side 滝川
試合が終わってほっとしていた。
キャッチャーがしんどいと思ったことはある。
でも辞めたいと思ってしまったのは初めてであった。整列して挨拶が終わり、道具を片付けていると、西さんがこっちを見ていた。また体が硬直する。
西さんが一歩、また一歩とこちらへゆっくり歩いてくる。きゅーっと胃が痛くなる。
「そんなに‥私が苦手なのか‥」
ハッと相手の顔を見ると、相変わらずの無表情だが、悲しそうな雰囲気をしている。すると隣から頭にチョップをくらっていた。
「お前の顔が怖いんやろうが!ガッハッハ」
城南シニアの選手‥ではない?誰だろうと見ていると
「東、私は怖くない」
「能面魔王がよく言うわ!」
とじゃれあっている。東?‥東ってもしかして
「おう、大阪のシニアで4番やっとる東 清国や!この能面と昨年秋のU-15でわしが6番、こいつが3番でボコボコにしてやったんや!」
「3三振の男‥」
「うるさいわ!」
東さんはどうしてここに‥と聞くと小さい声で
「わしら二人は青道にいくんや」とニヤッと笑った。
ふと西さんの顔を見ると、無表情ではあるがウキウキしているようで、いつもの怖い感じがしないなと安堵した。
「うちのチームが今季、コールドで勝てなかったのは初めてだ。次に一緒に野球するのを楽しみにしている」
と告げた後、東さんが周りで騒ぐなか、西さんはゆったりとした足取りで、笑顔のチームメイトに迎えられていた。
一緒に野球を‥か。
シニアで4番でも強豪校では、ベンチにすら3年を通して入れないものもいる、と聞いている。挫かれたはずの心が、西さんのかけてくれた言葉で、新たな目標に勇気を貰った気がした。
泣いている先輩、同級生、そして、熱に浮かされたような後輩のところへ、拳を握りしめ、しっかりとした足取りで、ゆったりと歩き始めた。
sideout
全国大会へ進出した城南シニアであるが、1,2回戦は突破したものの、3回戦でU-15召集経験のある兵藤に、西以外が抑えられ、3回戦敗退を喫した。
兵藤は
「あいつには全く勝った気がしない、運がよかった」
と苦笑いしながら、インタビューに答えていた。
西との対戦成績は、4打数2安打1本塁打1打点であった。
side 神谷
東京大会では打率4割越えと、チームの中でも上位の打撃成績であった。しかし、全国大会の初戦、緊張のためか無安打で、なんとか四球を1つとっただけ。2回戦では調子がもどり2安打するが、3回戦、全国有数レベルのピッチャーになると、全く歯がたたなかった。夏の大会が終わり、3年生は8月いっぱいまで、練習には参加してくれるが、チームとして戦うことはもうない。
西さんや、他の3年生から必死に、外野の守備や、打撃、特に走塁について、8月いっぱい指導してもらうのだった。
side 成宮
無敵と思ってた先輩達が負けた。
ピッチャーとして受けてもらうと、全能感を与えてくれ、援護として点数をしっかりとってくれる存在が。
全国大会の2回戦で、シニアで初めての先発を任された。西さんと相談して考えた、省エネの打たせてとるピッチング。思いどおりにポンポンとアウトになっていく相手打線。テンポよく守備が終わり、こちらはチャンスを作り、一方的に点を稼いでいく。
6回時点で5点差で勝っていて、初球のストレートが少し甘く入り、強い打球がセカンドへと飛んでいく。内野では唯一の2年生がエラーをし、次の打たせるように、あまり力のいれていないストレートが打たれ、簡単なフライをレフトの2年生がエラーをした。
2アウトながら1,3塁の場面、西さんがタイムで人を集め、エラーをした2年生に声をかけている。その後、ギアを上げて三振をとった俺を見る、一瞬複雑な表情をしているように見えた、無表情な西さんの顔が印象的だった。7回無失点完投勝利をあげた。
3回戦は出場機会はなかったが、先輩達の気迫に当てられて、精一杯声を出して応援した。5回表、セカンドの2年生が、雰囲気に当てられたのか、ノーアウト1塁の場面で、無理に2塁でのアウトを狙って、送球が逸れ、ノーアウト2,3塁となってしまう。西さんが全体を落ち着かせ、声をかけるが、スクイズと犠牲フライで2点を失う。取ったのは西さんのソロの1点のみ。今日、俺が投げてたら、打席に入れるくらいの打力があったら。悔しかった。
ふと、甲子園で勝つためにはどうしたらいいのだろう。試合が終わった翌日、練習も休みになっていて、暇なので考えていた、考えてしまっていた。
全国大会で負けた原因は?‥野手のエラー。
ピッチャー陣は、エースはそんなに打たれていない。でも負けた。点数を取れないと、エースが抑えててもエラーで負ける。
エースは‥俺だ
なら足りないのは‥西さんじゃダメだ。半年、つまり1年目が終わると卒業してしまう。同級生のセンターの不動のレギュラー、カルロスは欲しい。丸亀にいた白河はどうだろう。
俺を中心として、盛り上げてくれるような野手陣。
秋からは大変だ。俺が抑えても、エラーとかで足を引っ張るかもしれない野手陣なのだから。
頼りになった3年生はもういない。
青道スカウトメモ
東 清国 天玉寺シニア
右投げ右打ち
大型のサードで、身体の大きさの割に、軽快かつ機敏な守備をする。他にもファーストの経験があり、声が大きく、全体を鼓舞することに長ける。
打撃面では粗削りなところがあり、三振率が調子によって変動が激しい。気分のノリ次第では3打席連続本塁打を記録したことがあり波に乗せると怖い打者である。
長打力はシニア1とされており、将来的には打の青道の4番打者として期待できるかもしれない。
シニアの監督から聞いた話では、風貌からは想像できないが、姉の影響か、少女マンガを愛読している。そして、よく食べる‥えぇ!本当にもう!とのこと。