「準々決勝のスタメンを発表する」
片岡監督の言葉に集中する。
青道オーダー
1 西 晴之 ショート (左)
2 石橋 センター (左)
3 栃谷 レフト (右)
4 東 サード (右)
5 道川 ファースト (右)
6 西 影次 ライト (右)
7 御幸 キャッチャー (左)
8 武藤 ピッチャー (右、右オーバースロー)
9 神田 セカンド (左)
春の都大会 準々決勝でのいきなりのスタメンに、御幸は驚くが、リードする相手が武藤さんだと言われると、ワクワクする気持ちの方が強かった。
(俺もシニアで注目は集めたけど、武藤さんは今や甲子園を制覇したチームのエース。だいぶ差がついてしまった気がする)
……
バァン!
「ナイスボール!武藤さん!いい球きてます!」
(いってぇ~、本当にいい球なんだよな)
1回裏を6-0の大量リードで迎えた、投球前練習ですら、この気迫。シニアで淡々と自分のリードに従って投げていた、そんな投手と同じ人物とは思えなかった。
初球、インコース低めに構えると
「ストライク!」
構えたところに寸分違わずストレートが投げ込まれ、バッターは手が出ずに見送る。バッターの様子を見るが、明らかに顔が強張っている。
(強気にいきますよ、先輩)
再びインコースの低めにストレートを要求する。
「ストライク!」
(よしよし)
ドォン!
「ストライク!バッターアウト!」
インコース高めに構えたミットから、ボールを掴んで武藤さんへ投げ渡す。
「ナイスボール!1アウトー!」
2年ぶりに結成された、元江戸川シニアバッテリーは、初回を三者凡退で終えると、武藤さんの方からハイタッチをしてきた。
「武藤さん、シニアの頃から変わりましたね」
「そうか?‥‥だとしたら先輩達のおかげだな‥‥エースとは何か、そう考えさせてくる先輩達がいたんだよ」
そう言って武藤さんは、スポーツドリンクを1口飲む。
「結局1人で野球をするわけではないからな。そのうちわかる時がくるよ。嫌でもな」
そう言って丹波さんや伊佐敷さんを見る武藤さんは、とても大人びて見えた。
「しかし、晴之の弟と同世代とは、御幸も大変だな」
「へ?」
「晴之には東、柳、栃谷、玉森、神田というスター選手が、自然と集まって周りを固めていた。それがあっての甲子園の活躍。お前達はそれと比べられるぞ。影次の周りにいる選手の力が足りてるのかどうか。間違いなくな」
じっと武藤さんはこちらを見てくる。
「それに秋以降、甲子園に出場した主力がごっそり抜けて、俺達が1年生の時の2,3年生のような視線にさらされるだろう。あの時は主力メンバーに怪我人が続出した。思うようにいかないことがあっても焦るなよ。あと同学年は大事にしろよ。お前ら見てると一匹狼みたいなのが多くて心配になるわ」
そう言って苦笑いされてしまった。
……
そのまま武藤さんは相手打線を封じ込め、4回無失点と好投している。現在17-0とほぼコールド確定の状況。
5回表 1アウト1,3塁で打順が回ってくる。
(チャンスでしか打てないんですよね~って、冗談で言ったつもりなのに、わかった!って必ずチャンスで回してくる打線とか、やばいよなぁ)
(しかもそのお膳立てをしてくれるのが、あのU-15で4番だった西 影次とか、ファンに知られたらボコボコにされるぞ)
そう思いながら打席に立つ。
(このピッチャーの決め球は、カーブだよな。それ狙っていこう)
3球目までカーブが来なかったのでスイングせずに1ストライク2ボールとなる。
(武藤さんの言うこともわかる。西のお兄さんの世代の強さは、あまりにも眩しすぎる。あの人たちと比べられて心配‥‥ねぇ‥‥)
上等じゃねぇか!
(3年生が抜けても2年生と、そして俺達の世代でも甲子園で活躍してやるよ!)
そう決意して、力んで打ったボールはファーストファールフライとなった。
青道のコールド勝ち 17-0
先発 武藤 5回無失点
本塁打 西 晴之(1) 東(1)