高校球児の朝は早い。
本人に自覚はないが、精神的には爺の西は、しっかりと5:00には目が覚め、身体をほぐしていた。
中山さん、佐々木さんも、10分ほど遅れて起き出して、一緒に柔軟をし、ヨーグルト、バナナで腹ごしらえをする。
朝練のメニューを聞くと、その日によって違うと伝えられ驚いた。シニアでも週に何回かメニューが変わることはあったが、毎日変わることはなかった。その都度指示があるそうなので、しっかりとついていかなければならない。ボーッとしている暇はない。
6:00の5分前にグラウンドに着くと、あらかたの選手が揃っていた。1年生はこっちと案内を受けて列に並ぶと、寝癖の激しい東が立っていた。
「目を覚ませ」と小突くと結構痛かったみたいで「ぬぐんぁ!」と変なうめき声を小さく出したが、目が覚めたようだ。
「なにすんねん」とまだ眠たいオーラを出して聞いてきたので、監督が来たことを伝えると、髪を整えピシッと背筋を伸ばした。
やればできるじゃないかと思っていると監督が喋り始めた。
side 片岡
例年、どこかの部屋の新入生が寝坊するが、今年は誰も寝坊したものがいなかった。2,3年生はほとんどの者がいつも通りだが、1年生の空気は異様なものであった。
話ながらピリッとした空気を追ってみると、そこには無表情でこちらを見てくる男と、ヤンチャそうな顔でこちらを見定める男、威圧感を持った二人組が立っていた。
あれが2年連続でU-15に選ばれ、昨秋のU-15で4番、5番を任された二人か‥
打の青道と言えば聞こえはいいが、現在のレギュラーでサード、セカンド、そして外野の1つが流動的なものとなっている。
つまり5つの席は埋まっているが、そこからが繋がらない、物足りない打線となっている。
前任の榊監督が残してくれた、教えてくれたノウハウはあるものの、経験の浅い私ではしっかりとした打者を育成できないでいた。
side 藤堂 2年生 センター レギュラー
去年の自分達と何かが違う、1年生の空気を敏感に感じとりじっくりと観察をしていく。
無表情なやつと、今押さえつけていた寝癖がピンッ!と戻ったやつ。この二人が原因なことに気がついた。
あれが礼ちゃん期待のスラッガー共かと納得する。
目付き、体幹、そして監督の話への集中力が、他のやつらと違うことから気づかされる。
東と西‥こいつらが秋以降、俺が引っ張っていくであろう青道に、どんな影響をもたらすのか、見極める必要があると気を引き締め直した。
しかし、大阪出身の東と、東京出身の西って逆じゃねぇかよ、覚えづらいなと頭をかいた。
side 東
1年生全員の自己紹介が終わり、練習がアップから始まる。
1年生だけで集められているため、先輩はどうかわからないが、やはりわしと西、そして柳というやつが飛び抜けている気がする。
一般スカウトと聞いていた武藤だけど、シニア以降サボっていたのか?あまりすごいという感じはしない。
昼飯ではご飯3杯食えと言われたので、ペロリと食べると、柳に化け物を見るような目で見られた。柳は頑張っていたが、フィジカルはまだまだやな!西はさりげなく食べきっていた。
昼からは能力テストがあり、西の化け物肩に驚かされた。
ライナーで100メートルて‥
遠投じゃ!言うとるのに浮かせたボールは使い物にならん、とか言うし、柳も隣でうなずくんじゃない!
打撃テストもしっかりこなし、わしと西、柳は明日から2軍に合流することが決まった。
side 武藤 一年生 ピッチャー志望
シニアの生意気な1年生の言うとおりに投げてやったら、上手い具合に最後の夏は抑えれていた。
丸亀シニアにはまぐれで打たれたのだろうと、青道からスカウトがきて、天狗になっていた。
入って思ったが体力が全然違う。
あの東、西、柳はなんだ?化け物じゃねぇか。
先輩もあれだけ食べて、打って走ってケロッとしている。
俺はシニアで有力投手だと思っていた。
でも今はなんだ、周りのやつらの方が長距離を早く走れ、シニアで投げた8月以降はやりたい練習だけやっていたからか、周りに置いていかれている。
そういや、御幸って最初は俺の投げる姿を見て、先輩とならいい野球が、ピッチングができそうですって目を輝かせてたじゃないか‥
生意気になったのは8月に入ってから、走る量が足りない、運動量が減ってるから食べる量が足りない、筋力が落ちてるって‥生意気じゃねぇわ‥心配して言ってくれてたんだわ‥バッテリーとして‥恥ずかしくてこれじゃあ、江戸川シニアに顔出すことすらできない。
同期の、東、西、柳の楽しそうだが真剣な表情が目に入った。
ここからだ‥俺ならやれる、やってやる。
周りの雰囲気に当てられて、本来は辞めていくはずだったエースの卵が目を覚ました。