青道ではミーティングが行われていたが、次にあたることになった国士舘の1年生に注目していた。偵察班の2年生が説明する。
「1年生でありながら国士舘の4番でエース、財前 直行。夏の時よりも体が大きくなって、140キロを越えるストレートに、スライダー、カーブ、フォーク、ツーシームと既に完成度の高いピッチャーです。コントロールも抜群で、夏の大会では財前自身は無失点、他のピッチャーが失点して負けたみたいです」
「あいつ西東京にいないと思ったら、東東京にいたのか」
と神田が言い、玉森、栃谷が苦笑いをしながら反応する。
「城南シニアで昨年の夏、エースだった男だ。対戦経験としてはクリス達の方があるかもしれないが、1から育てた西としてはどうだ?」
全員が西の方を向くと
「リトルから一緒ではあるが、中学2年生の秋頃から急激に球速が伸びたピッチャーだ。野球センスで言えば、おそらく市大にいた田辺さんに匹敵するものがあると思う。育ちきれば全国トップクラスのピッチャーになるだろうな。だが、まだ成長過程、うちの打線なら攻略できると信じている」
西の言葉に1軍メンバー全員が頷く。片岡監督は
「前評判は低かったのだが、国士舘は打線、投手ともに財前が突出しているチームだ。1回戦の王谷を7回無失点で継投につなぎ、4回戦では帝東、市大三高に対して連投したエース、南野を休ませた稲城実業対して完投、2-1で競り勝っている。しかし、ここまで勝ち抜いてきているということは、勢いだけでなく、実力も伴っているチームだろう。油断はせずにいきたい」
片岡監督から目配せをされた偵察班は
「財前は5回戦には登板していませんから、恐らく準決勝の先発は財前で間違いないと考えられます。打線は大量得点はないものの、バントを絡めて得点を積み重ねていく、堅実な試合運びのイメージが強いです」
細かい情報を更に共有して整理していく。片岡監督は
「ベスト4に残っているのが青道、国士舘、トーナメントの向こう側が創聖、仁王学舎だ。創聖と仁王学舎はともにエースがしっかりしていて、守備重視のチームだ。打線もこの2チームの方がしっかりしている。この事を考えるとできれば決勝にエースを持っていきたい。井手!」
「はいっ!」
「‥‥明日の先発‥‥いけるな?」
井手は立ち上がると
「いけます!」
片岡監督はうなずき
「任せたぞ」
しっかりと井手の目を見て、準決勝の先発に指名した。その様子を、今日到着したばかりのコーチ 落合 博光は、静かに顎をさすりながら見ていた。
▽
財前は投球前練習を終えると、バックスクリーンの青道オーダーを見る。
先攻 青道オーダー
1 神田 セカンド (左)
2 玉森 ライト (右)
3 柳 センター (左)
4 東 サード (右)
5 栃谷 レフト (右)
6 結城 ファースト (右)
7 滝川 キャッチャー (右)
8 山崎 ショート (右)
9 井手 ピッチャー (左、左スリークォーター)
(名前見ただけでもこえーよ!西さんを中心とした、あの城南シニアの化け物集団に、柳さん、東さんとか馬鹿げてるわ!これに更に西さんいたら先発拒否するレベルだわ。あのクリスが7番とかやべーけど、6番のやつってそんなすごかったか?)
と首をかしげる。
(でもこれって、西さんいたらクリスが8番ってことだよな‥‥西東京で助かったと思っていいのだろうか‥‥)
首を振って弱気になった自分を振り払う。
(とりあえず1人1人抑えていくか)
左打席に入る神田さんを見ると、こちらを懐かしむような目で見ている。
(舐めんなよっと!)
インコース低めにストレートが決まるが、神田さんは今のボールを目に焼き付けるように観察していた。
(舐めているというよりは、冷静に確認作業をしているのか。もうひとつストライクカウントもらっとくか)
アウトコース低めにツーシームを投げると
カキン!
綺麗にセンター前にヒットを打たれる。
「神田さんさすがー!」
「このままとったれー!」
青道側スタンドから、こちらを押し潰さんばかりの声援が沸き起こる。
(甘くないのに綺麗に打たれたな)
息を吐き、肩の力を抜く。西さんに教わった気持ちの切り替えの大切さ、次のバッターで抑えるという気持ちでまず負けないこと。エースの立場であれば自分の心の状態次第でチームが揺れる。逆にこれを束ね、強固なものとする。
「打たれちまってすいません!またボールいくんでよろしくお願いします!」
ちゃんと笑顔で言えているだろうか。あえて先輩達とは違う高校に進学したのは自分を更に高め、自立していくため。しかし、東東京に逃げたのは、その先輩達に勝てないと思っていたから。
(今、俺は国士舘のエース 財前 直行。恩返ししたい相手は離脱してるが、この姿を見せつけてやる!)
玉森さんを三球三振に仕留め、財前は雄叫びをあげる。