-0
1アウト2塁
打者:蜂須賀
今井は、マウンドをしっかりとならして、深く息をつく。ランナー西を警戒しながら、神田の相手をするのは無理があったと、冷静になった今ではわかる。
簡単にヒットを打たれて、1アウトランナー2塁、ランナーは俊足の神田という、嫌な場面に汗が出る。西が本気でピッチャーの吉田を潰そうとしてきたのには、とても動揺してしまった。小田切はベンチへ、吉田はたった1打席で、気力を使い果たしてしまったように感じられる。
(‥‥ここで崩れたら終わる‥‥)
去年の夏、たった一振りで勝負を決められた記憶がよみがえる。
「1アウト2塁!ランナーは俊足です!1点くらい変わらないので、気楽に1つ1ついきましょー!」
目の前の二階堂が立ち上がって、全員に呼び掛ける。
ハッとして、首を横に振り、悪いイメージを消す。
(結局最後は後輩に立て直してもらうのか、情けない。シニアでは西の世代に助けられてばっかりだったが、今でもそうだ。だけどエースは俺、ここを抑えることができるのは俺だけだ)
バッターの蜂須賀をよく観察する。打撃はそうでもないと言われるが、とんでもない。青道のなかでは、そう枕詞がつくものであり、うちの打線だとクリーンナップをはっても、おかしくない打者である。
前の打席だって、ボール球をしっかりと見極めて、バントを一発で決めているのだ。油断していい打者ではない。ランナーを気にせず、8,9番でしっかりと抑える、これが今自分にできる最善のこと。
アウトコースのストレート、そのサインに首をふる。二階堂は内と外を交互に使うリードを好みとしているが、これは完璧に読まれていると考えて、こちらで調整していく。
「今井ー!こっち飛ばしてくれたら、確実にアウトだぞー!」
「いつも通りやればお前なら抑えられるぞー!」
二遊間の高田と寺田に声をかけられ、力が湧いてくる。
初球、インコースの低めに外れるカーブを見逃され、1ボールとなる。蜂須賀は目だけでボールを追い、特に大きな反応を見せない。
「いれてけー!一人じゃないぞ!バックを信じろ!」
サードの石垣が声を出す。2球目のストレートを、インコース高めにいれて1-1の平行カウントに。バットを始動するが、すぐに止まる。コースを判断して止めたのか、球速からの判断かまだわからない。
3球目には、アウトコース、ギリギリ入るカーブでストライクを奪う。ストレート系に絞っている、または、インコースの甘い球狙いと当たりをつける。
「さぁ!そろそろ打ってくるぞー!腹から声出せ!ここを乗り切るぞ!」
キャプテンでファーストの三宅が、全体へ声をかける。インコースの低めに、カットボールを投げると、蜂須賀はコンパクトに打ち返すが、セカンド高田がギリギリ追い付き、1塁へ投げる。
「アウトー!」
「おい!バックホーム!」
声を聞く前に石垣は、ホームへ転送しており、クロスプレーとなった。
「アウト!」
「しゃあ!」
なんとか5点差に抑えることができたが、ここから逆転しないと意味がない。ベンチに戻ると
「ほんま、なんでこないに点数が取れんのかわからんわ、投手陣は7点差のコールドにならんかったらええって、最初から伝えとるけど、川口から点が取れんし、武藤もはっきり言っていいピッチャーやな。ここまで打線が無失点でおるほうが‥‥‥」
鵜飼監督は、いつも通りずっとぶつぶつぼやいている。あまり近づかないでおこうと、そっと離れようとするが、
「今井」
「はい!」
「目は覚めたんやろな?」
「はい!しっかり抑えます!」
鵜飼監督はこちらをチラッと見ると
「頼むでほんまに‥‥特に打線な‥‥」
とベンチにいる全員に聞こえるようにぼやくと、また違うことをぶつぶつ言い始めた。
「二階堂いけー!」
「ここで一発でいこうぜー!」
チーム全体で4番の二階堂を応援していく。
「さっきは三宅さんがしっかり捉えてたからな!ここで一気に逆転するぞー!」
エースがマウンドに戻り、チームを鼓舞したおかげか、仙泉学園側に活気が戻ってくる。しかし、そんな雰囲気とは裏腹に、二階堂が相手ピッチャーの武藤に、威圧されているように感じるのは気のせいだろうか?
ズドン!
重い球が、キャッチャー蜂須賀のミットを揺らす。電光掲示板には145キロの文字が輝いている。サードの東のファインプレーに柳が引き上げられたのと同じく、青道の2年生、エースの卵が孵化の時を迎えた。
▽
「終わってみれば6-0で仙泉学園は、なんとかコールドを防いだ形になったか」
記者の峰は、スタンドで1人呟きメモを取り出す。
「青道は二桁安打の6得点に、投手陣は完封リレー。仙泉学園は結局エースの今井が、途中ライトに移ったが、8と2/3回投げて自責点は3点のみ。あの青道を相手にしてかなり善戦したと言ってもいいだろうな。他の2人の投手があわせて1アウトのみで自責点3点はきつかったな。だが、エースを立ち直らせる時間と思えば仕方なしか」
メモを更に整理していく。
「川口くんは今日はいい日だったのだろう。投げているときに違和感はなさそうだったな。しかし武藤くんは一皮剥けたな。5回裏に登板したときはピリッとしなかったが、6回裏からは圧巻だった。今まで気持ちばかりが先走って、常に力が余分に入っていたようなピッチング。それがいきなり割りきったような、力が適度に抜けたピッチングに突然なった。」
「5回投げての無失点、8奪三振。しかも6回からはノーヒットで、仙泉学園の打者を全く寄せ付けなかった。元々怪物世代のエース格としては、西東京で名高かった武藤くんを育てきれない。その噂が払拭されれば、有力な選手、特に投手が避けていたのが、来年入ってくるようになると、青道はチームとして一段階上に行くことになる」
「今でも1,2年生に柳くん、西くん、東くん、武藤くん。そして玉森くん、神田くん、栃谷くん、岸谷くん、滝川くんといったタレント選手が揃っている。それに内部で育ってくる選手や、新入生の加わる来年が青道の勝負の年になってくるか」
「エース武藤を支えるもう一枚の投手がいれば、甲子園優勝を大本命として迎えるかもしれないな」
そう呟くと、次の試合の前に飲み物を買いに行こうと、自販機を探すのだった。
ちゃんと文字が大きくなってるかな?