明後日に5回戦を控えた青道では、選手達が軽めの調整メニューをしていた。
「東ー!1歩目遅れてるぞ!しっかり集中していけ!」
「武藤!走りすぎだ!そこまでにしとけー!」
その光景を見ながら、片岡監督は色々なことを考えていた。
(4回戦、全国区のピッチャーとの戦いは、チーム全体を大きく成長させてくれた。東、柳、西を中心とした、野手陣の更なる成長。そして、1番の収穫は、武藤が長い間陥っていた、スランプを抜けたことだ)
(元々シニアでは、武藤は責任感とは無縁で、伸び伸びと野球をするタイプの投手だと聞いていた。それがいきなり高校野球とのレベル差を感じて挫折し、同学年に引っ張られて頑張るものの、当時のエース、遠藤の怪我から、チームを背負うという責任感に、押し潰されていた)
再びグラウンドの選手達の練習を見守る。
「結城ー!いいぞ!正面はしっかり捕れてる!」
「えぇ!田中さん!結城にダダ甘じゃないっすか!」
「うるせぇ!」
(結城の守備が安定すれば、あの打力だ。秋以降のレギュラー候補になりうるか。まずスタメンで使うためには守備がある程度できなければ、話にならない。夏の大会後は、1年生中心にノックを厳しめにして、2年生には各自ステップアップしてもらうことにしよう)
うんと頷きながら、ふと横を見ると、太田部長と高島副部長が歩いて、こちらに向かってきていた。
「お疲れさまです、武藤くんの調子はどうでしたか?」
「なかなか良さそうですよね!片岡監督から見てどうですか?」
太田部長と高島副部長が興味津々に聞いてくる、3人で監督室へ移動しながら
「なかなか良くなってきた。まだ1回しかあのピッチングを試合でできていないが、あれが本来の武藤なのだろうな。期待のエース候補だとしてもまだ幼かった。チームを背負って野球をする、それに見合う身体は出来上がっていても、心までは付いていってはいなかった。だが、あの試合で東が最初に壁を超え、それに釣られるように2年生が各々壁を超え始めた」
そこまで言い切ると監督室に着いたので、中に入り、各自椅子に座る。
「このチームはまだ強くなると確信している。話は変わるが、チームの補強といえば、6月中にシニアの夏の関東大会などは終わっているはずだが、スカウトの調子はどうだ?」
片岡監督が聞くと
「近場では、江戸川シニアの御幸くんには、いい返事をもらってます。ですが城南シニアの成宮くん、神谷くん、丸亀シニアの白河くんには断られていますね。今年は稲城実業に、近場の有力選手がこぞって、入学希望をしているみたいで、なかなか厳しそうです」
「それって不味くないですか?現2年生が主力だから、来年までは大丈夫でしょうが、現1年生に来年有望株が入らないチームとなると、暗黒期に入ってしまうのでは?」
高島副部長と太田部長は、来年度の新入生の重要性を語り合う。
「現2年生は恐らく、武藤と西の二枚看板になる。それにフォームが完成してきた井手が入って、盤石な投手陣になるだろう。それに現チームの主力野手陣がほとんど残る。来年の夏までは現2年生をそのまま伸ばしていけば、甲子園でもいい成績が残せるだろうな。課題は来年以降の育成と補強、長い目で見ての世代交代になる。そういえば、校長や教頭が進めていた、投手コーチの件はどうなっている?」
「現在では紅海大相良のコーチ、落合 博光氏を招聘するのが有力となっています。来年の3月末で現体制から変わり、契約が切れるそうで、4月からの契約となりそうです。ほぼ確定事項ではあるので、それを強みにして、他地域のシニア有力投手にも声をかけています」
片岡監督はお茶を少し飲み、高島副部長に聞く。
「他地域だけじゃなく、近場でのスカウト、特に投手のスカウトを優先してくれ。他にも声をかけていない選手はいないのか?」
「そうですね‥‥投手で言えば真木くんという高身長のピッチャーがいますが‥‥丹波くんとタイプが被りそうで、声をかけていません」
「野手陣は結城、クリスを筆頭に育てていく予定だが、丹波の今の振る舞いを見ると、この3年間でエースにふさわしくなる可能性は、低いかもしれない。タイプが被るかもしれないが、真木にも声をかけてみてほしい」
「わかりました。そういえば、千葉県に素行は悪いようですが、ショートを守る身体能力の高い選手がいましたが、どうしましょうか?声をかけましょうか?現在は特に高校は決まっていない‥‥というよりは推薦が全滅したようですが‥‥」
突然太田部長が手を振り回しながら
「そんな選手を入れるなんて!とんでもないですよ!暴力沙汰になったら困りますから!やめましょう!ねっ!ねっ!」
と慌てたように片岡監督に言うと、
「中学でヤンチャしてた程度の小僧に、遅れはとらん。それに現2年生の振る舞いを見れば、更正もすぐだろう」
片岡監督はスカウトを是とした。
ミーティング室へ移動すると、ベンチ入りメンバー全員が揃って、自分達を待っていた。
「調整メニューは終わったか」
「はい!全員が怪我なく終わっています!」
とキャプテンの藤堂が答える。全員を見回して、今後の予定を簡潔に言う。
「明後日の相手は、偵察班からの連絡で、予定どおり市大三高だそうだ。4番の北川が飛び抜けているが、他の選手達も十分鍛えられている。うちの先発は坂井だ。リリーフとしては川口を主に考えている。武藤は、準決勝の稲城実業戦での先発を想定して、完全休養をしてもらう」
「はいっ!」
しっかりとした返事がきたことを、頼もしく思いながら
「この2戦、できれば稲城実業に対して、西をリリーフで使いたいと思っている。西、準備はできているか?」
「はい、5回であれば、しっかりと投げきれるようになってきました。更に投球回を増やせるようにしますが、それくらいを目処に起用をお願いします」
「あぁ、イップスは厄介だからな、仕方ない」
細かい打者、投手の特徴を共有し、ミーティングを終える。
「各自、怪我や違和感があればすぐに報告するように。3年の伊藤は違和感を隠してプレーして、半年間も離脱してチーム全体に迷惑をかけてくれたからな」
「うぐっ!そのときはご迷惑をおかけしました」
あらかじめ、伊藤にはからかうように、全体にこの事を話すと伝えてはいた。サッと全員を見た限りは隠している素振りなどは見えないが、何かあっては遅い。
自己申告がなくても気づけるよう、選手達をより見ていかねばならない。ベンチ外の選手に練習中の様子を聞いても、おかしいところはなさそうであるし、このままの戦力で市大三高、稲城実業と戦えるであろうと、少し安堵した。